海底神殿を人目を忍んで抜け出した海魔は海面まで上がり夜空を見上げた
この空は遠いシベリアの地につながっている
もしかしたら師も自分と同じようにこの空を見上げているかもしれない
もしかしたら自分から白鳥の聖衣を奪った憎くて愛しい弟弟子も

「…はぐぐ…」
海面に浮かんでいた海魔の身体がいきなり海中に引きずりこまれた
もがいて抜け出そうとしても身体を押さえつけるなにものかはびくとも動かない
「…なにを見ていた?」
完全に海魔の動きを封じたなにものかは海龍の声で問うてきた
「かんけ…ない…だ…ろ」
海魔の鱗衣を纏っていれば海中でも息はできた
それでも心のざわめきを隠そうとして声はうわずる
「いわなくてもわかる。どうせ忌々しいシベリアなのだろう。だが、お前はもう海魔なのだぞ」
海龍の手が海魔の頭に回され唇があわされる
もう、戻れない
海魔の意識は海龍の腕の中にあった