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暁人が寮生活を終え、帰って来た。
待ち望んだ家族3人の生活が戻ってきた。
暁年の良き妻として、暁人の良き母として、
唯子は毎日忙しく生活をきりもみしている。
あれは、酔って見た悪夢だったのでは、とさえ思えてきた。
どこにでもある、普通の家庭。
以前と変わることはない、平凡だが平穏な日々。
ほんのわずかな変化をのぞいては…

夜の夫婦生活は、あれから一切無くなった。
暁年と暁人で計画していた家族旅行は、うやむやになった。
昼間、唯子と連絡がつかない時がよくある。
家に帰ると、誰か人がいた気配を感じる時がある。
聖満君が頻繁に家に来るようになり、泊まっていく日もある。
唯子がひどく疲れている日が増え、そんな夜の飯は出前になる。
しかし、この程度は、大した問題ではない。
こうして家族3人一緒に暮らせることが、何より大切なのだ。

いつものように3人で食卓を囲み、暁人の話しを気のせいか
うわの空で聞いているように見える妻の横顔を
ぼんやりと眺めながら、暁年は力なく呟くのだった。

「なべて世は事もなし …か」

END