キモ姉&キモウトの小説を書こう!part44
0001名無しさん@ピンキー2013/03/10(日) 09:57:53.95ID:nUhHqoDK
ここは、キモ姉&キモウトの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○キモ姉&キモウトの小説やネタやプロットは大歓迎です。
愛しいお兄ちゃん又は弟くんに欲情してしまったキモ姉又はキモウトによる
尋常ではない独占欲から・・ライバルの泥棒猫を抹殺するまでの

お兄ちゃん、どいてそいつ殺せない!! とハードなネタまで・・。

主にキモ姉&キモウトの常識外の行動を扱うSSスレです。

■関連サイト

キモ姉&キモウトの小説を書こう第二保管庫@ ウィキ
http://www7.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1.html

キモ姉&キモウト小説まとめサイト
http://matomeya.web.fc2.com/

■前スレ
キモ姉&キモウトの小説を書こう!part43
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1345041048/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
0003広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/03/11(月) 16:05:05.34ID:VOayPAk0
>>1
スレ立て乙です。

「あなたがいないなら何もいらない 第5話 飛翔する我欲」投下させていただきます。
なお、筆者は名古屋弁を知りませんので、作中の名古屋弁は実際に使われているものとは関係ありません。
0004あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/03/11(月) 16:07:02.54ID:VOayPAk0
 それからしばらくして、清次は件のクラークと一緒に汗を掻いていた。
 二人とも下着姿である。
 彼は首筋に口付ける。
「清次さん、キスマークが残ったら……」
 だが、発する最中から、抗う声に力がなくなっていった。
 後ろに回り、乳房を揉みつつ、右首筋へのキスを継続する。
 荒々しくはないが、大胆に、奔放に。
 女は、呆気なく快楽へと堕ちていった。
 やがて、彼女は上気した顔で自らの発情を伝える。
「でらええがや」
(ヤってる時は名古屋弁になるんだな)
「ここも濡れてるぞ」
 周りと違う色になったクロッチを指でなぞる。
「おべんちょもねぶりゃあ」
 そう言われ、彼はショーツの中に手を差し込み、クリトリスを弄りだした。
「ここはもう津波じゃないか」
「それをいうなら、津波じゃ、なくて、洪水、だがや…」
 弄るほどに愛液の量は増し、溢れんばかりになっている。
「1兆5000億の借財があるのに何が減税党だ、我欲を洗い流す必要があるな」
「みゃ、あっ…」
「どんどん演繹していくと、どうなる? 日本がEC入ってたらECから追い出されるよ、ユーロ使えないよ」
 某都知事が乗り移ったかのような言葉責めを交えつつ、その手の動きも早くなりつつある。
「受け止めろっ!」
 清次は一際激しく手を動かし、彼女は達した。



 彼女は四つん這いとなって男を受け入れている。
 対する清次は、当初は後背位で入れていた。
 やがて、挿入したまま、180度回転し、足が地から離れ、腕立て伏せをするようにして下腹を尻に叩き付け出した。
 ヘリコプターとも称されるスタイルだ。
「みゃ、みゃ、みゃあ、あっ!」
 清次は彼女の上で、ホバリングをする時のローターのように、腰を上下させていた。
「はっ、はっ、今度、本物のヘリにも、乗せてやろうか……!」
 その内、彼は逆立ちしたようになり、足は天に向かって真っ直ぐに伸びた状態で女に挿れ、海老反りながら腰を動かしている。
 金の鯱。
 特に難易度の高いとされる体位である。
「はあっはあっはぁっ……!」
 さしもの清次も体力をいささか消耗している。
 とはいえ、このようなアクロバティックな体勢を保っていられるのは、やはり百戦錬磨の彼であればこそである。
「みゃ、みゃ、みゃあ、みゃあ、みゃああっ!」
 結合部の水音が段々と大きくなりはじめてきた。
 ぐちゅっ、ぬぷっ、ぐちょっ……
「清次さん、うち、もう、イくがね!」
 快感を剥き出しにした叫び。
 それを聞いた彼は死力を振り絞って、今まで以上に腰の速度を速める。
「お、れ、もだ、……もう、イくぞっ!」
「みゃあああああああっっっっっ!」
 一際大きな声で女が叫んだのと同じ瞬間、彼の腰と陰茎は、盛大に爆ぜていた。
0005あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/03/11(月) 16:08:04.51ID:VOayPAk0
「今日は本当に何から何までありがとうございます」
「ああ」
 一戦を終えた二人は、初めて本当に休憩していた。
 というか、体力がもたなかった。
「おいしい料理をご馳走になりまして、下の口でも……」
「俺の金玉袋は点心と同格扱いかよ」
「ネックレスも買っていただきまして」
「ああ、君にとっては、お安くはないんじゃないかな、君の勤め先のあの中華屋と一緒で」
「ええ、まあ」
「なら一宿一飯の恩義もあろうな」
 清次はそういって写真を渡す。
「あんたが昨日見たのはこの女か?」
「これ……」
「どうした?」
 彼女が息を呑むのが分かった清次は、その意味を訊いてきた。
「これ、山崎雅……」
 それは、この地、名古屋が生み出した、メスカープロダクションが誇るゴリ押……売り出し中のファッションモデルの写真であった。
「え、ええっ、ああ! 違う違う! 間違い間違い!」
「でも、これ、その……」
 そういって彼女が見せたものは、所謂ハメ撮りであった。
「あっ……、
 いや、アイコラアイコラ! 友達からアイコラ写真を押し付けられたんだって!」
 そのように取り繕い、慌ててその写真を回収し、亜由美の(もちろんまともな)写真を押しつけるように渡した。
「これだよ。
 この女。昨日来ていた女はこの女だったか?」
「いえ、違いますね」
 ある意味、予想通りだった。
 誰かが亜由美に成り済まし、本物を高層階から落とした犯人がいる。
 その現実が、ほぼ確実な事実としてそこに出現してきた。
「どんな女だった?」
「若い女性で、そこそこ雰囲気は似ていると思いますが、もう少し吊り目気味で、鼻は高くて、唇は薄くて、面長で、セミロングくらいだったかと」
 ふんふんと一言ごとに、彼は頷いていた。
「全然違うじゃないか」
「私じゃなくて警察に言ってくださいよ。
 それに、この写真と比べれば、という話で、そんなに違ってませんよ」
「そうか、ありがとうな。
 また名古屋に来た時には一緒に楽しもう」
「ええ」
0006あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/03/11(月) 16:09:30.11ID:VOayPAk0
 警察署での取り調べを終えた篠崎夫妻と操は、一旦帰京することとした。
 名古屋駅で篠崎夫妻が券売機に並んでいる間、清次が操に話しかける。
「俺はヘリで来たんだが、帰りはお前も便乗しないか?」
「なら、お父さんとお母さんも」
「いや、2人で少し話をしたい」
「わかった」
 操が首肯するのを見て、清次は篠崎夫妻に声をかける。
「ちょっと所用がありまして、帰りは操くんと私の秘書の3人で帰ることになります」
「そうか。じゃあ、ここでお別れだね」
「気を付けて。体は大切にね。食欲がなくてもちゃんと食べなきゃだめよ」
「ありがとうございます、お父様、お母様。お元気で」
 改札を抜け、歩廊に消えていった夫妻を見届けた操、清次と赤城は、ヘリポートに歩き出した。



 ウイロウプラザのシースルーエレベーターに彼らは乗り込んだ。
「ここから、落とされたんだな、亜由美は……」
「あまり考えるな」
「ここから、飛び降りようかな」
「そんなことを言うな。亜由m……篠崎も、悲しむぞ」
「わかっている。ただ、ちょっと耐え切れなくなっただけだ」
 展望の良いこのエレベーターも、今の彼にとっては心の毒でしかなかった。
0007あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/03/11(月) 16:11:25.36ID:VOayPAk0
「誰か、こいつじゃないか、という奴はいないか」
 離陸とともに、清次は操に訊きはじめた。
「恨みを買うことなんて、絶対にない」
「ないだろうな。お前はあいつだけだからないだろうが、俺だったら元カノなり何なりが嫉妬を抑えきれずに殺して、なんてのも一応は考えられるだろうが、俺のタレ(女)にそこまで業の深い奴がいたかどうか」
「キヨにとっては以前の恋人の一人、ってだけだ。わざわざ殺されるだけの理由はない」
「だよな。あとは、篠崎の親御さんか、俺とお前かな。警察が、名目だけでもリストアップする容疑者のラインナップは」
「馬鹿な。亜由美を殺すくらいなら、俺は生きてはいない」
「俺もソウはそうだろうと思うが、それは主観さ。客観的な証拠にはならない」
「それに、俺とキヨは、姉貴の誕生日パーティーにいた。アリバイはある」
「ああ、その点翼さんには感謝だな。じゃなきゃ、俺まで殺しを疑われる破目になっていた」
「おい、まさか」
 険しい顔になる操に、清次は静かに語りかけた。
「確かに俺は女と揉めることはあるさ。でも、それはタチの悪い奴だ。俺から一文でも多くカネを巻き上げようとするゴールドディガー。
 あいつはいい奴だった。俺を強請るつもりはなかっただろうし、実際ネタを確保したりもしてなかっただろうな」
「じゃあ、誰が……」
「それをこれから暴くんだろう。もっとも、警察はこのまま葬るつもりだろうから、それを荒らすのも容易なことじゃないだろうが」
「そんなこと……、させるか!」
 清次は満足げに大きく頷いた。
「よし、じゃあ忠告、といえるほど大したことでもないが、一つ言っておこう」
「何だ?」
「言おうかどうしようか迷ったんだけどな。
 翼さんには気をつけろ」
「姉貴がか?」
「勘だけどな。でも、偶然にしてはタイミングがよすぎるだろ」
「何のタイミングだ」
 関係のない話を始めるかのように、清次は調子を変えて聞いてきた。
「ソウ、一つの会社を支配するには、その会社の株式の何パー確保すればいいと思う?」
「? 過半数、か?」
「普通はそう考えるよな。でも、任期の途中で役員を解任するには、3分の2が要る」
「それが、どうかしたか」
「ここでようよう本題に繋がるわけだ。
 翼さんは厚重(厚木重工業)の70%の株を保有している。
 そして成人に伴って親権に基づくその株の財産管理権が外れ、議決権を自分の意思で行使できるようになったのは、まさに篠崎が殺されたその日だ」
「そんな、偶然だろ。それを推測だけで」
「でもそんな偶然、そうそう起こるものかね?
 偶然、翼さんがソウに一人で来ることを指示し、偶然、篠崎が一人になった状況で、偶然、翼さんが成人して半川家の資産そのものともいえる企業を掌握した日に、偶然、翼さんとソウのアリバイのある状況で、篠崎が殺されたわけだ」
 そこまで言われた操は、押し黙る。
「偶然、という都合のいい言葉は往々にして悪事の隠れ蓑に使われる。
 その言葉だけで万事を片付けると、思考力は少なくて済むが、解決する事件も解決しなくなる」
「そう、だな……」
「それと、昨晩、ソウが戻ってから、翼さんが電話をかけてきた」
「えっ、固定電話にか?」
「お前はともかく、俺が名古屋にいて、八雲製薬の名古屋支社にいたことを知っていたということだ。
 携帯にかけて繋がらなかったから、そっちのほうにかけたんだろうよ」
「本当か?」
 そう言って、操は電源を切ったままになっていたMEDIAS N-04Eを立ち上げた。
「うわ……」
 それぞれ100件以上の着信とメールがあった。
「ほう、これはすごいな」
 そのまま、彼は再び電源を切った。
「俺らは翼さんに監視されていると思っていいだろう。
 そこまでする、となれば、疑われても仕方あるまい?」
「ないと思いたいが」
「俺もそう思う」
 儀礼的な返事の後、思うところを述べ始める。
「この件の帰趨はこれから追っていけばいい話だが、今や、厚木重工業は、翼さんが支配している。
 それだけは変えようのない事実だ。
 まあ、人の忠告は素直に受け取っておくもんだぜ。
 こっちはお前を貶めて得することなんか何もないんだから」
 ヘリの窓には、東京の街並みが映りだしていた。
0012 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:12:10.65ID:NUBDoDxg
投下します。
0013鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:13:25.54ID:NUBDoDxg
―――昼休み

「ここの水族館はすごいキレイなんだよ〜」
「へー…」
「魚の種類も豊富で―――」

昨日の夜からアサネの様子がおかしい…。
そのことにコン太は気付いていた。
しかし何処がおかしいのかというと…、それはコン太にもわからなかった。
恐らく周りの人にもわからないだろう、というような些細な変化だ。
今朝も起きた時、挨拶をしてくれたのだが…。

「(………何か今までより…、わからんなー)」
「コン君、聞いてるの?!」
「え、…あぁゴメン」
「何か悩み事でもあるの?」
「うぅん、大丈夫だよ」
「……ならいいけど。それでコン君は何処に行きたい?」
「そうだねー…」

二人は日曜のデートプランを立てていた。

その様子を見る人影に気付くこともなく―――



「コン君、今日は一緒に帰れそう?」
「ん、うん帰れ―――」
「コン太君、ちょっと用があるから部室まで来て」
「えっ?!!」
「あっ?!」

キオナがコン太の首根っこを掴み、さらっていった。

「ど、どうしたの、大久那さん」
「話があるのよ」
「え?」
「早狩さんのことで…」
0014鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:14:29.16ID:NUBDoDxg
アサネは今日も一人で家に帰ってきていた。

「あらアサネちゃん。お帰りなさい」
「ただいま、叔母さん」
「今日もコン太君と一緒じゃないのね。喧嘩でもした?」
「……やだなぁ、叔母さん。たまたまですよ」

そう、たまたま―――
アサネは自分自身に言い聞かせていた。

部屋に戻り、いつもの現実逃避に入る…。
アサネは本来、自慰をする回数は少なかった。
一か月に一回あるかないか、という頻度だったのだが―――。
昨日から今日の朝方に掛けて、五回以上はしていた…。
しかし、いくらしても心の寂しさは埋められなかった……。



「コン太君、早狩さんには注意したほうがいいわよ」
「え?!いきなり何だよ…」
「ちょっと気になることがあってね…」

囲碁将棋部の部室内にて話す二人。
キオナのいつもと違う雰囲気にコン太は只ならぬものを感じた。

「私、さっきの掃除時間で体育館裏のゴミ置き場にゴミ捨てに行ったんだけど…」
「うん」
「早狩さんとアサネが何か口論しているのを見たのよ」
「えぇ?!」
「何を喋ってるのかは分からなかったけど……」
「そんな…」
「ねぇ、アサネに何処かおかしい様子はなかった?」
「―――そういえば、昨日帰ってきたときから何か変な…」
「ホント?!」
「でも、何が変ってのがわからなかったから…気のせいかも」
「二人の間に何かあったのだけは確かね」
「もしかして…喧嘩?」
「そういうわけだから…、早狩さんにあまり気を許さないほうがいいよ」
「そ、そうだね…」
「あと、このことも他言無用にしたほうがいいわ」
「え、それは二人に確かめたほうがいいんじゃ…」
「でも、アサネは何も言ってこなかったんでしょ?何か知られたくないことでもあるのかも…」
「んー…」
「他人が無闇に突っ込んでも、余計こじれるだけかもよ。新しい情報が入ったらまた知らせるから」
「あ、うん。わかったよ。あ!大久那さん!!」
「ん?」
「…アサ姉のこと、支えてあげて。多分男には言えないことも色々あるだろうから…」
「ふふっ、わかったわ」

―――コン太は気付いていなかった…。
ユキの掃除区域が教室であることを。
その時、彼女が一度も教室から出ていなかったことを…。
0015鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:17:12.60ID:NUBDoDxg
―――日曜日の朝

「おはよう!コン君!!」
「あぁ、おはよう」

コン太とユキは町の駅前に集合していた。

「一回乗り換えるけど、大きな街には30分もあれば行けるわ」
「へぇ…、意外に交通の便はいいんだね」
「私、水族館なんて小学校以来だよ!」

ユキは高揚している様子だ。
対照的に、コン太は若干テンションが低い。
キオナに言われたことがずっと頭に引っ掛かってるからだ。

「(アサ姉とユキちゃんは転校初日以来会話していないはずだが…)」

小学生のように楽しげなユキを見ていると、本当かどうか分からなくなってきた。

「コン君はどう?」
「中学のときに行ったよ。生物の見学という名目でね」
「うらやましいな〜」
「実際は遠足だったからね」

………今は考えるのは止そう。
ユキがどんな人間か、これから見極めればいい。
コン太はそう決心した。
0016鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:18:01.21ID:NUBDoDxg
満留跋水族館。
ここは、全国有数の水族館で半日は見ていて飽きない巨大な施設である。

「わっ!コン君、イルカだよ!!」
「キレイだねー」
「可愛い!!」
「ほら、むこうにはアザラシがいるよ」
「きゃあぁぁ〜!!」
「ははは…」

ユキは女子特有の盛り上がりを見せた。
一方、初めてのデートとなったコン太にとっては、ユキの豹変ぶりに少し引いていたりも…。

「むこうでイルカショーもやってるって!!」
「えぇーと…」

パンフレットを見るコン太。

「時間はちょっと空くね。さきにお昼にでもしようか」
「そうしましょ♪」

二人でラウンジの椅子に腰掛ける。
ユキはこの日も弁当を作ってきていた。
一方コン太は…。

「コン君は今日は…」
「今日のことはアサ姉には黙ってたんだ。毎回作ってもらっちゃ悪いしね」
「そうなんだ、…たまにはお姉さんも楽をしなきゃね」
「お!美味しそうだね〜」
「しそう、じゃなくて実際美味しいの!」

コン太は思う。
このまま、ユキと恋人の関係になれば、アサネの負担を減らせるのではないか、と。

ユキの弁当を堪能し、イルカショーを満喫した後、残りの展示スペースを歩いた。
0017鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:19:12.23ID:NUBDoDxg
「…うわぁ、グロい…」
「深海魚だね…」

二人は明かりが少なく、薄暗い深海魚コーナーにいた。
時間帯もあり、この辺りは人気が少なかった…。

「………コン君」

不意にユキが甘い声で囁いてきた―――

『(まぁ向こうにその気はあるよ、絶対)』

キオナの言葉が頭を駆け巡る。

ユキが身体を寄せてきた…。
上目遣いで顔を上げ、目をつむる―――

コン太は、半分混乱していた。
…同時にこうなる予感もしていた。
が、それはもっと関係が進んでからという認識だったため完全に不意打ちだったのだ。

―――一瞬迷った後、ユキの肩に手をのせる。
ビクッとユキの身体が震えた。

そして…

「―――!―――!!―――!!!」

すぐ近くで声が聞こえた。
咄嗟に身体を離す二人。
顔はお互い真っ赤だった…。
0018鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:21:03.79ID:NUBDoDxg
二人が水族館を出た時、既に夕方となっていた。
帰りの電車の中、他愛のない話をする二人だったが、さっきの件がありどこかぎこちない雰囲気ではあった。

駅に降り立ち、後はユキを送るだけのコン太だったが、思わぬ人物に遭遇した。

「コン?」
「ア、アサ姉?!」

買い物帰りらしいアサネと出会ってしまったのだ。
コン太は心中焦った。
今日のデートは秘密にしていたわけだから…、アサネがどんな反応するか心配だった。
しかし―――

「お帰り、まだ買い物が残ってるから荷物持ちお願いできる?」
「え?!…あぁ、いいけど」

穏やかに話しかけてきたアサネに拍子抜けしたコン太であった。
自分の考え過ぎであったのか―――と。

「あ、じゃあユキちゃん。悪いけどここで…」
「うん、今日は楽しかったよ、ありがとう」
「こっちこそ」
「…“また”コン君と行きたいな」
「う、うん。そうだね…」
「うふふ、じゃあまた明日!!」

そういって帰途につくユキ。
“また”という言葉に顔が赤くなるコン太。
つまりユキは…、自分のことを…。

ギュっ!!

咄嗟に腕を抱きかかえられたコン太。

「アサ姉?!」
「ん、どうしたの。コン?行きましょ」
「い、いやその…当たってる…」

急なボディタッチに焦るコン太であった…。



「ホントに楽しかったよ。…もう二度と離さないから。―――お兄ちゃん」

独り呟くユキ…。
当たり前だがそれを聞く者は誰もいなかった―――
0019 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/12(火) 09:23:06.33ID:NUBDoDxg
投下終了です。

>8
GJ!
0024名無しさん@ピンキー2013/03/13(水) 15:38:31.91ID:/iOURpYH
おっ、お兄ちゃん!?
これからの展開がますます楽しみです。
GJでした。
0026名無しさん@ピンキー2013/03/13(水) 22:08:54.80ID:iXVIbivd
>>25
VIPの糞住人がなんでこっち来るんだよ気持ち悪い
さっさと巣に帰れよ臭い
0030名無しさん@ピンキー2013/03/22(金) 18:34:06.59ID:2VujJP+d
俺だけか?
第二保管庫でクリック以外の操作が出来なくなってるの。
PageUPもPageDownもマウスのホイール操作もドラッグもできん。

読もうと思ったときに読めないとストレス溜まるな。
前スレはもう落ちてるし、ローカルに全部落しておけば良いんだろうけど
一つの圧縮ファイルに全部まとめたような物は、…無いよな?
0031名無しさん@ピンキー2013/03/23(土) 20:28:50.22ID:U+pS4frS
第二保管庫何もおかしいところはない件について
ホイールだろうがなんだろうがフツーに操作も受け付けるしな
>>30のPC側がトラブってんじゃねーの?
0032 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/23(土) 23:55:17.86ID:M60s1kHH
投下します。
0033鬼子母神6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/23(土) 23:56:35.22ID:M60s1kHH
「ここにこの公式を当てはめると…こうなるのよ」

ムギュ―――

「う、うん…」
「他の問題にも応用は出来るから―――」

ムニュムニュ―――

ユキと水族館に行ってから、一か月。
アサネのボディタッチは一層過激なモノへと昇華していた。
勉強だ何だと理由を付けては、コン太の部屋へ上がりこみこうして必要以上に胸を押し付ける…。

アサネの胸は決して小さくはない。
それは弟として一緒に成長してきたコン太にも分かっていることだ。
それを四六時中押し当てられては、意識せずにはいられない…。

しかし何故アサネがそんなことをするのか…、その理由がいまいちわからなかったのだ。



学校でもアサネはコン太と常に一緒にいたがった。
流石に、胸を押し付ける行為は人前ではやらなかったが。
休み時間になるごとに、コン太のクラスに赴き、一通り話すとチャイムが鳴る前に自分のクラスに帰っていく。
しかし、それを面白くないと思う者もいるわけだ。

「それで、キオナったら何て答えたと思う?」
「…さぁ?検討つかないや」
「あの…小泉さん、席どいて「これが傑作なの―――」

キーンコーンカーンコーン…

「あ、じゃあもう行くね」
「あ…うん」
「……コン君、最近お姉さんが良く来るけどどうかしたの?」
「いや、わからないんだよ。どうも最近アサ姉の様子が変なんだよ…。なんかゴメンね…席を勝手に…」
「ううん、気にしないで―――。あ、そういえばコン君。もうすぐ始まる文化祭のことなんだけどね」
「文化祭?」

小さな町ゆえに、この高校の文化祭は一大イベントであり、当日は町中の人間が集まり賑わうのだ。

「うちのクラスは何をやるか決まってないんだよね…」
「そっか…、王道で喫茶店とかは?」
「何の王道?―――ちょっと大変そうね…」
「駄目かな?」
「皆次第かな?あとでホ−ムルームで採決するから考えておいて」
「…うん、わかったよ。(アサ姉とユキちゃんが仲悪いのは本当なのかも…)」
0034鬼子母神6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/23(土) 23:57:46.70ID:M60s1kHH
「アサネ、最近機嫌がいいね。何かあったの?」
「ん、んふふふ…。秘密」
「なにそれー…」
「もっと早くにこうしておけばよかったなーって」
「コン太君のこと?」
「ふふふふ…」

アサネの中でコン太に対する考えに変化が起こっていた。
守るべき存在から共存する関係へと…。
少なくともアサネのなかでは―――そう思い込んでいた。

「今日の晩御飯は何にしたら喜ぶかなー?」
「………」

キオナは呆れ顔でそれを見てることしかできなかった。
いや、その裏には―――。



アサネが妄想に浸っているうちに、アサネのクラスは喫茶店を文化祭でやることが決まった。
服装は女子がバニーガールで接客する案が男子一同から提案されたが、女子と担任(女)によって阻止され、メイド風の露出が抑え目の衣装に妥協された。

ちなみに、コン太のクラスは露店での営業販売に決まった。



―――囲碁将棋部室

「というわけで、私らはメイド喫茶になったんだよね」
「へー、そうなの?うちは露店を出すよ」
「コンは料理できないでしょ」

ムギュ―――

「い、いや…調理は他の人に任せて僕は宣伝でも…」
「(機嫌がいいのはこれが理由か)コン太君はアサネのメイド姿見てみたい?」
「えっ?!」

アサ姉のメイド…。
この胸で出迎えて…、お帰りなさいませ、とか…。

「私はメイドやりたくないな。恥ずかしいし…」
「アサネはコン太君次第でしょ?で、どう?」
「…うん、見てみたい…かも…」
「ほらっ!アサネ決定ね。折角スタイルいいんだし…」
「えぇー…(まぁでもコンが言うんなら…)」
「そういえば、大久那さんはやらないの?」
「あたしは、裏で調理スタッフやらなきゃいけないのよ。こうみえても自信あるし」
「ふーん……」

コン太はキオナを見て……少し残念に思った。

ムギュゥゥゥ―――

「コン…何考えてるの?」
「えっ?!いや、別に…」
「いやらしー、コン太君…」
「そんなぁ…。―――あ、そういえば囲碁将棋部は何か出し物やらないの?」
「こんな幽霊部で何やれっていうのさ…」
0035鬼子母神6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/23(土) 23:58:46.77ID:M60s1kHH
―――文化祭まで前日
この時期は部活動が中止になり皆クラスの出し物に集中していた。

「テントは学校のやつを貸してくれるって―――」
「出すメニューと具材は―――」
「看板は今日中に仕上げろって―――」

放課後になるとそれぞれ自分の仕事に没頭し、学校中が騒がしくなっていた。
そんな中、コン太達も準備に追われていた。

「ど、どう…コン君…」
「…うん、似合ってるよ!」

ユキは露店の宣伝として当日は学校中を回らなければならない。
そのため目立つ恰好をしたのだが―――。

「が、学ランって初めて来たけど…不思議…」
「あとはハチマキを着けて、宣伝用の旗を持てば出来上がり!!」
「へ、変じゃないかな…?」
「大丈夫だよ、ユキちゃんは何着ても似合うし」
「そ、そう。嬉しいな、やっぱり…。ねぇコン君」
「うん、どうしたの?」
「文化祭終わったら、話がしたいから…何処か……。屋上!―――屋上で待ち合わせたいんだけど…」
「いいよ、じゃあ終わったら屋上ね」
「…ありがとう」
0036鬼子母神6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/23(土) 23:59:57.06ID:M60s1kHH
―――その夜
アサネはキオナからあるメールを受け取っていた。

「コン、明日の文化祭終わったらちょっと手伝ってほしいことがあるから」

ムニュ―――

「え?!…いやちょっと……」
「何?直ぐに済むからさ。文化棟の裏で待ち合わせね」

ムニュムニュムニュ―――

「(ま、まぁユキちゃんのあとでいいか…)わ、わかったよ…。でもクラスの片付けが残ってるから遅くなるかもよ?」
「しょうがないわね…。迎えにいくわ」
「(えっ?!…どうしよう)」

キオナからのメールには

『早狩さんとコン太君の仲がどうも怪しい。文化祭あたりで急接近してくるかもよ』

とあった。

それぞれの思惑が絡み秋の夜長は更けていく―――
0037 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/24(日) 00:00:52.96ID:M60s1kHH
投下終了です。
0039名無しさん@ピンキー2013/03/24(日) 12:02:52.97ID:w5Ab/N9j
乙です。
文化祭は学園ものの定番ですよね。
当日どうなるか、今から楽しみです。
0040名無しさん@ピンキー2013/03/28(木) 17:53:30.47ID:wsGHPeCt
すまん教えてくれ下さい

昔養子で引き取られてきた男を姉妹で
虐めてたけど、男に惚れて姉妹喧嘩する
作品ってなかったっけ?
0044422013/03/29(金) 15:44:22.64ID:60hWyAA5
>>40
>>43の転帰予報が正しいと思うわ
早とちった
0046名無しさん@ピンキー2013/03/30(土) 13:26:38.23ID:OpXZbAlf
おいおいwww
俺もてっきり転帰予報の方だと思ってたけど傷ってのも似た感じなのかな思って読んでみたがなんじゃこりゃ!?
こっちは姉妹で主人公に過去に危害を加えたことはないって分かってちょい安心してたのにこっちの方が全然キツイなw
でも段々読んでて苦しくなるんだけど中々内容が興味深くてレベルは高いと思ったよ。好き嫌いはわかれるかなぁ?でも名作ってそういうもんよな。
ようやく良い方向に進んでいくのかと思ったら途中で終わってたw。ここまで話を練ってるなら最後までと頼みたいところだけどそれは都合とかあるからね…。
0048名無しさん@ピンキー2013/03/30(土) 14:07:30.48ID:tfVuD2AU
転帰予報ちょっと読んでみたけど傷の方が数倍面白いと思う
面白いというより、まず文章としてのレベルが傷の方が数段上だろ
間違えるのがどうかしている
0051名無しさん@ピンキー2013/03/31(日) 05:35:15.52ID:w6tKKvjk
傷とかいうのかなり胸糞悪いなw
でもやっぱ話の道筋は結構考えられてたのかレベル高いわ。まぁそれにつっかえたから止まったのかもしれないが…。
修羅場スレとかよりはまだ望みがあると思ってはいるが難しいかな。
0053 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:14:58.03ID:xW/Ky496
投下します。
0054鬼子母神7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:16:45.30ID:xW/Ky496
「たこ焼きいかがっすかー!!」
「地元で採れた美味しい野菜を使った焼きそばあります!!」
「演劇部によるシンデレラ、間もなく第二回の公演が始まります!!」

文化祭当日。
午前9時の開会とともに町中の人間が集まってきた。
元々小さい町なのでこういったイベント事が少なく、住人にとって貴重な催しであった。

「あら、コン太君。頑張ってるわね」
「あ、叔母さん。うちのクラスの露店に寄って行ってくださいよ」
「もう行って来たわよ」

コン太の保護者である叔母も当然来ていた。おばさん軍団と共にだが…。
その彼女の手にはたこ焼きがのっていた。

同時にコン太の隣にいたユキが聞いてきた。

「ねぇ、もしかしてコン君の…」
「うん、そうだよ」
「初めまして!!コンく…じゃなくて、小泉君のクラスメイトの早狩ユキといいます!!」
「初めまして。あなたのことはよくコン太君から聞いてるわ」
「え?!そ、そうですか…」

急に顔を赤くして俯くユキ。

「ほら、何してるの?行くわよ!!」

「えぇ、ちょっと待ってちょうだい。…ごめんなさいね、もう行かなきゃ」
「いえ。構いませんよ。―――あ、アサ姉のクラスも喫茶店をやってるんで是非!!」
「わかったわ。…早狩さん、その恰好似合うわね〜。モデルさんとか向いてるかもね」
「え…あ、ありがとうございます……」
「それじゃあね」

おばさん軍団に急かされて、その場を後にする叔母であった。

「似合ってるっていうのは嬉しいけど…でもちょっと複雑」
「そんなことないよ。ユキちゃんカッコいいよ」

ユキはさらに複雑な心境だった。
自身の恰好が学ランを着た男装コスプレであったからだ。

「(もしかしてコン君はこういうのが趣味?)」
「ん、どうしたのユキちゃん?」
「―――んーん、何も!!」
「?―――あ!ほら、校内を周らなきゃ。宣伝にならないよ」
0055鬼子母神7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:17:54.03ID:xW/Ky496
「い、いらっしゃいませ〜…」
「まぁ!!アサネちゃん。可愛いわね〜」
「お、叔母さん?!!」

コン太の勧め通り、アサネのクラスを訪れる叔母。
普段とは違ったメイドの恰好をしているアサネに興奮しているようだ。
対照的にアサネは恥ずかしさで頭が茹で上がったようになってしまった。

「あら、小泉さんとこのお子さん?」
「よく似合うわね〜」
「ほんと、アイドルも務まるんじゃないかしら?」

実はこの文化祭は生徒達にとってはある意味地獄であった。
このように、普段見れない子供達の様子を親が観賞し、それぞれの子の品評会なるものが始まるからだ。

「ご、ご注文は何にしましょうか………」

アサネは蒸発したくなる気持ちを抑えて、仕事に没頭することしかできなかった。



「そういえばコン君、叔父さんは?」
「ああ、叔父さんは仕事が忙しくてなかなか帰ってこれないんだよ」
「―――大変だね」
「うん、でも叔父さん叔母さんには本当に感謝してるんだよ。でなきゃこうして学生として生きていなかっただろうし」
「…ごめんなさい、辛いこと思い出させちゃって…」
「気にしないで、それにユキちゃんとも出会えたわけだし」
「え?!」
「あ…?!」

不意に自分が何を言ったかわからず、それに気づいたときは手遅れで、お互い顔をそらし赤くなるばかりだった…。

「そ、そろそろ交代の時間じゃない?」
「あ、そ、そうだね。私着替えてくるよ。友達と見て周る約束もあったから…」
「うん、行ってらっしゃい…」

そういってユキを見送るコン太。
さて、次の仕事までどうやって時間をつぶそうか?
コン太は考えあぐねていた。

一方のユキも友達との約束などなかった。
今はコン太と距離を置き、心を落ち着かせたかった…。
0056鬼子母神7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:18:57.96ID:xW/Ky496
「ぷぷっ…どうしたのアサネ?」
「あんた、わざと聞いてるの…?」
「い、いや別に…ぷっ!…でも照れるアサネは可愛かったなぁ〜」
「!!」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい。ほ、ほら!!お客さん!!」
「…覚えてなさい―――いらっしゃいませ〜ってコン?!!」
「お、アサ姉、似合ってるよ♪」
「コン太君、どうよ、このきゃわいいアサネ♪」
「あんた〜…」
「きゃわいいって…。いやでも実際可愛いよアサ姉」
「ほ、本当?」
「うん、新鮮でいい感じ」
「いい感じ……。ふふ、ご注文は何にしますか?」
「おっと、そうだね…イタリアンスパゲティを。あとアイスコーヒー」
「かしこまりました♪」
「よし、腕を振るってご馳走を作りますか!!」

料理は、キオナの自信ありげの台詞通り、美味かった。
時折、キオナがアサネを弄り回し、それに笑いが続いた―――。



―――昼過ぎ。
午後三時くらいになると人も減り閑散とした雰囲気が漂い始めた。

「ふぅ…」

コン太は昼までがクラスの仕事で、昼過ぎからは自由行動が出来た。
しかしユキもいなく、アサネも仕事を抜けることが出来なかったので一人ぶらぶらして周ることしかできなかった。
そして、とうとう疲れ果て階段に座り込み無想するに至った。

―――ブーンブーンブーン―――

「ん、メール?」

差出人はキオナから、手が空いたので一緒に周らないかという誘いだった。
待ち合わせ場所はお馴染みの囲碁将棋部室。
コン太は了承の返信をし、向かうことにした。

―――このときのコン太の行動を責められる者はいない…。
むしろ、コン太から離れて別行動をしたユキに非があるといってよいだろう。
もし、ユキが傍にいたら…結末は違うものになったはずである。
0057鬼子母神7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:20:02.81ID:xW/Ky496
クラスの催しものをやっている教室棟からは少し離れた場所。
そこで、ユキとアサネが対峙していた。
仕事を終えたアサネが初めてユキにコンタクトを取り、ここまで連れてきたのだ。

「あの…小泉さん?話というのは…?」

恐る恐る聞くユキ。
今までの対応を見ていれば、警戒して当然だろう。

「いえね、コンのことでちょっと…」
「はい…」
「あの子を引っ掻き回すのは止めにしてくれないかしら?」
「?!―――どういう意味です?」
「言った通りよ、コンは正直、迷惑がってるわ」
「そ、そんなこと!!」
「毎日毎日引っ付かれて…うんざりしてるって…」
「…コ…小泉君がそう言ったんですか?」
「―――ええ、そうよ」

無論、コン太がそんなことを言うはずがなかった。
アサネのでっち上げである。
この行動の裏にはアサネ自身の焦りがあった。
キオナから毎日のように、コン太とユキの状況を聞き、その不安感は煽られていった。
そこに昨日のキオナからのメールである。
今のアサネには正常な考えができない状態であった。
ただ、ユキを危険と考え、コン太から離れさせようとした結果の行動である。

「そんなの…嘘です!!コン君はいつも笑ってくれて!!」
「社交辞令に決まってるでしょ?全く発情して周りも見えないのかしら…」
「!!!―――この!!」

そこからは取っ組み合いの喧嘩になった。
止める人間がいないため、それは激しさを増した。
0058鬼子母神7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:21:23.72ID:xW/Ky496
―――ガラガラガラ

「大久那さん?」
「ああ、コン太君。いらっしゃい」
「あれ?てっきりアサ姉も一緒だと…。何処に行ったの?」
「―――アサネはまだ忙しくて抜けられないのよ」
「なるほど…、確かにあのアサ姉なら人気が出そうだね」

キオナは“アサネ”という単語が出る度に不機嫌さを増した。

「っ!!―――ねぇ、コン太君?」
「うん?」

不意にキオナと目が合い、そのまま―――

キイイィィィィィ――――――

「………?!」

ドサッ!

