焦りと屈辱感のなか、純は唇を覆った早英の指を舌で押しやり、吠えるような涙声を上げた。早く家に帰って、下腹部の異変も調べなくては…

「…ごめんなさぁい…僕は…いやらしい本を見てましたぁ…女の子に乱暴なこともしました…ごめん…なさい…」

目配せを交わした二人の女子児童は、脱力し、ひくひくと嗚咽する純を得意げに見下ろしてようやく打ちひしがれた彼の身体を解放する。純はズボンの湿りだけは悟られまいと、痺れた両手でしっかり股間を覆った。


「…大丈夫やって。健康な男の子の証拠や。これ読んで勉強しい。」

白い歯を見せてニカッと笑った千夏はそういうと、傍らに落ちている『おとなになること〜みんなの性教育』を馴れた手つきで開く。
すぐに『精通』の頁にたどり着いた千夏は、ポンと純の顔に本を載せ、早英と二人でクスクスと笑いながら、夕暮れの図書室を去って行った。

「…へへん。三日間連続ヒットや。早英はやっぱり頭ええなあ…」

遠ざかる二人の声をかき消すように、下校時間を告げるベルがけたたましく鳴り響いた。


おわり