探偵神宮寺三郎のエロパロないですか? 2
筆が遅くてスミマセン……
ちゃんと書いてるよ!という現状報告です。
書いてたら着物関係なくね?となりましたが、
皆様が全裸待機してくれているので、
賢者化できるように頑張ります。
べ、別に焦らしプレイしてるんじゃないからね! すみません、仕事で異動があったのでorz
書いてます、あとはエロだけです(そこが重要なんだろ)!
年内にはあげます!! エロを書いては消し、書いては消ししてたら大晦日になってしま……っ!
年内にあげると言っていたのにごめんなさい!
とりあえず導入部分だけ書いて残りは来年で。。
全裸で年越しさせてすまん。 「今、何と言った?」
いつも通りの日常に舞い込んだ小さな依頼であるペットの捜索を無事解決し、事務所に戻った神宮寺はテーブルに置かれたコーヒーを一瞥すると洋子の言葉に怪訝な反応を示した。
「ええと……すでに先生には話を通してあると……熊野さんが……」
コーヒーを差し出して事務作業に戻ろうとした洋子も神宮寺の予想外な反応に怪訝な返答をする。
「「………………………………」」
事務所内を妙な沈黙が支配した。だがすぐに神宮寺は我に返り、脳内の記憶を洗いざらい呼び覚ます。ところが、どうにもこうにも記憶にないのだ。洋子が口にした、
「先生、来週末の警視庁の感謝状授与の式典についてなのですが……」
この、文章の中の、たったひとつのキーワードも。
こちらを窺うような上目遣いで見ていた洋子も、神宮寺には話が通っていないことを察したようで、神宮寺の視線を受けると記憶を探るように説明し始めた。
熊野警部から電話があったのは、つい30分ほど前のことだ。事務所の電話が鳴ってワンコール、手慣れた様子で洋子は「はい、神宮寺探偵事務所でございます」と受話器を耳に当てた。すると聞こえてきたのは気さくな中年男性の声で、洋子の顔もすぐに綻ぶ。
「あら、熊野さん、あいにく先生は外出中ですが、何かご用でしたか?」
『おぉ、洋子君か。ちょうど良かった、今日は君に電話をしたんだ』
「私に……ですか?」
『あぁ、神宮寺君から話を聞いてないかね?警視庁の方から神宮寺君に感謝状が送られることになってな』
「まぁ……そうなのですか!先生からは特に……」
『まぁ神宮寺君はそういうことをひけらかすタイプでもないからな』
「確かにそうですね」
言いながら洋子は神宮寺の性格を思い出してクスリと笑った。世間的な名誉になんの価値も見出ださない我が所長は、警視庁の感謝状と言われても眉ひとつ動かさないのだろう。
『それで、洋子君。来週末に感謝状を渡す式典があるのだが』
「式典なんて、そんな大それた……」
『ちょうど警視庁内の取り締まり強化週間の式典があってな。一般人の感謝状授与でもして、署員の士気を上げようという魂胆らしい』
「…………なるほど」
一般人の感謝状で警官の士気が上がるものなのか、むしろ神宮寺は一般人なのかと様々な疑問が洋子の中を駆け巡ったが、追求するのはやめておいた。
『それでここからが本題なのだが、神宮寺君のパートナーとして洋子君に式典へ出席してもらいたい』
「えっ?パートナー……ですか?」
『神宮寺君もきちんとした席で女性の一人も連れていないのは寂しいじゃないか。せっかく洋子君というぴったりな人材がいるのに』
受話器の向こうで豪快に笑う熊野の声が聞こえる。
『警視庁内だけのものとはいえ、ホテルのホールを借りきって行う式典だ、洋子君のような美人さんが来てくれると華やかになっていい』
「そ、そんな……あの、ありがとうございます……」
辿々しく礼を言った次の瞬間、洋子は我が耳を疑うこととなった。
『それで洋子君、君は振袖を持っているかね?』
「えっ!?」
振袖……?洋子の頭にはない単語だ。20歳の時にはすでにニューヨークで過ごしていた。もちろん成人式も日本でしていないし、大学卒業も和服は着ていない。振袖なんてものは、毎年成人の日が近付くとテレビの中で見掛ける、ある種フィクションな物だという認識だった。
