(屋敷の周りを巡るように配置された廊下から、とたとたと軽やかな、スリッパでも靴下穿きでもない足音が聞こえたような気がした。
妻が帰宅する時間ではなし、息子は彼女が伴って帰るはずなのでその二人ではない)

‥‥?

(廊下に面して開けていた障子戸から身を乗り出して広い庭の方を見渡すと、他でもない義母の貴和子が母屋と離れとを繋ぐ渡り廊下を歩いて
いまは彼女が私室としている茶室へと向かう背中が見えた)

お義母さん声もかけなかったな…
何かまずいものでも見られたとか?まあいいや…

(ノートPCを閉じ、片手に提げて立ち上がる。先ほどまで見ていたレゾネの画面はそのままにして
今頃一息ついているであろう義母のいる離れへ向かう。
彼女がなぜ気を回したのかはさておき、その仕返しという訳ではないが
こちらも心持ち爪先立ちになり、磨きあげた板張りの渡り廊下を足音を殺して近付く。茶室から使い勝手の良いようにと改装されたドアに手をかけ)

お義母さん?お帰りですよね、さっき姿が見えたので…失礼しますね。

(最初からそのつもりで、貴和子の返答を待たずにドアを開け一歩踏み入れると
半ば予想していた通り
彼女は帯紐を外し帯を解き、着物の衿元に指を掛けて羽織のように開いて
白い襦袢をさらけ出しているまさにその瞬間だった。)

ああ、ごめんなさい…着替え中でした?
ちょっとお訊きしたいことがあって。気が急いてたもんで、すいません…

(軽く頭を下げながら形だけは詫びているが、踵を返して出ていこうとはしない。
逆に襦袢の上半身の背中を見せて振り向いた貴和子の肢体を吟味するような眼で見つめ、足袋のかかとまで余さず観察している)

うーん…
やっぱり似てますよねぇ、お義母さん。
あの絵の彼女に…