大山蔵之助は体が弱く病に罹りやすい少年であった
医者の奨めもあって様々な運動に取り組む蔵之助少年は特に相撲に惚れ込んだ
彼が同姓愛車であったことも一因だろうが、力と力のぶつかり合いにより一瞬で勝負が決まる他の運動にはない魅力に惹かれて練習に励みめきめきと才能を伸ばし、体つきも心も成長していった
中高では補欠とはいえ国体選手にも選ばれ、大学へはスポーツ推薦で進学した彼にとって相撲はかけがえのないものになっていった
大学を卒業して商社の営業マンとして働く傍ら相撲の練習にも取り組む大山であったがストイックな性格と日々の激務と飲み会の折り合いがつかずに体を壊し、うつ病になり会社をやめてしまう
大山はこの時感じた、自分は弱かったのだと 相撲大会でも優勝を経験したことはそれまでの人生を振り返って一度もなかった。いつも上には上が、そばにはいた 彼は自分の不甲斐なさを、人生をやり直すために猛者が集まると言う鬼の山へこうして向かうのであった。

【傍白】哀れなやつじゃ脳藁


――――――倉持徳全 著『鬼の山記』