コン太は身体の力が抜け、床に倒れこみそうになった。
かろうじて、キオナが支えてくれたので胡坐で座る形になったが―――

「どう?動けないでしょ。でも安心して―――悪いようにはシナイカラ……」
「なに…?」

コン太は身体どころか息も絶え絶えになり、声もか細くなった。
まるで、水に溺れるような…でも呼吸はなんとかできる、そんな状態だ。

「ずっと―――ずっとこの機会を待ってたの。コン太君…いえ、“コン兄さん”」

にいさん―――?

コン太は混乱していた。
自分の肉親は今やアサネだけのはずだから…。
妹の存在など聞いたこともない。
0059鬼子母神7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:23:13.74ID:xW/Ky496
「―――色々あるでしょうけど、今は、今だけは私のお願いを聞いて…。やっと…会えたんだから」

涙を流しながら語るキオナ。
それを見て、コン太は頷くことにした。

「ありがとう…兄さん。ん―――」

―――?!

今、何をされたのか?

「私のファーストキス、兄さんにあげたよ。兄さんは初めて?」

またも頷くコン太。
身体から抵抗する力が抜けていった―――。

「ふふふっ。嬉しいな―――こっちも初めてだよね?」

そう言ってコン太の股間に手を伸ばす。
少し撫でられただけで、みるみるうちに大きくなっていった。

「待ってて。今、楽にしてあげるから」

学生ズボン、それにボクサーブリーフを下ろし、露わになる怒張。

「?!!―――は、初めて見るけど…すごいのね…」

手を竿の部分に触れさせ、上下に動かすキオナ。

――――――!!!

コン太の身体に快感が稲妻のように駆け巡る。

「気持ちいいんだね?兄さんのことならわかるよ…」

怒張の先からは汁がだらしなく垂れてきていた。
0060鬼子母神7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:24:29.14ID:xW/Ky496
「ふうふう、―――あむぅん」

ビクビクビク!!!

さっきのを上回る快感が洪水となって押し寄せる。
コン太は身体を振るわせつつも、声にならない悲鳴を上げていた。

「ん、んむうぅ」

ぢゅるるるぅぅぅ―――
ちゅじゅうう―――
ぐちゅる―――

「うんむ、おん、ふうん…」

ビクゥゥゥ!
ドプドプドプ!!!!

遂に堪えきれなくなり、キオナの口内に白濁を流し込むコン太。

「?!!んんんぅ?!―――ん…んぐぅ」

あまりの量に息ができなくなるキオナ。
しかし、一滴も逃すまいと喉を動かし飲み込む。

ごく、ごくごく―――ごく……ちゅうぅぅぅ…

「っぷはぁぁぁ……、凄い量だったね…溜まってたみたいだね」

――――――

既に反応も薄くなるコン太。

「でもまだ元気だね、もっと気持ちいいことしよっか?」

狂った宴は始まったばかりだ……。
0061 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/03/31(日) 10:25:02.02ID:xW/Ky496
投下終了です。
0062名無しさん@ピンキー2013/03/31(日) 11:26:12.38ID:24wyBifv
あれ?前ユキも兄さんみたいなこと言ってなかったけ?
まぁ妹が多いことはええことやな(至言)
面白いのでフラグ回収が無事にされることを願っています。
0063名無しさん@ピンキー2013/03/31(日) 20:45:36.25ID:+8Bc2GJc
しかし白々しい擬音と意味のないセリフを除いたら、何にも残らないスカスカの作品だな
いや、これを作品と読んでいいのならの話だけど……
0065名無しさん@ピンキー2013/04/01(月) 06:34:35.39ID:WLncKEm+
>>61
真相に入るのはまだかかりそうかな
ぜひとも完走してくれ!!お願いします><
0068広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/04/30(火) 14:09:33.32ID:5Sq8cLbp
ご無沙汰しております。
「あなたがいないなら何もいらない 第6話 龍虎相対する」
投下させていただきます。
0069あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/04/30(火) 14:10:54.18ID:5Sq8cLbp
 街から目を離した操が、清次に向いて問いを発する。
「ところで、どこに着陸するんだ。
 新木場の東京ヘリポートか、それとも八雲製薬のヘリポートか?」
「いや、二雀銀行に借りた」
「どうしてわざわざそんなことを?」
「まあ、すぐに判るさ」
 ベル230が、二雀帝都ABE銀行本店のヘリパッドに、翼を休めようとするかの様に吸い込まれていったのはそれからすぐのことである。



 操と清次、赤城が正門から出ると、そこには既に一人の女性が待っていた。
 半川翼。紛れもない半川操の実の姉である。
 ロングヘアをハーフアップにして、ライトグリーンのシルクサテンワンピースに身を包んでいる。
 腰背部には結び目のある黒いリボンをあしらっており、いかにも上品な感じが滲み出ている。
 傍らには、操に名古屋行きの切符を手配した先の老執事も伴っていた。
「操!」
 弟の姿を認めるが早いか、彼女は駆け寄って抱きしめた。
「良かった、良かった……」
「姉貴、……落ち着いて」
 彼女の腕の力がようやく緩んだ。
「勝手に抜け出して、そのまま戻ってこないんだもの。心配したのよ」
「亜由美が、死んだんです。何をおいても行きますよ」
「ふうん」
 と、少しの間を置いて、彼女は言葉を継いだ。
「まあ、そんなことはいいわ。そこにリモを停めてあるの。一緒に帰りましょう」
「待ってください」
 そのやり取りに、清次は思わず呼び止めた。
「何かしら、清次さん」
 呼び止めてから、何と続けようかと思案を差し挟まなければならなかったが、何とか続く言葉を捻り出すことができた。
「俺と赤城――ここにいる俺の秘書です――も便乗させてもらえませんか」
 即興の提案にしてはまあマシなものか、と思い、彼は相手の表情を眺めた。
(どの道、翼さんとも話をしておかなきゃいけないだろうしな)
 声をかけられた彼女はというと、顎に手を当て、考える素振りをしていた。
「東京まで操をヘリに乗せたんだから、俺らもその位いいじゃないですか」
 自分から帰路を共にすることを誘ったことは伏せ、それを交渉材料として相手に使う。
 ややあって、彼女は首を縦に振った。
「ええ、わかったわ。それでは、こちらにどうぞ」
 一行は停車していたストレッチリムジンに乗り込んだ。
0070広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/04/30(火) 14:18:51.06ID:5Sq8cLbp
 シートに着いた清次がロメオ・イ・フリエタを取り出そうとした時、翼がそれを制して言った。
「吸わないでくださいな」
 不満げにではあるが、彼は手にしたシガーを懐に戻した。
「じゃあ、ロックを」
「わかりましたわ」
 そう聞き、彼女はアイストングを手にしてバカラのタンブラーに氷を入れる。
「私がやります」
 執事の青柳が止めようとしたが、彼女は構わずに続けた。
「いいの」
 青いスコッチの瓶を手にして、そのラベルを清次に見せる。
「ジョニ青でよかったかしら」
「ええ、結構ですよ」
「操もどう?」
 操は一瞬考え、そして頷いた。
「ああ、じゃあ俺も貰います」
「翼さんに手ずから作っていただけるなんて光栄だなあ」
「こちらこそ、清次さんのような大物にお酌するなんて光栄ですわ」
 そう社交辞令を交わしながら、彼女は杯を清次らに渡していく。
「おい運ちゃん、お前さんも貰えや……、ってあれ、ああ、リモだからパーティション(間仕切り)があるわけか、残念」
「何普通に飲酒運転を教唆してるんだ」
「運転席が仕切られていることがこんなことで役に立つなんて思わなかったわ」
 さすがに見かねた半川姉弟が諌める。
「悪い悪い。ついつい人に酒を勧めたがる性質で」
「アルハラで訴えられないように気を付けることね」
「へいへい、注意しますよ」
 軽く手を振って彼は応じた。
「それでは、乾杯」
 ぐっ、と呷り、清次はどう切り出そうか考えあぐねていた。
 すると、話し始めたのは翼のほうであった。
「どうかしら、最近は」
「まあ上手くやってますよ」
「ご家族は?」
 彼の口元が僅かに左に歪む。
「ご家族、ですか?」
 一応は隠そうとしているものの、清次の苛立ちは、その声に表れている。
「ええ、ご両親。それに、三陽くんと美月ちゃん」
「相変わらずですよ。
 知らないわけじゃないでしょう?」
「お気にはなさらないのですか?」
「この前の日産連(日本産業連盟の略。財界三団体の一つ)の晩餐会でも言いましたか。
 何度でも言いますよ、近親相姦というのは畜生の所業です。
 俺はあんな連中とは違います」
「あんな、ってご両親やご弟妹のことですか」
「そうですよ。
 いいですか、この社会には、人工の法律、即ち私たちが一般に呼ぶ法律――憲法とか刑法とか民法とか金融商品取引法とか、そういうウザったい法律のことです――とは違う、天然の法律とも言うべき、人間が生き抜く知恵として無意識に制定してきた自然のルールがあるのです。
 そうしたものに逆らえば、単純に法律を犯すことより重い咎を負わなければならないのです。
 その二つの法は、全てが全て違う内容ではありませんが、人工の法律で禁じられていなくても、天然の法律で禁じられていることは間々あります。その逆もまた然り。
 英語で言えば、その人工の法律がクライム(crime)で、天然の法律がシン(sin)です。
 俺はクライムはともかくシンにコミットすることはありません」
「今はそう思っていても、先々のことはわからないじゃないですか」
「あの妹は弟にべた惚れですからそれはないですよ。
 縦しんばそんなことがあるとしても、俺は自分の身の守り方くらい心得ています」
 それを聞いて、彼女は由ありげに微笑した。
「ふふっ、ならいいわ。
 面白おかしく見守らせてもらいます」
「ええ、いい見世物になってみせますよ。
 ある種の政治家や億万長者というものは、コロッセオで戦うグラディアトルのようなものです。
 俺はそういう類の人間ですから、死を厭うことはないのですがね……、彼女は気の毒でした」
 さすがに気を落としたと見えて、この時彼の声の調子も少しだけ落ち込んだ。
0071広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/04/30(火) 14:22:02.59ID:5Sq8cLbp
「篠崎さんのことですね?」
「そうです」
 我が意を得たりと肯く。
「あの人が、どうかしたのですか」
「篠崎は死ぬつもりはなかった、これは俺と操の共通の見解です。
 なあ、そうだよな、操」
 操の方を向くと、彼は既に眠っていた。
「操?」
「寝かせておいてください。お酒も入っていますし、それに疲れもあるのでしょう」
 彼女は操の頬をそっと撫でる。
「そうですね」
「それで、篠崎さんは自殺されたのではないのですね」
「ええ、そうとしか考えようがありません。
 昔のCMじゃないですが、『良かった、自殺した娘(こ)はいないんだ』ってところですかね」
 ジョニーウォーカーの残るグラスをかざし、話を道草の種にする。
「まあ、誰がそんな恐ろしいことをなさったのかしら」
 彼女は、眉を顰めた。
「それはまだわかりませんよ。一つ言えるのは、彼女と生前親しかった我々は、潜在的な容疑がかかり得るということです」
「『我々』というのは、清次さんと、どなたですか」
「操」
 そういって清次が操を指差す。
 途端に、翼は烈火の如く怒りはじめた。
「操がそんなことするわけないじゃない! あなた、ふざけてるの!?」
 いきなり憤りはじめた彼女のあまりの剣幕に驚きながらも、彼はなだめにかかる。
「まあまあ、俺もそう思いますよ。でもね、少なくともソーメン(逮捕)まではポリ(警察)の疑いの目は彼女の周りにいた皆にかかり続けるということです」
「警察が結果を出すまでは、ということね」
「そうです。取り敢えずは木っ端役人のお手並み拝見、といったところですかね。
 俺や翼さんならもっと早くホシ(犯人)を挙げられると思いますがね」
「私が?」
「鮮やかだったじゃないですか? 誰に聞いたんです、俺らが八雲製薬の名古屋支社にいたなんて」
「大体予測はつくじゃない。
 あなたもパーティーから抜け出したと伺っていましたからね」
「それだけじゃないでしょ。何で二雀ABEに場所を借りたって知ってるんですか」
 痛いところを突かれたと見えて、それから些少の沈黙があった。
 それから、彼女は、ウインクし、それからばつが悪そうに話した。
「国交省の管制官に聞いたわ」
 本当は守秘義務違反なんでしょうけどね、と悪戯っぽく笑む。
「ほら、あなたも中々の悪じゃないですか」

 悪と形容しつつ、その笑顔の優雅さに感心していた。
(気品の良さは親父譲りかな)
 とはいえ、清次は翼には食指が動かなかった。
 女とみればすぐに興味を示し、まして美女とみれば見境なしの彼だが、なぜか彼女に対しては「その気」にならなかった。
 友人の姉だからというわけではない。そうではなく、得体のしれない、彼の中に存在する感覚によるものだった。
 彼はそれを「完璧な美に対して人類が普遍的にもつ恐怖心」、平たく言えば「恐ろしいくらいに美しい」ということだろうとしたが、その結論は自分でも胸に落ちるものではなかった。

「そうかもね。でも、あなたほどじゃないわ」
「その通りです。俺は三国人並の、もとい、三国一の悪といっていいでしょうな。
 そして、悪を締めるには悪が一番なんですよ」
「毒を以て毒を制すということね」
「正にその通りです。では、この話はいずれまた」
「ええ、機会があればまたお会いしましょう」
 そうまで言った時、車は八雲邸の前で停まった。
「おお、いい塩梅に家に着いた。
 じゃあまた、操、学校で会おう」
 と、眠りこけたままの操に挨拶する。
「翼さん、それでは失礼」
「それでは清次さん、御機嫌よう」
 赤城を従え、リンカーンを降り立った清次は、柄にもなく彼らが消えるまでずっと見送っていた。
0072広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/04/30(火) 14:23:20.44ID:5Sq8cLbp
 半川邸に着いても、操はまだ眠っていた。
「お坊ちゃ……」
 起こそうとした青柳を翼が止めた。
「起こさないで、私がそのままベッドに運ぶわ」
「承知しました」
 彼女は眠ったままの操をお姫様抱っこで抱え上げ、彼の自室まで連れて行く。
 そのまま、静かな寝息を立てる彼をベッドに寝かせる。
「着替えさせなきゃね」
 脇にパジャマと替えの下着を用意し、服を脱がせる。
 間もなく、彼はボクサーブリーフ一枚になった。
 そこで、彼女は一旦手を止め、操の上に覆い被さる。
「ふふっ、操……」
 彼女は胸板に頭を擦り付けていた。
 気が済むと、今度は全身を嘗めるように彼の肌を観察し始めた。
「ふぅ」
 ややあって、彼女は安堵したように溜息を吐く。
「あの淫売は、操にキスマークをつけたりは、してないようね」
 いつの間にか、寝息も聞こえなくなっていた。
「あ、早く着替えさせなくちゃね」
 パンツに手をかけ、秘所もまた晒された状態になった。
「ああ、これが……」
 彼女にとって操の体はありとあらゆる箇所が尊いものであるが、その中でもここは見るたびに、悦びを覚える部位である。
 縮こまった陽根に、これまた頬擦りする。
「操、これを、お姉ちゃんに頂戴。
 あの泥棒猫のことは、許してあげるから……」
 勃起していないそれは、今この場で肉体的充足を与えられるものではなかったが、それでも彼女には生半可ではない精神的な満足を与えていた。
「着替えさせなくちゃ」
 返事のない操を寝巻に着替えさせ、掛け布団をかける。
「お姉ちゃんを抱いてくれるのを、待ってるからね」
 頬を撫で、彼女は部屋を後にした。
0073広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/04/30(火) 14:24:36.41ID:5Sq8cLbp
 操は、夢を見ていた。
 亜由美と並んで歩いていた。
「期末どうしよう〜。世界史とか全然自信ないよ」
「どうせ亜由美はヤマを張るつもりでいるんだろ。小野里は満遍なく出すからヤマ勘は通用しないぞ」
「えー、どうしよう。赤点なんか嫌だよ」
「じゃあ、俺と一緒に勉強するか?」
「そんなこと言って、また保健の実技を勉強するの?」
 他愛もない話で盛り上がる、普段通りの(だった)光景。
「ね、ね、ゲーセンでQMAやろうよ! 試験勉強に入る前に一度思いっ切り遊ぼう!」
「お前、言ったそばから……」
 そこに、いきなり、虎が現れた。
「!」
「ミ、ミィくん……」
「あ、亜由美、逃げろ。いいから、俺はいいから!」
 しかし、虎は真っ直ぐ亜由美に飛び掛かり、彼女を食い殺していく。
「ミィくん、逃……、げ……」
 程なく、彼女は事切れてしまった。
 自分も牙にかかるのを覚悟の上で、彼はその虎に飛び掛かろうとする。
「畜生、この人食い虎!」
 が、その刹那、一匹の龍が現れ、彼を乗せて空を走り出した。
(おい、小僧。あいつに殺されるつもりだったのか?)
 脳内に直接響く声。操もまた、声を発することなく言葉を返していた。
(そうだ。あの獣に恋人を殺されたんだ)
(そうか、ならそいつの所に連れて行ってやろうか?)
(知っているのか?)
(ああ、知っているとも。しっかり掴まってろよ!)
 そうして、空高く翔け上がり、やがて、雲の上に到着した。
 果たしてそこには、亜由美がいた。
「ミィ、くん?」
「亜由美!」
 夢であると理解していたのか、それとも理解していなかったのか、操は、起き抜けると自分の彼女が待っていると思い、おもむろに目を覚ました。
0077名無しさん@ピンキー2013/05/06(月) 15:39:01.43ID:bAwoxVtt
こいつはやっぱり風見だよ
あのヤンデレスレを壊滅に追いやった風見先生に違いないわw
0081 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/23(木) 10:27:26.10ID:jIkJQDFE
規制解除されました。
鬼子母神8話、9話、10話は避難所に投下してましたが
こちらにも投下したほうがいいですか?
0083名無しさん@ピンキー2013/05/25(土) 20:36:35.61ID:8sM/cQvP
本当は避難所にもイラネ
昔みたいに面白い作品はもうここでは読めないのか……
0085 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/26(日) 23:35:12.57ID:4cbiI+PL
投下します。
0086鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/26(日) 23:36:10.66ID:4cbiI+PL
「小泉アサネの意識が回復しました。しかし、事件の精神的ショックにより、幼児退行…一時的な精神疾患に陥っており、聴取は未だ難しい状況です」
「…大久那キオナの方は?」
「そちらも昏睡状態が続いています。回復の見込みは不明―――とのこと」
「―――んー…」

隣町の警察署の刑事課。
初老の刑事が現状を淡々と報告していた。
それを聞いている相手は少々疲れ気味のようだ…。

「二人の携帯電話は校内の焼却炉で発見されました。
内部にまで損傷が達していることから、データの復元は困難です。
ですが、電話会社の記録によれば、大久那キオナが小泉アサネにメールを送信しているのは確認済みです」
「そして弟である小泉コン太にも送信している…。そのことは聴取で分かっているが…、一体何の目的があったか…だな」
「―――課長、実は一人、気になる人物が浮かび上りました」

課長と呼ばれた人物は睨めていた書類から顔を上げた。

「誰だ?」
「早狩ユキという女子生徒です。彼女は小泉コン太と親交があります。そして、事件当日に焼却炉付近で何人かの生徒に目撃されています」
「そいつは…臭うな…。よし、任意同行で引っ張ってこい!」
「了解!!」
「必ず尻尾を掴んでみせろ!!」

事件発生から一週間。
警察も動きつつあった。



「コン君!見て!!私達の町があんなに小さいよ!!!」
「ほんと!ほら、アサ姉!!」
「………たかいとこ、いや…。コン、おうちかえろ?」
「来たばっかだよ…、アサ姉」
「ゴメン、やっぱり迷惑だったかな…」
「ううん、嬉しいよ!―――アサ姉の気分転換にもなれば良かったんだけど…」

コン太とアサネは町から外れた小山に来ていた。
ユキが二人を誘ったのだ。

「この辺は小さい頃、よく遊んだから懐かしいよ」
「ピクニックにはちょうどいい場所だね」
「春や夏もいいけど…冬の山も乙なものよ」
「コン、はやくかえろ」
「アサ姉…」
「あんまり無理させちゃいけないよね…。早めに病院に帰りましょ」
「そうだね、しかし外出許可を出してくれるとは思わなかったよ」

山の天気は変わりやすい…。
さっきまで晴天だったのに、もう雲が広がり始めていた―――。
0087鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/26(日) 23:37:18.29ID:4cbiI+PL
「早狩ユキは見つかったか?」
『いえ、まだです。自宅にも行きましたがもぬけの殻でした。今は一人張り込みにつかせてます』
「早狩ユキの親は?」
『そっちも捜索中です』
「新しい変化があればまた連絡をくれ」
『了解』

初老の刑事は無線で部下とやりとりしていた。
その彼は、今、町の役場に来ていた。
早狩ユキの戸籍について調べにきたのだ。

「―――父親は離婚…、母親と二人暮らし………」

ユキの情報について調べる刑事。

「父親の名前は小泉―――小泉?!…たしかあの二人も小泉だったな…」

さらに読み進めると―――

「早狩…キオナ…?」

早狩ユキの双子の妹、とあった―――。



ゴオオオォォォォ――――

「…外は凄い雪だよ。これじゃ下山は難しいね」
「でも山小屋に辿り着けて助かったね。最悪、ここで一晩泊まることになるかな…」
「すー、すー」

どうやらアサネは疲れて眠ってしまったようだ。
その横で、暖炉に薪をくべるユキ。
手慣れた様子にコン太は驚いていた。

「暖炉とか使った経験あるの?」
「言ったでしょ、昔はよく遊んだって」
「あぁ、なるほど…」

考えてみればユキのことを何も知らないコン太だった。
親はどういう人なのか…、彼女がどういう風に育ったか…。

「―――気になる?」
「え?」
「私のこと」

どうも表情に出ていたようだ。

「私はね、母子家庭で育ったの。コン君とは反対だね。…母様は私を育てる為に色々苦労したみたい。でもお金はそれなりにあったからなんとかやっていけたの」

暖炉の明かりに包まれながら、ユキは自身のことについて話し始めた。
それはコン太には、とても…幻想的に映った。
0088鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/26(日) 23:38:17.46ID:4cbiI+PL
「小泉アサネが病院から消えただと?!」
『はい、医師が回診に来た時にいないのを発見したそうで』
「連れ出した人物はわかってるのか?」
『看護師達は誰も見ていないというんですが、防犯カメラに早狩ユキと小泉コン太の姿が映ってます。はっきり正面玄関から出ていくところも確認済みです』
「なんでそれで誰も気づかないんだ?!!」
『まだ事実確認中なので、はっきりしません』
「三人を探せ、大至急だ!!」
『了解』

初老の刑事にはある予感があった。とても悪い予感。
幾多の事件で研ぎ澄まされたそれは、外れて欲しいときによく当たったのだ。
そして今回も…。

「やめてくれよ、本当に…」



「そして今年の梅雨ぐらいに、母様は何処かに行ってしまった」
「一体何処に?」
「さぁ?…でもきっと幸せなところじゃないかしら。
最期に私に、思い人のところに行くって出掛けて行ったわ」
「その人って…」
「コン君もよく知ってるはず」
「え?!」
「梅雨頃に何があったか…、覚えていないの?」

梅雨…。
忘れるはずがない…。
コン太、そしてアサネにとって生涯を変えてしまう事件、彼らの父親が遭難死してしまった時だった…。

「母様は…、恐らく山でその人と永遠に一緒になったんじゃないかしら…」
「?!!」
「あなたのお父さんと…。わかるでしょ?お兄ちゃん」
「お、にいちゃん…?」
「キオナから何も聞いてないの?…あぁそうか、私がおしおきしたから喋る機会はなかったのね」
「…どういう意味だ?」
「あの子がお兄ちゃんに手を出したからよ。もっとも私の話は聞かなかったでしょうけど…」
「もしかして、キオナに…」
「そうよ、私がやったの。お兄ちゃんの…いや、私達のお姉ちゃんがいたのは計算外だったけどね。急所は外してあげたから、死ぬことはないわ、安心して」

オレンジ色の炎の光を受け、笑みを浮かべるユキは美しかった…。
0089鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/26(日) 23:41:01.09ID:4cbiI+PL
「な、何を…言って」
「だから、私もキオナもお兄ちゃんも、そしてそこで寝てるアサ姉ちゃんも兄弟なのよ」
「?!!!」
「そんなに意外だった?」
「だって!…キオナは苗字が…」
「あの子はね、可哀想な子なの。幼い頃に山で両親が死んで…、それを母様が引き取ったの」
「じゃあ、なんで…」
「戸籍上は早狩キオナ、でも彼女は自分の苗字を…彼女の先祖達の生きた証を捨てたくはなかったのよ」

そういうユキの顔には深い悲しみが浮かんでいた…。
大きなものを背負ってるかのような―――

「もう一つ、お兄ちゃんに伝えたいことがあるの。信じられないかもしれないけど…私の母様やキオナは―――」

雪女、なのよ。

ユキはそう語った。
0090鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/26(日) 23:41:58.09ID:4cbiI+PL
「―――雪女?そんな…」
「おかしいと思うでしょ?でも本当なの。私達の一族はこの地方でひっそりと暮らしていたわ。でも人間の山狩りに遭って人数もどんどん減っていったわ…」
「………」
「母様とキオナがその最後の生き残り。そして、私とあなた達は雪女と人間のハーフなのよ」
「僕と、アサ姉も…」
「風邪を引かなかったり、雪が恋しくなったりするでしょ?それが私達にも雪女の血が流れてるの証拠なの。母様はこうも言っていた、一族の血を絶やさないために…、私達が何とかするしかないって」
「どうするの?」
「―――子供を作るのよ。私と、お兄ちゃんで」
「?!―――そんなこと出来るわけないじゃないか!!」
「でもお兄ちゃんはキオナと何回もセックスしたでしょ?」
「っ!―――」
「キオナもそうなのよ。だからあの子を殺すことは出来なかった…。その気持ちは痛いほどわかるもの。それに―――お兄ちゃん達はこの地に戻ってきた」
「それが何の関係が―――」
「運命よ。巡り巡って―――私達は結ばれるべくしてここにいるのよ。でなければ出会うことはなかったわ」

運命…。
コン太にはあまりにも信じられない話の連続だった。
二人の妹、母親は雪女、子供を作る―――。

「だから…私も…」

キイィィィィ―――

「?!!」
「身体が動かないでしょ。私は特に血が濃いから怪異の力…眼力も使えるの、当然キオナもね」
「(学園祭の日―――キオナが使ったのはこれだったのか…)」

コン太は的外れな考えを巡らせていた。

「病院から抜け出すにも使ったわ。お姉ちゃんも必要だったから。でも母様は決して悪事にこの力を使うなって言ってたわ。一族の誇りを穢すことになるから…」

ユキは笑っていた…。
やっと捕まえた…、彼女の目がそう物語っていた―――。
0091 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/05/26(日) 23:42:38.14ID:4cbiI+PL
投下終了です。
0093広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/06/05(水) 14:14:50.71ID:DpPl31m1
>>91
GJです。
よもや雪女とは想像もしていませんでした。
姉妹みんないい感じにキモいですね。

これから第7話を投下します。
ですがその前に、前回の投下について、てにをはの訂正を入れさせていただきます。

>>69
(正)腰背部に結び目のある黒いリボンをあしらっており、いかにも上品な感じが滲み出ている。
(誤)腰背部には結び目のある黒いリボンをあしらっており、いかにも上品な感じが滲み出ている。

>>71
(正)ジョニーウォーカーの残るグラスをかざし、話の道草の種にする。
(誤)ジョニーウォーカーの残るグラスをかざし、話を道草の種にする。

となります。

それでは、「あなたがいないなら何もいらない 第7話 酔余と悲憤と」投下させていただきます。
0094あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/06/05(水) 14:15:34.52ID:DpPl31m1
 まだ空も明るくなっていない彼誰時(かわたれどき)、清次は酒の酔いによる短い眠りから醒めた。
 翼から馳走になったジョニーウォーカーだけでは足りなかったのか、彼は自室に戻ってからロイヤルハウスホールドを呷っていたのである。
 だが、疲れもあって、やがて寝込み、起きた時には氷がすっかり融けていた(彼は、ウィスキーはオンザロックにするのを好んでいる)。
 酒が勿体ない――彼は金持ちの御曹司らしくない、しみったれた根性を持ち合わせていた――と、すっかりぬるくなり、薄まったRHHをちびりちびりと口の中に運び始める。
 そうこうしていると、充電器に差し込んでいたBlackBerryが「月光花」を奏ではじめた。操からの着信である。
「八雲清次です」
『キヨ、俺だ。操だ』
「どうしたんだ、こんな朝早くから?」
『いや、昨日は俺はすぐ寝てしまったから。姉貴は何て言ってたかと思って』
「その話は、今日、授業が終わってからしよう」
『ああ、わかった。
 ……それとだな、夢を見てなあ』
 懐かしむような、揶揄うような口調で、清次は応じた。
「あれだろ、篠崎が出てきたんだろ」
『ああ。それだけじゃなくて、お前も出てた。
 声はキヨだったんだけど、姿は龍でな』
「龍か。確かに干支は辰年だが、むしろトラだと思うがな。
 帰ってからも飲んでたしな」
 冗句を口にしつつ、それに自分で苦笑いした。
 親友を電話越しに相手にしながら、水っぽくなった酒をなおも口にする。
『亜由美が虎に一度食い殺されて、その後で俺を乗せて雲の上にいる亜由美の所に連れて行ってくれたんだ』
「そうか……」
 沈黙することしばし、ようよう清次は返事を続けられた。
「まあ、しばらくは夢を見るごとに篠崎との逢瀬を楽しむといい。
 だが、また会いたいからって二度寝するなよ」
『わかってる』
「学校で会うのを楽しみにしてる」
『じゃあ、また』
 会話を終えてから、彼はグラスに残っていたそれを不味そうに飲み干した。
「まずいな。実にまずい」



 通話を済ませ、電話を切ると、フットマンが扉をノックし、操を迎えにきた。
「お坊ちゃま、朝餉の用意ができました。食堂にお越しください」
「わかった。すぐ行く」
 相槌を打ち、パジャマを制服に着替え、部屋を後にした。



 人が、それも自分の恋人が殺された直後だけあって、今日の彼は朝食の席では本当に無口であった。
「会社のことも早く手綱を握っておく必要があるし……」
 代わりに、今朝は翼が饒舌だった。
(こういう時に脂っこい食事は堪えるな)
 操は厚切りのパンチェッタを胃の中に押し込みながら――彼はずっと食欲が皆無に近い状態だった――、適当に聞き流そうとして、
「……それで、明日は会社の方の用事で学校を休むから、一緒に登下校できないの」
 危うくその一言を捉えた。
「今日は?」
「いつも通りよ」
 いつも通り、つまりは翼のリムジンで、一緒に登校し、そして一緒に下校する、この二人にとっての当然の習慣。
「本当は操と一緒にいたいんだけど、ごめんなさいね」
 あとは彼女がまた止め処なく話し続ける。
「でもこれから操と二人三脚で仕事をしていくなんて本当に想像しただけでわくわくしちゃう。……」
 彼もまた黙々とフォークを動かし、口にミラノ風リゾットを運んだが、サフランもブイヨンもオリーブオイルも、バターや塩胡椒の味さえも、この日は全く感じられなかった。
0095あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/06/05(水) 14:18:51.24ID:DpPl31m1
 休み時間を利用し、二人は話し合う。
「で、話の続きってのは」
 その様は、一見すると何かの謀議のようにも見える。
「ああ、それか。
 いや、本当は東京に帰ってくるまでに言っておきたかったんだが、言いそびれていたことがあってな。
 それを伝えたくて」
「?」
「耳貸せ」
 口を耳に寄せて、囁く。
「当日のマリオネットホテルのロビーの防犯映像を持ってる。
 篠崎を装ってチェックインした女が映ってるものだ」
「本当か!」
「声が大きい」
 清次は逸る操を誡めた。
「悪い」
「今日来てくれるな?」
「わかった」
「放課後な」
 そうして、彼らは一旦離れた。



