「…なって、やってるじゃないか…。欲張りだね…」

「まだ、足りない」

男は、女に覆いかぶさり、女の首筋に顔を埋めた。

「…もっと…欲しい…」

掠れるようにそう呟き、男はそのまま女に体重を預けたまま意識を手離す。
温かな寝息が、女の首筋に伝う。

男が情交の後にこうして女の部屋で眠るのは初めてだった。
女は、微かに戸惑いはしたものの。
(…仕方ないね…。修行で疲れてる上に、あんな強い酒飲ませちまったんだから…)
ちらりと部屋隅の香を見ると、あと十分もすれば燃え尽きてしまう程に短くなっていた。

「……馬鹿だね…本当に…。こんな年寄りに惚れちまうなんて…」

最初は、この男に対する哀れみのような感情からだっただろうか。
こんな小細工までして、自分を求めてきたこの男に、焦がれるような眼差しを
向けるこの男に同情し、付き合ってやるのも悪くないと、ただそんな気持ちだっただろうと思う。
だが、次第にそれは後悔へと変わっていく事になった。

(柄にも無く、同情なんてするもんじゃないね…)

自分でも、どうかしていると思う。
本当の自分はこんなにも老いているというのに、こんな若い妖怪の男に現を抜かし、身を任せるなどと。
そう、受け入れるべきではなかったのだ。
男にとっても――女にとっても。