しかし、プロジェクトや政府が彼女に手配したトップクラスの特別病院ですら、
出産には大きな危険が伴うと忠告しました。

彼女の命が危ない事。
その子が無事に生まれてくる確率は1%にもみたない事。

それでも、彼女は希望を選択しました。
未来への希望を選択しました。
彼女は、そうせずにはいられなかったのです。

ケインを巻き込んだことへの贖罪もあったのかもしれませんが、
彼女の見えない本能がそうさせました。

フェリックスが五体満足で生まれた時、
彼女は、この奇跡を、
そして、神々への感謝を彼女は今でも忘れていません。
彼女が、時々、神々に祈るのはそのせいです。

***

彼女の傍らに横たわっていたフェリックスの指が、かすかに動くのを見たような気がしました。
それを彼女は幻を見つめるように…
祈っていました。
すべての神々に、
(ああ、神様、お願いです、私は何もいりません。どうか、この子だけは、ああ、どうか、この子だけは!)

やがて、彼のこぶしが、強く握られるのが見て取れました。
(おお、神よ、再び、あなたは奇跡を、お起こしになってくれたのですね、ああ、感謝します。ああ、感謝します。ああ、神様)
そこで彼女の意識は途切れました―――。