 放課後、二人は八雲邸の清次の部屋にいた。
「で、ちゃんと翼さんの方は断ったか」
 普段、半川姉弟は登下校を共にしているが、今日はイレギュラーな形になった。
 一緒に帰宅することを断ったかと清次は訊いているのである。
「ああ」
「そうだ、何か出さなきゃな。飲むか?」
 室内に取り付けてあるバーカウンターを指差す。
「まだこんな時間だぞ」
「そうか。じゃあ、紅茶にしよう。
 紅茶なら俺の帰宅に合わせて淹れさせておいたから、すぐ出てくる」
「最初からそっちにすればいいのに」
「まあ、そういうなよ。俺の楽しみといえば酒と煙と愛液を飲むことだけなんだから」
 彼は手を叩いてメイドを呼んだ。
「おーい、持って来い!」
 間もなく戸が開き、既にビューリーズが注がれた2客のティーカップを持ってきた。
「失礼します、紅茶をお持ちしました」
「入れ」
 操と清次のそれぞれに1客づつ置かれる。
「どうぞ、お召し上がりください」
 だが、その中身は、一つはストレートの紅茶だったが、もう一つは、生ホイップクリームを浮かべたものであった。
「それは……?」
「アイリッシュティー。アイリッシュウィスキー入りの紅茶さ」
「何が何でも酒を飲みたいんだな」
 半ば呆れるように操が言った。
「そうだ、俺は何が何でも酒を飲みたいんだ」
 と言って、ブッシュミルズ21年をステアされた紅茶を啜る。
「それで、物を見る前に、これをどうやって手に入れたか一応説明しておく」
「警察から流してもらったんじゃないのか」
「そうだ。愛知県警の幹部に流してもらった。
 捜査で何か進展があれば、そいつから連絡があることになっている」
「そうか。その連絡はいつ来るんだ?」
「早ければ今日、と言ってたな。
 だが、いつ来るかもわからないし、取り敢えずはこれを見よう」
 DVDを手にする。先に焼き増した防犯カメラの映像だ。
「そうだな」
0096あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/06/05(水) 14:22:35.71ID:DpPl31m1
「どうだった?」
「やはり違うな」
 見終わった二人は、早速その正体を評しはじめた。
「まあ、俺にわかるんだから、ソウにだってそりゃわかるわな。
 ちなみにこの女の特徴は、若い女性で、篠崎とそこそこ雰囲気が似ているが、もう少し吊り目気味で、鼻は高くて、唇は薄くて、面長で、セミロングだそうだ」
「それも警察が?」
「うんにゃ。俺が、その時受付をしていた女から自分で聞き出した。お前らが警察で取り調べを受けていた間にな」
「さすが、手が早いな」
 手が早いと言われて、ついつい別の意味に聞こえたのは、彼の日頃の言動への世評を彼自身が認識しているからだろう。
 その受付嬢との逢瀬が、片時彼の脳裏に呼び起こされた。
 頭がピンク色に染まるのを避けようと、彼は話を変えた。
「ところで、昨日の翼さんとの話をソウにも伝えようか」
「ああ、頼む」
「篠崎の死が自殺ではない、と伝えた時、彼女は『まあ、誰がそんな恐ろしいことをなさったのかしら』と俺に返してきた」
「何か問題か?」
「俺は自殺じゃない、と言っただけで他殺だとは言ってない。事故死したという可能性を彼女は想定しなかったということだ」
「確かに。
 でも、姉貴がそう合点しただけじゃないのか」
「かもな」
 一応の首肯の後、清次は更に続ける。
「俺が、ソーメンまでポリの疑いの目が、つまり警察は犯人を逮捕するまで篠崎の周りを疑い続けると言ったら、彼女は『警察が結果を出すまでは、ということね』と微妙に意味を変えてきた」
「それは姉貴がそういう用語を理解してなかっただけじゃないのか」
「理解してなかったら聞き返すだろ。理解して、それで警察が犯人を逮捕する以外の結論を出すことを想定した、そう考えてもいいんじゃないか」
「うーん……」
 唸り、考え込む操。
「それで、翼さんに何か変わったことはあったか?」
「何……、あっ。
 明日、姉貴は学校を休むらしい」
「どうして」
「会社の都合らしい」
 顎をさすりながら、清次は考える。
「気になるな」
 暫く経って、一つの発意を操に伝えた。
「明日、俺たちも休もう」
「えっ? どうして」
「厚重に俺らも行って、彼女の真意を探ろう」
「行ってって、俺はともかく、キヨはどうやって入るんだ」
「策がある。明日の朝、ここにまた来てくれ」
 その時、清次のブラックベリーが鳴った。
「The Best is Yet to Come」は、警察関係者からの着信である。
「お、早速来た」
 案の定、それは黒木からのものであった。
「八雲清次です」
『私だよ』
「どうなりましたか?」
『自殺ということで断定したよ』
「どうにかなりませんかね」
『自殺というのが支配的な意見だからね、もうどうこうしようもないよ』
 清次は嘆息するように言葉を継ぐ。
「わかりました。この件ではお世話様でした」
『それでは失礼』
「ありがとうございました」
 通話が切れる。
「警察が自殺と断定したそうだ」
「何てことだ……。正義も糞もあったもんじゃないな」
 操は清次にも増して長嘆息する。
「まあ、それを打ち破るためにこうして動いてるんだ」
「ああ、踏ん張らなきゃな」
「また明日の朝な」
 操は一旦八雲邸を退いた。
0097あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/06/05(水) 14:24:14.10ID:DpPl31m1
 翌朝、再度清次を訪れ、部屋に入った操は、彼の姿を見て言葉を失った。
 カールロングのウィッグを被り、スリットの深いネイビーブルーのチャイナドレスを身に着けていた。
「……」
「おお、来たか。俺も丁度メイクアップを終えたんだ」
 唖然としていた操は、やっと言葉を取り戻した。
「一体どうしたんだ、それは」
「普通なら会社の中にはIDカードがなければ入れないだろうが、ソウの親父さんは時々女を連れ込んだりするからな。
 警備も父親がいつもやってるように、息子に対しても同じように『配慮』してくれるかもと思って」
「そんな、他に方法ないのかよ、それはいくら何でも」
「あるかもしれんが、思いつかなかった。
 まあ、失うものもなかろうし、やってみるだけならタダだ」
「人として大事なものを失っているような気もするけど。
 それに、女装なんて誰得だよ」
「分かってないなー、最近はこういう『男の娘』がブームなんだよ」
「背も高いし、どっちかと言ったら大人の女に近い気がするけどな。
 それにしても、なんでチャイナドレスなんだ?」
「俺の趣味だ。
 本当は、某大阪市長みたく、スチュワーデスのコスプレの方が好きなんだが、それだと流石に不自然だろうから」
「それも十分不自然だろうけどな」
 操は失笑した。
「ま、行こう」
「そうだな」
 首肯した清次はドレスアップを手伝っていたメイドに向かい、手短に用を告げる。
「車を回すよう、赤城に伝えろ」
「畏まりました」
 メイドが部屋を出るのに従うかのように、清次と操も部屋を出る。
 二人が駐車場に向かい、キャデラックDTSに乗り込むと、そのリムジンは厚木に向けて、出発した。
0098あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/06/05(水) 14:25:44.11ID:DpPl31m1
 神奈川県厚木市、厚木重工業本社。
 高さは150mを超し、人口20万余の都市には似つかわしくないほどの荘重な超高層ビルである。
 威風堂々たるその姿は、日本経済の隆盛を誇示するかのようでもある。
 その本社の脇に、清次のストレッチリムジンは停車した。
「ご苦労さん、帰りにまた電話する」
「承知しました」
 車は二人を降ろすと、そのまま走り去っていった。
「ここだな」
「ああ」
「やはり大きいな」
 ビルディングを見上げる清次に、操はひとりごちるかのように声を掛けた。
「さあて、上手くいくかどうか」
「恋人に見えるように、なるべくイチャイチャした感じで」
「了解」
 操は清次の腰に手を回し、爛れた雰囲気を演じつつ、エントランスに入っていった。
 間もなく、警備員が近付き、声を掛けてきた。
「操様、そのお方はどなたですか」
 返答の代わりに、無言で小指を立てる。
「失礼しました、お通りください」
 それを聞き、昂る内心とは裏腹に、平然たる態度でエレベーターホールに向かっていった。



 エレベーターは、順調に上昇している。
「まさかそれで成功するとは……」
 操は清次の女装した姿をしげしげと見る。
「ああ、結構異性に化けるのってやれるもんだな」
 得意気な清次が可笑しくて、彼は心にもない冷やかしを入れる。
「いや、わからんぞ。ニューハーフと思ってるかもしれないだろ」
「それでも所期の目的は達成したわけだから、別に構わんさ」
 そうまで言ったところで、目的の階に着き、彼らは降りた。
「俺の部屋に来るか?」
「いや、もう真っ直ぐ行こう」
 二人は、目的の部屋に向かって歩を進めはじめた。
0101名無しさん@ピンキー2013/06/08(土) 22:25:02.28ID:5XBvm6BP
ひっさびさに覗いたら投下きてた!
>>98
乙。続きが気になる終わり方ですな
0102 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/10(月) 23:33:30.06ID:iSh2595c
投下します。
最終話です。

>93
GJ!!
次回の投下も楽しみにしてます。
0103鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/10(月) 23:34:32.83ID:iSh2595c
辺りを吹きすさぶ雪。
白い嵐が行く手を阻み、道と呼べるものも見えなくなっていた。

「駄目です!何も見えません!!」
「こんなときに吹雪とはな…」
「危険です!下山しましょう!!」

初老の刑事達は早狩ユキを重要参考人として行方を追っていた。
いくつかの目撃証言により、彼女達が山に登ったことを突き止めていたが…。

「―――間に合わないか」
「は?」
「いや…、早く下りるぞ。こっちが遭難しそうだ」




アサネは眠りから覚めつつあった。
まるで海中から海面に上がるようなふわふわした感覚の中を漂っていた…。

「ん―――ふぁっ、お兄―――ちゃ―――」
「う―――やめ―――」
「いや―――そのお願い―――聞けな―――」

何か、聞こえた…。
―――何だろう?
知ってる声、…誰だっけ?
そうだ―――これは―――

アサネは目を開けた。
彼女の瞳に映ったものは―――

暖炉に照らされた男女。
女が男に跨り、腰を激しく動かしていた。
その影が何倍にも大きく見え、まるで怪獣か魔物か…とにかく恐ろしいものに見えた。
下にいる男は…。


「うぅぅっ!!」

ドプドプドプ!!

「ふぁぁぁ…、一杯射精したね…。温かい…」

?!!

「コン!!」
0104鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/10(月) 23:35:20.77ID:iSh2595c
アサネは咄嗟に叫んだ。
と、同時に身体を起こし、二人に突進する形で近づいた。
跨っていた女、ユキはそれに気付くと片手を挙げ、掌をアサネに向けた。

シュオオオォォォォォ!!

突如、掌から風が巻き起こり、アサネに向けられた。
アサネは吹き飛び、壁に身体を打ち付けた。

「邪魔しないで、アサ姉ちゃん」
「ゴホッ?!!」
「アサ姉?!」

アサネは背中が酷く痛んだ。
肺にも負担が掛かり、むせこんだ。

「ゲホゲホッ、ゴホッ!…はぁはぁ、あんた…」
「なんだ、正気に戻っちゃったのね」
「?!―――どういうことだよ、おい!アサ姉に何をしたんだ!!」
「落ち着いてよ、お兄ちゃん。軽く吹き飛ばしただけよ。これも怪異の力」
「そうじゃなくて…、アサ姉が幼児退行したのは―――」
「それは関係ないわ。本人が望んだことよ」

二人が何か話していたが、今のアサネにはただ一つ、コン太を救い出すことしか頭になかった。

「離れなさい!!」
「うるさいな…」

キイイィィィ―――

「ぐっ?!!」

ドサッ!!

アサネはその場に倒れこんだ。
ユキが再び眼力を使ったのだ。
0105鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/10(月) 23:37:58.67ID:iSh2595c
「アサ姉!!―――これ以上は止めてくれ…。僕はどうなってもいいから…」
「別にお兄ちゃんとお姉ちゃんをどうこうしようとは思ってないわ。ただ私達四人で暮らしていきたいだけ…」
「四人…?キオナもか…?」
「当然でしょ、私の妹分よ。例え血は繋がってなくても…」
「しかし…子供だけで生活なんてしていけるわけが…」
「一族の中では、私達の年齢は立派な大人よ」

コン太は何故ユキが自分の一族こだわるか気になっていた。

「―――何で俺達の先祖は人間に追われたんだ?」
「一族の人々が…人間の子供をさらうのよ。さらって食料にするの…」
「そんな?!…」
「昔…まだ電気やガスがなかった時代には私達の一族は恐れられてたわ。妖怪、化け物、神々…呼び名は様々みたいだけど…」
「それが雪女伝説…」
「ええ、でも大きな戦が終わり国が変わった頃には、もう五人も残っていなかったらしいわ。そんなとき…お父さんに出会ったのよ」
「それが、始まりなのか…」
「お父さんは子供を食料にする習慣を認められなかったらしくてね、お兄ちゃんお姉ちゃんを連れて姿を消したのよ。それで母様は深い悲しみに暮れてね…」

コン太はようやく納得がいった。
何故兄弟が離ればなれになったのか。

しかし、兄弟で子作りは容認できなかった。
あまりにも…狂っている…。

「―――僕達が生きている限り、血は無くならない。何も兄弟で関係を作ることは無いんじゃないのか?」
「さっきも言ったけど、私達は惹かれあってるのよ。
私を妹と知らない時でも、気に掛けてくれてたよね?すごい嬉しかったよ。
それで運命とか関係なくお兄ちゃんに夢中になっていったわ。今日はどんな話が出来るんだろうとか…、どれだけ笑ってくれるんだろうとか…。
お兄ちゃんに会うために学校に行っていたものよ」
「………」

コン太は言葉を紡げなかった。
目の前の女の子に魅力を感じていたのも事実だが…、話し合って諦めてくれるようではないのが分かった。ある種の執念じみたものさえ感じた。
彼女は何がなんでも自分を離そうとはしないだろう…と。
0106鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/10(月) 23:39:39.37ID:iSh2595c
「―――随分お楽しみね…」
「アサ姉!!」

アサネが目を覚ましたようでこちらに近づいてきた。
いまだに、コン太とユキは繋がったままだ…。

「…どうする?私を殺す?アサ姉ちゃん?」
「いえ、思い出したのよ。私達の両親のこと、私が自分自身で記憶を消したこと」
「えっ?!!」
「私も眼力くらいなら使えるのよ。父さんが死んだときに自分で掛けてね。何とか二人だけで過ごせないか考えて…、私が普通の女の子になればって思ったの。…結局無駄に終わったみたいだけどね」
「お兄ちゃんの童貞はキオナが奪っていったわ。それについては何とも思わないの?私は悔しかった…」
「残念ね、コンの初めては私よ」
「「?!!!」」
「父さんが死んだときにね、襲っちゃったのよ。とっても興奮したわぁ…。その後にコンの記憶も少しいじってね」

もうコン太には何が何やら分からなかった。
ただ一つ、もう自分は逃げられないのだろうと感じた。
しかし、さっきまでの倫理観やらはどうでもよくなってきたようだった…。
また眼力に掛けられてるのか…あるいは自分自身納得し始めてるのか…。

「さぁ、今度は私と楽しみましょ。雪女は子供を沢山作れるというから、今から楽しみね」
「お姉ちゃんが分かってくれてるなら話は早いわ。お兄ちゃん、私達だけの家庭を育みましょ?」
0107鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/10(月) 23:40:48.67ID:iSh2595c
―――数日後、警官隊や消防団が山をくまなく探したが、三人の行方は掴めなかった。
三か月にわたり、捜索が行われその後に中止となった。

事件に繋がる唯一の証人であった大久那キオナは三人が山に入った翌日、病室から消えた。

捜索が中止になった日、初老の刑事は小泉姉弟の保護者だった叔父夫婦を訪ねた。
二人は深く悲しんだが、同時に諦めもついていた。

「この手紙は私の兄…、つまり姉弟の父親から死ぬ直前に受け取ったものです」

そう言いながら、刑事に手紙を見せる叔父。

「拝見させていただきます」

内容は遺書に近いもので、自身の死期が近づいていることを悟り、二人の子供を頼むというものだった。

「お兄さんは病気か何かを患っていらっしゃったんですか?」
「いえ、特にそのようなことは…。ただ、実際に兄が死んでしまって、何かはわからないんですが…、あの二人にもとんでもないことが起こるんじゃないかっていう…。すいません、上手く説明できないです。第六感的なものとしか…」
「いえ…わかりますよ…」




それから年月が経ち、ある噂が流れた。

町の近くの山々に登ると、雪女に遭遇するとか―――。
遭遇したものは生きて帰れないか、帰れても不幸な事故に遭って日を置かずに死んでしまうとか―――。
遭遇した際生きて帰るためには、ナイフを口に咥えておくと怪異から逃れられるとか、それどころか帰ったものは、立身出世、玉の輿の幸運に巡りあえるとか―――。

その噂を聞いて、興味本位の者や幸運にあやかりたい者がこぞって山に押し寄せた。

大半は雪女には出会えなかったが、ある者は吹雪の中を多くの子供を連れて遊ぶ三人の雪女を見たと語ったらしい…。
0108 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/10(月) 23:41:59.40ID:iSh2595c
投下終了です。
ご愛読ありがとうございました。

また機会があれば…。
0109名無しさん@ピンキー2013/06/11(火) 01:50:54.50ID:mJ62q5Ju
完結GJ
何だのハーレムハッピーエンドじゃないか
姉はしっかり童貞もらってたのにワロタ
0111名無しさん@ピンキー2013/06/23(日) 23:19:08.48ID:00B3v82M
それにしてもひどい過疎だなあ
このままいつのまにか消えてるなんてこと・・・
0112名無しさん@ピンキー2013/06/26(水) 19:42:49.75ID:j1xMJGN2
自分も久しぶりに来てびびった
このスレ立ったの3ヶ月前か……
前スレまでは結構書き込みも多かったのに
0113名無しさん@ピンキー2013/06/26(水) 21:25:42.68ID:/oCg0AiO
多分みんな一途スレに行ったんだろ。
あっち大盛り上がりだし
0114名無しさん@ピンキー2013/06/26(水) 21:45:04.20ID:hFy+zRiz
>>113
一途スレって何?
エロパロ自体が過疎だね
なんと言うかキモ姉妹のネタが尽きた
0115名無しさん@ピンキー2013/06/27(木) 07:29:00.35ID:av7ykUZQ
ここで書く利点もないもんな
他サイトが機能的にもシステム的にも充実してきたし、ここは荒らしを排除できないっていう欠陥があるし
0116名無しさん@ピンキー2013/06/29(土) 09:14:30.34ID:01NCff0p
と言ってもなろうorノクターンにもpixivにもまともなSSはほとんどないけどね・・・
0117 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/29(土) 18:05:18.86ID:CvOsXT+I
短編投下します。
0118いともたやすく行われたえげつない行為 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/29(土) 18:06:59.97ID:CvOsXT+I
電車の窓から見えるのは田んぼや山々。
地方のローカル線は定期的な音を立てて走り続けていた。
乗客はまばらだったが、ある男が乗り込んでいた。
男の目的は人里を離れた場所へ向かうことだった。
その傍らには女が寄り添っていた。

「眠くなったか?」
「…いえ、ゆったりしてました」
「そうか…」

男はこそばゆい感覚に身震いした。
女は男の許嫁であった。
贔屓目に見ても美しいその女を嫁に出来る自分はなんと幸せであろうと。

「あなたこそ大丈夫?」
「ああ…特には…」
「妹さんのこと…」
「―――」

男には妹がいた。
彼女もまた美しかった。
周囲から将来を期待されるほどの才女でもあったが…。

「ごめんなさい…」
「いや、いいんだよ。君が気に病むことじゃない…」

妹は兄である男を愛していた。
狂おしいまでのその愛は、長年隠され続けてきた。
しかし、男に許嫁が出来たその日にそれは一気に噴出した。

即ち、両親を殺害し、男に重傷を負わせた。

「何とか出来なかったのかな…」
「でもあのまま元の居場所にいてもいずれ…」
「そうだな、今は距離を置くことが大事って警察の人に言われたんだろ?」
「はい、これから行く町なら人もまばらと聞きました。妹さんも追ってはこれないでしょうね」

男は重傷を負った後、厄介な後遺症に悩まされていた。
記憶喪失だ。
日常生活においては支障はないが…今まで自分がどういう風に生きてきたかが思い出せなくなっていた。
0119いともたやすく行われたえげつない行為 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/29(土) 18:08:23.51ID:CvOsXT+I
PRRRRR――――

ピッ

「はい」
『返しなさい!!私の大事な人を!!!』
「前にも言いましたが、あなたと彼を会わすことはできません」
『あんたが勝手に彼を連れ去ったんだ!!この誘拐犯!!!!』
「人聞きが悪いことを言わないでくださいよ」
『居場所は検討が付いてるわ…、必ず取り返してやる!!』
「そうですか、ここまでたどり着ければいいですね」
『どういう意味だ?!』
「それじゃあ、妹さん」
「何を?!妹はあんた―――」

プツッ

「妹か…?」
「はい…、錯乱してる様子でした…」
「そうか…、早くまともになってくれるといいんだがな…」
「元気出してください、私が付いていますから。いつまでも…」

男は記憶喪失だったのだ。
当然、家族や許嫁の顔を覚えているはずがなかった。
全ての事情は許嫁と名乗る目の前の“女”に聞かされた。
昔撮った家族写真等は“妹”が燃やしてしまって一切の顔と名前を判別するものが無いそうだ。
しかし、男に疑う余地も術も無く、現状を受け入れるしかなかった―――。




『本日未明、○×県△☆市にお住まいの―――さんが遺体で発見されました。
死因は肺が圧迫されたことによる呼吸困難とされ、複数の性的暴行の跡があり、
金品が無くなっていることから警察は強盗殺人として被疑者の行方を追っています。
また被害者の女性は先日起こった一家失踪事件の人物関係に何らかの関連があるとみて―――』
0120 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/06/29(土) 18:09:49.16ID:CvOsXT+I
投下終了です。

需要があればまた長編を書きたいと思ってるんですが…どうでしょうか?
0123広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/07/02(火) NY:AN:NY.ANID:zV0Cbv1N
>>120
長編完結と短編の投下、お疲れ様です。
楽しく読ませていただきました。

それでは
「あなたがいないなら何もいらない 第8話 頑是なき龍虎」
投下します。
0124あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/02(火) NY:AN:NY.ANID:zV0Cbv1N
「こいつはすげえな」
 時代ばった机を、清次はペタペタと触っている。
「このルイ15世様式のデスク、それとブックケースやキャビネットもイタリアのフラテッリ・ラディーチェだ」
 そう見定め、無遠慮にチェアに腰を下ろし、天井を見上げる。
「マリア・テレジア様式のシャンデリアはオーストリアのロブマイヤーか。
 さすがは天下の厚木重工、金がかかってるな」
 二人は半川翼の部屋に侵入していた。
「ふうん、18世紀のスタイルか」
「そうだ。今、翼さんは社主――だっけ? 新聞社のオーナーみたいな呼称だな――だから、やはり一番贅沢に仕立ててるんだろう」
 彼は足を組んで机の上に乗せている。その様はあたかも八雲製薬での自分の部屋にいるかのようである。
「詳しいんだな。
 俺の社賓室もやたら立派だけど、どこのどういう代物だとかは全然……」
 と言う操に、清次は苦笑いして応じた。
「社賓って、お前今そんな役職にいるのか」
「ああ、まあ。内実はないんだけどな」
「破綻した昔の総合商社にそういう肩書で好き放題してたワンマン創業家がいたな」
 まあ、そんな是非はどうでもいいんだが、と語り捨て、話を転じる。
「さて、翼さんが来るまで、机の中の書類でも漁ってみるか」
 そう言って手袋をはめ、さらにもう一双の手袋を取り出して操の方に投げる。
「ソウも」
「ありがとう」
「じゃあ、見てみるとするか……、?」
 操が手袋をはめた時、外から声が聞こえてきた。
「まずい、隠れるぞ」
 突然のことに声も出ない操を引っ張って、清次はクローゼットに隠れた。


 間一髪で彼らが隠れおおせると、ドアが開いて外から人が入ってきた。
 若い女が二人と、中年の男が一人。
「入りなさい」
 若い女のうち、一人は言うまでもない。
 半川翼。この部屋を占める、厚木重工業の主である。
「承知しました。ほら、お前も入りなさい」
 中年の男が、もう一人の若い女に声を掛ける。
「わかったわ」


 クローゼットの隙間からその女の顔を見た時、操と清次は共に息を呑んだ。
「間違いないな」
 言った言わないかわからないほどの小声で、清次が呟く。
「あの女だ……!」
 操が怒りを押し殺しているのが、声の調子からも伝わってくる。
 その溢れんとする激情を察して、清次は釘を刺した。
「掴み掛るなよ」
「わかっている、わかっているさ」
 それは応(いら)えというより、自分に言い聞かせているようであった。
0125あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/02(火) NY:AN:NY.ANID:zV0Cbv1N
「ご苦労だったわね」
 中年男を労う翼に、その男が言葉を返した。
「全くですよ。人一人を高層ビルから窓の外に放り投げろだなんて、無茶な業務命令もあったもんです」
「あら、あなたはそれを成し遂げられたんだから、無茶じゃなかったじゃない」
 機嫌の良い翼に対して、男は若干の不安を感じているように見える。
 もっとも、普通は殺人を犯せばあれこれとした心配や、あるいは罪悪感を覚えるもので、それを寸毫も感じていない翼のほうがおかしいのだろうが。
「無茶ってのはこれからのことですよ。
 捕まったらどうするんですか。わたしだけではなくて、娘まで殺人犯ですよ」
「だーいじょうぶよ。警察は自殺と断定したわ」
「あれでですか? 手を回したんですか」
「勿論。そうじゃなかったらこんなことしてないわよ」
「さ、頂くものを頂きましょう」
「わかったわ」
 手にしていたかなり大きいスーツケースを開ける。
「じゃあ、これが成功報酬ね」
 その中には、札束がぎっしり詰まっていた。
「ありがとうございます、お嬢様。
 それと、今後造船部門へのご支援をお忘れなきように……」
「わかっているわ」
 首肯し、彼女は続ける。
「こんなことがあって命拾いしたわね。
 本当ならあんな不採算部門、中国か韓国に叩き売ってるところよ」
「なに、これから立て直して見せます。エネルギー事業並に利益をたたき出してやりますよ」
「期待しないで待ってるわ。
 うちは同族企業だから、どこかの神戸の企業みたくクーデターが起きて社長が解任されたりはしないから、気長にやることね」
「それでは、失礼します。
 さ、帰ろう」
「ええ、父さん」
 父の勧めに、娘は頷く。
「そんなものを持っているんだから、真っ直ぐ帰ったほうがいいかもしれないわね」
 と、翼は男の手に渡ったスーツケースを指差す。
「勿論、そのつもりですよ。
 お嬢様は、どうされますか?」
「家で弟が帰ってくるのを待っているわ。私の一番の楽しみだもの」
「そうですか。良いお時間を」
「あなた方こそ」
 そう言い交して、三人とも部屋を後にした。
0126あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/02(火) NY:AN:NY.ANID:zV0Cbv1N
「行った、か?」
「もう大丈夫だろう」
 二人は徐にクローゼットの中から出る。
「さて、再開だ」
 そう言って、清次は机の方に足を向けた。
「さて、何かないかな」
 一番上の引き出しを開ける。
 中にあったのは、アウロラの万年筆と、モンブランのシャープペンシル、それとステッドラーの消しゴムであった。
「筆記具だけか」
 その次の引き出しも、同じように開け、中のものを手に取る。
「こっちも書類だけだな」
 そういって溜息をつき、パラパラと内容に目を通す。
「それも何の変哲もない、社業のものだけか」
「何があるのを期待してたんだ?」
「いや、トカレフかマカロフでも転がってりゃ、翼さんを脅しやすく」
 その時、入口の方から声が聞こえてきた。
「そんなものがあるわけないでしょ、貴方じゃなし」
 驚いて目を向けると、翼がそこにいた。
「姉貴、何でここに……!」
「何でって、ここは私の部屋よ。貴方たちこそここで何やってたの?」
「翼さん、あんたの動きが怪しいと思って探らせてもらったが、やはり、ビンゴだったな。
 さっきの家に帰るというのはフェイクだったんだな」
「そう言えば出てきてくれるでしょ。
 操とお話ししたかったもの」
「ああ、俺も姉貴と話したいことがあるしな……!」
 平然とした姉とは対照的に、弟は声を震わせている。
「あ、あ、姉貴が、姉貴が、亜由美を殺したのか!」
「そうよ」
 あっさりと彼女は自らの殺人を認めた。「悪い?」とでも言わんばかりである。
「しかし凄い恰好ね」
 と彼女は清次に目を向ける。
「中々似合ってますね、その女装。
 私としては、操に着てもらったほうが嬉しかったですけど」
 可愛いからきっと似合いますわ、と頬を赤らめながら語る。
 その表情は、つい先程殺人を自白した女のそれとは到底思えないほど穏やかで艶やかなものだった。
「お褒めに預かり誠に光栄であります、翼さん」
 それで、と清次は話を引き戻した。
「あの男は、厚重の社員なんですね」
「ええ、うちの船舶・海洋事業本部長よ。連れてたのは娘さん」
「そいつらが実行犯というわけですか。
 翼さん、あんた一体何のつもりなんです?」
「つもりも何も、最初から貴方たちに隠していることなんてはなかったわ。
 勝手に私があの売女を殺したことを隠したがってると思った貴方たちの独り相撲よ」
 お姉ちゃんは操とそこで相撲を取りたいですけど、と傍らのベッド――これまたフラテッリ・ラディーチェのバロック家具である――を指差して、またも頬を染める。
「いよいよわからない。あんたパクられたいのか?」
 彼女は静かに首を横に振る。
「そんなこと心配してないわ。
 私を突き出すわけはないもの」
「ふざけるな!」
 激高した操が喚く。
「絶対に警察に捕まえさせてやる、それが無理ならこの手で姉貴、お前を殺してやる!
 覚悟してろ!」
 対して、翼はなおも平気の平左である。


「そんなこと、絶対にないわ。だって私たち、姉弟だもの」
0129 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/07(日) NY:AN:NY.ANID:Y7Uy/vN3
1レス短編投下します。
0130星に願いを、半身に愛を、邪魔者には死を… ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/07(日) NY:AN:NY.ANID:Y7Uy/vN3
地元の商店街は夜が更けると閑散となっていた。
明日が月曜日ということもあり、多くの人々は家にいることだろう。

広場にくると何本かの笹が集めて置かれており、枝に色とりどりの細長い紙がいくつもぶら下がっていた。
そこで今日は7月7日、七夕ということを思い出した。
自分が短冊に願いを書いたのはいつのことだっただろうか…。

周りには誰もいなかったこともあり、その中の一枚を見てみることにした。

『お兄ちゃんとずっと一緒にいたい』

恐らく、お兄ちゃんが大好きな妹が書いたのだろう。
微笑ましくなり、次々と読んでいく。

『今夜、弟に私の愛を捧げられますように』
『兄貴の初めてを貰えますように』
『最愛の弟を奪った雌猫に死の制裁を』

これは一体…。
気になるのは、兄、弟、という単語がいくつも散りばめられていたことだ。
どうも彼らの姉妹がこの短冊を書いているようだ。
俺にも妹がいるが、まさかこの中には名前はないよな…。
妹とはごく普通の兄妹をやってきたつもりだ。

しかし、たまたま目をやったところに妹の名前を発見してしまった。
見つければ、気になり、読みたくなるのが人間であった。
―――恐る恐ると手を伸ばし、短冊を読んでみる。

『兄さんと永遠に結ばれたい』

俺は思わず後ずさりした。
まさか、そんな…。

「兄さん、ここにいたんだ」

?!

考えるより先に走り出そうとし―――

バチッ!!