「えっと……持っていませんが……」
辛うじて質問されたことにのみ答える。すると熊野はその答えを予想していたようだった。
『ふーむ、やはりそうか。では、当日までに借りるよう手配しよう』
「いえ、そんな。熊野さんのお手を煩わせるわけには……」
『いやいや。やはり日本女性は畏まった場での和服、特に若い女性の振袖は華がある。わしも洋子君の振袖姿が見たいしの!』
こうして力一杯推されてしまっては、洋子としても断るわけにいかなかったのである。
「そういうわけで、今週のどこかで熊野さんのご贔屓にされている呉服屋さんへお着物をお願いして来ようと思うのですが……」
「あ、あぁ……そういうことならいつでも構わない。何かあれば携帯の方に連絡するよ」
「ありがとうございます。それでは明日事務処理を終わらせて、明後日に行って参りますね」
「分かった、そうしてくれ」
神宮寺がマルボロに火をつけそう答えた後、また事務所を沈黙が支配した。それは先程とはうってかわって心地よい沈黙ではあったが、神宮寺は自分の記憶にない式典のことで首を捻るばかりだった。 「おぉ!神宮寺君じゃないか!」
翌日、神宮寺は早速新宿淀橋所にやって来た。熊野も機嫌良く出迎えてくれる。
「熊さん、昨日、事務所に電話をしたみたいだな」
「やはりその件か」
訝しむように切り出した神宮寺をよそに、熊野はニコニコと笑顔を崩さない。
「式典の話、俺は聞いていないんだが」
「言っていないからのぉ」
「な……」
すっとぼけた口調で答える熊野に拍子抜けした神宮寺は珍しく言葉に詰まった。
「どういうことだ?」
「警視庁の感謝状の話が持ち上がったのはすでに先月の話でな。君が数々の事件を解決した功績と、わしが推薦したこともあって、来週の式典で感謝状を渡そうということになったのだよ」
「だが俺にはなんの連絡も来ていないのだが……」
「それはわしが連絡を止めていたからだ」
「なに……?」
話が見えてこない。神宮寺の眉間に皺が寄るのを見て、熊野の笑みが殊更いたずらっぽくなる。
「神宮寺君に前もって打診したところで断られるだけだからの」
「…………」
「ギリギリに、そして洋子君の出席も取り付ければ君も断れまい、と思ったのだ」
「悪どいな……」
「そんなこと言いつつ、君も洋子君の振袖姿を見たいだろう?」
袖でちょいちょい、とつついてくる熊野に対して反応に困る神宮寺だったが、その肯定も否定もしない態度で熊野は満足したようだった。
「ともかく、式典で表彰されるのは君だ、当日突然欠席したりはしないでくれよ」
「依頼が来なければな」
クレームを言いに来たつもりが、すっかり丸め込まれてしまっていた。 式典当日。新宿駅すぐの大きなホテルのロビーで神宮寺は待ち人をしていた。洋子とはこのロビーで待ち合わせだ。
事前に呉服屋で洋子が選んだ振袖はホテルに運び込まれ、髪結いとメイク、着付けもセットでやってもらうことになっている。式典は午後。
前日に洋子は「午前、事務所にお伺いしましょうか?」と言ってくれたが断った。幸か不幸か依頼は入っていないし、優秀な助手は事務仕事を溜めることもない。何より、神宮寺の気分として、洋子と午前中に顔を合わせたくなかったのだ。
(何故なのか自分でも不思議だ……)
大理石の床に足をつけ、大きな柱に背を預けていると、自分はとても場違いな存在のような気になってくる。
(やはりギリギリでも断るべきだったか……)
そう後悔し始めたその時だった。
「先生!」
エレベーターから降りて歩きにくそうにやって来た女性に、神宮寺は一瞬思考が停止した。
「……先生?」
艶やかな黒髪は掬い上げて上品にセットされており、ビードロのトンボ玉のかんざしが遠慮がちに煌めいている。メイクは全体的にハッキリとした色使いがされており、濃紅の唇がしっとりとした色香を放つ。
そして振袖は淡い青紫に白・ピンクの桜、紫の桔梗などが小さく散りばめられた、豪華ながら清楚なものだった。
