18.
ゆっくりと流れていく雲を、和雄はハンドルにもたれながら眺めていた。
午後になってまだ真新しい白い壁が日に照らされていく。
この出来たばかりの病院は、和雄の父が入院する市立病院に比べて随分と大きくて立派だ。
病院の裏手にある駐車場も、黒塗りの高級車や真っ赤なスポーツカーなどがやたらと目立つ。
家業の営業車に使っている白いワゴン車だと、どことなく場違いな感じがして気恥ずかしかった。
コンコン、と助手席側のドアがノックされる。
車の脇に母親の美咲が立っていた。
和雄は慌ててドアのロックを解除すると、美咲は隣の車にドアをぶつけないように開けて、
窮屈そうに助手席のシートに収まった。

「どうだった……?」
「ん……、特に、問題は無いそうよ……」
「そっか……」

男と子作りをするにあたって、いくつかの条件が設けられた。
性病などの有無や、妊娠の可否を調べるための身体検査や、
プレコンセプションケアを受けることもその条件に含まれていた。

「それでも、やっぱり高齢出産になるから、検診は欠かさないようにって、言われちゃったわ……」

和雄は美咲をちらりと見る。
やや俯いていて、その表情を読み取ることはできない。
口紅を引いた唇が艶やかで、顎周りも以前より引き締まってすっきりしている。
母はスポーツジムやエステサロンに通い始めた。
もちろんそれも条件に含まれていることだった。