しかし、それは果たして父にとって本望と言えるのだろうか?父の願いは、私の子供を産むことではないのか?大量の自問が脳裏をよぎるが、自答が追いつかない。
そして、自分でも想像の出来ない言葉が口をついて出てきた。
「最期に何とか、父に私の子を産ませてやることはできませんか」滑稽だ。男が子をなすことなどできるものか。主治医にそう言われてもしょうがいないな、と私は自嘲した。
「...あの人なら、もしかしたら」主治医の口からは想像もしていなかった言葉が出た。
その日のうちに、私は京都大学iPS細胞研究所へと飛び立った。研究所の中は想像していたよりは狭く、見た目の美しさよりも機能性を追求したような、いかにもサイエンスの学び舎としての雰囲気があった。
「こんにちは。迷いませんでした?」
私は首を横に振った。
「お待ちしておりました。山中伸弥です」
―次回に続く