「……あの、どこかおかしいですか?」
しばらくの間言葉を発さなかった神宮寺を不審に思ったのかその女性は袖を前後に振っておかしいところがないかチェックしている。
「いや……」
神宮寺はその女性に見惚れていたとも言えず、努めて平静を装って言った。
「とても似合っていると思う……では洋子君、会場へ行こうか」
「…………ありがとうございます、そうですね、行きましょう」
いつもと違うメイクだからだろうか、にこりと笑った表情は確かに洋子のものだったが、普段よりも妖艶に見えて、神宮寺はエレベーターのボタンを睨み付けることでしか気を紛らわせなかった。
会場に到着するとすでに集まっていた警視庁の輪の中から熊野警部がやってきていつも神宮寺を出迎えるように挨拶してきた。
「やぁ神宮寺君。来てくれてありがとう。洋子君もいつもより素敵だな」
「ふふ、ありがとうございます」
「もうすぐ式典が始まるぞ。今日わしは推薦人として特別に所轄から呼ばれたんだ、舞台に上がる君を楽しみにしているからな」
「柄にもないことをさせるのは今回で最後にしてくれ」
「ほっほっほ、つれないのぅ」
からからと笑う熊野だが、急に怪しい目付きになった。
「それで洋子君、その素敵な振袖は神宮寺君に好評かい?」
「えっ?その、どうでしょう……?」
「熊さん、変なことを言わないでくれ」
「何を言うか、女性の素晴らしい姿に賛辞を送るのは古今東西問わず男の義務だと思うぞ!」
「いえあの、私は別に」
「この天女のような姿を見て何も言わないほど神宮寺君も唐変木ではあるまい」
いつになく熱の入った追及をしてくる熊野に神宮寺がやや気圧された時だった。
『間もなく、式典を開催します。廊下におられる皆様、ホールへお集まりください』
司会の女性の落ち着いた声が館内放送で響き、廊下にいた出席者がゾロゾロとホールへ入ってくる。その波に押されて、3人は奥のテーブルへと追いやられ、会話もうやむやになってしまった。引き続き仲が良さそうに話す洋子と熊野を横目に、神宮寺はため息をついたのだった。 式典は開会の辞を皮切りに、順次つつがなく進行していた。その中で洋子はなんとなく背中に違和感を感じ、大袈裟にならないようそっと帯に触れてみる。
すると、帯が少し曲がってしまっているようだった。立食形式だったために手に持っていたグラスを一旦テーブルに置き、他の参加者から怪しく映らぬよう自然な動作で壁際まで移動してから帯の傾きを直そうと試みる。
しかし、帯は洋子が触れれば触れるほど型崩れを起こし、焦った洋子はより一層おかしな方向へ手を加えてしまう。内心大慌てでどうしようか思案していた時。
「着物がおかしいのか?」
いつの間にか神宮寺が目の前まで来ていて、心配そうな目で見つめてきた。彼は熊野に付き合って警視庁の方々へ挨拶に行ったはずだった。それなのになぜ。
「壁際で泣きそうなパートナーを放っておけないからな」
それを聞いて洋子は恥ずかしい思いでいっぱいになった。着慣れないものを着ているせいで先生のお手を煩わせてしまった。やっぱりイブニングドレスにするべきだった、と。
しかし神宮寺は呆れるでもなく言葉を続けた。
「着付けをしてくれる人が待機しているのだろう?どこの部屋でやったか教えてくれるかい、一緒に行こう」
「でも、先生はこれから感謝状授与が…………」
「一人でいても意味がないからな」
それに、と付け加えて、神宮寺はどこか安堵したような面持ちで言った。
「堅苦しい場所で息が詰まりそうだ、外に出て休憩したい」
「まあ……」
思わず微笑んでしまう。洋子は可笑しそうに笑って、ではお言葉に甘えます、と囁いた。 導入部分以上です!
思ったより長くなってしまった。。
原作と矛盾があるところは生暖かく見逃してやってもらえるとありがたいです。。
あとはエロだ、エロだけなんだ……!
頑張って書き続けます! 待ってました!
焦る洋子君かわいいなぁ
続き待ってます うおー!神キター!
そしてなんというじらしプレイ!
