「代わり?」

 提案した本人は何故か言葉に詰まり頬が更に朱に近くなっていく。
 何か考えがあるらしいことを言われて拳児は期待感に反ってしまった。
 八雲が思い描いているそれは彼女にとってひどく恥ずかしい、唇で男性器を包み込むよりも恥ずかしいことなのだろう。
 けれど待たせてはいけないと、細喉を切なげに脈動させている様子がとても嬉しかった。

 「は、はい。代わり……です。すぅ――ふう…………で、では」
 大きめの吐息が一時の安息を招く。八雲は息をするのではなく、勇気を振り絞るためにそうした様子だった。
 代わり、というものが何なのか…拳児はどうしても期待と予想が高まる。
 同時にむくむく鎌首をもたげるのは、彼が恐れていたはずの暴力性。
 今の形はあまりに本能に根ざし、そして淫靡であれど。

 「えっと……あ、あの…」
 拳児は言葉を選んでいるらしい八雲に先に何か言ってやりたくなった。
 それは酷い言葉ではない。プレゼントを開ける前に中身を当ててしまいたくなる程度の、軽いからかい。
 「上も下も、口を使うのは無理だろ? これ以上、何をしてくれるんだ?」
 「は、はい……あの…その……」
 ゆっくりでもいいと激励してやるべきなのに、続きを急かした上に品格を欠いた発言までしてしまう。
 だがそれで腹を括ったらしい八雲は、ほとんど床に伏せていた状態から、頭一つ分程に上半身を起こす。
 拳児の腹のあたりを彼女の視線がさまよった。
 「ん?」
 拳児の思考が一瞬止まる。八雲が自分の背に片手を回したのだ。ぷつ、と切れたような軽い音の後に八雲のブラ紐が緩む。それで納得がいった。
 スル、と肩や腕を抜けて床に落ちる上の下着。豊満な乳房がまろび出て、隠されていた母性の全てが露となる。
 肌には昨晩の名残が残っていて、桃色の先端はうっすら膨れていた。
 
 「おぉ…」

 そして八雲は――両の掌を自分の脇の下に置き、やや気持ち前に添えたまま背をしならせるという、なんとも期待に沿った格好をとった。
 存在感ある双房が前面に突き出されたのだ。たわわな膨らみは周りの肉を寄せられてその張りを一層強く増している。

 こんなことを、一体どこで。
 おそらく彼女が日常の内で断片的に垣間見たのだろう色道に、拳児は嬉しい責任を追求してやりたくなった。

 「あ、あまり…見ないで……恥ずか…しい……です」
 無理だ。伸びそうになる腕を堪えるので精一杯、今すぐ触ってやりたいくらいなのに。
 拳児はそう断言する代わりに視線を決して逸らすまいと突き出された胸をまじまじ凝視する。

 威圧感のある視線を受けて、八雲は見られる羞恥に紅頬をより濃く染めあげていく。
 だが胸を晒しただけでは待たせるのと変わらない。続きがあるのだ。それを言わなくてはならない。
 桃色の吐息を零しながら、ふにゃりと柔らかそうな乳房を持ち上げつつ、八雲は上目遣いで拳児を見た。

 「こ…こちらで……播磨さんの、を……」

 両の先端がうっすら浮いている女を象徴する部分。それで男を象徴する部分へ……何をしてくれるというのか。
 拳児は心当たりを置き捨てて、どうしても八雲から聞き出したくて堪らなくなった。