何―――だ?
からだがうごかな―――

「怖がらないで兄さん、これからイイコトするんだから…」

いもうとはてにばちばちとなるものをもっていた―――
そのひょうじょうはしたなめずりしてえものをほしょくしたもうじゅうのようだった―――
0131 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/07(日) NY:AN:NY.ANID:Y7Uy/vN3
投下終了です。
日付が変わる前に書けて良かった。

長編はもう少ししたら投下できると思います…。
0133名無しさん@ピンキー2013/07/08(月) NY:AN:NY.ANID:5RPRH3Uz
GJ
もう七夕がある季節か…
夏は海とか祭りでキモ姉妹が開放的な気分になるんだろうな
0134名無しさん@ピンキー2013/07/09(火) NY:AN:NY.ANID:yAUmNmlh
逆に他の連中が海だ山だと出払ってる隙に室内で…じゃね?
0136広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/07/16(火) NY:AN:NY.ANID:myC89GS/
「あなたがいないなら何もいらない 第9話 シャム猫の弁」
投下します。
0137あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/16(火) NY:AN:NY.ANID:myC89GS/
「くそっ!」
 帰りのリムジンの中で、操は毒づいていた。
「姉貴は狂っている!」
「今さらだな」
 対して清次は、厳然とした態度でいる。
「それよりもこれからのことだ。
 翼さんは愛知県警に手を回したと見える」
「ああ、そう言ってたもんな」
「ひとまず俺は翼さんに競り負けたことになる。
 警視庁とそれを所掌する内務省に圧力をかけて再捜査させよう」
「警視庁? 管轄外じゃないのか」
 キョトンとした顔の操に、清次が諭すように語る。
「あのな、篠崎は誘拐されて殺されたんだ。
 そうだとするなら、拐かされたのはどこだ?」
 途端に、彼はハッとした表情になる。
「そうか、東京だ!」
「そ。だから愛知県警だけじゃなくて警視庁のヤマでもあるわけだ」
 と、人差し指を立てながら彼は続ける。
「それに警察庁長官や警視総監は退官後に政界に転身する男が結構多い。
 そのままじゃ重光章止まりだ、大綬章は貰えない。
 長い間国に奉公してきた見返りがそれじゃあんまりにも寂しいよな。
 今の奴も確か知事だか国会議員だかに出馬したがってるそうな。
 それなら俺のフィールドだ、八雲の支持なしで国民党の公認も推薦も得られるわけがない」
「しかし、他の党から出馬することは……?」
「どこの党がある?
 進歩党なんて労組依存の左翼政党に落ちぶれてしまったし、平成奇兵隊なんか地元の大阪以外ではパッとしない風任せの寄せ集め集団だ。
 何より、警察官は保守的な考えの持ち主が多いから、もしそんな政党から、もしくは市民党とか無党派とか謳って出馬すれば、母体の支持さえ失っちまうだろ。
 嫌でも俺の言うことは聞かなきゃならん」
「どうなるかな。
 まあ、俺にはキヨに頼る以外ないわけだけど」
「だな」
 頷き、話を変える。
「とりあえず腹拵えをしよう。
 車中だからそんなに大したものは出せないが」
 とのたまいつつ、ランチボックスを取り出す。
 その中には、スモークサーモンやカルパッチョなどのサンドイッチが並んでいた。
「ありがとう。もらうよ」
「どうぞどうぞ、そのためにうちの下女に作らせたんだから」
 二人でサンドイッチにパクつく。
0138あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/16(火) NY:AN:NY.ANID:myC89GS/
「しかし、翼さんがあっさり歌ったのは意外だったな。
 気づいていてわざと聞かせたとはね」
 今しがたローストビーフのサンドイッチを持っていた手をチャイナドレスのスリットに伸ばし、そこを捲って太腿に装着しているホルスターから拳銃を取り出す。
「いざとなったらこれでゲロさせにゃいかんかと思ったが、持ってくるまでもなかったな」
 操は驚いた顔で拳銃を見る。
「本物か」
「勿論。ワルサーPPK、ドイツ製の半自動拳銃だな。軍や警察にも人気がある歴史ある代物だし、フィクション作品にも数多く登場している」
「007とか名探偵コナンにも出てるな。チャイナドレスでワルサーPPKって、どっかのロマノフ王朝専門の強盗殺人犯みたいだな」
「あの犯人は劇中でコレを使用していた時にはチャイナは着ていなかったがな」
「『財界のラスプーチン』にはぴったりだな」
 巷間言われている仇名を、本人の前で口にする。
 気にした風でもなく、蘊蓄を語り始めた。
「実際のラスプーチン暗殺に使われたのはピストルじゃなくてリボルバーだがな。
 この銃で実際に死んだのは、そう、ヒトラーが自殺に使うほど愛用していた。
 あとは韓国の朴正煕大統領を暗殺するのにも使われた。
 まあその時は途中でジャムって、銃を別のものに取り換えたと聞くが」
「そうか。俺にも一丁貸してくれればよかったのに」
 あの場に銃があったと知って、彼は不満げだ。
「駄目だ。貸してたら間違いなくソウは撃っただろ」
「当たり前だ、血祭りにしてやる」
「だからだよ。
 人を殺すときはもっと慎重にやれ、翼さんを見習ってな」
「悔しいけど、姉貴は計画的だよな」
「問題は目的だが、ある程度の推測はできる。
 親父さんも一枚噛んでたりするんじゃないのか?」
「知っているのか?」
「篠崎のことをよく思っていなかったことだろ、そりゃ知ってるさ。
 俺にまで愚痴ってきてたんだから」
「嫌っていたなあ、親父は」
 顧みて、嘆息する。
「あれでも一応妥協案は出したんだが、と言ってたが」
「亜由美を愛人にして別に本妻を迎えろ、だろ。
 誰がっ!」
「殺されずに済んだとしてもか?」
「非常識な提案を受け入れる道理はない。
 それこそ、親父じゃあるまいし」
「気持ちはわからんじゃないがね」
0139あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/16(火) NY:AN:NY.ANID:myC89GS/
 その時、BBが鳴り出した。
「半川……栄。親父さんからだ」
 発信元を確認して、ディスプレイを見せる。
「俺に代わってくれ」
「駄目だ。こういう時は感情的になっちゃ駄目なんだ」
 そのまま着信に応じる。
「はい、八雲清次です」
「清次くん、元気かね」
「お蔭様で」
「それで、操も一緒なんだろ?」
「ええ」
「早く帰ってくるように伝えてくれ。
 そうだ、君が連れてきてくれないか」
 人から見れば清次が操に振り回されている形なのに、構う様子もない。
(俺も人のことは言えんが、随分半川社長も無体な御仁だよ)
 以前読んだ海音寺潮五郎の「悪人列伝」にあった、
「生まれながらに最上位にある人は、人に奉仕されても奉仕する習慣がない。
 従ってその人々のモラルは一般の人のモラルとはおそろしく違っていて、人を犠牲にすることに全然平気なのである」
 という一節が、思い浮かんだ。
(まあ、俺は好きでやってるから構わんがね)
 通話口を押さえ、静かに苦笑してから、操に伝える。
「帰れとさ」
「嫌だ。あの女もいるだろ」
「そらなあ」
「顔も見たくない」
 決して悪くなかった、いやむしろ良すぎるくらいに良かった姉弟仲を知っているから、会いたくないという意思より「あの女」という三人称に、彼の姉に対する好感度が極度に悪化したことを再認識した。
 その返事を聞き、通話に戻った。
「その気はないようです」
「どうしてだね?」
「もう知ってるでしょう?」
 険しい言葉に、栄は詰まりそうになったが、少しの時を挟んで、何とか応じることができた。
「知ってるんだね、清次くん」
「ええ、知ってますよ。僕も操くんもね」
「それでは、君だけでも来ないか? 君とも話をしたい」
 何のつもりなのか。
 暫しの思案の末、彼は承諾した。
「わかりました」
「では、待ってるよ」
 そこで通話は切れた。
 それを確認した彼は、操に告げる。
「俺だけでも来いというから、行くことにした」
「大丈夫なのか」
「取って食ったりしないだろうよ。
 翼さんや親父さんとは、このことできっちり渡りを付けなきゃならんだろうから、会わんわけにもいかんだろう」
「だが……」
「心配するなって。
 ほら、残り全部やるから、腹一杯にして元気出せ」
 ロブスターのサンドイッチを一つ手に取り、操の口の中に押し込む。
「自分で食えるってば」
「つれないな」
 そう冗談めかして呟き、人差し指で操の頬を軽くつついた清次は、運転席に向かって下知する。
「止めろ、俺はここで降りる」
 即座に、キャデラックは路肩に寄せて停車した。
「俺はタクシーに乗るから、お前は彼を俺の家まで連れてくれ」
「承知しました」
 そして操に向き直り、連絡事項を伝える。
「帰ってくるまで俺の部屋で寛いでいてくれ。下女は自由に使え。ホームバーにあるものは、好きに飲んでいいぞ」
「了解」
 ドアを自分で開け(それだけ押っ取り刀だったということである)、降りる。
 彼はすぐさまタクシーを拾いにかかっていた。
0140あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/16(火) NY:AN:NY.ANID:myC89GS/
 たっぷりとチップを弾んだ料金を支払い、タクシーを降りる。
「八雲だ、私が来ることは聞いてあるね?」
 柵越しに門番に話しかけた。
「はい、お嬢様より伺っております。どうぞ、お入りください」
 荘厳な鉄製の門扉が開かれ、彼はスペイン風コロニアル様式の邸宅に入っていった。
「清次くん、よく来てくれたね」
 車寄せのところで、栄が待っていた。
「誕生会以来ですね、栄さん」
 このような自らの言い回しに、清次は短い間に長い歳月を経たかのような感覚を覚えた。
「昼食はもう済ませたかい?」
「ええ」
 無駄のない簡便な返答には、優雅への憧憬、そして僅かな嫌悪が仄めいていた。
「では、腹ごなしにビリヤードでもしないか」
「久しぶりですね」

 今よりもずっと小さかった時分には、清次は栄ら半川家の面々と遊戯などを楽しむことも多かった。

「では、こちらへ」
 そうして邸内を連れ立って進む。
「懐かしいですね。まだあったんですね」
 指差した先には、オリーブがあった。
 相変わらずその木は専従の庭師によってよく剪定され、よく維持されていた。
「昔は大きく感じたんですけど」

 だが、もう戻れない。あの頃には。

「君も大きくなったということだよ」

 小さくて、楽しくて、清らかだったあの頃には。

 撞球室に二人は着いた。
「入り給え」
 ドアを開け、中に入る。
「これでいいですか?」
 キューラックにあった中の一本をおもむろに手に取る。
「ああ、構わんよ」
 肯きつつ、彼もまたバットを掴んだ。
0141あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/16(火) NY:AN:NY.ANID:myC89GS/
「今更ながら、凄い格好だね」
 栄は、チャイナドレスを着てキュー・スティックを手にしているその姿を見やる。
「ですよね。でも、うまく化けられているでしょう?」
「ああ、君が女ならこの場で手籠めにしていたところだ」
「もしくは僕とあなたの両方がバイだったら、ですね。
 SMとか乱交とか青姦とか強姦とか獣姦とかは試したことありますけど、さすがに男とはようやりませんわ」
「さらっとすごいこと言ってるね」
「あなたも同じ穴のムジナでしょう」
「はは、一本取られたね。
 今度乱パでも一緒にやるかい?」
「お、いいですね。
 竹会長とか鳥井議員とかも誘って、今度一緒にやりましょうよ」
「やっぱり気の置けない面々だといいね」
「勝手がわかっていますからねぇ。
 同じサチリアジスでもタイガー・ウッズなんかは男にもホールインワンしてたみたいですけどね。
 僕はカサノヴァよろしく女のポケットだけにショットを決めていきますよ」

 ラシャを見定め、清次は3番と5番の球を狙う。

「そういえば、この頃は君のご家族はどうしているかね?」

 ティップが手球を突いた。

「別に変わりありませんよ」

 手球はまず3番に当たり、方向を変えて5番に当たる。

「うちの親父なら財界活動だか何だかで栄さんとお会いする機会の方が多いんじゃないですか」
「いくら何でもそんなに頻々と経営者同士の会合が開かれてるわけじゃないよ」
「知ってますよ。それよりもなお少ない、と言ってるんです」

 それぞれサイドとコーナーに的球は吸い込まれていった。

「翼さんにも同じこと訊かれましたよ、親子なんですね」
「大抵の場合、親子というのは似るものさ。喜びや悲しみ、様々な感情を分かち合うことができる、それが家族というものであり、麗しき美徳というものだよ」

 続いて、栄が打つ。打った球は、これまたそのままポケットの中に入っていった。

「それが、憎しみといった醜いものであろうとね」
0142あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/16(火) NY:AN:NY.ANID:myC89GS/
 台に背を向け、清次は栄と向き合う。
「やっぱり、あなたの意向もあったんですね」
「勿論だとも、翼だけの考えじゃない」
 エプロンにキューを置き、清次は挑戦するかのように台詞を吐いた。
「こんなことをして、操が折れるとでも思いましたか」
「折るさ、折ってみせる。
 戦争とは外交の延長線上にあるものだからな」
 対する栄は、キューを手にしたままもう片方の掌を苛々と叩いている。
 その様を見た時、清次は危ういものを感じた。
「クラウゼヴィッツですか」
「小林よしのりじゃないぞ?」
「操も殺しますか? 篠崎を殺したように」
「彼女に愛を誓わせたように、新しい愛を新しい伴侶に誓わせる。どうやってでもな」
「無理でしょうな。今でも、操は篠崎のものです」
 と嫌味たらしく首をすくめ、その言葉に応じる。
「おい、何と言った。もう一度言ってみろ。操が、私の息子が、あの女のものだと? あの卑しい女のものだと?」
「ええ、篠ざ……」
 突如として、フェラルが清次の顔を攻撃する。
「巫山戯るのもいい加減にしろ!」
 不意を突かれた彼の鼻っ柱に当たり、鼻腔には忽ちにして鼻血が溢れだした。
 もんどりうってうつ伏せに倒れこんだ彼を、さらに栄は突いた。
「さっきから聞いてりゃ他人事みたいに!」
 後頭部を、背中を、腰を、尻を。
「そもそもお前があの雌豚を最後まできっちり飼育してりゃこんなことにはなってなかったんだろうが!」
 ようやく打撃が止み、彼はゆっくりと立ち上がる。
 持っていたバーキンからラルフ・ローレンのハンカチ(さすがにこればかりはメンズのものであった)を取り出して鼻血を拭い、栄に声をかけた。
「気は済みましたか」
「はあ、はあ……。君なら、分かってくれると思ったがね」
「何をです」
「君が普通よりももっと近親相姦を忌み嫌っているのは知ってるよ」
 栄の言わんとするところを、清次は掴み兼ねた。
「私の貴賎相婚を憎む気持ちも、君の近親相姦を憎む気持ちと同等以上に強いだろう。私にしてみれば」
 一呼吸。
「貴賎相婚より近親相姦のほうがまだマシだ」
 話の趣旨は理解できたが、それに賛同しかねることを、清次は沈黙することで示した。
0145広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/07/20(土) NY:AN:NY.ANID:y4VwU4eP
皆さん、こんばんは。
「あなたがいないなら何もいらない 第10話 権力欲の彼方」
投下します。

※……この話は架空のものであり、実在する人物、団体、事件、国家などとは一切関係ありません。
0146あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/20(土) NY:AN:NY.ANID:y4VwU4eP
「娘も娘なら親父も親父だよ、ったく」
 退出した清次はその様に独語した後、再びタクシーを拾った。
 八雲邸に向かうよう告げ、BlackBerryを手にする。


「ああ、桂さん」
 警視総監に対して気安い口調で気安く電話を掛けた彼は、気安く頼み事を持ちかけるのだった。
「実はですね、ちょっと看過できないことが起こりましてね、お力を貸していただきたいのですよ……」


「おい三宮、お前ぁ爺様に地盤を譲ってもらった恩義を忘れたわけじゃあるまいな! ……ああそうかそうか! わかったよ、お前にはもう何も頼まねえ!」
 手荒に電源ボタンを押し、通話を切る。
「お仕事ですか?」
 不意に、タクシーの運転手が話しかけてきた。
「まあ、そのようなもんです」
「かりかりしていてはうまくいくものもうまくいかないものですよ。
 腰を落ち着けて事を進めるのが一番です」
「そうですね」
 と、取り敢えずは頷く。
(それができれば、苦労はしないのだが……)
 そう沈思していると、携帯が鳴りだした。
(桂か三宮の気が変わったか? そうならいいのだが……)
 ボタンを押し、出る。
「私だ」
『清次様、イケッタのことに関して厄介なことがありました』
 だが、淡い期待に反して、社用の連絡であった。
「厄介? 既に訴訟を起こされていて、今さら何が厄介なんだ」
『ハーバードの林口客員講師が心筋移植でTS細胞の臨床応用に成功したと、押売新聞が報じています』
「へぇ、それは凄いじゃないか。それの何が厄介なんだ?」
『わかりませんか、川中教授が会見で語っていた通り、TS細胞はまだ実際に手術に応用できる段階じゃないんですよ』
「じゃあ、虚報ってことか」
『押売と林口のどちらが主導的に嘘をついたのかまでは知りませんがね』
「それは馬鹿な奴だね。それとイケッタと何の関係が?」
 それに対する返事は、これまでよりより一層悲痛な声であった。
『イケッタの有効性の根拠となる論文は彼が書いているんです』
 彼もまた、それを聞いて事態の重大性を知り、息を呑んだ。
「……それは、まずいな。
 わかった、善後策を話し合おう。
 今、社にいるんだな?」
『はい。お待ちしています』
 通信が切れると、彼は運転手に行き先の変更を告げた。
「八雲製薬に行ってくれ、急用ができた」
「わかりました」
 そうして、彼は使用人に自邸に電話した。
「社用で帰ってくるのが少し遅れる、操は俺が帰ってくるまで丁重にもてなしていてくれ」
 タクシーは、都下を目的地へと走り抜けていくのだった。
0147あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/20(土) NY:AN:NY.ANID:y4VwU4eP
「ただいま。ああ、疲れた……」
 何とか懸案をこなした帰ってきた清次が自室に入ると、やはり操は酒を飲んでいた。
「おお、お帰り、キヨ……」
 清次は隣にあったウィスキーボトルを一瞥する。
「こんな安酒を飲んでいたら体に悪いぞ」
「じゃあ何であるんだ」
「部下と飲んだ時のパワハラ用、もとい、罰ゲーム用だ」
 シーバスリーガル25年を手にして、操の前に置く。
「せめてこっちにしろ」
「ああ、じゃあ……」
 操が掴もうとした瓶を、清次は持ち上げた。
「その前に、チェイサーだ」
「チェイサー?」
「強い酒を飲む際に口直しに供される水や軽い酒のことだ」
「いらんよ、俺のチェイサーは亜由美との思い出だ」
「俺はいらんが、飲み慣れていないソウには必要だ。
 ちょっとまってろ、直ぐ着替える」
 と、彼はチャイナドレスを脱ぎ捨て、急いで着替える。
 上はシャツの上から黒のウェストコートを着用し、下はスラックスを履いた出で立ちになった。
「XYZにしよう」
「何だ、それは?」
「ラム、コアントローとレモンジュースをシェイクしたカクテルだ。
 ショートドリンクだから少し強いが、レモンの酸味で良い酔い覚ましになるだろう」
 スクイザーを手に取り、脇にある冷蔵庫から取り出したレモンを絞る。
 果汁をメジャーカップに注ぎ、カクテルシェイカーの中に入れる。
 次いでラムとコアントローもボディに注ぎ、最後に氷を入れる。
 ストレーナーとトップをかぶせ、シェイカーを手にし、振りはじめる。
 シャカシャカシャカ、シャカシャカシャカ。
 程なく混合を終え、カクテルグラスに注いだ。
「さ、飲め」
 促されるままに、彼はぐっと一口飲んだ。
「美味いな」
「だろ?」
 さらに飲み、彼はグラスを干す。
「じゃ、またウィスキーといこうか」
「ああ」
 タンブラーに氷を入れ、酒を注ぐ。
 無言で杯を掲げ、二人は飲みはじめた。
「あのあと、方々に連絡を取ってみたんだがな。
 警視総監もダメ、内務大臣もダメ。
 どうしたもんだか」
 その顔には、今や操に匹敵する程の憂愁を帯びている。
「あと残るは総理大臣くらい、……!」
 そこにまで話を及ばせた刹那、彼ははっと閃いた。
「そうだ、総理だ!」
「総理? キヨ、総理大臣とも伝手があるの?」
「当然だ、八雲製薬は国民党の大スポンサー様だぞ」
 いそいそと受話器を持ってくる。
「そうと決まれば早速」
 番号を押し、いまだ首相公邸に移っていない我が国の首相の私邸へと掛けた。
「この時間なら総理は家に帰ってきてるはず……」
 間を置かず出たのは、その秘書であった。
『はい、』
「星野か? 総理に繋げ」
 弾んだ声で、主を促す。
『わかりました』
 ややあって、電話が代わった。
 その相手こそが、日本国内閣総理大臣、九尾伊(くお おさむ)である。
0148あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/07/20(土) NY:AN:NY.ANID:y4VwU4eP
「よお、九尾さん。首相就任、いや、再就任ですかね。まあともかくおめでとう」
『どうも、清次くん。八雲には本当に助かっているよ、資金面でも人員面でもね』
「お力になれて光栄です」
『参院選もよろしく頼むよ』
「もちろんですよ。またうちの連中に選挙を手伝わせますよ。
 ところで」
 と一旦呼吸をおく。
「治安のために拘引すべき人物が一人いますので、一刻も早い対処をお願いするためにご連絡申し上げました」
『ふむ』
 と合点がいったかのように相槌を打った。
『また、女と揉めたの? それとも詐欺かなんかで訴えられそうなん?
 笠松に話を通しておくよ。罪状は重い方がいいかい?』
 茶化すように言葉をかけ、こともなげに警察庁長官に不正を働かせることを示唆した。
「いいえ、今回はセフレでも商売敵でも取引相手でもありません。
 友人の姉貴がちょっとやらかしましてね、引導を渡してほしいんですよ」
 彼の声が訝るようなものに変わった。
『友人の姉貴?』
「ええ、名古屋でホテルの最上階から女子校生、じゃなかった、女子高生を投げ落として殺しましてね。
 彼女の『身柄』と引き換えのギブ アンド テイクです 捕まえてくださいよ…早く捕まえてください」
 だが、九尾の次の言葉が彼が予想していなかったものだった。
0151 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/23(火) NY:AN:NY.ANID:ONCsP2Ae
>145
GJ
姉が恐ろしい…

投下します。
0152パンドーラー1 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/23(火) NY:AN:NY.ANID:ONCsP2Ae
本州からやや離れた位置にある島。
日に数度の定期船が往来するだけで、都会の喧騒とは隔離されたのどかな町が広がっている。

夏も本格的になりつつある日、一人の少女が港をぶらぶらしていた。
港の先端から海の彼方を眺めては、少し町の方へ歩き、そうかと思えばまた港の先端へ…。
何かを待っているらしい少女はそわそわしていた。

「(年に一度しか会えないからなぁ…)」

彼女は来るであろう客を心待ちにしていた。

最初に何と声を掛けようか?
何をして遊ぼうか?
どれだけ一緒に過ごせるのか?

去年、客人が去るときに彼女は大泣きした。
いや、去年だけじゃなく毎年のことで、来たときはひまわりのような笑顔を見せ、去り際にはにわか雨のような涙を流していた。

ブオォォォォォ―――

過去の行為に恥じらいを感じているそのときに聞こえてきた汽笛。
彼女は港の先端へ突っ走った。
危うく落ちそうになりながらも、その瞳はやって来る定期船を見逃さなかった。

「(やっと会える!!)」

小躍りしそうな喜びを抑えつつ、上品に気取って船着き場の出入り口へと向かった。
もっとも、そのあふれんばかりの笑顔で誰が見てもその心中はまるわかりだが。

降りてくる人を注意深く見つめ、目的の人物を逃すまいと探し続ける。

「トシヤ!!」
「マキ姉ちゃん…!」

刹那、飛びつきそうになる少女を船から降りてきた少年が手で抑える。

「ひ、久しぶり!!元気だった?」
「うん、僕は元気だよ、マキ姉ちゃんは?」
「私だって元気よ!!」

あれこれ考えていた最初の言葉は月並なものになった。

「さ、行きましょ!」

そう言って、少年の…、トシヤの手を握る少女、マキ。

「うん」
0153パンドーラー1 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/23(火) NY:AN:NY.ANID:ONCsP2Ae
ミーンミーンと蝉の大合唱を聞きながら、島の舗装されていない土の道を歩く二人。
途中、島に唯一ある駄菓子屋により、アイスを買うことに。

「おやおや、今年も彼氏と一緒かい?」

駄菓子屋のおばあさんが優しく微笑みながら話しかけてきた。

「ちょっ?!彼氏とかそんなんじゃないわよ!!」
「………」

マキは顔を赤くしながら反論、一方のトシヤも赤面しそのまま顔を伏せる。
対照的な二人の反応だった。
しかしながら、二人共繋いだ手を離すことはしなかった。

駄菓子屋のおばあさんは多少、物忘れをしていた。
八原マキ、向田トシヤ、苗字は違えど二人は正真正銘の姉弟だった…。



やってきたばかりのトシヤの荷物を家の玄関に放り込むと、
そのままトシヤを引っ張って海遊びに興じようと急ぐマキ。

「マキ姉ちゃん速いって…」
「あんたに合わせてたら、日が暮れちゃうわよ!!」

マキはトシヤが滞在する間、存分に遊びつくすつもりだった。
それも例年のことだが…。

港から反対側には浜辺があった。
小さいが美しく、白く輝いている様な砂に透き通った海水。
その部分だけならリゾート地にも見えた。

「はぁはぁはぁ…」
「相変わらず体力がないわね」
「都会っ子にそんなもの求めないでよ…」
「見て、浜辺よ」
「わぁ…」
0154パンドーラー1 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/23(火) NY:AN:NY.ANID:ONCsP2Ae
トシヤはその絶景に言葉を失った。と、同時に―――

「あれ?去年は他の子供達もいたのに…」
「皆、島を出て本土に行ったわ…」

実際、過疎化が急速に進み、島の存続が危うくなっていた。
もう子供はマキしか残っていなかったからだ…。

「マキ姉ちゃん…、寂しくないの?」
「―――あんたがいるじゃない。だから平気」

そう言って笑うマキは若干無理をしているようにトシヤには見えた。

「さぁ早く遊びましょ。二人締めした私達だけの浜辺よ」

その後二人は、蟹を採ったり、波打際で走り回ったりと大はしゃぎした。

気付くと辺りは夕焼けが照り付け、オレンジ色の世界が広がっていた。

「今年はどれだけいられるの?」
「多分一週間…」
「そう…」
「マキ姉ちゃん…」

二人はまた自然と手を繋ぎ、水平線に沈みゆく太陽を眺めていた。

「私、トシヤが好きよ」
「僕も…マキ姉ちゃんが好きだよ」

そう言い、互いの顔を見て笑う。
この言葉の意味するところが家族愛なのか、男女愛なのか…。
この時点で判断できる者はいない。
0155パンドーラー1 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/23(火) NY:AN:NY.ANID:ONCsP2Ae
ただ、トシヤにはマキが寂しがっているのは常に分かっていた。
それは、島に彼女以外の子供がいないからとかじゃなく、
弟である自分と離ればなれだからだと感じていた。
無論、トシヤも寂しかった。姉と離れて暮らすのは心にぽっかりと穴が
開いたようだったからだ。

『僕と一緒に本土で暮らしてほしい』

何度、この言葉が喉元まで出かかって、引っ込めたかわからなかった。

そう、自分達は一緒にはいられなかった―――

彼らの両親が離婚したのは二人が物心ついたあたりだった。
マキは母親に引き取られ、故郷の島に戻ってきたのだ。

強制的に離された二人は大泣きし、会いたいと懇願し、遂には離婚した父母が折れ、
夏休みの期間だけ会っていいことになっていた。
しかし、島に来るのはトシヤのみで、父親は本土側の港で彼を見送っていた。

「帰ろう…」
「うん…」
0156パンドーラー1 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/23(火) NY:AN:NY.ANID:ONCsP2Ae
母親は離婚したといえど、トシヤにも等しく優しかった。
やはり、自分が腹を痛めて産んだ子供だからだ。
夜になると、ちゃぶ台を囲み、夕飯を振舞っていた。

「マキはトシヤが来るのを楽しみにしててね」
「ちょっと、お母さん!!」
「カレンダーの前で、あと何日と指折り数えていたわよ」
「ふふ、なんか嬉しいな」
「―――!!」

マキは再び、羞恥で顔を真っ赤にしていた。



大人が独りで入るには窮屈な風呂釜は、二人の子供を難なく収めることが出来た。

「ここも、久しぶりだね」

トシヤは自分の家とは違う昔ながらの風呂に興味を持っていた。

「―――マキ姉ちゃん?」
「…う、うぅ」
「………」

一年分の寂しさが溢れたのか、とうとうマキは涙を零した。

「まだしばらくはここにいれるからさ…」

そう言って震えるマキの身体を抱きしめるトシヤ。

この時、八原マキ、11歳。向田トシヤ10歳であった―――
0157 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/23(火) NY:AN:NY.ANID:ONCsP2Ae
投下終了です。
またよろしくお願いします。
0159 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
投下します。
0160パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
島にはわずかな畑が存在していた。
出荷できるような量の野菜は採れないため、自給自足が主な目的である。

「トシヤ!!見てこの大きなトマト!!」
「う、うん…」
「あんたまだ食べれないの?情けな〜」

畑作業を手伝う二人。
風呂場で号泣してから翌日、マキはいつもの調子に戻っていた。
トシヤはそれに安堵しつつも、彼女が無理をしていることもわかっていた。

「マキ、トシヤ。少し休憩にしましょうか」
「「はーい」」
「お昼はそうめんでいい?」
「うん、いいy「えー、またー?」
「あら、マキはお昼いらないのね?じゃあ私とトシヤで…」
「う、嘘だって!お母さん!そうめん食べさせて!!」
「マキ姉ちゃんワガママだよ」
「う、うるさい!!」

このとき、マキは昼食が食べられなくなるから焦っている、とトシヤは考えていた。
しかし事実はトシヤと母親が二人きり、という状況に正体のわからない不安、
苛立ちをマキが感じていたからである。

まだ幼いながら、実の弟に対しての執着心を芽生えさせつつあった。

「お昼食べたら、遊んできていいわよ」
「え、ほんと?!」
「でも心配だから3時には一度帰ってきてね。かき氷作ってあげるから」
「「やったー!!」」
0161パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
島は小さな山と集落からなっていた。
かつての島の子供達は海と山の両方を遊び、自然から知恵や感性を学んでいた。
山の頂上には神社があり、そこからの景色もまた絶景と呼ぶにふさわしいものであった。
視界の端から端まで水平線が広がり、わずかに曲線を描いていて地球が丸いことを実感させられるものだった。

「うーみーはーひろいーな、おーきーなー」
「その歌聞いたことある。でも古くない?」
「あんたいちいち茶々をいれてくるわね…」
「ふー、あついー」

神社の境内に寝転がるトシヤ。

「わぁ…」

視線の先にはどこまでも青い空に白い入道雲が浮かんでいた。
トシヤはこの景色が大好きだった。
都会でも見れるものだが、この島に来ると一層神秘的なものに見えるからだ。

「―――うん?そこにいるのは誰だ?」

突然声をかけられて、二人はびっくりした。

「あ、村長さん…」
「おお、八原さんとこの…。そっちは…」
「あ、お久しぶりです。トシヤです」
「大きくなったなぁ〜。今何歳だ?」
「あ、はい。10歳です」

島に唯一ある集落は村として治められていた。
この村長もかなりの高齢である。
妻には先に立たれ、子供は数人いたが、皆、本土に出稼ぎに行き、彼独りが残るのみであった。

「それじゃ、儂はそろそろ…。お母さんによろしくの」

ごく短い世間話を終えた後、彼は山を下りて行った。
0162パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
「冷た〜い」
「うあ…頭痛い…」

帰宅した二人を待っていたのは当然かき氷だった。
マキは意外にもみぞれを掛けていた。通である。
トシヤはメロンシロップ、子供達の間では定番だ。

「落ち着いて食べなさいな」
「トシヤのドジ!!」
「あ〜…」
「食べ終わったら海にでも行ってきたら?」
「うーん、昨日行ったしなー」
「今なら潮も引き気味だから浅い場所を見れるわよ」
「ほんと?!よし、トシヤ、海行くよ!!」
「え〜…」
「ほら!!」

マキは二人分の水着を持つと、唸るトシヤを連れてささっと出掛けて行った。



「昨日は浜辺だけだったから、今日は泳ぐわよ」
「うん、一年ぶりだな〜」

誰もいないので二人して水着に着替える。
お互いに裸を気にする年齢ではなかった。

「あっ!!ゴーグル忘れた!!」
「何やってんのよ!そんなのいらないでしょ」
「でも目に染みるしな〜…」

マキは流石に島の子。
ゴーグル要らずで素潜りも出来る程だった。
反対に都会育ちのトシヤにはゴーグルは必需品だったのである。

「やっぱり取りに行ってくるよ!マキ姉ちゃんは先に泳いでて!!」
「あ、…待ってよ!私も行く!!」
0163パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
トシヤは野道を駆け上がり、家に戻ってきた。
縁側から上がりこもうとしたときに、話声が聞こえた。

―――?!

不意に庭の茂みに隠れこみ、様子を窺う。
…別に知らない家ではないのだから、隠れる必要もないのだが。

後から追いついてきたマキもそれに倣い、トシヤの横に居座る。

「…どうしたの?」
「…誰かいるみたい」
「…お母さんでしょ」
「…いや、…もう一人」
「…あれは…村長さん?」

マキの母親、次いで村長が居間に入ってくる。

「なかなか元気でやっておるようですね」
「ええ、二人共すくすく育ってますよ…」

最初は世間話だった。
村長が家々を訪ね歩き回る、そんなのどかな風景。

しかし、次第に様子がおかしくなってきた。

「ふふっ…あんたも好き者だなぁ」
「…それは」

二人は異常なほど近い距離に近づき、モゾモゾし始めた。

トシヤ達からは、それがよく見えなかった。
0164パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
「…何やってるんだろ?」
「…わかんないけど…」

次第に身体に熱を帯びるのを感じたマキ。
そう、これは知っている。
知識でのみだが、あれは…。

「ああっ!!せめて寝室に…」
「へへっ、子供達なら当分帰ってこないだろうよ。でもここのほうがスリルがあるだろう?」

マキは茫然としながらその光景を見ていた。
視線の先にいる二人がやっているのは子供を作る行為だった。
何故彼らがそんなことをやっているのか、マキにはわからなかった…。
だが、さっきよりも熱を帯び、自身が興奮しているのは認識していた。
隣にいるトシヤはどうだろうか?
マキは視線をずらしてみた。

トシヤは興味半分、恐ろしさ半分という感じだった。

「…行こう、見つかるとまずいよ」
「…うん」

マキはトシヤを連れて家を離れ海岸まで戻ってきた。

「………」
「………」

二人共無言だった。
喧嘩したわけでもないのに、嫌な空気が二人を取り囲んでいた。

「…トシヤ、大丈夫?」

たまらず、マキは声を掛けた。

「…うん、大丈夫だよ」

言葉とは裏腹にトシヤは心ここにあらずだった。
さっきの二人の行為に混乱しているのだろう…。
マキはそう察して、トシヤの横に座り日が暮れるまでずっと傍にいた。
0165パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
それから、トシヤが戻るまでの日々はあっという間に過ぎた。
遊びつくすつもりだったが、トシヤはあの日以降、急によそよそしくなった。
畑仕事では無言、食事中も必要以上に喋らなかった…。
風呂も別々に入りたいと言い、海で泳ぐこともしなかった。

マキはそれを寂しく思いつつも、トシヤに従った。
しかし、一方ではトシヤに対する思いが強くなっていた。
トシヤを見ると、胸が苦しくなった。
こんなことは今まで一度も無かったのに…。

別れの際、マキはいつも通り泣いた。
トシヤも寂しい表情をしていた。

「また来年…」

そう言い残し、船に乗り込み島を後にするトシヤ。

マキは願った。
またトシヤが来てくれますように…。



翌年、トシヤは来なかった―――
0166 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/07/29(月) NY:AN:NY.ANID:oOZmKLEu
投下終了です。
0168護国炎虎2013/08/20(火) NY:AN:NY.ANID:dbKqlSWU
武術家同士の漢と漢の戦いを見守るキモウトの作品を希望

半端な萌え厨だの恋愛脳だのの入る余地すらないのがいい
0170護国炎虎@刈流兵法免許皆伝2013/08/20(火) NY:AN:NY.ANID:dbKqlSWU
あれは主人公がパンツ脱がないからNG

そもそも、トンデモ描写が多すぎてやってて萎える
0171名無しさん@ピンキー2013/08/21(水) NY:AN:NY.ANID:7nzJk9Uh
>>170
装甲悪鬼村正はどう?主人公パンツ脱いでるし、地上戦は結構リアルな剣術やってるよ(空中戦はトンデモだらけだけど)
0172名無しさん@ピンキー2013/08/21(水) NY:AN:NY.ANID:7nzJk9Uh
・・・つーかよくみたら名前からして奈良原信者だった。余計なお世話だったかな
0173護国炎虎2013/08/21(水) NY:AN:NY.ANID:kbUHlTag
食材編とか要らんわホンマ
0176 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/08/26(月) NY:AN:NY.ANID:DPwRGtHC
投下します。
0177パンドーラー3 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/08/26(月) NY:AN:NY.ANID:DPwRGtHC
「えー、皆さんは明日から夏休みを迎えますが、えー、くれぐれも体調を崩さず―――」

とある中学校の体育館で校長が夏休み前の講話をしていた。
没個性的なその内容に生徒は勿論、教師達も耳を傾けることなく、夏休みの予定を各々考えていた。

そんな中に八原マキの姿があった。

「マッキー、明日からどうするの?」
「んー、とりあえずはお店の手伝いかな」
「へー、実家には帰らないんだ」
「お盆前には帰るよ。でも何もないしね…」
「島だったね、マッキーの実家。浜辺とか綺麗そうじゃない」
「まさか…。ただの未開の地よ」
「ハワイみたいじゃん。いいなぁ〜」
「おめでたい幻想は止めときな」

いつの間にか講話は終わり、後のホームルームをやる気なく過ごし、昼前に下校となった。



「じゃあね、マッキー。今度遊びに行こ。メールするから」
「うん、またねー」

マキは中学三年生になっていた。
島にいる間、即ち小学生の頃は通信教育で修了することを許されていた。
マキの年齢や、離婚による財政的な問題もあったからだ。
しかし中学以降となると、そうもいかなかった。
中学校で学ぶ科目を通信課程で済ませるには限界があり、
また母親が普通の学校生活を送らせたいと考えていたからだ。
マキ自身もそれには同意していた。
学校がどういうものか、中学校に入学するまで知らなかったからだ。

そして中学校に通うということになると、島の外で暮らさなければならない。
当然母親にマキを一人暮らしさせる余裕はなかった。
そこで助力したのが村長だった。
彼の知り合いに港町で定食屋を経営している者がいたので、
話を持ちかけマキを下宿させてもらうことになった。
条件として、店の手伝いをすることは必須だったのだが。
0178パンドーラー3 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/08/26(月) NY:AN:NY.ANID:DPwRGtHC
「マキちゃん、皿洗いよろしく。それが終わったら、仕込みの手伝いね」
「はーい」

トシヤが最後に来た五年前の出来事―――
当初は母親に不信感を抱いていた。
が、成長するにつれマキも色々と知り、母親について責める気にはなれなかった。
身寄りのない母娘が社会で暮らす為には色々と苦労がある。
自分が住み込みで働きながら学校生活を送れるのも村長との情事が関わってるんだろう。
感謝こそすれば恨むなどは筋違いである、と考えていた。

しかし―――
それ以来、来なくなったトシヤのこと。
マキはずっと心に引っ掛かるものを抱えていた。

どうして来ないの?
怖かったから?
軽蔑したから?
混乱したから?