続きが楽しみだー 新作が出るたびにDS、PSP、3DSとハードごと買うはめになってたけど、今回もか!(歓喜)
30周年の時に投下しようと思って丸一年…
まだ完成していませんが、置いておきます。
・神宮寺×洋子
・オリジナル設定あり ―――彼女のいない事務所は、あまりにも静かだ。
背中越しの窓の向こう側で息づく街の気配を感じながら、心の中で独りごつ。
いつもより広く見える事務所を窓際からぼんやりと見渡して、神宮寺三郎は愛用のジッポーを取り出した。
同じく付き合いの長いマルボロを咥え、火を点ける。
うっすらと漂いはじめる煙で紛らせてみても、部屋の広さは変わらなかった。
当探偵事務所の唯一の助手――御苑洋子は、長期の休暇をとっていた。
彼女から申し出があり、受けていた依頼に区切りが付いた頃だったのもあって、二つ返事で承諾したのは先月の事。
急な相談に彼女にしては珍しいとは思ったものの、特別何を訊く事もしなかった。
連休の間に遠出でもすれば、いつも洋子は手土産を用意して事務所へやってくる。
それを見て何処へ行ってきたのかを知るのもいいだろう――そんな事を思ったのが、彼女が休暇に入る前だった。
秋から冬へと移る、外気が肌を刺すものに変わりつつあるこの時期。
行楽シーズンには少しばかり遅れた形ではあるが、何処へ足を運ぶのだろうか。
穏やかながらも意外と行動力のある彼女の背中を助手用のデスク越しに思い出して、ふと気付いたのが、休暇二日目の夕方だった。
その日は朝から曇天で、風景を鈍色が覆っていた。
時折降る雨が眼下のアスファルトを黒く染め、空と合わせて見慣れた街の景色を暗く、昏く仕立てあげていた。
陰鬱さをそのままに、夜が近付くにつれてじわりじわりと迫り来る闇色は、あの悪夢の日を思い起こさせる。
そう。彼女と出会った日が、あの男が死んだ日が、近付いていた。
決して忘れていたわけではなかった。
それと結び付けて考える事が遅れるほどに、彼女の様子はいつもと変わりのないものだったのだ。
考えすぎだ、とも思った。 彼女と組んでもう何年も経つが、去年やその前など、同じ時期に今回のような休日を希望された事はない。
だがそれは、彼女が気を遣ってあえてそうしなかっただけなのかもしれない。
だとしたら今年は、何かが違うという事なのだろうか。
一度考え出すと際限なく湧き上がる疑問が、胸の奥でざわついてはかき乱す。
そんな自身に、神宮寺は戸惑っていた。
* * * * * * そうして、今日に至る。
十日間にわたる洋子の連休の間に依頼の訪れはなく、神宮寺は焦燥とも不安ともつかない漠然とした靄を心中から拭えないまま、朝を迎えていた。
窓際に寄りかかって浮かんでは消える紫煙を見ていると、外へと続くドアの向こうから小さな足音が聞こえてきた。
聞き慣れたそれはドアの前で止まり、施錠を解く音に変わった。
開かれた入り口に立つ彼女の姿に懐かしささえ覚える程感傷的になっている事に気付き、神宮寺の戸惑いはまたひとつ増えた。
「あら」
少し驚いたような顔に、洋子は笑みを浮かべた。
「おはようございます、先生。 今朝はお早いお目覚めですね」
「ああ……まあな」
抱えていた配達物と買い物袋をテーブルに置き、コートをハンガーにかける彼女の動きを、目で追う。 いつもと様子は変わらない。
「連休どうもありがとうございました。 これ、お土産です。
何か変わった事などありませんでしたか?」
受け取った手提げ袋の中から、包装紙にくるまれた箱が見える。
そのロゴと手提げの店名には見覚えがあった。洋子の自宅の近所にあるコーヒー専門店のものだ。
以前、そこで買ってきたという焼き菓子をコーヒーの付け合わせに食べたのだが、なかなかの逸品だった。
「ありがとう………いや、特別何も」
「そうですか。 ところで……」
洋子はそう言うと、神宮寺の顔をのぞきこんだ。
何気ないその仕草にさえ言外の意図を探ろうとする己の無意識に、彼は内心で溜め息をついた。
そんな自嘲も知らず、洋子は言葉を続ける。
「朝食はお済みですか?」
「いや……まだだが」
「やっぱり……」
眉根を寄せて怒ってみせるその表情もまた、よく知る彼女のそれだった。
「ちゃんとお食事なさってたんですか? あまり顔色が良くありませんよ?」
小言を言いながら、洋子はテーブルの上の買い物袋からサンドイッチやら何やら取り出しては並べる。
「どうぞ召し上がってください。 今、コーヒー淹れますね」
「………悪いな」
燃え尽きかけていた煙草を灰皿に押し付け、神宮寺は言われるままに椅子に腰掛けた。
