「さて、と…」
 格好良く(?)二手に別れて後で合流、ってのはいいんだけど―
 (私って、この島の地理に疎いんだよねぇ…)
 里奈はあらためて一人っきりである不安に戦く。しかし時間は待ってくれない。
 とは言え、闇雲に走り回るとした愚は避けた。それは体力がいくらあっても
保たなくなるのは明白だからだ。
 幸いというかなんと言うか、被災したこの島には、あちこちに持ち主不明な自動車が
放置されていたおかげで、里奈はその物陰に隠れられる、とした利点にあやかれた。

 それがまず最初の油断―

 「?!」

 暴徒の一人が、車の中に潜んでいたのだ。赤いシャツを着た若い男だった。

 そこで里奈は。

 咄嗟の判断で、車から出ようとした若い男を逆に押し込むように一緒に
車の中へと潜り込み、即座に車のドアを閉め、あえて二人っきりの状況を作り出した。

 「なッ?!…お、お前何を!?」
 「(シッ!お願い!静かにして!)」
 里奈は怒鳴る男の口を塞ぎつつ、掠れたような声で囁くように相手に沈黙を要求する。

 「…っざけンなよ!なんで俺がお前の言う事をきか…え?!」
 「もちろんタダで私の言う事を聞け、とは言わないわ…」

 里奈は、男の片手を自分の乳房にあてがえ、あえて握らせるように差し出した。

 「お願い。私が「多少の事」は…するから、見逃してほしい―」