その一点だけ―――思い続けてきた。

そして中学生としての最期の夏休み。
マキはとある計画を練っていた。
向こうが来ないならこちらから行こう―――。



トシヤの住む町は都心部の外円に位置するベッドタウンだ。
かつては家族四人で暮らしていた場所である。
離婚後は母親とマキはずっと立ち寄ることはなかった。
マキはおぼろげな記憶を頼りに、トシヤの家へ向かうことにした。
幸い住所はメモを取っていた。
しかし五年前の物であるため、今もそこに住んでいるのかという不安は消えなかった。
マキの頭に最悪の結末が浮かぶ―――

更地の土地。
行方知れずの尋ね人。
もう二度と…。

首を振り、嫌な考えを消した。
0179パンドーラー3 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/08/26(月) NY:AN:NY.ANID:DPwRGtHC
特急とローカル線を乗り継ぎ、一路都心へ…。
長旅になるが、マキにはお金があった。
働き続けて得た賃金を大事に貯めていたのだ。
今日、この日のために―――



目的地の近く、最寄駅にいよいよ到着した。
電車を一歩降りて、排ガスの淀んだ空気がマキを襲った。

こんなに空気が違うものなのか…。

駅から歩きながら、マキは考えていた。
再会の第一声は何にしようか…。
五年前と何も変わってない自分に気づき、一人で笑ってしまった。

マキは頭の中でイメージを浮かべていた。

どう成長しているのか―――
声変わりは?
背は大きくなったか?
私を見て分かるだろうか?
私への最初の言葉は…。

?!

ふと、再び嫌な考えが出てきた。
トシヤが来なくなったのは母親と村長との密会が理由だろう…。
そして私にも…、私にも同じ目を向けてくるのだろうか…。
軽蔑、非難、嫌悪、そして決別の意思を伝えてくる―――!

ぐるぐると眩暈がして、そばの壁にもたれる。
まさか、トシヤに限ってそんなことは…。
しかし、その仮説を否定する理由もなかった。
家まであと少しのところで、マキは進めなくなった。
恐ろしかったのだ。
暑い夏の昼下がりにも関わらず、マキは両手で自身の身体を抱き震えていた。

人通りは無かったので、その奇行を見られることがなかったのは幸運だった。
0180パンドーラー3 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/08/26(月) NY:AN:NY.ANID:DPwRGtHC
しばらくして、落ち着きを取り戻し再び進む。
わからないことで怯えていても仕方がない。
まずは真実を確かめることだ。
しかし、もしトシヤが本当に自分を拒絶したときは―――



とうとう家の前についた。
変わっていない、と思う。
確かに年月が経ち、古ぼけてはきたが間違いはなかった。
表札には向田と記されていた。
あとはインターホンを押すだけだった。

指が震える。
ボタンを押す、これだけの行為なのに何で怖いのか…。

そのとき、通りから声が聞こえた。
人の家の前で何もしないまま立っているのは怪しまれるだろう。
マキはそう思い立ち、その場を離れることにした。

しかし、どこかで聞いた声だった。
もしかしたら…。

近くの曲がり角に身を潜め、様子を窺う。
傍から見れば変質者そのものだった。
本当に人通りが無かったのは幸運だった…。

声の主がやってきた。
二人いる―――、男女だ!!
男の方は…。
見間違えることはありえなかった。

男の方はトシヤだ。
背は随分伸びた。
昔はマキのほうが高かったが、今は見上げるくらいだ。
肌は浅黒く、健康的に見えた。
0181パンドーラー3 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/08/26(月) NY:AN:NY.ANID:DPwRGtHC
五年ぶりに見た弟にマキは感動していた。
それだけトシヤは成長していたのだ。

今すぐ会いに行こう。
そう考えたマキを止めたのが、横にいる女の存在だ。

家の前で何か話している。
そして、トシヤに手を振り歩き始めた。
こちらに向かってくるので、マキは慌てて歩行者のふりをする。
すれ違うときに女の顔を見た。
顔立ちは中々美しく、モテるだろうと思うほどだ。

問題は―――この女はトシヤとどういう関係なのか。
そこで、自分が何を考えているのか気付き、訂正する。

弟がどう恋愛しようが私には関係ないことだ。
だって、私達は…姉弟なのだから…。
自身の中にある何かに戸惑い、そしてこの気持ちが何なのか…。
マキは分からなくなった。

結局、あれほど会いたかったトシヤとは顔を合わせることなく、マキは帰路についた。
恐ろしさからの逃亡、あるいはもっと別の何か他の気持ちが…。
答えが出ないまま下宿先に帰り着く。

「ただいま…」
「あっ、マキちゃん!!」

下宿先のおばさんが駆け寄ってくる。

「いい、落ち着いて聞いて、実はね…」
「はい?」
「お母さんが―――倒れたらしいのよ」

マキにはその言葉が理解出来なかった―――
0182 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/08/26(月) NY:AN:NY.ANID:DPwRGtHC
投下終了です。
ペースが落ちてますが、頑張ろうと思います。
0185名無しさん@ピンキー2013/09/08(日) 22:17:29.07ID:WBGSyxjc
規制解除きたけど、前来てた人達は戻ってこないのかな?終盤で止まった作品がちらほら…
0188 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:46:40.63ID:Sq4UNO/u
投下します。
0189パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:49:10.89ID:Sq4UNO/u
母親が倒れたと聞いて、マキはすぐさま島に帰った。

帰り着いた時、母親は既に危篤状態だった。
しかし最期に会話出来る機会があり、マキは母親に今まで自分を育ててくれた
お礼を言った。
母親は多くは喋らなかったが…、遺書の存在をマキに教えた。
それから半日もしない内に息を引き取ることになった。



「南無妙法蓮華経―――」

数日後、マキの母親の葬儀が行われていた。
参列者は島民達だった。
元々身寄りが無く、残った血縁者はマキとトシヤだけになっていた。
財産はほとんどなく、住居も村長からの借家であった。
そして、葬儀代も村長が全額出していた。
これに対してマキは働きながら返すと主張したが、村長は受け取れないと拒否した。
マキが一人前に成長することが、母親が一番喜ぶことだと説得した。

結局、マキは一円も払うことなく、葬儀の喪主を務めていた。
そんな中、参列者に島民じゃない者が現れた。

「マキ…姉さん………」
「―――!トシヤ…」

それはお互いにとって思わぬ再会になった―――。

「―――父さんも来てるよ」
「…そう」
「流石に合わせる顔がないって言って、外で待ってるけど」
「―――んで」
「え?」
「呼んで。最期なんだよ…、顔ぐらい見てあげて…」

マキはぽろぽろと涙を零しながら言った。
0190パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:50:41.16ID:Sq4UNO/u
10年以上会っておらず、記憶もおぼろげだが、父親の顔は酷くやつれているように見えた。
そして―――母親の棺の前で静かに涙していた…。

マキは怒りと悲しみが入り混じった感情で父親を見ていた。

何故悲しいの?
何故離婚したの?
何故傍にいてあげなかったの?

すると、マキの前に来て―――

「すまなかった、マキ。母さんにも―――」

土下座してマキに謝罪した。

マキは何も言えなかった。
ただ涙が止まらなかった―――



火葬も終え、参列者達も帰って行った。
ただ、父親とトシヤはマキの家に残っていた。

「マキ姉さん、ちょっと…」

そう言って、外に連れ出したのはトシヤだった―――

夏の夕暮れが迫る中、いつかの海辺に二人はやってきた。
0191パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:51:38.85ID:Sq4UNO/u
「………」
「―――久しぶり、だよね」
「………」
「ゴメン、ずっと来れなくて!!」

「………」
「別にあの日のことを避けてたわけじゃないんだ…」
「………」
「言い訳にしかならないけど…色々あったんだよ…。父さんの会社が潰れて…
一時期は家を手放す寸前までいったんだ」
「そう…」
「でも何とか新しい就職先を見つけて、細々と暮らしていけるまでには―――」
「母さんは―――ずっと一人で頑張って来たのよ…」
「―――そうだね…。ゴメン…」
「………」

二人の間にしばらく沈黙が流れた。

「マキ姉さんは…これからどうするの?」
「わからない…」

トシヤは何かを言おうとし、言いよどみ―――

「あの…さ、もしよかったら…また一緒に暮らさない?」
「っ?!」
「父さんは―――そうしたいと思ってる。僕だって…」
「今更…、そんなの…」
「マキ姉さん…。お願いだ、独りで生きていくなんて無理だよ…」
「…考えさせて」

マキはそう言い、その場を後にした。
海辺に残されたトシヤは寂しげだった―――
0192パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:52:52.66ID:Sq4UNO/u
夜が更けた。
父親は最後の船便で本土に帰って行ったが、トシヤは泊まることになった。

夕食はトシヤが作った。
マキは消衰しており、とても家事が出来る状態ではなかったのだ。
食卓を二人で囲みながらいつかの記憶が蘇ってくる―――
あの頃は、苦しいこともなかった…。
毎日が、楽しみだった。

二人共、同じ思い出に浸っていたが、一言も会話しなかった。



「おやすみ、マキ姉さん…」

そう言ってトシヤは部屋を出て行った。

寝床は別々にした。
トシヤとしても年齢的にも気まずいところがあったからだ。

マキはぼぉーと虚空を見つめていた…。
何かを考え、消えてはまた繰り返し―――

どれぐらいそうしていたのか…。
ふと豆電球の明かりの中、立ち上がり部屋を出て行った。
トイレ…ではない。
0193パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:54:27.85ID:Sq4UNO/u
行先はトシヤの泊まっている部屋だった。
引き戸を開けると、布団に入って寝ているトシヤがいた。

「ん…マキ姉さん…?どうしたの?」
「………」
「眠れないの?」
「…トシヤ、あなたが来なくなって5年も経ったわね…」
「…そう、だね」
「寂しかったのは…母さんだけじゃないのよ、私だって―――」
「………ゴメン」
「母さんが死んで…今更一緒に暮らそうだなんて、都合良すぎると思わないの?」
「だって…、母さんはいつも…はぐらかしてばかりだったから…」
「…えっ?」
「遊びに来てた頃には、何度もお願いしたんだよ…。でも…」
「それで…今度は私…?」
「姉さんだって…それを望んでたんじゃないのか?…」
「?!」

確かに、昔はそうだった…。
いや、つい最近までは、母親が死ぬまでは…。

「お願いだ、僕に出来ることは何でもするから…」

何でも―――

マキは頭の中で言葉を何度も繰り返した。

「じゃあ、償って…」
「えっ?!つぐない…?」
「私を…慰めて」

―――?!!
0194パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:55:43.98ID:Sq4UNO/u
刹那の後、マキはトシヤにキスしていた。
触れるだけの、優しいキス…。

「ね、姉さん?!!」

トシヤは布団から飛び出そうとした、が―――

「待って」

簡単にマキに組み敷かれてしまった。

「(うっ動かない?!!何て力…)」

年齢からみて平均的な身体つきのマキの何処にそんな力があるのか…。
男のトシヤが完全に捕えられていた。

「何を―――」
「何でもするって言ったじゃない」
「いや、でも僕達は姉弟―――んんっ?!!」
「―――ん」

今度は激しいキスに…。
まるで相思相愛の恋人達が、夫婦がやるように…。

「はぁ―――。あなただって…寂しかったんでしょ?」

唾液がお互いの口に伸びる―――
0195パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:56:46.59ID:Sq4UNO/u
「―――そうだけど…こんな…」
「昔、好きだっていってくれたじゃない…。嬉しかったんだよ…、
でもそれが男女の愛だってあのときは気付けなかった…。
今なら…」
「マキ姉さん…。こんなのは間違ってるよ…」
「あなたが反対しても私はやめない。それに、これは償いよ…」
「そんな…待ってk―――」
「さぁ、私を慰めて…」

あとは一方的だった…。
その夜、一組の男女が契りを交わした。
お互いに初めてだった―――



マキは夏休み中に転校届を出し、島から出ていった。
2学期が始まるころにはトシヤと同じ学区に通うことになっていた―――
0196 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/09/24(火) 21:58:23.19ID:Sq4UNO/u
投下終了です。

少しでもスレが盛り上がれば…。
0199名無しさん@ピンキー2013/10/11(金) 23:29:47.88ID:ycPzO8sy
保管庫放置されてるのな。
誰か更新してくれないかな。
0201 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/10/20(日) 23:40:52.97ID:7dxGdHtj
投下します。
0202パンドーラー5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/10/20(日) 23:42:32.17ID:7dxGdHtj
九月に入っても残暑が抜けきらず、不快な気候が続いていた。

あの一夜からというもの、マキとトシヤの関係は激変したかに思われたが…

「鍵持った?」
「うん、今行くよ」

バタン、ガチャ。

「マキ姉さん、クラスには慣れた?」
「そうねぇ…。まあまあかな、友達…はできたかも」
「そう、よかったよ」
「でも、休み明けテストは参ったわね」
「そうか、範囲全然違うんだ」

そこにいるのは極普通の姉弟だった。
まるで、あの夜の出来事が嘘のように…。
実際は全て起こったことで夢なんかではない。

マキがトシヤを襲った翌朝、マキ自身が泣いて謝罪したのだった。
母親の死で混乱していたこと、疲労していたこと、トシヤに会えなくて寂しかったこと…。
トシヤの方もそれを充分に理解し、マキの謝罪を受け入れた。
そして今まで離れていた分、姉弟として過ごそうと提案したのだ。
当然、マキは承諾した。
本来なら絶縁されてもおかしくないことをしてしまったと後悔していたからだ。

暮らし始めて一か月、二人の仲は順調だった。
0203パンドーラー5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/10/20(日) 23:43:40.69ID:7dxGdHtj
「おはよう、向田君」

後ろから声がかけられた。

「やあ、おはよう」
「お姉さんもおはようございます」
「え、ええ…おはよう」

声の主はあの日にトシヤと共に歩いていた少女だった。

名前は、紅保ユリコ。
トシヤのクラスメイト。
トシヤとは友人関係であり仲は良好。
…傍から見れば恋人同士に見えなくもない。

トシヤとユリコが楽しげに話すのをマキは見つめていた。

トシヤはマキを仲の良い姉としか見ていない、当然だ。
間違いはあったが、もう一度姉弟の関係をやり直すと誓ってくれたからだ。

だが、マキの方は…。



昼休みになり、それぞれがくつろいでいる時間。
マキは蒸し暑さから逃れるために廊下で涼んでいた。
景色を無意識に眺め、ふと、下を見るとトシヤとユリコが荷物を抱えながら、
中庭を歩いていた。
雑用だろうか…?

いや、そんなことはどうでもいい。
またあの二人…。

「(あそこにいるのが私だったら…)」

そう思いかけて…

「(何考えてるんだろう。もういい加減吹っ切れなきゃ)」

頭を振り、雑念を消した。
0204パンドーラー5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/10/20(日) 23:45:13.20ID:7dxGdHtj
「(こうしてトシヤと暮らせるだけで私は幸福なのに…、何なのよ…)」

マキは強く自制した。

普通の生き方をしなくては…。
もっといい相手を見つけて、恋に落ちて、いずれ結婚…。
しかし、それはトシヤも同じように過ごすのだろう。
あの紅保ユリコか、また違う相手か―――

まだ中学生の身で考えが早すぎるマキ。
それもまた思春期特有のものなのだろう。

しかし、それだけ、なのだろうか―――?



マキには別の問題も迫っていた。
高校進学である。
元々貧しかったために、中学卒業後は働くつもりだったマキ。
しかし、状況は一変し自身の将来を考えなければならない。

さしあたり進学校に通う予定であった。
マキは学力はそこそこあり、進学できる学校は多く選べた。

だがそこで思い立ったのが“トシヤはどうするか?”である。

「で、トシヤはどうなの?」
「そう言われても…。まだ二年生だしなぁ」
「こういうことは早いほうがいいわ」
「ん〜、…わからないなぁ」
「私と同じ高校には通いたくない?」
「同じ高校?」
「そうよ。私が先に進学すれば、その高校の特色や勉強も教えてあげられるわ」
「あ、それはいいかも」
「じゃあ決まr「でも…、それでマキ姉さんが学校のレベルを落とすのも…」

トシヤはマキに比べて、学力が劣っていた…。
0205パンドーラー5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/10/20(日) 23:46:26.53ID:7dxGdHtj
「私のことは…気にしなくてもいいわ。…そうね、償いとでも考えてくれれば」
「償い?」
「あの夜のことの…」
「マキ姉さん、それはもう済んだことだ。今更気を使う必要はないよ」
「でも私自身の気が済まないのよ…」

本当にそうだろうか?
マキは自問自答していた。
ただ、弟と居たいだけでは?

「いいんだよ、マキ姉さんは自由に生きて。僕は僕で何とかするさ。じゃあお風呂お先に」

そう言って、その場を後にしたトシヤ。



マキとトシヤの父は仕事で多忙を勤めていた。
マキが越してきてからは、一層家に帰らなくなった。
それはマキに対する後ろめたさもあったかもしれない…。

なので大体は二人だけで生活をしていた。

マキはトシヤに先に風呂を進めていた。
こういうことは女性が先では?とトシヤは聞いたが、マキは構わないと言って聞かなかった。

脱衣所で服を脱ぐマキ。
洗濯機にはすでにトシヤの服が脱ぎ捨てられていた。
マキはしばし考え、そして―――今日もトシヤのシャツを手に取り顔を埋めた。
汗臭さと、トシヤの体臭…。
それだけでマキは絶頂に達した。

家事の内、炊事洗濯はマキが担当した。
引き受けたのは元々得意なこともあったが…、こうしたことの証拠隠滅も楽だったからだ。
0206パンドーラー5 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/10/20(日) 23:47:16.29ID:7dxGdHtj
今日で最期にしなければいけない…。
こんなことはおかしい。
何処の世界に弟のシャツで快感に浸る姉がいるのだろうか…。

そんな考えが常に頭にはあったが、それを塗りつぶす快楽と本能がマキを行動させていた。
まるで麻薬中毒者さながらのように…。

シャツだけではない。
ハンカチや靴下…そしてパンツを手に取り…

「ハァハァハァ…」

口に含んだ。

「―――!!!」

声が漏れないように必死に堪えながら、マキは一心不乱に吸い、舐め、トシヤの味を確かめた。

「ふー、ふー」

顔が紅潮し、何度も絶頂を味わう。
そして、今日一番の快楽を迎えた。

「ふ、ぅん―――!!!…………っぷはぁ…」



後に来るのが、後悔と自責の念。
今日も抑えきれなかったこと。
いつまで続けるのかということ。
もし、トシヤにバレたら―――

マキは泣きながら傍にいないトシヤに謝った。

「―――うぅ、ぐす、ご、めんな、さい…」
0207 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/10/20(日) 23:48:21.16ID:7dxGdHtj
投下終了です。

ウィキ更新乙です。
0208名無しさん@ピンキー2013/10/20(日) 23:50:31.57ID:juldQUbU
GJです。もっと病んでいても全然イケマス!続編希望します
0210広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:12:17.17ID:/mS9TYCP
こんにちは、ご無沙汰しています。

三月と長く間を挟んでしまいましたが、「あなたがいないなら何もいらない 最終話 龍虎相打たず」を投下させていただきます。
0211あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:13:50.02ID:/mS9TYCP
 操が、重い口を開く。
「あれは、東京に戻ってきた日の夜のことだったか」
「ああ、ソウは眠ってたよな」
「家についてからも寝ていて、自分のベッドに運んでもらったんだ」
「相当小さいころまで遡らないとそういうことをしてもらうことはないんじゃないのか?」
「自分でもそう思う。
 それはともかく、俺が起きた時、姉貴がそばにいた」
「翼さんが?」
「着替えさせていたとかで、俺は全裸になってた。
 だけど、姉貴は俺のチ〇ポに頬擦りかまして、『これを、お姉ちゃんに頂戴』なんて抜かすんだぞ」
「ぶふぅっ!!!???」
 飲んでいたシーバスリーガルを、清次は思い切り噴き出した。
「挙句『あの泥棒猫のことは、許してあげるから』だと。
 寝てる振りするのに懸命だったよ」
 口元をハンカチで拭い、彼も自分の思うところを述べはじめた。
「まあ、でもある程度は予想できる材料はあったよ」
「材料?」
「ソウと篠崎を結婚させたくなかっただけだったら、篠崎を脅すなり金一封を渡すなりすればいい」
「そんなことで亜由美はっ……」
 恋人が不正に屈する可能性を示されて反発する操を、清次はなだめる。
「まあまあ、わざわざ弟嫁にしたくなかったからといって殺す必要はない、ということを言いたいんだ」
「そうか。まあ、それはそうだよな」
「そして、俺が半川の家に行った時、最後、栄さんは『貴賎相婚より近親相姦のほうがまだマシだ』と吐き捨てたんだ。
 近親相姦を憎む俺に向けてだとしても、あまりにも奇異な例えだ。
 つまり、実際にそういう状況におかれたから、そういう言葉が出てきた、と考えていいと思う」
「なら、親父は……」
「ああ、ソウと翼さんが男女の関係になってもいい、と思っているんだろう」
「親父は、何でっ、」
 怒りで吐き出す言葉も切れ切れになりつつある。
「そうまでしても結婚させたくなかった、というのは本心だろう。
 それに翼さんは栄さんの首根っこを握っている」
「?」
「前にも言ったろ。翼さんは厚木重工業の7割の株式を持って、その議決権を成人とともに行使できるようになったって」
「!」
「その気になればその日にでも栄さんを社長職から解任できるということだ。
 彼にしてみりゃ、自分の地位のためなら心底憎んでいる女を一人殺すことくらい……」
「何てことだ!」
 話を遮るかのように憤慨の声を発する。
「憎かろう。翼さんが」
「ああ、そして俺はあいつが一番嫌がることをしよう、という結論に達した」
「それがお前の自殺か」
「それもただ死ぬんじゃない、あの女狐の目の前でだ」
 それを聞き、清次は大きく頷いた。
「わかった。そういうことなら」
 室内の隅にある、かなり大きな金庫に向かう。
 番号を押し、扉を開ける。
0212あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:14:49.61ID:/mS9TYCP
 その中には、カオスが、あるいはその中身だけで八雲清次という人間を説明しつくせる品々があった。
 円弗磅ユーロなどの札束、国債、不動産や金融商品などの権利関係の書類、宝石、金銀プラチナの鋳塊。
 何丁かの拳銃やそれに装填される実包、何個もの手榴弾、ダガーナイフ。
 媚薬、経口避妊薬、色取り取りのブラジャーやショーツ、ディルドやローターのバイブレータなど。
 そして国会議員や企業役員や清次自身の路チュー写真。
 それらとともに、夥しい量の褐色の瓶が並んでいた。
「これがモルヒネで、こっちがバルビツール、こっちはパンクロニウムで、これは、えーっと、……あった! これだ!」
 その中の一本の瓶を手にした。
「これが、青酸カリだ」
 二人でまじまじと瓶を見つめる。
「これを飲めば、死ぬわけか」
「ああ、死ぬ」
 肯いた清次は話を転じた。
「それで、どこで死ぬつもりだ?」
「姉貴ご自慢のデスクに吐きかけてやるよ」
 社主室の調度品を思い出す。安くはないだろうに、と少々ずれたことを考えつつ、話を進める。
「翼さんを呼び出さなきゃな。俺がメッセンジャーボーイとして半川邸に行こう」
「電話じゃダメなのか」
「俺が言伝をしてる間にソウは先に厚木に行けばいい」
 車庫へ、と立ち上がった。

 車庫に着くと、清次は駐車してあるリムジンを指差して言葉を発した。
「じゃあ、俺はこっちのキャデラックに乗るから、ソウはそっちのファントムに」
 示す先には、ロールスロイスが誇る最高級サルーンがあった。
 ダイヤモンドブラックの車体は、そのためだけに雇われている使用人の手によって丹念に洗車され、よくワックスが効いて艶やかに光っている。
「キヨの贅沢趣味を差し引いても、随分と豪奢だな」
「最期くらい、一番良いもので送ってやりたいからな」
「そうだな」
 彼は寂寞とした表情で頷いた。
 清次はその表情の中に、安堵と期待の色を僅かに見たが、それが自分の気のせいであるかは敢えて深く考えないことにした。
0213あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:17:00.89ID:/mS9TYCP
 半川邸に着くと、アポなし、しかも夜分であったにもかかわらず、帰ってこない弟、そして息子を憂慮していたためか、詰めていた門衛に話し掛けると、清次をすんなりと邸内に通した。
「翼さん」
 出迎えたのは、今度は翼であった。
「お待ちしていました」
「お待たせしました」
 その姿はあまりにも悠然としている。操を返せとしつこく督促してきたとは思えないくらいに。
「お夕食はもうお済みですか」
 そう聞かれて、彼は「ええ」と些細な嘘を吐いた。
 本当は、食事が胃袋に入るほど食欲もなかった。
 ただ、アルコールは入っていた。
 逆に言えば、酔いが回っていたからこそ、食事をもう取ろうと思わなかったのかもしれない。
「それでは、何か御所望のものでもございますか」
「じゃあ、シガールームで少し寛がせてくれるか」
「ええ、結構ですよ。ではこちらへどうぞ」
 栄にビリヤードルームに連れられたように、今度はその娘に付いてシガールームへと向かうのだった。


 椅子に腰かけると、清次は自分の欲するところの葉巻の有無を問うた。
「モンテクリストのNo.3あります?」
「ええ、ありますよ」
 ヒュミドールに向かい、その中の一本を取り出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 シガーカッターを取り出して、渡されたシガーに吸い口を作る。
 そこに、翼はシガーマッチを手にして声をかけてきた。
「火をお付けしましょうか」
「結構だ」
 と彼は自らのターボライターで火をつけた。
「やはりこういうシガーは何かのアテにして喫みたいが……」
「そう言うと思いました。何にしますか」
「コニャック。カミュ・エクストラを頼む」
「わかりました」
 今度は室内にある内線電話の方に向かい、使用人にそれを伝える。
「カミュ・エクストラをシガールームまで持ってきて頂戴」
 受話器を置いた翼に、清次は言葉を発した。
「あなたは目の前で吸われるのは苦手かと思ったんだが」
「どうしてそう思われたのですか」
「ほら、俺がリンカーンの車内で……」
 そうまで言って、彼女は彼の言わんとすることを察した。
「ああ、それですか。
 当て付けだと思ったんですよ」
「は?」
 さすがに、彼も意味を解しかねた。
「あの時操さんが手にしていらっしゃったのはロメオ・イ・フリエタでしたでしょう?」
「そうですね」
 何を当然のことを言ってるんだ、という訝りとともに、葉巻を嗜んでいるとも思えない彼女がシガーバンドを見ただけで銘柄がわかったことに意外の感を覚えた。
「ロミオとジュリエットのような悲恋だとでも仰りたかったのかと思いました」
 それでようやく理解する。
 理解すると同時に、遣る瀬無さが込み上げてくる。
「そうなるとあなたはティボルトかパリス伯爵か、俺はマキューシオかベンヴォーリオかロレンス神父か……、いや、無理があるな」
 あまりにも有名なこの悲劇の登場人物に現実の人間を当て嵌めてみようとし、結局はその戯れの思考を投げ出した。
「いや、割れ鍋に綴じ蓋ぐらいのもんだと思いますよ、あの二人は。
 だからこそ、そんなつつましいカップルを引き裂いたのは、あまりにも惨たらしい」
「まあ、清次さんは余程高潔な生き方をなさってきたんですね」
 戯けた声色で、彼女は非難に返答する。
 それに対し、彼は無意識に唇を微かに左歪みさせた。
「情の湧く相手は無下にはしませんよ、操にも、篠崎にも」
 その苛立ちは、顔色や声色よりも、むしろ敬語とタメ口がちゃんぽんに使われるところにより一層表れていた。
「あら、恋人に優しい男性だとは初耳です」
0214あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:20:10.99ID:/mS9TYCP
「そうじゃない、そうじゃない」
 かぶりを振る。
「篠崎は別れた後も、人間として尊敬し合える関係を維持できる立派な人格を持っていた。
 それに」
「それに?」
「無二の親友の彼女だから、だ」
「一つ間違ってるわ」
「何がです」
「彼女『だった』から、でしょう? 彼女はもうどこにもいないのだから」
「いや、操はそう思っていない。
 死んだ人間は生きている人間の心の中で生き続ける。
 操が篠崎を想い続ける限り、彼の恋人はずっと篠崎のままだ。
 少なくとも、操はそう言うだろう」
 ああ、と、操は自分の言葉の中の訂正点に気づいたといった節で声を上げる。
「一つ、間違いがある」
「でしょう?」
「『彼女』という言葉では軽薄すぎるね。『伴侶』だから、だ」
 途端に、彼女は怒りの声を発した。
「馬鹿なことをいわないで頂戴!」
「馬鹿はどっちだ、」
「操はあの淫売に誑かされていただけよ、あなたみたいな色気違いのチ〇ポ男とは違うわ!
 そもそもあなたがあの雌豚を捨てたから、尻拭いをさせられたんでしょ!」
「それはあなたが? 操が? どっちの意味にも取れるがね……。
 にしても放送禁止用語のオンパレードだね、そんなに頭に来たのかい?」
「当然でしょ、」
 彼女が言っている途中に、ノックの音が響いた。
「お持ちしました」
「入りなさい」
 フットマンが1本のコニャックと2客のブランデーグラスを載せたサービストレイを持ち、入ってくる。
「注いであげなさい」
 翼の下知で、ロシア皇帝ニコライ2世も愛したコニャックがグラスに注がれる。
 清次は彼女に酒を勧めた。
「あなたも飲んではいかがですか」
 少し考え、彼女は首肯した。
「ええ、ご一緒させてもらうわ」
 それを聞き、フットマンはもう1客のグラスにも注ぐ。
「それでは、ごゆるりと」
 手早く与えられた仕事を終え、彼は部屋を退出した。
 その姿を見やった清次は、何の気なしに浮かんだ疑問を口にした。
「さっきの召使いも男だったが、あんたらんとこでは男しか雇ってないのか?」
「そうよ」
「ふうん、厚木重工業の御曹司を誘惑しようとする不届きな女を近づけないように、か?」
 少し意地悪な笑みで、彼は冷やかし半分の台詞を語る。
 それに対し、彼女は真顔で返してきた。
「当然よ、操を変な女に渡したくないもの」
「篠崎も、変な女か?」
「その上、不届きな、ね」
 ふっ、と彼女は鼻で笑った。
「操はともかく、栄さんは手籠めにできる女中の一人も欲しいだろ。あれでいて、案外懲りているのか?」
 その実現しそうもない状態を想定した問いに、彼女は再度鼻で笑う。
「懲りた……のならいいけど、そうじゃないわ。外で作ってもらってるの」
「栄さんは昔から女癖が悪かったからな、貴女のお爺様はそれを嫌って7割の株をまだ産まれてもいなかった貴女に遺贈した」
「ええ、会社を相続できる身内が父しかいなかったことをお嘆きになっていたと聞いているわ」
「今の状況を見たら、もっと嘆くだろう。その娘が、弟の恋人を殺害するなんて」
 彼は溜息でもつくかのように呼出煙を吐いた。
「男女が逆なら、マーロン・ブランドの映画の中での息子(「ゴッドファーザー」におけるマイケル・コルレオーネ)か、リアルの息子(クリスチャン・ブランド)だな」
 映画「ゴッドファーザー」においてブランド演じるヴィトー・コルレオーネの息子マイケルは妹コニーの夫カルロ・リッツィをファミリーに対する裏切りの代償として殺し、
現実世界においてブランドの長男クリスチャンは妹シャイアンの恋人ダグ・ドロレットを射殺し、過失致死罪で服役した。
0215あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:20:52.12ID:/mS9TYCP
「今のあんたはまるでマフィアだ。
 いや、マフィアだってこんな理由で殺しはやらない。奴らにとって殺人は面子と利益のために遂行するビジネスだからな」
 グラスを掲げ、あくまで声を荒げないように話をする。
「ムルソーみたいに、『太陽が眩しかったから』殺したんなら、いっそすっきりしてるがね」
「『異邦人』ね、そのカミュとはこのカミュは何の関係もないでしょ」
「結婚させたくなかったから?」
「なくはないわ。でもね、一番に大きな理由は、あの女があの子を汚したからよ」
 それを聞いて、彼は失笑を抑え切れなかった。
「今時、異性と突き合、じゃなかった、付き合ったりはごく普通のことでしょうよ。何をそんな……」
「いいえ、操を誘惑して貞操を汚したことは万死に値するわ」
 さらにくすくすと笑いながら、彼は言葉を返す。
「操が俺のような異常性欲だったら、あんたは一つの町が消えるぐらいの数の女を殺さなきゃいけなかっただろうね」
「あなたはカサノヴァというより、ドンファンね。
 気をつけないと足元を掬われるわよ」
「ははは、わかったよ。
 だが、あんたは操を愛してるようで、その実、操の人格を認めていない。
 彼は自分の意思で篠崎を選んだんだ。これは何度でも言わせてもらうぞ」
「そうだとしても、と言ってるの」
「そうだとしても、どうする?」
 畳み掛けるかのように問いかける。
「あんたは、篠崎を殺した時点で詰んだんだよ」
「要領を得ないことを仰るのね」
「どうしてか知りたけりゃ、本人に聞け。今、厚重の本社にいる」
「それを伝えに?」
「そうだ」
「ありがとう、失礼させてもらうわね」
 軽く頭を下げると、彼女はそのまま部屋から去っていった。
 後には、清次が一人残されている。
 彼は、吸い止しの葉巻に戻り、一吹かしすると、誰に語るでもなく呟いた。