程無くして差し出されたカップから漂う香りが鼻をくすぐり、胸中のさざめきを凪がせる。
同時に曖昧だった空腹感が主張をし始め、神宮寺は目の前の朝食に手を伸ばした。 洋子の存在が足された事務所の風景は、いつも通りとしか言いようのない程、穏やかだ。
その穏やかさが何故か、気にかかった。
僅かな違和感。
まるで、意識的に落ち着き払ってみせているかのような。
連休明けとは思えないきびきびした動作で窓を開け、やや埃っぽくなった室内の空気を入れ換える彼女の姿に視線を向ける。
―――勘ぐりすぎ、だろうか。
* * * * * *
依頼の入らない一日は、殊更時間の進みが遅く感じられる。
前の案件を終えて二週間近く経つが、新たな仕事の足音は未だ訪れない。
夕暮れ時を迎えた事務所内には、洋子がパソコンのキーを打つ音が静かに響いている。
彼女が不在のうちに散らかしてしまった仕事場は既に元の整った状態を取り戻しており、見慣れたいつもの様相を呈していた。
つい今朝までの、彼女がいなかった時間など、なかったかのように。
ふと時計を見ると、店じまいをしても良い時間に差し掛かっているのに気付き、神宮寺は彼女の背に声をかけた。
「洋子君、こんな時間だ。 きりのいいところで終わってくれて構わないよ。」
「はい、わかりました。 ………先生?」
「ん?」
躊躇いがちに、洋子が神宮寺を振り返る。
「今夜は……何か、ご予定はありますか?」
一瞬の、間。
「いえ、その……」
その問いの意を測りかねて黙ったままの神宮寺に、どこか焦ったように彼女は言い繕う。
「久しぶりに、ご一緒にお夕飯でもと思ったのですが……」
「……そうか。 特に用事はないが……」
言いつつ、咥えていた煙草の灰が落ちかけているのに気付いた。 自然な素振りを装って、神宮寺は灰皿へ穂先の灰を落とす。
「で、では、ご一緒に」
「ああ」
一つ頷くと、洋子は再びパソコンの画面に向き直り、作業を締めくくりにかかった。
先程までの滑らかな動きとは違い、彼女の細い指はぎこちなくキーボードの上で踊っている。
時折タイプミスでもしたのか、液晶の文字が消えては増えるのが神宮寺の目に映る。
そんな彼女を珍しいと思いつつも、どこか可笑しくて、知らず口の端に笑みが浮かんでいた。
「何処か、行きたい店はあるかい?」
軽く身支度をして――背広を羽織って財布を懐におさめただけのものだが――神宮寺が希望をうかがうと、洋子は片手で髪に触れた。
自分から誘ったにもかかわらず、何処で食べようかを考えてはいなかったようだ。 「……新宿駅の近くに、前から気になっていたお店があるんですけど」
少し思案して、洋子が口を開く。
「なら、そこにするか」
「よろしいんですか?」
「気になっていたんだろう?」
「全席禁煙のお店なんですが……」
「……………」
再び振り向いた洋子の口元が、笑っていた。
「別の所にしましょうか」
「……いや、かまわない」
昨今煙草を吸えない飲食店は増えている。 そう贅沢な事も言ってはいられない。
「ありがとうございます」
彼女はそう言って微笑むとパソコンの電源を落とし、室内の戸締まりを済ませた。
洋子の支度が整うのを確認した神宮寺は、玄関へと足を向けた。
「では、行こうか」
* * * * * *
「ずっと入ってみたいと思っていたんですけど……一人では抵抗があって」
はにかむ洋子の表情から、少女のような一面が垣間見える。
洒落た内装のそのレストランは、雑誌で女性客に大人気と紹介されていた店なのだそうだ。
思い思いに食事を楽しみ、談笑に花を咲かせる若い女性たちを横目に、神宮寺は洋子の向かいに腰掛けた。
―――少し、落ち着かない。
オーダーをとってウェイトレスが下がると、一息ついてグラスの水に口をつける。
「こういうお店にはあまり来られないんですか?」
神宮寺の様子を見て、どこか可笑しそうに洋子が笑みをこぼした。
「仕事で必要な時に入るくらいだな」
「女性と、ですか?」
探るような視線から、そっと目をそらす。
「……情報収集のためにな」
「お酒を飲ませてみたり?」
……そういえばそんな事もしたな、と神宮寺はグラスで口を塞いで思い返す。
向けられ続ける視線にちらりと一瞥を返すと、彼女はくすくすと声をもらした。
よほど来てみたいと思っていた店なのだろうか。 洋子の機嫌はすこぶる良いようだ。
「楽しそうだな」
彼女の様子につられ、思ったままに口から言葉がこぼれる。
「そうですか?」
洋子はテーブルの端に備えられていたカトラリーケースに手を伸ばし、まず神宮寺の前にいくつか並べた。
小さく礼を言う彼に笑いかけ、洋子は言葉を続ける。
