「くっ!」
 「はぁ…っ、れろ…んっ……んっ」

 第一波。触れられた瞬間、自らの感覚器官から鳥肌の立つ快さが伝わってきて拳児は声を絞った。
 緊張で乾いていたのだろう、唾を媒介にせず、口の内側の肌が直接触れてくる。
 そこへざらっとした舌が。舐められた場所から溶け出しそうな快感が八雲から与えられてきた。
 キスのときにはたまらぬ甘みを分泌してくる彼女の唇に包まれて、輪郭を確かめながら舌がなぞりうねってくる。

 「んっ…れろ……ちゅ……」

 ほどなく、幼児が飴玉をしゃぶり続けるような音が立つ。それこそ八雲は幼児同然に集中していた。
 本人の意識はもちろん、女としての技巧のないその口も、入ってきた肉塊に対し、唾液をたっぷり搾り出すという歓迎する反応で迎えている。

 「っ、は……ふぅ……」 

 息をするため、より八雲は頬と口を膨らませた。大きく開いた隙間から冷たい空気が流れ込んでくる。
 温められた部位が風に冷やされ、すぐ後に淡紅舌で包まれる。

 「ちゅ…ぷ……」

 上下の唇で挟み込み、懸命に内圧の高まってきた自分のを舐め上げられる。
 口で覆っている部分を全て味わうと、訴えるように目をあげ見つめられた。上目遣いの儚げな表情。
 感想を求められていることはすぐに分かった。言うまでもない。拳児は腰に力を入れて、濡らされた場所を直立させることで喜びを伝える。

 「あぁ……で、では今度は、もっと…奥…………んっ……む、んぅっ…」

 喜んでもらえたのだ、と少しだけ口を話し感嘆を漏らす八雲。そして宣言のとおり、次は動きが変化した。くびれの部分までだった唇がより深く飲み込んできたのだ。
 若干苦しみの伴う努力の成果か、舌の届く距離がカサを超え、鼻先が陰毛に触れてくる。
 八雲の口だけでなく鼻まで犯しているような錯覚に拳児は酔う。刺激の質の変化に眩暈さえ感じてしまった。

 「ん、ふ、ふぁ……ちゅ……ぅ、ちゅうぅ……れろ…っ」

 口取りのやり方を徐々に覚え始めてきた八雲。たまっていく唾液を小さな舌の届く限り全てにまぶしていた。
 外からは不明瞭なその動きも拳児には触覚で一つ一つがよく伝わってくる。
 経験のない行為。故に、どこが男を喜ばせる場所なのか、決して傷つけないよう労わりながらそれを探そうとしてくれている恋人の動き。
 重力に引かれ、やがて垂れていく粘性の唾を音立てて吸い付くと、また上にこすりつける、賽の河原のようなその動き。
 亀頭の割れ目を確かめるようにウネウネ、チロチロ、舌先が入ってくるのがたまらなく気持ちいい。
 やがて口だけでなく顔全体を動かす考えに至ったのか上半身が前後する。
 白いブラジャーに整えられた、高さのある乳房が少しだけ遅れてふるふると揺れた。
 見せつけるような動きが欲情をひどく刺激する。

 「んむっ……ふぁ……ちゅっ……んっ……」

 器用なのか不器用なのか、正面から銜え込んだ男性器を半分以上は外へ晒さないよう、顔を使わず口の中だけの動きで八雲は対応しようとする。
 息苦しんでいるようにも見えて拳児は鼻で呼吸したらどうかと思った。
 しかしそれはまずい。彼の知らない事情ではあるが、今の八雲にとって拳児の匂いは麻薬である。吸いすぎたらおかしくなってしまうのだ。
 それが分かっているために八雲は呼吸器官としてはあまり小鼻を使えなかった。