「きゃあっ!!痛あい…」
大袈裟な悲鳴とともに尻もちをついた早英の吊り上がった眼が、憎々しげな視線を純に向ける。
しかし動転した純は彼女を振り返る余裕もなく、あたふた立ち上がり一目散に扉を目指した。心臓が弾ける位走って立ち並ぶ書架を抜け、ようやく扉に隣接した貸出カウンターにたどり着く。
(…!?)
下足場にはいつの間にか上履きが三足。純がそのうち二足が赤い爪先の女子用であることに気づいたとき、低い声と共に誰かの力強い手が、純の肩をぐいっと掴んでいた。
「…こらぁ。女の子に暴力振るたらあかんやろ…」
がっちりと逞しい、もう一人の女子児童。下駄箱の影に潜んでいたのは、相棒の早英とは対照的な童顔にショートカットの鴇谷千夏だった。彼女はもがく順の腕を捻じ上げ、まるで獲物を捕らえた虎のように、ずるずると彼を再び暗い通路へ引きずり込んでいった。
「離せ!! 止めろよお!!」