「ほんと清楚って言葉を絵に描いたような美人よねぇ、お習字の師範をなさってるんですって?」
「ほう。それはまた、お淑やかで。栞さんのイメージにぴったりな職業ですな」
「ああ、アナタ、ワインが空いたわ。セラーから持ってきてくださらない?」
「あ!社長にそんなこと!とんでもないです!栞、お前、持ってきてくれないか」
それまで、話題が妻に集中し
その存在を忘れ去られたかのようであった父が
なけなしの威厳のため、これ見よがしに母に命じた
これに対して美人に対する多少のやっかみもあるのか
待ってました!と言わんばかりに

「そう?栞さん悪いわねぇ」
と、奥様が応じた

「はい、承知致しました!」

この瞬間から
それまでゲストのように扱われていた僕たちは
使用人に成り下がった
ちょっと偉そうだけど頼りになる父
近所の子供達に習字を教えている美しく優しい母
僕の大好きな自慢の両親が
そこでは
まるで召し使いだった

それだけだったら父が従業員であるという立場上
仕方がないことなのかもしれない
しかし僕は聞いてしまった・・・
汚い大人たちの本心を・・・