「生徒会の執行部に任期の途中で欠員が出たら、どうなるんだろうな」
0216あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:22:24.84ID:/mS9TYCP
 社主室では灯りを燈していなかったが、月光が差し込み、そこにいる者の表情が判るほどに明るかった。
 重厚な木製の扉が開き、音を立てて閉ざされる。
「来たんだね」
 デスクチェアに座っている操の視線の先には、彼の実の姉がいた。
「ええ、操のいるところならどこへでも」
 氷のように冷たいその視線に、翼は穏やかに微笑む。
 皮肉を込めて、彼は傍らにあったラジカセを指差す。
「純日本人なのにストーカーみたいだな、『北の国から』を掛けようか?」
 彼女の妄執――少なくとも彼は「妄執」と捉えている――を、某ストーカー殺人を例示してそれに準える。
「でも、私は捕まらなかったでしょ? あんなフィリピン人ハーフの学歴詐称男とは土台出来が違うのよ」
 いよいよもって彼女は安らいだ笑顔になっていった。
 それがまた、彼の苛立ちを掻き立てていた。
 だが、それもあと少しと思い直し、喚きたてることは我慢できた。
「ああ、今の今まで散々に思い知らされたよ」
「それで、どう?」
「どうって、何が?」
「お姉ちゃんを受け入れる決心、ついたかしら?」
「ああ、そのことか」
 納得がいった彼は、僅かににやりとする。
 机上にあった水入りのグラスを取り寄せ、忍び持っていた茶色の小瓶を取り出す。
 白い粉末が、水の中に落ちてゆく。

「これが俺の、答えだ」

 その毒杯を、彼は一気に乾した。

「う、ぐっ……!」

 昏倒し、椅子から崩れ落ちる。
 翼はその様子を満足気に見つめていた。
 一頻り彼の死相を眺めると、彼女は両掌を打った。

「さて、私も逝かなくちゃね」

 やにわに短刀を取り出し、着衣のままその切っ先を自身に向けた。
 それを、一気に胸に突き立てる。
 夥しい血が流れ、服を緋色に染める。
 彼女もまた、その場に斃れ込んだ。
 やがて、意識は遠のき、今生からの出立を迎えるのだった。


「……み、さお…………」


 ただ、その貌は、あくまで安らかであった。



「愛、してる……………………………………………………………………」
0217広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/10/24(木) 17:29:12.29ID:/mS9TYCP
以上です。

この話は一応これで完結となります。
昨年よりのご清覧ありがとうございました。

>>207
GJです。
環境の変化がどのように姉弟の関係に影響を与えるか、興味深いものです。

なお、ウィキを更新してくださった方のお手間にも感謝いたします。
0218名無しさん@ピンキー2013/10/24(木) 23:42:00.59ID:MjCjLGx8
完結GJ
姉弟で死んでまったか…
弟が死んでも取り乱さないキモ姉は珍しい
0220 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/04(月) 23:34:54.77ID:CJ92gqF5
>217
長編お疲れ様でした。
姉の愛の深さに驚嘆しました。
もし次回作があるなら期待しています。

投下します。
0221パンドーラー6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/04(月) 23:36:10.41ID:CJ92gqF5
「―――昨日の小テスト―――」
「いや―――でもあれは―――」

マキは壁に耳を当て、隣部屋の音を盗み聞きしていた。
隣はトシヤの私室だ。
防音設備はある程度とられているものの、壁に耳を当てれば声が聞こえるくらいにはなる。

どうやらトシヤは電話の最中のようだ。

「(相手は誰?やっぱり紅保ユリコかしら…)」

マキはトシヤとユリコの仲が、気が気ではなかった。

「(どうしよう、どうしよう…。あの二人が付き合ったら…。嫌!そんなの絶対嫌!!)」

気付くとトシヤは電話を終えていた。
―――静かである。
どうやら眠りに入ったようだ。

「はあはあ…」

マキはどこからともなくアルバムを取り出した。
二人がまだ幼かった頃に撮られたものである。
そして、まだ洗ってないトシヤのシャツを取り出し、口に咥えながらオナニーを始めた。

「(トシヤ…トシヤぁ…)」

最近はトシヤの洗い物を部屋にまで持ち込むようになってきた。
そうなると、どういうことになるのか…。
トシヤにバレる危険が一層増すのだ。
しかし、マキはそれすらも快楽のスパイスにしていた。

写真に写る笑顔のトシヤ。

「(ゴメンね、ゴメンね―――)」

マキは心では謝りながらも、手を緩めない。
下着に突っ込まれた右手は自身の敏感な部分に触れて激しく動いていた。
左手は胸の突起をねじりつね上げる。

「―――!―――!!―――!!!」

声にならない快感を味わい、果てた。
0222パンドーラー6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/04(月) 23:37:07.96ID:CJ92gqF5
時期は秋から冬へ移りゆく季節だ。
中学三年生ともなると、高校受験に向けて勉強に励む者が多くなってきた。

「(また…やっちゃった…)」

登校中、マキは険しい顔をしていた。

「(勉強…出来なかったな…)」

夜はオナニーに明け暮れて、翌朝、後悔することが毎日のように続いていた。
そして自己嫌悪に陥るのだ。

「(私達、なんで―――姉弟なの?)」

その問いに答えられる者などいるはずもない。



マキが悶々としたまま時間は午後に移った。
この日のホームルームは下期の委員会決めのようだ。
全く興味がなかったマキは適当に決めることにした。
誰も名前を書いていない箇所が一つ。
人気がない図書委員だ。
本の貸出しの受付をやらなければいけないので誰もやりたがらないのだ。

「(家じゃ勉強にならないし…、いっそ図書室で受付しながら勉強するのもいいかもね)」

ホームルームの終わり頃になり、一通り決まったようだった。
男子の図書委員は―――

「やあ。初めまして」
「ええ、短い間だけどよろしく」
「えっと…たしか弟がいたよね?トシヤっていう…」
「いるけど?」
「部活で一緒だったからさ。あと最近は妹とも仲がいいみたいだから」

ふと、黒板に書かれた名前を見ると“紅保ユウイチ”とあった。

「(こいつ…あの紅保ユリコの兄か…)ああ、ユリコちゃんのお兄さんだったのね。」
「あ、やっとわかってくれた。トシヤにお姉さんがいるってこの間知ったからさ―――」

マキはこいつを利用してやろうと思った。
ユリコの情報を得るために…。
0223パンドーラー6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/04(月) 23:38:36.39ID:CJ92gqF5
早速今日から受付をやるはめになった二人は、図書室にいた。

「向田さんはなんでこの委員にしたの?」
「適当にやったから」
「適当って…まあ俺もそんな感じだけど」
「受験前に委員会の仕事を押し付けるって何様かしらね」

そういいながら参考書を広げるマキ。
とりあえず遅れてる分は挽回しなければならない。

「じゃあ俺も、っと…」

ユウイチも同じようにしていた。
案外真面目なんだろうか…?

しばらくはシャープペンの音が図書室内に響いていた。

「ねえ、ユリコちゃんのことで聞きたいんだけど?」
「うん?」

ノートに向かったまま、マキは聞いた。
ユウイチも顔を上げずに答えた。

「うちのトシヤのことが好きなのかな…?」
「うーん………え?!」

思わず顔を上げたユウイチ。

「そう…なのかな…?仲が良いだけに思えるけど」
「だっていつも一緒じゃないの」

マキは顔を上げずに言った。
ユウイチはしばらく考え込んだ。
0224パンドーラー6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/04(月) 23:39:22.01ID:CJ92gqF5
「うん…、うん、そうかもね」
「なんか煮え切らないようだけど…」
「正直、ユリコのことってよくわからないんだよね」
「兄妹なのに?」

そう言ってマキは自分もそうじゃないかと心中で戒めた。

「顔は可愛いし、態度も親切丁寧だけど…、何を考えてるのかわからないことがあるんだ」
「そういえば…」

マキが実際に言葉を交わしたのは数回だけだったが、掴み所がないように思えた。

「最近は向田さんのことも話したかな」
「私?」
「うん、なんかいい人そうだって…」
「………」

なんなのよ、あの女…。

「紅保君はトシヤとは仲が良い?」
「部活中は結構話したけど、引退してからはあまり話さないかな」
「ふーん…。あとで言っておくわ。紅保君が寂しがってるって」
「まあよろしく」
「(それにしてもユリコは何が狙いなの?)」

マキは紅保ユリコの行動は明らかに何らかの意思があると確信していた。
そう感じたのは、理屈めいた証拠よりも―――女の勘がそう告げていたのだ。

キーンコーンカーンコーン―――

いつのまにか下校時刻のベルが鳴っていた。
0225パンドーラー6 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/04(月) 23:40:09.14ID:CJ92gqF5
午後七時。
マキとトシヤは夕食を囲んでいた。
父親はまた出張のようだ。

「今日、あんたの先輩に会ったのよ。ユリコちゃんのお兄さんに」
「紅保先輩?」
「最近つれないってぼやいてたからさ」
「上級生の人って、引退しちゃうと会う機会ないんだよね」
「そこで話題になったんだけど、ユリコちゃんってどんな娘?」
「うーん。聞かれてみると…よくわかんないや。紅保先輩もわからないって?」
「ええ、可愛いとか言ってたからシスコンかって思ったわ」
「まあ実際可愛いからね…」
「そうね…」

可愛い―――か。
トシヤのその言葉に少なからずショックを受けたマキだった。

とりあえずは、紅保ユリコにトシヤを渡さないようにすること。
それが目標だった。
0226 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/04(月) 23:41:05.37ID:CJ92gqF5
投下終了です。
0229名無しさん@ピンキー2013/11/11(月) 15:10:48.90ID:Zq783K4y
「愛さえあれば結婚できなくたって幸せになれるよ」とか「障害のある子が生まれたって私たちが一生懸命育てれば幸せにできる」とか、一見いいこと言ってるっぽいんだけど確実に兄を洗脳しに掛かってるキモウトが出てくる話ってどれだっけ?探してるんだけど見つからない
0230名無しさん@ピンキー2013/11/11(月) 17:20:19.28ID:VdSbfZke
「姉妹間作戦」の後ろの方でそんなこと言ってたような。
0231広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/11/25(月) 17:19:59.64ID:j6wrbbao
>>226
GJです。
新キャラも出てきて、ますますこれからの展開が楽しみです。

それでは、短いですが、投下させていただきます。
0232幕間 Bet ◆3AtYOpAcmY 2013/11/25(月) 17:22:38.59ID:j6wrbbao
 帝都の片隅に、夜霧に潜むように存在する一軒のバーがある。
 酒井由貴乃は、とある気心の知れた知己に呼ばれ、会いにきていた。
「翼さん。来ました」
「ええ、ご足労ね」
 由貴乃に合わせ、目的の人物である半川翼が軽く会釈する。
「久しぶりですね。このところ、兄の周辺も特に目立った動きはありませんでしたから」
「そうね、学校でも相変わらずってとこね。操もそれは一緒よ」
「それで翼さん、ご用って何ですか?」
 訊かれた彼女は、一呼吸の間の後に答えた。
「淳良さんが帰国するそうよ」
「そうですか、いよいよ彼も年貢の納め時なんですね」
 苦笑いするかのように、語る。
「あと、私自身も決意したことがあるわ」
 興をさかせる翼の口調に、由貴乃は答えを促した。
「何ですか」
 先程よりやや長い間を置き、彼女は徐に切り出した。
「篠崎亜由美を殺すことにしたわ」
 一転して、張り詰めた空気が二人の間に立ち込める。
 少しの間があり、緊張を幾許かほぐさんとするかのように、由貴乃が深く息を吐いた。
「操先輩は立ち直れないかもしれませんね」
「ええ、そうね」
「翼さんは、それでもいいんですか?」
「それでも操が他の女と一緒に幸せになるのが耐えられないの。
 操には、私だけの操でいてほしいから」
 翼はグラスに残っていた分をすべて飲み干す。
「それより由貴乃ちゃん、あなたこそいいの?
 希一郎くんのそばに、あなた以外の女が居座るなんて」
「それでも、私は兄から笑顔が消えるのが耐えられないんです。
 兄には幸せでいてほしい。笑っていてほしい。
 ……そして、私もその傍にいさせてほしい。
 それだけなんです」
「……そう。頑張って」
「翼さんこそ」
 そう静かに声をかけあい、拳を突き合わせる。
 それから、彼女らはバーから左右に真っ直ぐ広がる道を、反対に去っていった。
0233広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/11/25(月) 17:29:04.03ID:j6wrbbao
以上です。
題の通り、これは次に私が投下する「あなたがいるなら何もいらない」との幕間になります。
作中の時間軸では前日譚になりますが。
それでは、失礼します。
0235 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/30(土) 14:36:30.33ID:Yl0gvPdY
>231
短編GJです。

投下します。
0236パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/30(土) 14:37:31.18ID:Yl0gvPdY
年の瀬が近づく時期。
年内の登校最終日もマキは図書室で当番をしながら勉強に入り浸っていた。
当然隣には男子の図書委員の紅保ユウイチがいた。

何回かの聞き取りにより紅保ユリコについてわかったこと―――

・兄のユウイチと二人暮らし、両親は共働きで全国を駆け回ってるらしい。
・普段から凛としていて近寄りがたい雰囲気を持っている。
・口数は多くもなく、少なくもなく。
・級友達とは学校内での関係に留めていて、プライベートも静かに過ごす。
・成績は優秀。
・男子達に中々人気があり、よく告白されるが付き合うことはしない。
・兄のユウイチに対しても素っ気ない態度らしい。
・ただしトシヤとは周囲よりも親しく会話しているようだ…。

やはりトシヤを狙っているのだろうか…?

「向田さん、もう昼だしそろそろ帰ろうか?」
「―――」
「向田さん?」
「―――えっ?!」
「…どうしたの?」
「ごめんなさい、ちょっと考え事してて」
「もう他の生徒も来ることはないだろうから、戸締りでもして…」

ガラララ―――

「…誰か来たわね」
「はぁ…帰れると思ったのに」

「兄さん」

入って来たのは、紅保ユリコだった。
0237パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/30(土) 14:38:17.04ID:Yl0gvPdY
「お、ユリか?どうした?」
「(妹のことをユリと読んでるのね…)」
「ちょっと探したい本があって―――」
「そうか、何の本だ?」
「いえ、自分で探したいんです。どれが一番役に立つか」
「そ、そうか…」
「そこでお願いなんですが、代わりに夕食の買い出しをしてきてもらってもいいですか?」
「ん、わかったよ」
「たしか、もうすぐ割引セールの時間ですよ?」
「お、不味いな…。ゴメン向田さん。先に帰るわ」
「…了解。年明けは私が先に帰らせてもらうわ」
「じゃ、また来年。良いお年を!!」

そう言って紅保ユウイチは走り去っていった。

「最終日にすいません。少しお邪魔させてもらいます」
「ええ」

紅保ユリコは奥の本棚へ潜り込んでいった。



午後一時を周り、校内から活気が無くなっていった。
グラウンドからも部活動の声は聞こえてこなかった。
年末だから行われていないのだろうか…?

「(トシヤはどうしてるだろうか?)」

問題集に向かいながらマキはそんな事を考えていた。

ふと、目の前に人の気配がして顔を上げる。

「紅保さん?」

紅保ユリコはマキを見下ろしていた。
その眼は―――

「お姉さん…」
「?」
「トシヤ君には申し訳ないですが―――死んでもらいます」
「―――」
0238パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/30(土) 14:39:21.46ID:Yl0gvPdY
突然包丁が現れ、マキに目掛けて突っ込んできた。
椅子に座っていたマキは咄嗟に立ち上がろうとして―――

ガタン!!!

後ろに転んだ。

「ちっ!」

狙いを外した紅保ユリコは受付カウンターを乗り越え、こちらに向かってきた。

「(喉を狙ってた?!!)」

マキは恐怖心で混乱していたが、何とか立ち上がり後ろに下がる。

「誰かぁぁぁ―――!!!」

入り口に向かって大声で叫んでみた、が―――

「誰も、来ませんよ。ほとんどの生徒は下校、教師達は暖かい職員室で
くつろいでいるでしょうからね」
「くっ!!」

図書室の奥へ追い詰められていくマキ。
紅保ユリコは包丁を不気味に光らせながら近づいてきた。

「(包丁…。こっちにも何か武器は?!)」
「残念です。トシヤ君のお姉さんにこんなことをしなければならないなんて…」
「あんた…」

一気に距離を詰めるべく突っ込んできた。
包丁は横腹辺りに構えている。

バン!!!

「ぐっ?!」

突如紅保ユリコは視界が反転し―――
状況が理解できぬまま、身体は本棚に叩き付けられた。
マキは読書用に並べられていた椅子を武器として使い、紅保ユリコをなぎ倒したのだ。
0239パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/30(土) 14:40:15.50ID:Yl0gvPdY
大量の本が降り懸かり、紅保ユリコを埋めていく。
マキは包丁を探した。
さっきの衝撃で遠くへ投げ飛ばされていたようだ。

「ごほっ…」バサバサバサ。

思いの外、ダメージはなかったのか…、紅保ユリコは立ち上がってきた。

「あんた、一体どういうつもり?!何なのよ!!」
「あなたは…兄さんに手を出した…。―――許せない!」
「っ?!!」

その言葉の意味を理解しようとしたところ、またしても紅保ユリコは突撃してきた。

「ぎゃっ?!」

マキに乗りかかるようになり―――首に手を掛けて締め始めた。

「ふぅふぅふぅ―――」
「うぅ、ぐ、い、やぁめ…」

ユリコは淡々と、確実に締め付けた。

「兄さんを汚した、兄さんを誑かした、兄さんを汚した―――」

壊れたオーディオのように繰り返すユリコ。
マキの視界は暗くなっていった。

「(もう…意識が…トシヤ―――)」
0240パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/30(土) 14:41:06.07ID:Yl0gvPdY
〜♪〜♪〜♪

その刹那、携帯が鳴りだし図書室内に響き渡った。

「兄さんっ?!」

どうやらユリコの物のようだ。
素早くマキから降りた彼女は自分のバッグに向かって走って行った。

「ガハッ―――ひゅー、ひゅー」

マキは急いで呼吸を整える。

「ええ―――その野菜は―――」

何とか立ち上がり、ユリコを見つめる。
彼女は兄との通話に嬉しそうに顔を綻ばせていた。

「(やっぱり…あの子も…)」

マキは確信した。
ユリコも同類なのだ、と。
しかし、分からないことが、まだ…。

ピッ!

通話を終えたユリコがこっちに戻ってきた。

「―――今日は見逃します。ですが今度兄さんに手を出したら…」
「待ちなさい。私は…あなたのお兄さんとは何もないわ」
「…へ?」

間の抜けた声を出すユリコ。

「でも…トシヤ君がそう言って…」
「なら、あなただってトシヤのことを好きなんじゃ―――」
「…!―――違いますよ。彼は…私と兄さんのキューピッドなんです」

顔を愉悦に歪めて語り始めたユリコ。
マキは自分以上のおぞましさを目の前の女に感じていた―――。
0241 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/11/30(土) 14:45:38.55ID:Yl0gvPdY
投下終了です。
0244広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/12/01(日) 17:28:25.31ID:011UbRL5
>>241
GJです。
ユリコもキモウトだったのですね。
私自身のキャラクターにしてもそうですが、同属同士、引き寄せられるものがあるのでしょうかね。

それでは、予告していた「あなたがいるなら何もいらない」を投下させていただきます。
この作品は上中下に分かれています。
0245上篇 Cena ◆3AtYOpAcmY 2013/12/01(日) 17:32:07.70ID:011UbRL5
※……この話は架空のものであり、実在する人物、団体、事件、国家などとは一切関係ありません。
また、作中において、現在施行されている実際の法制度とは違う点がありますので、ご注意ください。



 ボリビアはラパス近郊にあるエルアルト国際空港にジェット機が降り立ったのは、現地時間で午後2時頃のことだった。
 とはいえ、この空港は4000メートル以上と世界最高の標高に位置しており、折悪しくその日は一段と冷え込んでいた。
「寒いね」
 タラップを降りつつ、酒井希一郎(さかい きいちろう)は傍らにいた、幼馴染であり、恋人である長野和奈(ながの かずな)に声をかける。
「寒いね。息が白い」
 希一郎が言われて息を吐き出してみると、確かに白い。
「だから」
 と、和奈は彼の手を取った。
「車に着くまで、暖めてあげる」


 アルゼンチンに生まれ、中南米を股に掛けて活躍した革命家エルネスト "エル・チェ" ゲバラが戦死した国、ボリビア。
 キューバのカストロ議長、ニカラグアのオルテガ兄弟、エクアドルのコレア博士などラテンアメリカ諸国に多くみられるように、ここでも「21世紀の社会主義」を標榜する指導者が国家を率いていた。
 同時に豊かな天然資源を持ちつつもそれを活用しきれず、現在に至るまで貧しいままの国である。
 そのような状況を打破すべく、この国の現大統領は鉱産物の生産に力を注ぐ方針であり、左派政権でありつつも先進国の資本や技術の導入に大きな理解を示していた。
 その筆頭として挙げられる重要なパートナーが、酒井家の営む大陸鉱業であった。
 大陸鉱業は幅広く鉱産資源・エネルギー資源の探鉱、採掘から加工、輸送、販売までを手掛ける日本最大の鉱業会社である。
 その手広さは、厚木重工業が「ETCからICBMまで」と言われるのに倣って、大陸鉱業は「リチウムからウランまで」「水素(石油、ガスなど)からウランまで」「元素表のコンプリーター」などと呼ばれていることにも窺える。
 同時に、4大鉱業メジャーの中で唯一の非英国系企業(アングロ・アメリカンはイギリス、BHPビリトンとリオ・ティントは英豪)であることから、米英とギクシャクすることの多い国とも付き合いが深い。
 また、日本企業らしい技術力の高さも強く評価されており、資源国家としてはこれほどのパートナーは他に存在しないといってもよい最良の相手であった。
 だからこそ、この南米の国の首都(憲法では首都はスクレとされているが、ラパスは立法府・行政府が置かれている事実上の首都である)まで希一郎は来たのである。


 乏しいとはいえ、蛇のようにクネクネと伸びている高速道路を下って見えてきた首都圏には近代的な高層ビルも立ち並び、この国の発展が萌芽しようとしているのが見て取れた。
 市内に入り、送迎サービスがアルセ通りに面したホテルに到着する。
 ドアマンがドアを開いた。
 希一郎と和奈は車から荷物を持って降り、フロントに向かう。
「I'd like to check in. My name is Kiichiro Sakai.」(チェックインをお願いします。酒井希一郎です)
「Did you reserved?」(予約されましたか)
「Yes, I did. This is a confirmation slip.」(はい。これが予約確認書です)
 ……といった具合に、彼は滞りなくチェックインを済ませた。
 そのままベルボーイに荷物を預け、部屋へと向かう。
「ここの最上階のレストランは、眺めが良いらしいね」
「じゃあ、今夜は夜景を楽しめそうね」
 部屋に着き、ボーイにチップを渡して下がらせる。

 入ろうとすると、二人に声をかけてくる者がいた。
「ディナーを楽しむのもいいけど、ビジネスもお忘れのないようにね」
0246上篇 Cena ◆3AtYOpAcmY 2013/12/01(日) 17:32:48.15ID:011UbRL5
 そこにいたのは、希一郎の妹、酒井由貴乃(さかい ゆきの)であった。
 フランネルでできたベージュのスカートスーツに身を包み、胸にはカメリアのコサージュをつけている。
「その分だと、今終えてきたんだね」
 何気なく言葉をかける彼とは対照的に、和奈は彼女の登場に驚いていた。
「えっ、由貴乃ちゃん、何でここに……?」
「私もボリビアでの資源開発には携わっているんですよ、和奈さん」
「ということだ、ここでのプロジェクトで契約に漕ぎ着けるまでのほとんどをやってくれたんだ」
「あとは兄さんがサインすれば成立よ。今夜の眺望と同じくらい、事業の見通しも良くしておかなくちゃ」
「由貴乃もレストランに行くの?」
「ええ、ご一緒させてもらいましょうか?」
 意外だというような表情の希一郎に対し、和奈は乗り気である。
「いいね、由貴乃ちゃんも一緒に食べよう!」
「ありがとうございます、和奈さん。それじゃ、着替えてきますね」
 そう言うと、彼女は希一郎と和奈が泊まる部屋の隣に入っていった。


 ある程度の時間を経て、由貴乃が出てきた。
 オペラパンプスとケリーバッグ、そしてコサージュは変わっていないが、服は紫色のカクテルドレスに着替えている。
 ノースリーブ、オフショルダーのドレスの下に隠されている胸がぺったんこなのが惜しいが、それでも不思議と様になっていた。
「わぁ、綺麗……」
「ふふっ、ありがとうございます、和奈さん」
「じゃあ、行こうか。和奈、由貴乃」
「ええ」
「行きましょう」


 最上階のレストランで、3人は前菜をつついていた。
「和奈さんがこっちにいらっしゃるとは意外でした」
 ハムを飲み込むと、希一郎がそれに応じた。
「ああ、それはね……」

 * * * * *

 某月某日、ホテル ザ・カッツ・リールトン東京で開かれた日本産業連盟(日産連)の懇談会の後、300人以上の理事のうち仲の良い者同士でバーを借り切って、酒や煙草を味わい、寛いでいた。

「AOP(アジア大洋州経済連携協定)は亀谷くんが主席交渉官だそうだ」
「それは良かった、あいつは話の分かるやつだ」
「IS条項がどうなるかだな、上手くいけば国防費の1%枠も取っ払える」
「そうなれば、火器や軍艦、戦闘機だけじゃなくてバイオ兵器、軍用ロボットやパワードスーツも充実させられるな」

 話題は、政治経済の話から、

「今度の月10、また柔力藤枝が主役らしいぞ」
「で、また主題歌もあいつだろ」
「ミュージックターミナルで歌った時のあれは酷かったよな、もう放送事故レベル」
「でもウチのCMに出た時、枕させてもらったが、アッチは良かったぞ。
 メスカーが必死にゴリ押ししてるって悪評高いけど、案外ソッチで気に入られてるんじゃないのかな」

 エンターテイメント、果ては夜らしい下半身の話題まで。

「柔力には私のムスコもお世話になりましたが」
 そんな話題に、未成年でありながら父親の代理として参加してアップマンを燻らせていた清次が加わった。
0247上篇 Cena ◆3AtYOpAcmY 2013/12/01(日) 17:35:06.36ID:011UbRL5
「しかし、性上納、じゃなかった、枕営業を受けるなら、やっぱ外国でやりたいですよ」
「外国というと?」
「うちが展開を広げてる欧州とかですよ」
「あっちのショービジネスの女性と楽しんでるわけか」
「そ。パツキンでパイオツカイデーのチャンネーとコーマンしてるんス」
 業界用語のオンパレードに、さすがに横にいた酒井忠希(さかい ただき)が窘めた。
「態々そんな言葉を使う必要もあるまい。同じことを言っていても、言葉の選び方ひとつでずいぶん印象が変わるもんだよ」
「失礼しました、忠希さん。謝罪文でもお書きしましょうか」
「どこかのお笑い番組の総合演出のような謝罪文だろう、どうせ。そんなのいらんよ」
「そうですか。
 それで、どうですか。今度、紺碧海岸(コートダジュール)でパーティーを開きますが、貴方や希一郎くんも参加しませんか」
「私は遠慮しておく」
「それでは、希一郎くんの分だけを用意しておきましょう」
「息子が投宿するホテルくらい、私が用意するさ」
「なら、僕らの使うホテルを教えますから、そこからそう遠くないところに泊まらせてくださいよ」
「ああ、いいよ。そのパーティーとやらに参加するかどうかは希一郎が決めるが」
「じゃ、決まりですね」
 と何故か得意気だ。
「そうそう半川さん」
 と、忠希と反対側に座っていた半川栄に話しかけた。
「この前話していた養子縁組の件なんですけどね……」
 栄は、子供に先立たれて以来、養子の口を探し回っていた。
 それこそ、清次のような、歳も充分に食っていない、その上ヤクザな気質のある男にまで仲立ちを頼む程に。
『この小僧は酒井に乱痴気騒ぎのことを話したその口で私に養子話を持ち掛ける。何て奴だ』
 聞く側の栄は愉快には思っていなかった。
「……塩小路さんの三男とか糸永さんの次男とか当てを探してみますし、何なら……」
「うん……、ああ……、そうだな……」
 愉快には思っていなかったが、相槌を打って聞いていた。

 * * * * *

「……という具合に売り言葉に買い言葉でフランスでの休暇を与えられてね。
 せっかくだから和奈もと思って」
 訳を希一郎が説明し終わった頃には、3人はスープを乾し、ムニエルにかかっていた。
「で、兄さんは参加するの?」
 気分を悪くした風でもなく、彼女は自分の兄に聞く。
「まさか。それにかこつけて2人でバカンスを楽しみたいだけだよ。
 婚前旅行にもなってちょうどいいだろう、と」
「フランスに直接行くから、ボリビアにもついてきてもらおうと、希一郎が提案してね」
「ま、いいわ。夫人同士の交流も重要な儀礼だし、その準備体操だと思っておくから」
「サミットの夫人外交とかが象徴的だよね。
 由貴乃も早く同伴する相手が見つかるといいね」
「それは兄さんじゃなくて私が大陸鉱業の頂点に立つ可能性を想定している、そう受け止めていいのかしら?」
 口にする話題とは裏腹に、兄妹ともに口ぶりは気楽なものだった。
「クーデターでも起こすのかい? この国の大佐殿みたいに」
 軽口の次に、綺麗に切ったローストビーフの欠片を口にする。
 それを受けた台詞もまた、どこかの防衛官僚が居酒屋で新聞記者と懇談しているかの如くに軽やかである。
「これから犯す前に犯しますよと言いますか」
「更迭されたいの、由貴乃?」
「冗談よ」
「まあ、口は災いの元だよ」
「ふふっ、気を付けるわ」
 兄さんに迷惑をかけないように、と言葉を添え、桃のムースにガルニとして乗っていたミントをデザートスプーンで掬った。
0248上篇 Cena ◆3AtYOpAcmY 2013/12/01(日) 17:35:48.39ID:011UbRL5
 部屋に戻り、和奈が自分の恋人にとりとめなく話しかける。
「由貴乃ちゃん、すごく頑張っているんだね」
「そうだね。まあ、さっきの話からも分かる通り、いつ寝首を掻くか分からないという欠点はあるけど」
「もう、そんなこと言っちゃだめ。家族のために一生懸命にやってるじゃない」
「兄弟は他人の始まり、というけどね。
 まあ、一生懸命にやってきたからこそ、その成果を自分のものにしたいというのは、人の情としてわかるよ」
「希一郎?」
「もし由貴乃が僕を放擲するなら、僕は抗わずに大陸鉱業を去ろうと思う。
 そうなったら、三畳一間の生活になるかもしれないけど、それでも和奈は僕についてきてくれる?」
「石鹸をカタカタさせて、二人で銭湯から帰るのね」
「待たせることになるかもしれないけど」
「希一郎……」
 彼女は恋人の名を囁くように呼び、唇を近づける。
 そのまま重なり合う、和奈の唇と、希一郎の唇。
 舌は入っていないが、それでも十二分に情熱的なものだった。

 その時。
 内線電話が鳴りだした。
「Good evening, this is Kiichiro Sakai.」
「兄さん、ちょっと来てくれる?」
 掛けてきたのは、由貴乃だった。
「用事だね」
「ええ、明日のことでちょっと」
「わかった、すぐ行くよ」
 そう返すと、通話はそのまま切れた。
「ちょっと行ってくるよ。遅くなるかもしれないから、先に寝ていていいよ」
「わかったわ」
 和奈もまた、素直に頷く。
 それを確かめた彼は、部屋を出、隣に向かった。
0252 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/23(月) 12:10:31.79ID:r20G6iJU
>244
GJでした。
妹の活躍?を期待しています。

投下します。
0253パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/23(月) 12:11:41.87ID:r20G6iJU
図書室での一騒動から一時間後。
マキとユリコは繁華街の喫茶店に来ていた。
昼食がまだだったこともあり、軽食を食べながらのお茶会となっていた。

「ふぅ…、あなたがお兄さんを、紅保君を好きだっていうのはわかったわ…」
「好きとか、愛してるとか、この思いは言葉では言い表せませんよ」

今まで延々とユリコの惚気話(と本人は思ってる)を聞かされてきたため、マキは疲労していた。
どうやらこの娘は自分以上に危ない感性の持ち主らしい…。

例を挙げると、

・夕飯に食べたい料理が同じだった…、つまり思ってることが同じで一心同体だということ。
・兄から「ユリコはいい嫁になる」と言われたこと、つまり結婚して添い遂げたいという兄からのプロポーズだということ。
・近所の公園にいる赤ん坊を見て可愛いと言ったこと、つまり子宝に恵まれたいということ。
・兄が二年生の時にノートを借りた相手が女子だったということ、つまり雌猫が兄を狙っているということ(その女子がどうなったかは怖くて聞けなかった)。
・つい最近、兄と同じ委員会になり、色目を使っている泥棒猫がいると聞きつけ排除に
来たこと。つまりマキを始末しに来たということだ。

聞いていて、頭がおかしくなる感覚に襲われたマキ。
逆に、おかしいと疑っている自分がおかしいのか…?
そう錯覚させる迫力がユリコにはあった。

「それで、トシヤがキューピッドとかいう話は…?」

疲れ果てていたが、肝心なことを聞きださなければならない。
トシヤとユリコの関係がいまいち見えてこないからだ。
0254パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/23(月) 12:12:54.19ID:r20G6iJU
「はい、つい一年前のことです。兄さんはその頃は部活に打ち込んでいました。
家に帰るのも遅く、私は一人ぼっちになることが多かったのです…」
「それで?」
「もしかしたら兄さんは私のことを見限ってしまったのではないか、と疑心暗鬼になりました。
兄さんのことを信用しなければならなかったのですが、一度疑い出すと後は止まらなくなります」
「…!」

マキはその辺りは共感できた。
実際に一時間前まで目の前のユリコとトシヤの関係を疑っていたのは他でもない自分だ。

「それからは不安と恐怖の日々でした…。兄さんが私を置いていなくなる、
何処か知らない場所で別の雌猫に誑かされてる、その脅迫観念が次第に大きくなり…
ついには兄さんと心中しようと決意するまでに追い詰められていました」
「(いや…それはどうなのよ…)」
「そんなときにトシヤ君が掛けてくれた言葉に救われたんです」
「トシヤは何を言ったの?」
「「紅保先輩はいつもユリコちゃんのことを心配しているよ」って…。
そのときに、ああやっぱり私は兄さんに愛されてるんだなぁって感じました」
「ああ、そう…(この娘…馬鹿なんじゃないかしら…)」
「ところで、お姉さんはトシヤ君のことを愛してるんですか?」
「―――?!」

しまった!
そう思った時には遅かった―――
0255パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/23(月) 12:13:33.48ID:r20G6iJU
「隠そうとしてたんですね。でも態度を見てればわかりますよ、
私の兄さんを想う気持ちと似たようなものを感じましたからね」
「…どうする気よ、トシヤにでもバラす?」

すでにお互いに肉体関係を持っていながら、謝罪をし、普通の姉弟として
暮らすという誓いをしたマキ。
未だに未練や痴情を持っていることがわかれば―――

「ふふ、ふふふふふ…」
「―――そんなにおかしい?弟に発情する姉なんて滑稽に映るでしょうね…」
「いえ、失礼しました。別に馬鹿にしたわけじゃありません。謝ります」
「………」
「トシヤ君にバラす気はありませんよ、安心してください。でも何だかお姉さんが可愛らしく見えて…」
「どういうこと?」
「自分の想いに気付きながら、それを悩む姿が何だか…。
私はどんな手を使っても兄さんを手に入れるつもりですから。
その違いがなんだかおかしくて…」
「あなたはいいわね、決断できて…」
「事情は聞きませんが…、私達は協力できると思いませんか?」
「…情報交換をするということ?」
「それだけではありません。私達が兄さんやトシヤ君についていれば、
他の雌猫も寄ってこないと思います」
「考えはいいわね…」

しかし―――さっきまで自分に殺意を抱いていた娘だ。
信用できるかといえば…。

「とりあえず今日はここまでに。いい返事をお待ちしてますよ」

それでお茶会はお開きになった。
0256パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/23(月) 12:16:23.98ID:r20G6iJU
一方のトシヤも繁華街にいた。
部活仲間と忘年会と称した遊びに付き合い、カラオケを締めに解散して帰路に就いていた。
時刻は夕方の5時過ぎ。
辺りは暗くなり、ネオンのけばけばしい明かりが目に付いた。

「(まずいなぁ…、早く帰らないとマキ姉さんが心配すr)」

ドカっ!!

