(あ、もう入ってる…)
 おどおどしている悠貴の前で、イツキはそっと浴室のドアを開けた。そこは脱衣所に
なっていたが、乱雑に脱ぎ散らかされたセーラー服と下着があるだけで、もぬけの空だ。
その代り、正面に曇りガラスの引き戸があって、そこに小柄な人物のシルエットが浮かんで
いる。身体の輪郭すらもはっきりしないが、未来以外の人間のはずはないだろう。
 イツキはドアを大きく開けると、音もなく脱衣場に忍びこんだ。その後から、悠貴も
おっかなびっくりついていく。
(よぉし…)
 ドアの前に辿りつくと、イツキは緊張した面持ちで手を伸ばし、音を立てないように
そぉっとドアを右のほうに引き開いた。期待通りに音もなくドアは動き、数cmの隙間が
できると、イツキは屈みこんで首を伸ばし、そこから中を覗きこんだ。悠貴も彼に
倣うようにして、イツキの頭の上から首を突き出して中を覗き見る。

(お…!)未来の裸の後ろ姿が目に飛び込んできて、イツキが心の中で歓声をあげた。
(見えた!)
 そこでは未来がこちらに背中を向けてシャワーを浴びているところだった。一般的な
家庭よりも一回りほど大きいゆったりとした洗い場で、未来の位置は彼らのすぐ目の前
というわけにはいかなかったが、よく見えないほど遠いわけではない。むしろ、ある程度
距離があるおかげで、それだけ覗きを気付かれずに済みそうだ。実際、シャワーの音の
せいもあるのだろうが、背後でわずかにドアが開いたのにも、そこから二組の目が覗いて
いることに未来はまった気付かず、こちらに向けたお尻をもぞもぞと動かしながら、
無心にシャワーを浴び続けている。
(へへへっ、気付いてないや)
 未来の剥き出しのお尻を眺めながら、イツキはくすくすとさも可笑しそうに忍び笑いを
漏らした。まだ発育が始まったばかりで、女らしい丸みが出始めたばかりのすっきりとした
少年のようなヒップだったが、女の子のお尻には違いない。なによりも、覗かれているのに
気がついていない未来が面白くてしょうがなかった。
 だが一方、悠貴のほうはつまらなそうな表情だ。なんとなく付き合いで一緒に覗いては
いるものの、つい一年ほど前までは一緒にお風呂に入っていた仲である未来のお尻など、
今さら見てもさほど楽しいものではないし、万一見つかった時のことを思えば、到底
はしゃいでなどいられない。

(おっと)
(あ…)
 と、未来がくるりとこちらのほうを向いて、背中にシャワーを浴び始め、二人は見つかる
のではないかと思わず首を引っ込めて身を固くした。が、未来はドアの隙間にも、そこから
覗く目にも全く気付く様子はない。隙が多いというか、あまり他事に関心がないのだろう。
(うわぁ…)
 二人はどうやら大丈夫そうだと安心すると同時に、目に映る未来の裸身にごくりと生唾を
呑み込んだ。こちらを向いたおかげで、膨らみ始めた乳房や股間の割れ目、そしてその
割れ目の上部にうっすらと萌え始めている恥毛まで、はっきりと見る事ができる。発育途上
とはいえ、お尻とは違ってはっきりと“女”を感じさせられ、二人はどぎまぎとなった。
(すげー、毛が生えてる…)
(ホントだ…)
 感心したように呟くイツキに、悠貴も我知らず肯いた。彼が覚えている未来のそこは
つるつるで、ただ一本の亀裂があるだけだった。それが今は、父母と同じように、毛が
生え始めている…。それほど覗きに乗り気でなかった悠貴も、オトナになり始めている
姉の裸身が俄かに気になり出してきて、身を乗り出すようにしてドアの隙間から姉の裸を
凝視した。