「久しぶりに長いお休みをいただいたので、リフレッシュできたみたいです」
「先月は依頼が立て続けに入って、何度か休日もずれ込んだからな」
―――君が休暇に入った途端に仕事が入らなくなったわけだが―――
という言葉を神宮寺は喉で押し留める。 半端ですが、ここまで。
夢の終わりにの前日譚が出るそうなので、
その前には完成させたいです。
(原作にない設定があるので…) ダイダロス体験版プレイ記念に、続きを途中まで投下します。
ダイダロスタイトルのBGM良すぎて聴いてて涙出てきた… そんな弱音めいた事を助手に漏らすのも、何となく情けない。
「でも、お陰様で遠くまで羽を伸ばせました」
洋子のその言葉に、みたびグラスに伸ばされようとしていた神宮寺の指が止まった。
―――遠くまで。
そう言った彼女は、変わらぬ穏やかな表情で自身の分のフォークとスプーンを並べている。
返す言葉を探す神宮寺を、洋子は静かに見つめる。
まるで、試されているような気がした。
何処へ、と聞くだけの事なのに、何故こんなにも逡巡するのか彼自身にも分からなかった。
判然としない緊張感が、互いの動きを止めていた。
硬直を解いたのは、注文した料理の到着だった。
ほんのり湯気を漂わせるそれがテーブルに並び、ウェイトレスが一礼して去っていく。
「食べようか」
そう言うと、神宮寺は食器に手を伸ばした。
「そうですね、いただきます」
洋子も何事もなかったかのように食事を始めようとした。
だが、その手をそっとテーブルの上に置き、口を開いた。
「……聞かないんですか?」
「何を」
「何処へ行ったのか」
「話したいのなら、聞こうか」
投げやりに言ってから、神宮寺も食器から手を離す。
「本当は、気付いていらっしゃるんでしょう?」
―――そう、気付いている。
だからこそ、わざとぞんざいに返してみせたのだ。
これまでお互いに踏み込まずにいた事に、今触れようとしているその真意を知りたくて。
あるいは、突き放して打ち切れるものなら、そうなってくれれば良いとも思いつつ。
「気付いているなら、あえて聞く事もないだろう」
素っ気なく投げた言葉にも、洋子の目は不満の影を見せない。
「お訊きしたい事があるんです」
「何だ?」
「あの花……」
静かな、それでいてはっきりとした声で彼女は言う。
「彼に毎年、手向けてくださっているそうですね」
「………俺は」
開かせた唇が、一瞬次の言葉を探しあぐねた。 「俺には、そんな時間はなかっただろう」
「ええ、代わりに行って下さっている方がいるのですよね」
―――誰が話したんだ。
神宮寺は眉をひそめる。
あえて語らずに潜めていた事を知られているのは、少なからずばつが悪い。
頭に浮かんだ思い当たる人物の顔には、かつてよく見た意地悪そうな笑みがあった。
神宮寺が毎年あの男の命日に連絡をとるようにしているその人は、数日前の電話でもその表情を思わせる口調で近況を語った。
『しかしサミー。 お前、この日には毎度欠かさず電話を寄越すよな』
律儀な奴だ、と付け加えた後、間髪入れずに軽口を叩く。
『わざわざ確認しなくても、大事な元助手の依頼だ。 忘れずきっちりこなしているよ』
「そんな心配はしていない。 俺だって礼の一つくらい言うさ」
『普段は連絡なんて寄越さない癖によく言う』
最後にくっくっ、と笑って電話を切ったその人物の様子を思い返すものの、何かを含んだような口振りではなかった。
彼には今までこちらの近況を詳しく話した事はない。 あの事件の関係者である洋子を助手にした事さえも。
二人が相対したのだとしたら、どこまでが互いに明かされたのだろう。
やましさがあるわけでもないのに、神宮寺はいつも以上に険しい渋面を作り黙りこくってしまう。
洋子はそんな彼の顔をじっと正面から見つめていたが、やがて口元を緩める。
「先生……」
堪えきれない笑いを滲ませて、彼女は言った。 「すごい顔なさってますよ」 「……………」
先ほどまで感じていた緊張感など気のせいだったかのように、洋子は明るく笑っている。
毒気を抜かれたような気分だ。
「遮ってすみません。 よろしければ、どうぞ召し上がってください」
―――別に空腹でしびれをきらしていた訳ではないのだが。
それでも促されるままにカトラリーを取り、神宮寺は食事に手をつけた。
思っていたよりも冷めていなかった具材が、放り込んだ口の中でじんわりと熱を広げる。
言葉も思い付かず、二口、三口と続ける彼を微笑ましげに見つつ、洋子もパスタを口に運んだ。
美味しい。 彼女が口元に手を寄せて小さく呟くと、神宮寺の胸中のわだかまりが幾分かやわらいでいく。