「キャッ!」
「うわっ!」

トシヤは突然現れた人影にぶつかり体勢を崩した。

「ととっ…」

何とか倒れずに踏ん張りきる。

「ご、ご、ごめんなさい…大丈夫ですか…?」
「あ、あぁ平気だから…」

ぶつかったのは同じ中学に通う女子のようだ。
女子の着ている制服でトシヤはそう判断した。

「えっと…同じ学校だよね…?」
「え、あ…はい、そうですね」
「こっちこそごめん。考え事してたからさ」
「いえ、悪いのは私です…。よく見ていなかったですし…」
「俺が言うのもなんだけど、早めに帰ったほうがいいよ。
この辺りは暗くなるとあまり安全ではないからさ」
「ちょうど帰るところです…。駅まで歩いて行こうと…」
「俺も駅まで向かうところだからさ、お詫びにエスコートするよ」
「…ありがとうございます」
「俺は向田トシヤ、2年2組」
「私は柚谷ミコトと言います…。3年1組です…」
「あ、先輩だったんだ…。じゃあこっちが敬語を使わなきゃ―――いけませんね」
「クス、言いやすいほうでいいよ…」
「じゃあお言葉に甘えて…」

駅までの道中、二人はお互いの自己紹介をし、また会う約束をして別れた。
0257パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/23(月) 12:17:30.29ID:r20G6iJU
「ただいまー」
「お帰り、遅かったわね」
「部活の皆と遊んでた」
「ご飯出来てるから早く着替えてきなさい」
「へーい」

帰宅したトシヤは浮かれていた。
お年頃な時期だけに女子との会話は弾むものがあるのだ。
ユリコとの会話はどこかドライな感じがあった。
しかし、今日知り合った先輩、柚谷ミコトは母性的な一面があり、
母親をほとんど知らないトシヤには魅力的に思えたのだ。

「そういえば今日の帰り、ユリコちゃんと会ってね」
「うん」
「あんたの言葉に励まされたって言ってたけど…、どんな状況だったの?」
「励まされた…?うーん、よく覚えてないなぁ」
「ユリコちゃんが落ち込んでた時期ってなかった?」
「―――あ!紅保先輩が妹の元気がないって言っててさ、多分その時だよ。
でも何話したっけなぁ…」
「ふーん、とりあえずわかったわ。さ、ご飯にしましょ」



「トシヤ君…。クス♪」

トシヤと柚谷ミコトとの出会いは偶然では無かった―――
0258 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/23(月) 12:18:31.96ID:r20G6iJU
投下終了です。
0262広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/12/25(水) 21:05:17.58ID:2PMH39xR
>>258
GJです。
泥棒猫かと思ったらさらにハイレベルなキモ姉妹だったんですね。

それでは、前回の続きを投下させていただきます。
0263中篇 Choque ◆3AtYOpAcmY 2013/12/25(水) 21:09:35.00ID:2PMH39xR
「おはよう、希一郎」
 彼は和奈によって起こされた。
 昨晩は契約内容について由貴乃からレクチャーを受けていた。
 部屋に戻った時には深夜になっていたため、やはり彼女は先に寝ていた。
 飲みかけのコーヒーは机の上に放置されたあったくらいだから、余程眠かったのだろう。
 しかし、そのおかげで自分の恋人に起こしてもらうという恩恵に浴することができたのは、彼の密かな喜びであった。
「さ、今日は大事な契約の日でしょ。早く起きなきゃ」
 そういって彼の下に寄ってくる彼女は、淹れたてとおぼしきコーヒーが注がれたカップを両手に持っている。
「うん、ありがとう。……って、あれ、それは……?」
 彼は男物のように見えるワイシャツを素肌の上から羽織っていた。
「ん、ああ、ごめんなさい。希一郎のシャツを借りちゃった」
「いや、構わないよ」
 そういって、ソファに座り、彼女に向けて手を差し伸べる。
「じゃ、貰うよ」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
 コーヒーを二人で味わう。
 おもむろに、和奈が話し始める。
「昨日はごめんなさい」
「昨日?」
 話の趣旨が掴めず、疑問を呈する。
「希一郎が帰ってくるまで起きていようと思ったんだけど、急に眠くなっちゃって」
「ああ、何だ、そのこと。
 そんなのいいよ、ちゃんと和奈が睡眠をとることが大事だから」
「それもあるけど、ひょっとして、私と、……その……」
 と急にもじもじする。
「終わったら、……『して』くれるかなって……」
 言い切った彼女は、耳まで赤くなっている。
「ああ、そういうこと」
 対する彼は、合点がいったというような表情である。
「ちゃんと仕事を片付けて、フランスに行ったら、そこで……」
 彼女が肯く。
「ずっと一緒なんだから、焦ることはないよ」
「うん、ずっと一緒」
 どちらともなしに、唇が近づき、そして触れ合う。
 先ほどまでコーヒーを飲んでいたが、その接吻の味は互いにとってとても甘いものだった。


 ホテルの車寄せのところで待つことしばし、大陸鉱業が出した車が到着した。
「由貴乃様、希一郎様、ブエン・ディア」
 ブエン・ディアとは、ボリビア風のスペイン語で、「おはようございます」という意味である。
「ブエン・ディア、黄瀬さん」
「ブエン・ディア」
 彼らとともに向かうのは、由貴乃とともに今まで契約を成立させるために奔走していた男である。
 黄瀬輝一郎(きせ きいちろう)。
 大陸鉱業のラパス支店長であり、ボリビアにおける大陸鉱業の事業と政府の産業政策当局の内情をすべて知り尽くしている男である。

 車内では、後部座席に由貴乃と黄瀬が希一郎を挟む形で座り、主に黄瀬と希一郎で会話していた。
 それは、二人がほとんど初対面であり、また黄瀬と由貴乃は一緒に仕事をしてここ最近でお互いのことをよく知ったから、今更話さなくてもいいということなのかもしれない。
「へえ、黄瀬さんも、『きいちろう』という名前なんですね」
「ええ。漢字は『輝く』に『一郎』で輝一郎ですけど」
「これも何かの縁ですね、これからも末永くうちに勤めてくださいね」
 ほんの少しの間を経て、彼は頷いた。
「ええ」
 無言で、抜け目のない貌で、彼女は言葉を交わす二人を見ていた。
0264中篇 Choque ◆3AtYOpAcmY 2013/12/25(水) 21:19:48.27ID:2PMH39xR
 契約の調印はボリビア資源公社の本社で行われた。
 同社のカルロス・ティテレCEOと大陸鉱業の海外事業の名義上の主任担当役員を務める希一郎の両名が署名する。
「We will serve for you as hard as possible. I am convinced that we will bear fruit by proceeding these projects.」
(あなた方のために精一杯奉仕します。我々がこれらの事業を進めることで大きな果実を得ることを確信していますよ)
 それが終わると、両名で握手する。
「Please take care of these as best you can. I believe you will bring my country richness.」
(これからよろしく。君たちは我が国に豊かさを齎してくれると信じている)
 そして抱擁を交わす。
 その姿は、どこからどう見ても前途洋々たるものに見えた。

 その姿を、黄瀬は能面のような表情で見つめていた。
 彼は、その表情とは裏腹に、ある熱い決意を秘めていた。


 ホテルに戻り、希一郎が和奈とともに出国に向けて荷物をまとめていると、隣室から由貴乃が訪ねてきた。
「今ラパス支店から電話がかかってきたんだけど、面倒なことになったわ」
「面倒? どうしたの?」
「黄瀬の行方が分からないの」
 苛ついているかのような彼女に、困惑の表情で応じた。
「黄瀬さんが? どうして」
「支店の事務所から重要な書類がなくなっているから、何か事件かもしれないわ」
 そう聞いて、彼も顔色がやや険しくなる。
「それはまずいね」
「一緒に来てちょうだい、和奈さんには先にフランスに行ってもらって」
「和奈、いい?」
 至極当然と彼女も首を振る。
「わかったわ」
「終わったら、すぐに僕もそっちに行くから」
 そのやり取りを眺めやり、由貴乃は密かにニヤリと笑った。


 支店の事務所に着いた時、社員が慌てた様子で兄妹のもとに駆け寄ってくる。
「希一郎様、由貴乃様、テレビをご覧になりましたか!?」
「見てないけど、どうしたの?」
「マドリード行きのボリビアーナ航空(BoA)が墜落して多数の死傷者が出ました。その搭乗者リストの中には、支店長の名前があったんです」
「えっ……」
 絶句する希一郎。対照的に、由貴乃は冷静に続きを促す。
「それで、BoAに連絡はとったの?」
「はい。今乗客の生死を確認中だとのことです」
「そう、なら吉報を待つしかないわね。
 テレビを点けてくれる?」
 指図に従い、その社員は電源を点ける。
 画面には、国籍別の搭乗者数が映し出されていた。
 ボリビア人41名、スペイン人22名、アメリカ人8名、ポルトガル人5名、ドイツ人4名、フランス人3名……。
 それらに続いて出てきたのは、日本人2名という表示。
0265中篇 Choque ◆3AtYOpAcmY 2013/12/25(水) 21:22:02.13ID:2PMH39xR
(黄瀬さんの奥さんか誰かかな)
 画面がスタジオでニュースを伝えているアナウンサーに切り替わった時、電話がかかってきた。
「Aló!」(もしもし!)
 取ったのは由貴乃だった。
「〜〜〜」
 情報を伝えられ、それを確認すると、手早く受話器を置いた。
「黄瀬の女房から電話が来たわ。
 バラハス空港からサン=テグジュペリ空港へのイベリア航空のチケットを買ってたみたい」
「黄瀬さんは何でそんなことを……?」
「リヨンはICPO(国際刑事警察機構)の本部があるから、おそらく内部告発でもするつもりだったんじゃないかしら」
「な……」
「もしそうなら、書類がなくなっていたのも辻褄が合うわね。
 他の人たちには悪いけど、死んでくれてラッキーだったわ」
 二人とも、込められた意味は違うが揃って大きく溜息をつく。
 テレビに目を戻すと、これまでに死亡が確認された乗客が発表されるところだった。
 Cecilia Maria Ágreda Guzmánとはじまり、Francisco Jaime Alba Díaz、Cesar Pablo Arce Zapata……とアルファベット順に名前が次々と流れていく。
 そのなかに、Kiichiro Kiseという名前が確認された。
「死んでいたんだね……」
「そうね」
 だが、黄瀬の死が確認されても、彼はそのまま見続けた。それは、嫌な予感がしたからであった。
(黄瀬さんの奥さんは乗ってなかった。じゃあ、もう一人の日本人って……?)
 L、Mと発表があり、なおも続いていた。
 ツツーッと、一筋の汗が彼の頬を流れ落ちる。
 まもなく、Kazuna Naganoという名前が出てきた。
 息を呑む。
「和奈も、これに乗っていたの……?」
 申し訳なさそうに由貴乃が応じた。
「ごめん、黙っていて。まさかこんなことになるなんて……」
 前後して、先の社員が電話を取った。
 何かを確認すると、さっさと通話を切った。
 そうしてその社員は、顔色を窺い、躊躇するかのように二人に伝えた。
「ボリビアーナ航空から今報告が来ました。
 支店長と、長野さん、二人とも死亡が確認されたそうです」
 伝えられて少しの間は、彼は体中を震わせるだけで、何もできなかった。
 十余秒ほどを経て、その場に膝をつき、両掌で顔を覆い、声にならない絶叫をあげる。

「―――――――――――――あああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」
0266広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2013/12/25(水) 21:32:10.20ID:2PMH39xR
今回は以上です。
映画ならここで終幕となるところですが、この話は娘ではなくGFについての物語ですので、もう少し続きます。
下篇がやたら長くなってしまったのが反省すべきところですが。

それでは、メリークリスマス、そして良いお年を。
0268 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/29(日) 22:15:06.26ID:gYr2cXC9
>262
GJでした。下編楽しみにしてます。

1レス短編投下します。
0269END OF PEACE ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/29(日) 22:16:57.53ID:gYr2cXC9
『デデーン!!ザキヤマ、アウト!!』



「毎年恒例だけど、流石に飽きてくるな」
「うぅん…そ、んなことないわぁ…」
「テレビのこと言ってるんだけど?」
「ふー、ふー、ふー」
「―――お前、来年は大学受験だろ?いい歳にもなって恥ずかしくないのか?」
「恥ずかし、いとかぁ…もう考えられないぃ…」
「いい加減兄離れさせる必要があるようだな」
「いや、よぉ…生きていけない…」
「じゃあ、まず膝の上から降りて、受験生らしく勉強してくれよ」
「でもぉ、その前に―――」
「腹減ってるなら年越しそば作るか?」
「は、ふぅ…もうちょっとぉ…」



「ふぅ、ありがとう兄さん。大分肩こりが楽になったわ」
「ん。じゃあ、そばつくるから待っとけ」
「あ、私も手伝う」
「おう、ていうかお前が作れ。年長者にマッサージさせやがって…」
「えぇー、一人じゃ嫌。それに兄さんの揉み方気持ちいいんだもん」
「変な言い方するな。誤解されるだろ」
「一緒に作ってよ、今度は私がマッサージするから」
「お前が?珍しいな、じゃあお願いするよ。」
「うん、頑張るから」

「(ローション、媚薬入りアロマ、手錠、ギャグボール、赤ちゃんが出来やすい薬…。
私、頑張るから)」

除夜の鐘も彼女の煩悩を消すことは出来なかった―――
0270 ◆ZNCm/4s0Dc 2013/12/29(日) 22:17:38.37ID:gYr2cXC9
投下終了です。

良いお年を。
0273広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:48:22.55ID:xfif4/8c
>>270
GJです。季節のネタを盛り込むのは風情を感じますね。
本当なら、私も七種粥などで一篇作れれば作りたかったですが……。

御用始めも過ぎ、人日を迎えた今日、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
それでは、前回の続きを投下します。
0274下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:49:22.05ID:xfif4/8c
 部屋に戻り、希一郎はベッドの上に死んだように倒れた。
 その時、部屋の電話が鳴り響く。
 疲労困憊しつくしていたが、それでも何とか受話器の下に向かう。
「Hello, this is Kiichiro Sakai speaking.」(もしもし、酒井希一郎です)
 手にすると、回線越しにサンドハースト仕込みのクイーンズイングリッシュが聞こえてくる。
『Hi, Kiichiro. Hugo Dictador.』(やあ、希一郎。ウゴ・ディクタドールだ)
 ディクタドールは陸軍に所属していたが、連隊長だった時にクーデターを図って失敗、除隊後に大統領選に出馬して当選し、現在に至るまでその職にあるという経歴の持ち主であった。
 社会主義者ではあり、近隣諸国の反米的な主張に賛同したりしつつも、留学を経験したエリート軍人であった前歴からか、現実的な側面があり、ラディカルな政策からは一線を画している。
 経済界とも融和的であり、あるボリビア財界の大立者は「アカが大統領になって困ったなと思っていたが、案外理解のある奴でよかった」と密語するなど、南米の左翼指導者の中では異色の存在である。
「Thank you for calling all the way to me, señor Presidente. What's happened?」
(わざわざ電話をかけてきてくださってありがとうございます、大統領閣下。どうしましたか?)
『Have you already heard the news?』(ニュースはもう聞いたか?)
「News? Ah, the jet...」(ニュース? ああ、ジェットが…)
 今ニュースはジェット機の墜落事故で持ち切りである。そのことだろうとすぐに合点し、返答しようとした。
 が、その刹那、信じ難い言葉が続いた。
『I shot it down as you ordered.』(言われたとおり撃ち落としたぞ)
 希一郎は言葉が固まった。
『I was terribly distressed when you asked to kill your subordinate.
 But, he intended to accuse me and Continental Mining, didn't he?
 We couldn't leave him alone.
 Thank you for telling. Very helpful!』
(君の部下を殺してくれと頼まれたときはひどく悩んださ。
 でも、彼は私と大陸鉱業を告発しようとしていたんだろ?
 放ってはおけなかっただろうな。教えてくれてありがとう、助かったよ!)
 聞きながら凍り付いていたが、希一郎は気を取り戻した。
 何か情報を引き出さなければならないと気付いたのである。
「Who told you directly?」(直接あなたにお伝えしたのは誰ですか?)
『Don't you know?』(知らないの?)
 ディクタドールは、意外な質問に少し戸惑ったかのような声になったが、すぐに答えた。
『Your sister, Yukino.』(妹さん。由貴乃だ)
「Then she told you our request without a messenger.」(それでは、彼女は使いを立てずに私たちの依頼をあなたに伝えたのですね)
『Yeah. This being important, she didn't want anyone to have to do with this matter.』(ああ、重要なことだから、この問題には誰にも係わってほしくなかったんだろうな)
「I see. I must reward her later.」(わかりました。あとで彼女に褒美をやらなくてはいけませんね)
『Praise your sister. Chao!』(妹さんを褒めてやれよ。じゃあな!)

 切れてから暫し固まっていた希一郎は、自分が次にすべきことが彼の中で定まると、室内の電話に手をかけた。

「褒美をやらなくちゃな」

 国際電話を掛ける。

「逮捕状という褒美を」
0275下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:50:00.04ID:xfif4/8c
 番号を押し、そのための行動に移る。
 メロディが鳴り、ほどなくして、相手が出た。
「希一郎です、お父さん」
 電話の相手は、彼の父親であり、大陸鉱業を率いる酒井忠希であった。
『どうしたんだ、何か不味いことでも起こったか?』
「ええ、とても」
 そこで一呼吸置く。
「由貴乃が(ディクタドール)大統領と謀ってジェット機を撃ち落とさせました」
『ああ、そのようだね。こっちでも事故としてニュースになってるよ』
 彼は、「事故として」の部分を強調する。
「あの中には、黄瀬さんや和奈もいますから、日本の法廷で裁けるはずです」
 日本の刑法では、殺人については消極的属人主義が採用されている。
 つまり日本人が世界のどこで誰に殺されようと、その容疑者は日本の法律によって国外犯として捕縛されるのである。
 だが、忠希の答えは、彼の期待しないものだった。
『そいつぁできんな。由貴乃を捕まえるわけにはいかない』
 ただ、これだけだったら、某IT企業創業者ではないが、希一郎にとっても「想定の範囲内」だったかもしれない。
「膿を出し切っておかなくちゃいけませんよ。
 口封じのためにこんな荒事をやるなんて、多国籍企業に求められている遵法精神に欠けていますよ」
 しかし、それに続く父親の言葉は、彼もさすがに予想していないものだった。
『黄瀬はおまけだろ? あんなケチな奴に告発されたところでどうというわけでもないさ。
 由貴乃は和奈くんを疎んでいたんだろう?』
「……!」
『異性として、由貴乃はお前のことを見ているそうな』
「なっ……!」
『喋られたら困るような部分はみんな由貴乃が受け持ってくれてるし、捕まってもらっても困るんだよ』
「ああ……!」
 驚愕に続いたのは、慨嘆。
『それに、そういう汚れ役をやってくれてたんだから俺らも報いてやらにゃ』
 息子の心中に構わずに、父は話を続ける。
『由貴乃は可哀想な子だ、ずっと汚い仕事を引き受けてるうちに、倫理観が麻痺してしまった。
 多少不道徳でも少しぐらい楽しみを持たせてやりたいんだよ』
「お父さん、正気ですか。『多少』ですって?」
『希一郎、屏風と商売は曲がらにゃ立たぬというだろ。
 5万人の従業員とその家族を養うってのはそういうことさ』
「しかしそれは、き、近親相姦……」
 震える希一郎の声と対照的に、忠希はどこまでも平然としている。
『そんなんどうでもいいから。お前が我慢したら丸く収まるんだ』
 学級内のいじめを揉み消そうとした湖畔の町の某中学教師のようなことまで言い出す始末。
『じゃ、またな』
 と簡便に断ると、彼は通話を終わらせた。
0276下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:50:43.39ID:xfif4/8c
 受話器を放るかのように手荒く戻すと、希一郎は再度ベッドの上に死んだように倒れた。
 そこに、彼の部屋をノックする音がした。
 呼び声はしないので不審に思ったが、ハウスキーパーか何かかもしれないと思い、何とかドアの方に向かう。
「兄さん、御機嫌よう」
 そこにいたのは、いま彼が最も憎んでいる人間だった。
「由貴乃っ……!」
「まあ、怖い顔をなさって」
「怖いのはお前がやったことだよ。今の僕がご機嫌なわけがないだろう」
 親友である操や清次と比べて相当おっとりした性格の希一郎が、これほど荒い言葉遣いになることは皆無であった。
「その分だと、パパにもう電話したのね?」
「そうだよ、お前らが気違い沙汰を起こしたことも聞かされたし、憑き狂ったような提案もされたよ!」
「それで、どうかしら、兄さん。私も兄さんのミサイルで突いてくださる?」
 由貴乃は空気を読まずに下ネタを挟む。
 それに対し、彼は室内にあったナイフに向かう。
 それを掴み、妹のもとに戻る。
「仇討? 後追い?」
 意図を掴みかねているが、それでも声色は楽しそうでさえある。
「後追い、に近いかな」
 その切っ先……ではなく柄を、彼は突き出した。
「これは何ですか、兄さん?」
 きょとんとしている。
「和奈も殺したんだろう!? 僕も殺せ! あれだけの人数を殺したんだ! もう一人殺すくらいわけはないだろう!
 自殺じゃあいつのいる天国には行けないんだ! だから僕も殺せよ!」
 合点がいくとともに、計略の成功を胸中で喜んだ。
 あと一押しと、心を奮い立たせる。
「兄さん、よく聞いて。和奈さんは天国にはいない」
「ふざけるな! お前みたいな人殺しとは違うんだ! 和奈が地獄に行くわけはないだろう!」
「だから、和奈さんは死んでいないんだってば」
「えっ?」
 どこで一瞬時が止まる。
「それは、本当?」
 声の調子は明らかに変わっていた。
「ええ、本当よ。実はあのジェットには和奈さんは乗っていなかったのよ。
 その直前に乗せないようにしておいたから」
「どこにいるんだ? 会わせてくれっ!」
 最早すっかり冷静さを失った希一郎が、由貴乃の両肩をつかんで詰め寄る。
「この街にあるサン・ペドロ刑務所。
 ディクタドールにいい加減な罪名でぶち込んでおくように注文しておいたの。
 当然、私が言えばすぐにでも出られるから、心配しないでね」
「釈放してくれ。会わせてくれ!」
「会わせてもいいんだけど、一つお願いがあるの」
「僕にできることなら何でもする、遠慮なく言ってよ、さあさあ」
「二言ない?」
 どこかいやらしさのこもったような口調で念を押す。
「ないっ!」
「じゃあ、大陸鉱業の株式に関する将来の相続を放棄して」
「わかった」
 間をおかず、承諾した。
「……由貴乃は会社のことを頑張っていたもんね。気持ちはわかるよ」
「というのは冗談よ」
0277下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:51:39.43ID:xfif4/8c
「…………えっ?」
「そんなことをすれば兄さんと大陸鉱業とは何の関係もなくなっちゃうでしょ?
 そうしたら私とも疎遠になってしまう。
 今のは兄さんの覚悟を知りたかっただけ。
 本当はそれよりもっと軽いもの。今すぐにでも用意できるものよ」
「何なんだそれは! 僕にできることなら何でもするから!」
「じゃあ」
 と由貴乃は一呼吸置いた。
「私と、セックスして」
「………………えっ?」
「今、この場で、私とセックスしてほしいと言っているの」
「お、お、お前、自分が何を言っているのかわかっているのか!」
「わかっているわ。
 ……で?」
「由貴乃と僕は兄妹だぞ! それは近親相姦じゃないか!」
 と抗弁する。
 そもそも、先ほど交わした父親との電話の内容を踏まえた上で「何でもする」と言っている以上、当然希一郎はそういうことを予想しなければならなかっただろう。
 だが、清次などと違って、彼はこれまで「近親相姦」ということとは縁もゆかりもなかったから、心のどこかで妹が兄に恋慕の情を抱いているとは信じていなかったのかもしれない。
「わかっている。でもパパに電話した時にわかったでしょう? パパとママは私を咎めない、私が何をしようとね。別に犯罪でもないんだから、あとは兄さんがちょっとくだらない矩を越えるだけ」
「……百歩、いや百万歩譲って近親相姦は有り得るとしよう」
「わかってくれて嬉しい♪」
「でも、不貞は不法行為だ」
「その女性(ひと)のために私のカラダを貪るんですから、疚しいことはないわよ」
「頼む! この通りだ!」
 希一郎は土下座をして由貴乃に乞うた。
「僕は初めてなんだ! 童貞なんだ! お願いだ、愛している人以外とはセックスしたくないんだ!
 何でもするとは言ったけど、それだけは許してくれ!」
 蒼白の希一郎に手を差し伸べるかのように屈み、由貴乃は語りかける。
「兄さん、それは私も同じよ。遊びで躰を重ねたりはしない。
 私も処女を兄さんにあげたくて、そして兄さんの童貞を貰いたくて、こんなことを仕組んだんだから今更引いたりはできない」
「どうしても、駄目か?」
 滂沱たる涙を浮かべた希一郎が、顔を上げ、妹を見上げる。
 だが、答えはあくまで無情だった。
「今すぐ刑務所ごと吹っ飛ばしてもいいんだけど」
 スイッチらしきものを左手に持ち、かざす。
「そうか……」
 とうとう彼も観念した。
「わかったよ。じゃあそっちに行こう」
 とベッドを指した。
(ごめん、和奈、ごめん……)
 心の中で、同じ街にいるはずの恋人に謝りながら。
0278下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:52:57.89ID:xfif4/8c
「うっ……、うっ…………」
 事が終わったベッドで、希一郎は泣き続けていた。
 シーツには、彼らの初めての交合の証が、生々しく残っていた。
「もう、泣かないでよ」
 反対に、由貴乃は、秘部に違和感が残っているにもかかわらず、機嫌が良いのが外見にもわかる。
「当たり前だろ、……はじ、めて、……だったのに、ううっ」
「童貞は捨てるもんじゃなく、捧げるもん、ってね」
 軽口を叩けるほどに。
「お前はどっかの体育教師か」
「でも私は兄さんから恋人を奪わない。
 行きましょう」
「行くって、どこに?」
「今から、和奈さんを釈放してもらうから、迎えに行きましょう」
 その言葉に合点がいった彼は、肯んずる。
「ああ、僕はそのために……」
 言いかけてその言葉を続けるのをやめ、取り繕う。
「とにかく、行こう」
 ベッドから降り、立ち上がった。


 車に乗り、刑務所まで向かう。
 途中、由貴乃がスマートフォンを取り出した。
「兄さん、ちょっと電話させてもらうわね」
「いいよ」
 番号を押し、発信する。
「ああ、私よ。ライブカメラを片付けておいて。それじゃ」
 要件を手短に伝え、切った。
「今の電話は?」
「聞くだけ野暮よ」
 にべもなく説明を拒む。
「さあ、そろそろ見えてきたわよ」
 と、指差した先には、ボリビア最大の監獄、サン・ペドロ刑務所があった。


 門の前で車を降りた。
「いよいよ待望の再会ね」
 他人事のように由貴乃がのたまっても、希一郎は咎める気にはならなかった。
 それほど、逸っていた。
 ギギィ、と音を立てて軋み、門が開いた。
 スーツケースを引いた一人の女が、中から出てきた。

「和奈!」
 見間違えようもない。
 彼の、最愛の恋人。

「希一郎!」
 和奈も彼の姿を認める。
 彼女の、最愛の恋人。

 しかし、見ると、和奈の眼は泣き腫らしたかのように充血していた。
 そう、丁度、希一郎のように。
 そのことに一瞬戸惑いを覚えたが、兎にも角にも彼女に走り寄る。
「良かった、会えて良かった……!」
 爆発的な喜びと感動を飾り気のない言葉で形にする彼女に、希一郎は罪悪感に満ちた顔で話し始めた。
「ごめん、実は、実は……」
 様々な感情が入り混じった涙を浮かべつつ、彼女はその言葉を遮った。
「いいの、何も言わなくていい。大丈夫だから、私たちは何があっても一緒だから……」
0279下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:55:30.45ID:xfif4/8c
 その様子を、由貴乃もまた複雑な表情で見つめていた。
 彼女の脳裏には、幼い日のある一つの記憶が思い浮かんでいた。

 * * * * *

 酒井家の広壮な日本屋敷では、毎年桜が咲く時期に、その庭で花見を行う日を設けている。
 その日は、庭が一般市民にも開放され、様々な屋台が並び、無料で飲み食いや遊びなどを楽しめるので、近隣の家庭は挙って酒井邸を訪れるのである。
 そんな喧噪の中に、この邸宅の主の娘である由貴乃も迷い込んでいた。
 人は砂粒のように多いが、その砂漠の中に、彼女の知る顔はいなかった。
 普段から勝手を知っている使用人たちもいない、家族や友人もいない、そして何より、彼女が何より好きな、兄もいない……
「姫、探しましたぞ!」
 家令が、彼女のもとに駆け寄る。
「上様も御台様もご心配あそばされておいでです。さあ、爺についてきてください」
 その言葉に、彼女は忽ちにして華やいだものとなった。
 ようやく会うことができる――まだ幼い彼女にとってはひどく長い時間に感じられた――と胸を弾ませ、それに応じた。


 母屋から庭園へ続く入口に、由貴乃の父母が立っていた。
「父様! 母様!」
 自らの両親を呼ぶ由貴乃。
「由貴乃!」
「心配してたのよ! どこ行ってたの、もう」
 とは言うものの、夫婦は顔も声もいかにも嬉しそうである。
「兄様は?」
 と彼女は尋ねる。
 それに答えたのは、家令だった。
「若様は南南西の縁側にいらっしゃいます」
「わかった!」
 それを聞くや否や、彼女は駆け出す。


 縁側に近づき、草陰に隠れる。
 兄を驚かせたいという子供らしい悪戯心が鎌首をもたげたのである。
「お〜に〜い〜……」
 大声を出そうとしてそこを見やると、彼女は思わぬ光景を目にした。
 兄はいる。いるのだが、そこには、彼と同い年の少女に膝枕をされていたのだ。
 由貴乃は彼女を知らないわけではない。
 いや、むしろ、家族以外では最もよく知っている女性の一人だろう。
 長野和奈。
 幼い頃から、ずっと兄と一緒にいて、必然由貴乃とも共に過ごすことが多かった。

 その二人はといえば、何もせず、何も言わず、ただ見つめあうだけ。

 それでも、互いを見つめる視線は蕩けるように甘くて、声をかけがたいものがあった。

 今ここを照らす陽光は、二人の互いへの想いのように優しく、それがまた彼女に胸焼けを起こさせた。

 その場から、音を立てないように走り去る。
 彼女の胸の中は、先程よりなおも大きい悲痛が占めていた。

 * * * * *

 苦い記憶をしばし反芻する。
0280下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 19:57:14.74ID:xfif4/8c
 だが、もうあの時とは違う。
 そう自分に言い聞かせ、何も言わずに抱き合ったままのバカップルに、声をかけた。
「さ、兄さん、和奈さん。行きましょう」
「行くって?」
「フランスでゆっくり楽しむんでしょ、しっかりしてよ」
「しかし、一旦……」
 見越していた、と言わんばかりに、車のトランクを開ける。
「兄さんと私の荷物は持ってきてるわ。チェックアウトも済ませてあるし、エアチケットも買ってある」
 ここで初めて、和奈が由貴乃に声をかけた。
「準備がいいのね、由貴乃ちゃん」
「ええ、すべて計画通りです」
「出来の良い妹を持って、私も本当に幸せよ」
「ありがとうございます、和奈さん」
 そのようにして、三人はそのまま空港へと車を走らせるのだった。
0281下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 20:02:58.06ID:xfif4/8c
 南仏、ニース。
 この地にあるフレンチ・リヴィエラの玄関、コート・ダジュール国際空港に希一郎と和奈、由貴乃は降り立った。
「兄さん、太陽が眩しいね」
「うん、フランス随一の保養地だけあるね」
「希一郎、由貴乃ちゃん、日焼け止めクリーム持ってきたんだけど、使う?」
「海岸に行く前でいいですよ」
「由貴乃、今塗ろうってことじゃないんじゃないかな。
 一旦ホテルに行ってから……」
 その時、聞き覚えのある声が彼の耳に入った。
 誰か女性と下卑た話を繰り広げている。
 世界一美しい言語ともいわれるフランス語を、ここまで汚く操る人間といえば、彼の知る限り一人しかいない。
 声のする方を見ると、果たして清次であった。
「J'achèterai Chanel ou Vitton pour toi?」(シャネルかヴィトンでも買ってやろうか?)
 ブロンドの女性二人を引き連れ、楽しげに会話していた。
「Je suis heureux!!」(まあ、嬉しい!!)
「Les deux.」(両方よ)
「D'accord, d'acco......」(わかったわかっ……)
 そこまで話した時、彼もまた、彼らに気付いた。
「Attendez juste un moment. Tu vois?」(ちょっとだけ待ってろ。わかったか?)
「Je vois.」(わかったわ)
 服の上から鷲掴みにしていた二人の胸から手を放し、清次はつかつかと歩み寄る。
「よお、キイ、長野、それに由貴乃ちゃん。そっちも今来たのか」
「こんにちは、八雲先輩」
「こんにちは、八雲君」
「やあ。キヨも休暇だね」
「ああ。たまには違う場所で楽しむのもいいと思ってな」
 やるこた一緒だけどな、と哄笑する。
「ということは、あの人たちは?」
「ああ、あいつらは、モデルの卵と女優の卵だよ。
 うちのCMで使ってやってる。
 この後、こっちの奴らと一緒に、サン・ジャン・カップ・フェラのホテルでオルジ(フランス語で乱痴気騒ぎの酒宴や乱交パーティーのことを指す)を楽しむんだ」
 卑猥な地名だが、カップ(を使ったプレイ、つまりパイズリのこと)やフェラだけで終わるわけじゃないぞ、と下品な冗談を挟みつつ、自慢のようにも聞こえる話を続ける。
「ラルジャン(フランスにある世界有数の化粧品会社)のフランソワ・ヴォーグルナールとか、メディア王のオリヴィエ・ブリュギエールとかな。
 ブリュン(フランス前大統領のアンリ・ド・ブリュノ伯爵)やDSK(ディエゴ・サン=キリアン前IMF専務理事)も来るんだぜ」
「それはすごいね」
「だろ、何日間かやるから、暇な時間があったら、」
 お前も来ないか、と続けようとした彼の言葉は、和奈によって遮られた。
「そう、楽しんできてね。
 希一郎、由貴乃ちゃん、行こう」
「あっ、掴まないでよ」
「ちょっと、和奈さん、どうしたんですか」
 彼女は兄妹の手を引っ張り、タクシー乗り場の方へと向かっていった。
0282下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 20:05:01.20ID:xfif4/8c
 車中で、和奈は希一郎に文句を言い始めた。
「もう、デレデレして!」
「まあまあ、あんな三流芸能人より和奈さんの方がよっぽど魅力的ですよ」
「そうだよ、和奈。行くわけないじゃないか」
 兄妹が宥めて、彼女は何とか納得した。
「希一郎はそんな人じゃないって、わかってはいるけどね。
 でも、八雲君は正直どうかと思うけど……」
「そう思わなくもないですけどね。
 しかし、清次さんのあれは病気ですけど、私たち三人に害を及ぼさない以上は見ないふりをしてあげることですよ」
「そうなのかな」
 不服気に頷く。
 それから間もなくして、ハイヤーはアールデコ様式の壮麗なリゾートホテルに到着した。


