口先を尖らせ、顔は俯いているのに上目遣いで尋ねる鬼太郎の姿は拗ねているようにも見えて
まるで子供が母親に愛情を求めるような仕草に、堪らない愛おしさがこみ上げて、
猫娘は鬼太郎の身を抱き寄せた。
先ほどまで孵変に怯えて心を弱くしていた彼女の姿はもうそこには無かった。

「好き…よ?何があっても鬼太郎さんの事。
 鬼太郎さんが望むのなら、約束だって誓いだって何度も交わすわ。」
「猫ちゃん…」

猫娘は凛とした眼差しを逸らす事無く言い切り、鬼太郎の前髪で覆われた左目蓋に口付けた。
生まれつき閉ざされた瞳への口付けは、二人だけの約束の証。
猫娘の顔が離れ、互いの視線が交じわうと自然と笑みがこぼれ、額を合わせた。

「好きよ、鬼太郎さんの事だけ…ずっと。」
「僕も…猫ちゃんの事、大好きだよ。」

この日を境に猫娘の姿が消えた。
猫娘の住まいに尋ねていった鬼太郎は孵変の為、
誰の目にも触れぬところへ一時的に身を隠し備えているであろうことを悟った。
それはどの妖怪もそうで、変わる瞬間の姿は誰も見る事が出来ない。
唯一見る事が出来るのは己のみで、腹部に現われた兆から現われた新しい自分と向き合う時、
それは今の自分が過去の自分へと変る瞬間
それを受け入れられない者はそのまま消滅する事もある。
必ず自分の元へと戻ってくる事を信じ、鬼太郎は自らも孵変する準備に入った。
少女と同じ時を生きる為に―――








                               糸売く