「沙織さん!」
帰るために資料をまとめていた沙織に、美鈴が寄ってきた。
「今日の報告、すごくよかったわ。やっぱり個別の事例だけじゃなく、
統計的な数字の説得力って必要ね」
「フフフッ、ありがとう、美鈴さん。でも本格的な統計をとるためにはまだまだデータが足りないわ。
これからもっと集めるつもりよ」
そこに敬子も近づいてきた。
「そうね、ようやくスタート地点といったところね、
そうそう美鈴さん、ごめんなさいね、急に質問を振ったりして」
「いいのよ、沙織さんの発表で、自分も何か発表したいと刺激を受けちゃったところだったから、
ちょうどよかったわ」
「そういって貰えると、ほっとするわ。それはそうと、どうなの、
最近の『カウンセリング』の調子は?」
敬子は悪戯っぽく、声を潜めて美鈴に尋ねた。
美鈴のほうも、心得たもので、わざとらしく周囲を見渡した後、同じように声を潜めた。
「もう、こんな場所じゃ、言えるわけないじゃい。でも、順調よ。しかもすごく。
新しいアシスタントのおかげかな」
「新しいアシスタントって、もしかして『例のカレ』のことでしょ?」
沙織も割って入る。
「あら、私、『彼』とも『彼女』とも言ってないわよ?」
「もう、とぼけちゃって!」
沙織は美鈴の肩をはたく真似をした。それを眺めて、敬子も楽しそうに笑っている。
その賑やかさは、女子高生たちの会話となんら変わらない。