夢にまで見ていた言葉、
所詮は夢でしかない傷つきたくなければ諦めろと自分に言い聞かせてきたのに拒めない、
信じて素直に受け止めたい自分が居る。

今更ずるい鬼太郎はずるい。

鬼太郎はネコ娘の瞳を見据えたまま決して視線を逸らさない。
共に大人になるのは、共に永き時を歩んでいきたいのは―――

「ネコ娘じゃなきゃ、嫌なんだ…」
「…鬼太郎」

溢れた涙が止まらない。ずっと受け止めて欲しかった気持ちは、漸く届いた。
ずっとこの腕に抱きしめたかった、その胸に抱きしめて欲しかった。
背中に回された腕に、互いを引き寄せて抱き合った。

何時からだろう?
彼女と自分の間にこんなにも思い違いが生じてしまったのか。

ただ照れくさくて素直に”好きだ”と伝えられず、
意地を張って突っぱねてしまった事もあった。
それでもネコ娘は変らず傍で微笑んで居てくれたから、
彼女の優しさに甘えてしまっていた。
こんなにも傷つけてしまっていたなんて分からなかった。

「だから、今度は僕がネコ娘に必ず逢いに行くからっ…!!」
「待ってても…いいの?」
「ああ、絶対に迎えに行くよ。だから…」
「うん、鬼太郎がそう言うなら…あたし待ってる。」
「約束するよ、ネコ娘。君が好きだ―――」

ネコ娘の閉じた目蓋から溢れた涙を唇で拭いながら、そっと目蓋に口付けを落とした。
いつの間にか広がっていた深い溝はとても埋め切れはしないけれども、
せめて少しでも癒える様にと願いながら
ずっと前、猫娘がしてくれた約束を今度は鬼太郎がネコ娘に返す。
鬼太郎の唇が離れた気配にネコ娘が瞳を開けると自然と視線が交わり、
引き寄せあいながら深く、深く唇を重ねた。

暫らくして、鬼太郎の進めもあり
ネコ娘は砂かけのおばばの妖怪アパートに入る事となった。

―――数ヶ月後…ゲゲゲの森が白く染まる頃、ネコ娘は孵変を迎える。
そして鬼太郎もまた、決して代わる事の無い己の真実の為に孵変に入った。
愛しい少女と新たな時を迎える為に―――









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