そうしてようやく、舌の上を転がるものを旨いと感じ取る事ができた。
目の前で静やかに食事をしている彼女も、その有り様が纏う穏やかな空気も、慣れ親しんだ光景そのものだというのに。
形も要因も曖昧な焦燥に、自分だけが翻弄されている。
黙々と皿の上にあるものを減らしながら、彼は自身の動揺さえ垣間見せた醜態に呆れ果てていた。
それから、会話らしいものも挟む事なく互いの皿は空になり、満ち足りた身が心のゆとりを少しばかり持たせてくれた。
「美味しかったですね」
そう微笑んでバッグの中を探る洋子を止め、神宮寺は伝票を手に取った。
「俺が持とう」
洋子は目を瞬かせ、ためらいがちに口を開く。
「私が決めたお店ですし、せめて自分の分だけでも……」
「まあ、今日は久々に食事らしい食事をさせてもらったからな」
軽口を言えるだけの余裕が出来ている事に、彼は安堵していた。
「……やっぱり、ちゃんと食べていらっしゃらなかったんですね」
眉間に皺を寄せた彼女の苦言を聞き流し、席を立つ。
「それに……」
口を突いて出た言葉を続けるのに、躊躇いはあった。
このままうやむやにしてしまえば、おそらく彼女も蒸し返す事はないだろう。
今まで通り、煩雑さと平穏とが折り重なった日常に埋もれて行く断片になるのだろう。
だが、それでも。
「さっきは、話を止めてしまってすまなかった」
―――かつて助手になりたいと言って、あの事件に自分なりに向き合おうと決めた彼女が。
時を経た今、切り出したのだ。 きっと意味があるはずだ。
「後で続きを聞かせてくれないか」
出来たばかりのほんの少しの心のゆとりに、焦りも躊躇いも押し流させた。 * * * * * *
店を出て、駐車場まで歩を進める。
日が落ちても明るさを保ち続ける街は寒さまでは誤魔化せず、頬を撫でる夜風が温もりを奪っていくのが分かる。
大した距離ではなかったのだが、駐車場に着く前にはジャケット越しに冷えた身が熱を欲し始めていた。
「もう一枚羽織っていらしたら良かったのに」
何気ない素振りで両手をポケットに突っ込んだ神宮寺だったが、コートをしっかり着込んでいる洋子に苦笑されてしまった。
今日久しぶりに会ったというのに、もう何度こんな風に笑われただろう。
首元を覆っている見るからに温かそうなストールに手をかけ、彼女が問いかける。
「お使いになります?」
「……いや、気持ちだけで十分だ」
停めていたミニはもう目前にあった。 車に乗ってしまえば体も暖まるだろう。
「それで……どうする? 何処か店にでも入るか?」
シートに腰を落ち着け、キーを差す。 そして近場のバーをいくつか思い巡らせながら、神宮寺は洋子に提案した。
「いえ、大してお時間はいただかないので……」
そう言って洋子は居住まいを正し、この場で済む話なのだと言外に示した。
それなら、と神宮寺は周囲に視線を走らせる。
近隣の飲食店からも少し離れた所にあるこのコインパーキングは、その目的通り車両を停める為だけに人が寄り付くようで、今は人影も気配も感じられない。
遠くから響く喧騒も、窓一枚隔てたこの場所にはささやかなものでしかない。
うすら寒い車内で、洋子が口を開くのを静かに待つ。
車外に遠く近くそびえ立つビルの群れを彩るネオンを他人事のように見つめながら、いつしか神宮寺は懐に手を伸ばしていた。
煙草が欲しい。
「………ニューヨークの知人から連絡があったんです」
ややあって、静けさの中に声が降ってきた。
「近々、あのアパートが取り壊されるって。 それでどうしても最後に見ておきたくなって」
淡々と、それでいて探るように紡がれる言葉から、いつか見た光景が脳内に広がる。
かつてあの男を追って辿り着いた、アパートの一室。
あの男と洋子にとっての終わりの場所であり、神宮寺と洋子にとってのはじまりの場所だ。
「……でも、結局間に合わなくて。 私があそこに着いた時にはもう、更地になっていました」
穏やかな声音の中に、僅かな揺らぎ。
「周りの風景もすっかり変わっていました。 新しい建物ばかりで……あの頃を思わせるものなんて、何一つなくて」
―――まるでそれは、全てを、無かった事にしたかのような佇まいで。
言葉にならなかった洋子の想いを、神宮寺は確かに感じ取った。
時は過ぎ去っていく。 その中で生きる人間も、それを取り巻くものも、常に前へ進み続ける。
時の止まったもの達は置き去りにされて、色褪せていく。
忘れ去られていく。
「でも」
こみ上げる何かを押し殺すように、力をこめて彼女は続けた。
「忘れずにいてくれる人がいるなら……きっと」
―――きっと、彼は救われている。 そう思いたいと。
