日も暮れ、漸く鬼太郎が寝子の姿を見つけた時には間に合わず、
彼女が橋の上から身を投げた瞬間の目撃者となった。

寝子は悲観する余りに自殺したのだ。
鬼太郎は救おうと川に飛び込み、
寝子の身体を抱きかかえて岸辺に連れ帰ったが、
時既に遅く腕の中の少女はものも言わぬ冷たい躯と化していた。

不思議な事といえば、溺死したものの遺体は醜くなってしまうものだが
寝子は生前と変わらぬ美しさを留めたまま、土葬される事となった。
身近な血縁は祖母だけで、その葬儀はひっそりと行われた。

鬼太郎は彼女を救うことが出来ず、永遠に失ってしまったことで大息をつくばかり。
生まれて初めての恋は、少女の死と言う形で失恋に終わった。
好いた少女を失った悲しみと恋に破れた哀しみで
思い頽る息子の姿を見かねた父は、祖先の力に肖り少女の魂を追った。

天命を全うしない事も、親を残して先立つことも全ては罪。
寝子の良心は先立ってはいたけれど、年老いた祖母を残し
ましてや自ら命を絶つなどとは許されざる大罪。
少女の清らかな魂は最後に犯した罪の為に、再び地獄へと下ったのでした。

目玉の親父が捜し求め、漸く見つけた少女は
地獄の入り口付近にある長屋に「猫娘」と言う表札を掲げ滞在していた。

尋ねた彼女は現世へと戻る意思は無く、
この地が自分にとってもっとも幸せな場所である事を告げた。
現世に戻れば噂と共に好奇の目に皿らされる屈辱に耐えねば為らず、
このまま人間界から消えてしまいたいのだと言う意思を尊重し
目玉の親父は一人で現世へと帰還した。

別れ際、猫娘の歯に詰まっていたと言うネズミ男の一部を預かって。

寝子を地獄に残してきた経緯を息子に伝えると、鬼太郎はがっくりと項垂れた。


その後も奇奇怪怪な事件に巻き込まれていく鬼太郎親子だが
人間界で生活するための一手段でもあった「水木」を水神によって失い
人間社会で生きていく事に限界を感じていた鬼太郎親子は、忽然と姿を消した。

この後、水木の死が鬼太郎に出逢いを齎すとも知らずに。








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