午後7時 五月雨荘

 一時間近く泣き続けた真九郎は、泣き疲れてそのまま紫の胸に

抱きつきながら眠りに落ちてしまった。

「うんしょ、うんしょ。ううむ重いな、真九郎の体は」
 
 布団を敷き、その上に真九郎の体を引きずりながら乗せ、学生服を

剥ぎとりパジャマに着替えさせる。

(しかし、どうして真九郎はあんなに泣いていたというのだ?)

 九鳳院紫にとって紅真九郎は相思相愛の相手といえる。

 紫には真九郎が必要で、真九郎には紫が必要である。

 紫が困っているときに真九郎は手を差し伸べてくれたし、また真九郎が

困っているときには紫が手を差し伸べて今まで上手くやってきた。

 どんな窮地に陥っても決して諦めずに、弱さを見せることなく悪漢や

変えられない宿命と戦ってきたあの真九郎が感情を露わにして、TVに

出てくる女のように泣きわめいたことに紫は内心驚いていた。

(そう言えば環が言っていたな。真九郎は女に弱い男だと)

(そして、真九郎より強い女は...うう、一杯いるではないか...)

 小さな頭をひねりながら、紫は真九郎が泣きわめいていた理由を

探っていた。

 もし、環の発言が正しいとすれば紫には真九郎を泣かせた相手の見当が

いくつもつく。