願いを含んで響く声が、いつか自身で手向けた花の淡い紫を思い起こさせる。
神宮寺の依頼通り、海の向こうの恩師が彼に代わって墓前に捧げ続けている、紫苑の花の色を。
「私には……救えなかったから」
かろうじて神宮寺の耳に届いたその消え入りそうな声は、微かに震えていた。
「……それでも君は彼を最後まで信じた。 そうだろう?」
洋子の言葉を否むように、神宮寺は言った。 「それは、救いにはならないのか?」
命を断つ形でしか終わらせられなかった自分の慰みめいた手向けが、救いだなどと言うのなら。
「私には何も変えられなかった……一番、彼の近くにいたはずなのに」
小さく首を振ってそう言うと、彼女は神宮寺に向き直り、彼の左手に自分の両手を重ねた。
思わずこわばる彼の手が細い両手に包まれたまま、洋子の額に押し当てられた。
顔を伏せてそのままじっと静止する彼女の姿は、まるで祈りを捧げているかのようだ。
「………ありがとう」
洋子の手に、僅かに力がこもる。
「忘れないでいてくれて……ありがとう、ございます」
彼女の声が、かすれていた。 体の向きを変えると、ぎしりと静かな車内に不釣り合いな大きな音が座席から鳴った。
構わず神宮寺は洋子の方を向き、右手をそっと彼女の肩に置いた。
「自己満足だ……君が思うような綺麗なものじゃない」
「それなら」
神宮寺の声に洋子はかぶりを振り、彼の手を放した。
顔を上げた彼女の顔には、苦しげな表情が浮かんでいる。
「私はもっと酷い人間でした。 あなたがそうは思わないとしても」
「洋子君?」
「忘れてはいけないと思った…………せめて、私だけはって」
抑え続けていたものを少しずつ、慎重に心の縁から溢れさせるようにして洋子は言った。
「大切だったはずなのに、全部思い出になってしまう……」
何かを戒めるかのように、洋子は膝の上で両手を固く組む。
「顔が見られなくなって……声が聞けなくなって……鮮やかなままの記憶では、なくなっていって」
握りしめられた白い拳が、震えていた。
「そんな風に薄れていくのが哀しくて、苦しくて。 何かで繋ぎ止めないと……そう思ってしまったんです。
だからずっと許さずにい続けるのが正しいんだって、自分に言い聞かせて」
声音のひとつひとつに、痛みが滲んでいく。
「あなたは助けようとしただけなのに。 本当は分かっていたのに……それでも私は」
続く言葉を遮って、神宮寺は洋子の体を抱き寄せていた。
「………後悔しているのか?」
息を呑み硬直する彼女の背に、神宮寺はそっと腕を回す。
「あの時抱いた感情を、間違っていたなんて思わないでくれ」
一拍おいて、重い声が静寂の中に落ちた。 「彼を、愛していたのなら」
肩越しに、洋子がぐっと歯を食いしばるのが伝わる。
「あなたを恨んだのは、彼の為だけじゃなかった……」
押し寄せる感情を堪えきれず、喉を震わせて声を絞り出した。
「きっと何よりも、自分の心を守りたかった……私にはそれが、許せない……」
どんなに時が経とうとも。 いつか抱いた感情が薄れようとも。
記憶の欠片は胸に刺さったまま、絶えず訴えかけてくるのだ。
―――忘れるな、と。
自身に課したその戒めこそが、今の自分達を形作っている。
「あの時……もし君が俺を恨まなかったとしても、俺が背負っていくものに変わりはなかった……そう思う」
あの時の判断を、正しかったとも、間違っていたとも思わない。 思ってはいけない。
彼の死のその先に、今の自分達は立っている。 それを忘れてはいけない。
ただ、それでも。
「何かを責め続ける事でしか、忘れずにいられない訳じゃないだろう?」
腕を緩めて告げる神宮寺に驚き、洋子は顔を上げた。
「………先生が、それをおっしゃるんですか」
―――ずっと自分を責め続けている、あなたが。
痛みを堪えるような表情で呟く洋子の頬に手を添え、口角を上げて見せる。
ぎこちなく浮かべたその笑みもまた、苦しみを帯びたものだった。
「俺達も、そうだ。 自身を責め合う事でしか、傍にいられないわけじゃない……そうだろう?」
痛みだけでない記憶を重ねてきた。
互いを誰よりも信じられるようになるだけの日々を、積み上げてきた。
それなら。
「もう、前に進んでもいいだろう」
涙の膜で覆われた眼を見つめながら、震える唇に自身のそれを触れ合わせた。 ダイダロス発売日決定記念にみに来たらうおー
表現が大人の上品さがあっていいね!
脳内にしっとりジャズBGMがながれてきたわ
ゲームだと有能しっかり者の面が強調されてるからこそ
ホロッと弱みをみせちゃう洋子君は実に良いな
全裸正座しつつ、しっぽりいたす続きまってます