 どことなく寂しげな表情で、去っていく三人を穏やかな眼差しで見送っていた。
「やれやれ、保護者付きのカップル旅行か」
 その声には、シニカルなものが少しだけ混じっていた。
「あの様子じゃ俺のところには来そうもないし、こっちに持ってこなくて良かったな」
 ひとりごちつつ、脳裏にその文章を思い浮かべる。
(『政に生きる者は政に死す、財に生きる者は財に死す。そして、愛に生きる者は愛に死すものだ』か、彼らしいな)
 そして小さく溜息を吐く。
「帰ったらソウの遺書、キィに見せよう」
 その時、先ほどより待っていた女たちが清次に声をかけた。
「Seiji, Allons!」(清次、行きましょう!)
「Dépêche-toi!」(早く!)
 言われて自分が彼女らを待たせていることを思い出し、駆け寄ってそれに応えた。
「J'ai attendu tu. Alors, on y va?」(待たせたな。さあ、行こうか)
0283下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 20:08:07.07ID:xfif4/8c
 その夜、スイートルームのベッドには、希一郎と和奈、そして由貴乃が裸で弄りあっていた。
「きい、ち、ろう……、ゆきのちゃぁん……」
 希一郎が和奈の右の乳房を吸いつつクリトリスをいじり、由貴乃が左の乳房を吸っている。
「両、方、吸ったら……」
 ややあって、乳から口を離した由貴乃が、和奈に告げた。
「和奈さん、兄さんも気持ちよくしてあげなきゃだめ」
「きもち、よく……?」
 蕩けた表情で疑問を口にする彼女の乳房をつんつんと突く。
「そう、私にはできないことですから」
 そう言って少し落ち込んだように自分の胸に目を落とす。そこには洗濯板があった。
「いいね、やってくれる?」
 提案に悪乗りし、仰向けに寝そべる希一郎。
 その男根を、彼女はその乳房で優しく挟んだ。
「ローションは……、ないから、唾を垂らしてあげてください」
 言われた通り、挟んだモノに垂らす。
 とろとろ、とろとろと。
 そして、唾液を潤滑油代わりにして、ゆっくりと動かし始める。
「あっ……」
 おっぱい独特の柔らかい感触に、思わず声が出る。
「してあげる……」
 最初は恐る恐るといった感じだったが、次第に加速していく。
「す、ごい、和奈……、こんなのどこで……」
「処女にパイズリさせてる人間が言えた台詞じゃないわね」
 と自分でそのプレイを提唱したことなど忘れたかのように言葉をはさむ。
 擦り上げる速度と比例して、感度は高まっていく。
 そしてついに、彼は射精した。
 顔面に飛び散り、汚していく(彼女自身は「汚れ」とは露ほども思っていないだろうが)。
 ただそのままではこの後キスをしたりするのにも不都合だからか、手近にあったティッシュで彼女の顔を拭う。
 すると、由貴乃はその塊を横から掴み取り、口に入れた。
「何やってるの」
 呆れたように声をかける彼に、彼女もまた蕩けた声で返した。
「ふふ、兄さんの、おいしい」
 一頻り味わうと、彼女は思い出したかのように掌を打った。
「さ、いよいよメインディッシュね」
「きいちろぉ……」
 胸に熱い感触が残っているのか声からしてまだうっとりしている。
 今度は彼女を仰向けにさせ、足を開かせる。
 程なくまた勃起し始めてきた彼自身の切っ先を、彼女の入り口に宛がう。
「しっかり」
 由貴乃は和奈の手を取り、そっと握り締める。
「手を握っててあげますから」
 その間にも、彼女の中に希一郎の肉棒が分け入っていく。
「いっ……」
 処女膜に当たったのか、痛みに顔をしかめる和奈を、由貴乃が励ます。
「股の力を抜いて、楽に。私の手に力を込めて」
 そう言いながら、乳房や首元を、雛のように啄む。
「ん……っ!」
「ああっ!!」
 腰をさらに突き出し、全て収まる。
 二人は完全に一つになった。
0284下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 20:08:43.29ID:xfif4/8c
「痛くない?」
 汗を浮かべつつも、彼女は首を横に振った。
「ううん、大丈夫。……希一郎は、どう? 私の中、気持ちいい?」
 初めて男を受け入れた場所は、一物を強く締め付けてくる。
 彼もまた、額から汗を流しながら答えた。
「凄いよ、気持ちいい」
「ゆっくり、動いて……」
 言われた通り、彼はゆるゆると腰を動かしだす。
「あぁー、あぁー、あぁー……」
 痛みを紛らわすためか、声を上げる。
 その口に、彼はやおら自分の唇を重ねた。
 そのまま、舌を侵入させる。
「ちゅ、ちゅうぅっ、れろ、れろっ……」
 彼女は、驚いたようで、少し目を見開いた。
「ん、んちゅっ、れろっ、んっ……」
 しかし、すぐに恭順の意思を示し、口を適度にあける。
「れろ、れろっ、ちゅうっ、ちゅ、じゅるっ……」
 舌を絡ませあい、擦りあい、唾液を交換する。
「ん、れろっ、ん、んんっ……!」
 息が苦しくなった和奈が、首を振って唇を離した。
「ごめん、大丈夫だった……?」
 気遣いつつも、彼の腰は休むことなく動いていた。
「ごめんなさい、こんなキス、初めてで、上手くできなくて……」
「そんなの、僕も一緒だよ。これから慣れていこう」
「忘れられないキスになりそうね」
 そんな茶々くる二人の睦言に、由貴乃は茶々を入れる。
「まさにフレンチキスね」
 フレンチキスとはディープキスの英名であり、彼女は今ここフランスでキスを交わしていることに引っ掛けているのである。
「そう、だね……」
 気にする風でもなく、艶やかなその乳房を、思いのままにもみしだく。
「きい、ち、ろっ……!」
 途端に膣の締まりが強くなる。
 よく「巨乳は感度が悪い」という俗説があるが、彼女はその反証であった。
 彼女が胸を可愛がる度に、彼女は敏感に感じ、喜ぶ。
 その反応がまた、彼を喜ばせるのだった。
「いいよ、和奈っ……!」
「あぁ、あぁ、あぁ、」
 気付けば、腰の動きは相当に速くなっていた。
「んっ、んっ、んっ……!」
「あっ、あっ、あっ、」
 パンパンと腰をぶつけ合う音が、水音と狂騒曲を奏でつつ、高まっていく。
 必死に抽送を繰り返す希一郎も、既に限界に近づいていた。
「出して、いいよねっ……」
「うん、だ、だしてぇっ……!」
 それを聞いて、ますます速くなるピストン。
「出すよっ!」
「ああああああっ!」
 希一郎が和奈の膣内に精液を放つ。
 彼女の子宮の中一杯に、精子が注ぎ込まれ、広がっていった。
0285下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 20:10:54.18ID:xfif4/8c
 あれから、三人は裸のまま横になっていた。
 疲れ果ててしまったのか、既に和奈と希一郎は眠っている。
 由貴乃だけが起きているのだ。
 そうするうちに、ふと彼女は自分の最愛の兄に顔を近づける。
(兄さん、私を抱いてくれて、愛してくれてありがとう……)
 感謝の言葉を口には出さずに、希一郎に接吻する。
 さらにその隣に寝ている和奈に、顔を移す。
(和奈さん、私が兄さんを手に入れるきっかけを作ってくれて、ありがとう……)
 そのまま、和奈の右の頬にもキスをする。
(兄さんを支えてくれて、愛してくれてありがとう……)
 さらに、左の頬にもキスをした。
 感謝をこめて、あるいは、由貴乃なりに彼女を引っ叩いたのかもしれない。
 そうしている内に、希一郎が起きだしてきた。
「どうしたの?」
 由貴乃は和奈の頬を軽くつつきながら話す。
「和奈さんって、本当に綺麗だよね。
 私と違って胸も大きいし」
 人差し指を乳房にスライドさせ、その部分をプニプニと弄る。
「やめてよ」
「わかったわよ。
 でも、知ってる? 和奈さんって翼先輩より大きいのよ」
 確かに二人ともかなり大きいが、スイカとメロンくらいの差はあるだろう。
 だが、それを知っているのを不可思議に思った彼は妹に問う。
「何でそんなこと知ってるの」
「女の子同士なんだから、ガールズトーク位するでしょ。
 二人とも、同じ女から見ても惚れ惚れしちゃう」
「和奈は僕の恋人だからね」
「わかってるわよ。それに、私も」
「……ああ」
 その返事が、同意というより嘆息に聞こえたので、少し由貴乃はからかいたくなった。
0286下篇 Depravación ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 20:12:40.44ID:xfif4/8c
「ねえ、兄さん、兄さんは誰のことを世界で一番愛してる?」
「それは、……」
 すうっと彼女の目が細まる。
「それは?」
 機嫌を損ねることが致命的であることを希一郎は察知した。
 既に大陸鉱業の事業を切り回しつつある、海千山千の由貴乃の迫力は年齢に似合わぬ凄味があった。
「それは、誰?」
 一番大事なのは、一番愛してるのは和奈だと、自分の妹に対して、堂々と言いたい。
 でも、言えない。
 希一郎は弱い人間なのだろうか?
 だが、家族と一緒に平穏に暮らしていこうとする人間に対して、ヴィトー・コルレオーネの申し出にヴィートー(拒否)を突き付けろというのは酷なことだろう。
 かといって、嘘を吐きたくもないし、吐いたところでそんな浅はかな嘘は嘘とも呼べないちゃちな代物だ。
 結果として、彼は押し黙らざるを得なかった。
「…………」
 ややあって、その空気を破るかのように、彼女が声を発した。
「ふふ、ごめんね。ちょっとからかい過ぎちゃった」
「あのねえ」
「愛してる。ずっと、三人一緒にいよう」
 三人、の部分を強調する。
「ああ、一緒にね」
 彼もそれに肯いた。
 だが、ふと湧いた疑問を、何の気なしに由貴乃に問いかけてみた。
「ところで、あの飛行機の墜落事故、あれはやっぱり由貴乃がやったの?」
「そんなこと、どうでもいいじゃない」
 由貴乃は、自分の兄に向き直った。
「大事なのは、兄さんが愛する人たちと一緒に、幸せに暮らすこと。
 そうでしょう?」
「そうだね」
 知らなくてもいいことだ、どうでもいいことなんだ。そう数度ほど心の中で反復するうちに、彼には本当にそうであるかのように感じられてきた。
(明日は、また三人で水遊びをしようかな)
 そうするうちに、希一郎は再び眠りに落ちていった。
0287広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2014/01/07(火) 20:17:42.38ID:xfif4/8c
以上です。

完結まで読んでくださってありがとうございました。
では、今年もどうぞ宜しくお願いします。
0292幕間 Call ◆3AtYOpAcmY 2014/02/01(土) 18:43:43.03ID:xakJRKre
 ある夜のこと、由貴乃のもとにあった電話が鳴りだした。
 プルルルル……プルルルル……。
「はいはい、今出ますよ」
 催促するかのような音に応えるべく彼女は受話器を取った。
「はい、酒井です」
『由貴乃ね?』
「淳良さん、聞きましたよ。
 もう日本に帰ってきてるんですか?」
『いいえ、まだスイスよ。
 翼が亡くなったそうね』
「ええ、操先輩と一緒に」
『いい気な死に方ね、蘭蝶みたいだわ』
「浄瑠璃なんか聞くんですか」
『そうよ、翼も好きだったわ』
「歌詞の通り『ともに永らえ果てぬ身を 一しょにやいのとすがり付』いたわけですね」
『心と心を抱きしめたのでしょうね』
「操先輩と翼さんの命は『短夜の 鳥も告ぐるや鐘の音も』とばかりに死に急いだんです」
『「あすの浮名やひびくらん」、私もその生き様をこの地で聞かせてもらったわ』
「本当に物語の世界のようでしたからね」
『そうね。新内はいいものよ、明烏とか伊太八とか。
 翼とはその話なんかでもよく盛り上がったわ』
「だから死んだんでしょうかね……」
『ま、それだけじゃないでしょうけどね。
 ただ、自分の身に置き換えて共感した、ということはあるかもね』
「心中物も、他人事として聞く分にはいいでしょうね。
 でも、私は実際にそうなるのは御免蒙りますね。
 恋も愛も、生きてこそじゃないですか。
 厚い唇も芳しい体臭も迸る精液も、死んだら二度と味わえないじゃないですか。
 私なら、愛する人と一緒に、生きて生きて生き抜きますよ。
 それこそ、どんな手段を使ってでも」
『あなたならそう言うと思ったわ』
 機嫌良さそうに相手の意見を受け止める。
『それで、いつ和奈を殺るの?』
「殺りません」
 好奇を孕んだ質問に、由貴乃は素気なく返した。
『あら、隠すことないじゃない』
「最後辺りの操先輩の壊れ方を見れば、誰でもそう思いますよ」
『愛しい人がぶっ壊れていくのも乙なものよ』
「そう思ったから翼先輩は亜由美さんを殺したんです。
 でも、私はどうしてもそう考えられなかった。
 兄に幸せでいてほしい、それは本心です」
『大変ね』
「先輩こそ。何でも、婚約までするそうじゃないですか」
『あの人は誰も愛していない。あの人が愛しているのは自分自身だけだから。
 そこは助かったわ』
「羨ましいですね」
『でしょう』
 と、茶目っ気を帯びた声で答える。
「他の人とセックスすることさえ我慢するのに、たかだか連邦議会の議席一つも与えるつもりはないなんて、変な話ですね」
『私も出来るだけあの人が欲しいものは手に入れられるようにしてあげたいわよ。
 だからどうにかならないかな、って考えたんだけどね。
 やっぱり人の耳目に晒される仕事は、ちょっと……ね』
「そうですね、そう考えるのも無理はないですよね」
『まあ、後一押しであの人は薬籠中のものになるんだから、頑張らなくちゃ』
「ええ、頑張ってくださいね」
0293広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2014/02/01(土) 18:53:01.07ID:xakJRKre
以上です。
なお、この作は「あなたがいるなら何もいらない」から繋がっています。
また、保管庫の「あなたがいないなら何もいらない 第10話 権力欲の彼方」について、一か所だけてにおはの修正を加えました。
それでは、失礼します。
0295 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 22:54:30.35ID:BjnGbcWS
あけましておめでとうございます。
色々忙しかったこともあり、一月中は投下できませんでした。
今年も拙作ながら楽しんでもらえる作品を生み出していきたいと思います。

>273>291
GJでした。
兄を第一に考える素晴らしい妹で良かったです。

投下します。
0296パンドーラー9 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 22:55:55.08ID:BjnGbcWS
ゴォーン―――ゴォーン―――

神社は初詣の参拝客で混雑していた。

「明けましておめでとう、マキ姉さん」
「明けましておめでとう、トシヤ」
「今年はどんな年になるかな…」
「私は高校受験を乗り切りたいわ、あんたも勉強しなさい」
「ね、姉さん…年明けたばっかでそれはないよ…」
「…とりあえず危機感は持ってね」

「明けましておめでとうございます、お姉さん、トシヤ君」
「あら、おめでとう。ユリコちゃん」
「あれ、紅保先輩は?」
「兄さんは特番を見た後に寒いからってそのまま寝てしまいました」
「先輩らしいや―――」

〜♪〜♪♪〜♪

「あ、メール―――姉さん、クラスメイトが来てるから行くね」
「え、ちょっと…帰りは遅くならないでよー!」

トシヤはあっという間に人ごみに消えていった。

「さて、お姉さん。前に話した件ですが―――」
「ええ、あれから考えたわ…。お互いに悪い話じゃないみたいだし、乗らせてもらうわ」
「ありがとうございます」
「でも、完全に紅保君の行動を把握できるとは思わないでね」
「いいですよ。私も同様ですから…」



神社の離れた一角、マキとユリコからは死角の位置にトシヤは来ていた。

「トシヤ君、こっちだよ」
「あ、ミコト先輩!!」

出会った日からの短い間に二人は名前で呼ぶようになっていた。
柚谷ミコトがそれを望んだからだ。

「やっぱり夜は冷えるね」
「年越しそばでも食べれば―――」
「さっき食べたばかりだよ」
「ああ、そういえば俺もだった」
「クスっ…そういえばおみくじは引いたかい?」
「まだなんで一緒に行きますか」
0297パンドーラー9 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 22:56:47.09ID:BjnGbcWS
「ところで私は知っての通り今年で卒業なんだけど、紅保君と違う高校になったら
その話は意味を成さなくなるわよ」
「そうですね…。お姉さんはどちらを志望で?」
「S高校よ」
「…かなり上の高校ですね。兄さんなら大丈夫でしょうけど」
「(相変わらずの兄想いね)紅保君の第一志望も聞いておいたほうが
いいんじゃないかしら?」
「ええ、それはまた次の機会にでも」
「一応断っておくけど、紅保君の志望校に私は合わせないわよ」
「それならそれで、あとは私一人でも何とかしますよ」



一方、トシヤと柚谷ミコトはおみくじを引いていた。

「(げ!凶かよ…。恋愛に受難多数って?!)」
「トシヤ君、どうだった?私は中吉」
「見ての通りですよ…」
「ふむ?元旦に凶を引くとは、逆に運がいいんじゃないかな」
「こういう日は凶を抜いておくって聞いたんだけどな…」
「とりあえず枝に結んでおこう、君には厄除けになるかも」
「はい…」

「これで―――よし、と」
「さぁ、すっかり冷えてしまったな、君さえよければ家に招待したいんだが―――」
「はぁ…はあ?!!」
「いや、迷惑だったらいいんだ、すまない…」
「あ、いやそんなことは―――じゃあお言葉に甘えて」
「クス、どうぞどうぞ。ちなみに私は一人暮らしだから親が邪魔してくる、
とかはないから安心してくれ」
「(一人暮らし―――?!)」
「どうした?」
「い、いやホントにいいんですか?」
「構わないよ、君を信用しているんだ」
「は、はぁ…」

嬉しさ半分、男に見られてないが半分、と複雑なトシヤだった。
0298パンドーラー9 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 22:57:44.69ID:BjnGbcWS
「ふう、ただいまー…トシヤはまだ帰ってないか」

帰宅したマキを迎えたのは沈黙だった。
当然、暖房の火を落としていたために、室内は冷え込んでいた。

「…とりあえずメールでも打っておこうかしらね」

ベッドにに寝転び携帯を手にする。
その最中、マキは改めて考える。
自分はトシヤとどうなりたいのか?

「(結婚…なんて無理よね。でも姉弟で愛し合うことがいけないことかしら?)」

―――数か月前を思い出す。
トシヤと初めて結ばれた日のこと。
強引ではあったが、身体と心に充足感を感じたあの瞬間。

まるで麻薬だった。
一度味を知ると、次を求めてしまい、深みから抜け出せなくなる。

ユリコは自分の未来の姿なのでは…?
愛する人を求めるあまり、倫理観が無くなってしまったのではないか…?
何度考えても明確な答えは出てこず、そのうちに眠気に襲われて意識を手放していた―――
0299パンドーラー9 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 22:58:51.61ID:BjnGbcWS
柚谷ミコトはマンションに一人暮らしだった。
中々立派な造りであり、そんな場所に住めるのは両親が資産家だからと聞いた。

「コーヒー、それとも紅茶?」
「あ、コーヒーでお願いします」

居間に案内されたトシヤは高そうなソファに腰掛けていた。
派手すぎず、しかしセンスの良いインテリアにしばし興味をもって見回していた。

カチャ―――

ミコトがコーヒーカップを二つ、テーブルの上に置いた。

「どうぞ」
「いただきます」

豆によってコーヒーの味が変わるというが…、トシヤには判別はつかなかった。

「ちょっと、ミルクいいですか?」
「クスっ、苦かったかな…?慣れると美味いものだよ」

〜♪〜♪♪

「んあ、メール…」
「お姉さんかい?」
「ええ、俺も姉と二人で暮らしてるようなものなんでお互い心配するんですよ」

そう言いながら、返信文を打っていくトシヤ。

「仲睦まじいんだね、いいことだよ―――」
「ええ、まぁ…」

自分と姉の複雑な経緯を言えるわけがなかった。

「送信と。―――ふあぁぁ、眠くなってきた―――」
「少し休んでいくかい?そのソファはなかなか寝心地がいいよ」
「えぇ―――」

トシヤは急に深い眠りについた。
本人すら意識していなかったが、それほど疲れていたのだろうか…。
0300パンドーラー9 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 23:00:32.54ID:BjnGbcWS
否。

「クスっ、本当に可愛い子…」

ミコトはそのままトシヤの方に近づき…

「んっ―――」

キスをした。

起きないように慎重に…しかし次第に激しくなっていく―――

唾液の音が二人だけのリビングに響き渡っていた。

「んはぁ―――」

一通り満足したのか、口を離すミコト。
そのまま自分の部屋に行き、明かりを付ける。

照らされた部屋には壁一面にトシヤの写真が貼られていた。
全て隠し撮りである。

「クスっ、寝顔のアップなんて普通じゃ撮れないしね♪」

そう笑う彼女の目もまた濁っていた―――
0301パンドーラー9 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 23:01:50.34ID:BjnGbcWS
朝―――

「ん、―――寝ちゃったのか…」

マキは自室のベッドで目覚めた。
起き上がろうとしてふと、何かが手に当たった。携帯だ。
そこでメールを送信したまま寝てしまったのを思い出す。

「そうだ、トシヤは?」

携帯を見ると受信が一件。
トシヤからだ。
内容はもう少ししたら帰るというものだった。
受信は午前一時、今は朝の八時。
家は静まりかえっていた―――

「まさか?!」

嫌な予感が走り、トシヤの部屋へ向かう。

「トシヤ!!」

部屋の主はいなかった。

「トシヤ、何処?!」

そういって家の各部屋を周るマキ。

事故にでもあったのか…?
顔から血の気が引いていくのを感じた時―――
0302パンドーラー9 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 23:02:52.11ID:BjnGbcWS
「ただいまー」

?!

「トシヤ!!」
「マ、マキ姉さん?」

思わずトシヤにしがみつくマキ。

「トシヤ!トシヤ!!……トシヤぁ」
「どうしたの?」
「うぅ、良かったぁ…事故にでもあったのかと思った…」
「!!―――遅くなってゴメン、友達の家で寝ちゃって…」
「もう二度としないで、心配したんだから…」
「うん、ゴメン…」

しがみつきながらマキは違和感を感じていた。
トシヤの身体に嗅ぎ慣れない匂いがついていたのを。

「(友達って―――ダレ?)」

マキの直感が働いた。
女だ。

「(トシヤ…あなたは…)」

マキのしがみつく力が強くなった。

「ちょっと痛いよ、マキ姉さん」

トシヤの言葉も耳に入らず、マキの考えは疑惑と混乱と嫉妬の渦中にあった―――
0303 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/02/04(火) 23:04:02.92ID:BjnGbcWS
投下終了です。
0307名無しさん@ピンキー2014/03/01(土) 01:31:33.88ID:XmhYWAnh
0308名無しさん@ピンキー2014/03/01(土) 19:59:57.38ID:rov9mzru
キモウトって妹なのか
家庭板とかでは舅のことをウトっていうからそっち連想しちゃった
0310広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2014/03/03(月) 17:38:23.92ID:ItcVevyN
皆さんこんにちは。
前回の幕間を挟みまして、今度は「あなたがいるだけでは何にもならない」を投下します。
0311前篇 Lever ◆3AtYOpAcmY 2014/03/03(月) 17:41:26.86ID:ItcVevyN
「ああ、あんたか。
 そうそう、その場所でぶつけて、担ぎ込むんだ。
 死んだら? 死なん方が厄介はないだろうが……死んだら死んだで構わんよ、あんな奴。
 どうせ金を巻き上げるだけのろくでなしだ。
 まあ、どうなるにせよバックアップは完璧にやるよ。
 運び込んだらそっからは任せればいいから。
 もうないか? そうか。
 じゃ、しっかりやれよ」



 朝、メイドに揺さぶられてようよう八雲清次は目を覚ます。
「朝、か……?」
「はい、もう食事ができてますよ」
「つっつっ……」
 彼は右手で頭を押さえた。鈍い頭痛が止まないのである。
 その素振りに、彼女は釘を刺す。
「だめですよ」
 そして、着替えさせるためにパジャマを脱がそうとしてくる。
「やめろやめろ、自分でできる」
「無理にでも食べなくては」
 ボタンを一つ一つ外し、替わって彼女が手にする制服を着る。
「大体、毎晩あんなに飲むからいけないんです」
「俺にとってはあれが適量だ。そんなことは問題じゃない。
 頭痛の種は、わかっているだろう?」
 彼はそう言って、彼女がポケットから差し出してきたノーシンを押し返し、部屋を出た。


 食堂に入る。
 文字通りの頭痛の種だ。

 彼の家族である二人の女が、これまた彼の家族である二人の男の隣に座り、それぞれ「はい、あーん」と朝食を食べさせていた。
 男は、彼の父圭次郎(けいじろう)と、彼の弟である三陽(みはる)。
 圭次郎に食べさせているのが彼の母聖理奈(せりな)で、三陽に食べさせているのが清次と三陽の妹である美月(みつき)。
 彼の父と母、弟と妹は二組とも兄妹である。
 そして、兄妹でありながら、情交を結ぶ恋人同士の関係になっているのも同じ。
 物心ついた時からずっと、彼はそれを嫌っているが、だが言ったところで聞かないだろうというのは目に見えていた。
 だから、彼も敢えてそれを止める気もない。
 止める気がないからといって、それが不快な光景であることには変わらない。
 その鬱憤を紛らすためもあって、清次は後ろに控えている給仕に文句をたれる。
「どうせお前らが支度しなきゃならない食事は俺の分だけなんだから、俺が起きるのに合わせて作れよ」
 椅子に座らないままにスープに匙を入れ、それを一口啜る。
「ほら、冷めてるじゃないか」
「申し訳ありません」
 と給仕は恐縮する。
 それに、美月が口を挟んできた。
「いいのよ、遅く起きてくるほうが悪いんだから」
「何?」
「立ったまま物を食べないで。行儀が悪いわ」
 そう言うと、これ以上は取り合わないとばかりに三陽に向き直り、自らの手料理を彼に食べさせるのを再開した。
 不承不承に、清次も座り、冷えたコンソメ・ロッシーニに再び口をつけ始めた。
(やはりこうなってしまっては不味いな)
 食べるというより、片付けるといった感じで。
0312前篇 Lever ◆3AtYOpAcmY 2014/03/03(月) 17:43:20.37ID:ItcVevyN
 水分を吸いすぎてベチャベチャになったシューを中のフォアグラごと匙で割り、それを掬って自分の口元に運びつつ、気怠げに席に座る面々を見遣る。
 聖理奈が圭次郎に食べさせているところが彼の眼に映った。
 海苔でふんわりと巻いているご飯を箸で彼の口に運んでいる。
(聖理奈、というちょっと浮ついたような名前に負けず劣らず、歳に似合わない振る舞いだな)
 箸で挟んでいる海苔は艶のある色で、有明海でまだこんなに質の良い海苔が採れるのかと驚嘆したくなるような綺麗な板海苔である。
 ご飯も、炊いてからいかほどの時間を挟んだかは知らないが、仄かに湯気が立っており、自然な甘さが、漂う匂いからも味わえる。
 それが少し妬くなりつつ、
(「大金持ちという特権を持った一部の人間なら評判など気にしなくてすむ。大金持ちの女はむちゃなことをやっても、金の力で許される」か)
 という、ギリシャの海運王アリストテレス・オナシスが愛人に宛てた手紙の一節を脳裏に浮かべた。
(議席は失ったが、未だにウチが製薬業界の大手として振る舞っていられるところを見ると、それは本当のようだな)
 思いを浮かべつつ、目を三陽と美月に移す。
 美月は三陽にサラダを食べさせていた。
 彼女が兄の口に運ぶトマトは瑞々しく、程よいサイズに切り分けられており、新鮮な野菜独特の仄甘さがある。
(血は争えない、ということか)
 そう思いながらテンダーロインステーキにナイフを入れる。
 脂身の少なく、冷えてやや硬くなった肉を自らの口に運ぶ。
(半分押し切られるような形で、昔は三陽も結構嫌がっていたかと覚えているが、どうして今はこうもすんなり受け入れているんだっけ)

 * * * * *

 ある夜のこと、教科書とノートを手に、三陽は自分の兄に頼み事をした。
「ねえ、兄さん、勉強教えてよ」
 清次は弟の顔を一瞥する。
 言外に、妹に夜伽を求められないように一緒にいてほしいとの願いが込められていた。
 それを彼は、言下に断った。
「断る」
「えぇ、何でさ」
「お前は要領が悪い、付き合ってられん」
 言外に、自分の身ぐらい自分で守れとのメッセージが込められていた。
 そのまま自分の部屋に引っ込んだため、清次はその時の三陽がどのような表情をしていたかは見ていなかった(見る気もなかっただろうが)。

 * * * * *

 思いを馳せつつ、オレンジジュースを飲む。
 酔いの残る頭と脂っこさの残る舌に、その酸味と甘味が染み渡るようだ。
 向こうは、パンプキンスープを食べさせているようだった。
 その匙に、よくローストされたパンプキンシードが共に掬われているのが目に付いたとき、答えを思い出した。
(ああ、思い出した)

 子供を作ることを望んでいた美月は、避妊せずに性行為を行っていた。
 しかし、一向に妊娠しないのを訝り、検査したところ三陽の男性不妊が明らかになったのである。

(特発性造精機能障害による非閉塞性無精子症、だっけ?
 原因は不明だそうだが、DNA疾患が影響するケースもあるそうだし、やはり近親交配の異常が出てきたんだろうな。
 まあ、もっとも、俺はガキを孕ませることができるのが実証済みだから、必ずそうなるってわけでもないみたいだが)

 子供を作ることが不可能であるという自分の体の欠損を知ることは、三陽に新しい世界を見せた。
 この時初めて、申し訳なさ、そして、美月への愛しさから、彼は情を通じ合う関係を終わらせ、普通の仲睦まじい兄妹に戻ることを提案した。
 しかし、彼女は首肯しなかった。
『お兄ちゃんの子供を産めなくても、それでもお兄ちゃんとの愛は変わらない。
 子供ができないのは残念だけど、一番大事なのは愛する人と一緒にいられることだから』
 真っ直ぐな彼女の言葉。
 その性格同様に単純な物言いだが、それゆえにその時の彼にはかなり効けた。
 その結果、それでも添い遂げたいという彼女の意思に絆され、今に至っている。

(全く、妹も妹なら兄も兄だ。
 それにしても、わざわざ南瓜の種をスープにトッピングしたところからして、気にしてるんだろうな。
 子供を作れない男のことをよくなんとか言うよな。
 ええと、ああ、そうだ、)
0313前篇 Lever ◆3AtYOpAcmY 2014/03/03(月) 17:44:12.68ID:ItcVevyN
 「種無しカボチャだ」
 ふっと、その言葉が清次の口をついて出た。
 不意にモノローグを実際の言葉として発してしまうという漫画的な行為。
 だが、美月はそれを聞き逃さなかった。
「何ですって……!」
 今朝一番の険しい表情で、清次を睨む。
 三陽は半ばうろたえているかのようだが、彼女は言われた当人よりはるかに憤慨している。
 この時点で、清次は自分の失言に初めて気付いた。
「いや、これは、九尾のことを思い出して……」
 この苦し紛れの言い訳に――彼は個人的な付き合いもあるから、政治家の名前が出ること自体は不自然ではないだろうが――彼女はさらに逆上した。
「嘘を吐け!」
 美月は清次にヒルドンを浴びせかける。
 が、泰然としたもので、彼は開き直ったかのようにこう返した。
「英国式に顔を洗うというのもなかなかいいね」
 ミネラルウォーターで顔が濡れたまま席を立ち、後ろに控えていた清次のメイドに声をかける。
「おい、ビオフェルミン」
 すぐに彼に瓶が渡された。
「だから、飲みすぎですってば」
「バーカ、吐き気は酒のせいじゃないっての」
「待ちなさいよ!」
 と彼女は後ろから声を浴びせる。
「誰が待つかよ」
 それに対し、彼はすたこらさっさとその場を後にすることで応じた。
0314前篇 Lever ◆3AtYOpAcmY 2014/03/03(月) 17:47:03.69ID:ItcVevyN
 時を経て、清次は近い将来の政界進出に備えた下準備のため、アメリカはワシントンDCに来ていた。
 プロライフ(反中絶)団体の集会に参加するため、選挙のプロに演説の訓練を受けるのである。
 投宿しているカッツ・リールトンのレストランで、彼は朝食を摂っていた。
 朝食らしく、パンやサラダなどの簡便な食事。
 それらに続いて、エッグベネディクトが運ばれてきた。
 給仕がそれを運んできた時、彼はその料理の名から何の気なしに一人の男を思い浮かべた。
(教皇とは関係ないが、ベネディクトというとどうしてもそっちが出てきてしまうな)
 ローマ教皇、ベネディクト18世。
 シスの暗黒卿に似ているとよく言われる悪人面だが、れっきとしたカトリック12億人の精神の最高指導者として活動している。
 そんな最高級の聖職者のことを考えつつ、カリカリに焼き上げられたベーコンやイングリッシュマフィンをポーチドエッグごと切り分けると、半熟の黄身がとろりと流れ出てきた。
 クリーミーなオランデーズソースとともに、それを食す。
(まあ、ネブラスカでは4分の1以上、アメリカ全体でも今や2割以上の国民がカトリックだからなあ)
 元々二日酔いを直すために発明された料理という説があるだけあって、朝になっても酔いの残っている――それが彼の常であった――彼にとっても、その皿を平らげるのは難しくはなかった。
 食後に、コーヒーを注文する。
(ま、そいつらに恩を売るためにも、スピーチは練習しておかなくちゃな)
 飲み終え、そのコーチを待つため、自分の泊まっているスイートに戻ろうと、彼は席を立った。


「……My parents are siblings, and I am a son of incest.
 Unfortunately, adults who committed incest with consent are not punished in Japan.
 I had been heavily tormented by my fate and repeatedly thought that my birth is an error.
 However, one priest told me sometime.
 "My son, You shouldn't think so.
 Every human lives are gifts from God.
 Incest is undoubtedly horrible, but God intended to born.
 Of course, you are also a gift from God.
 So, you should spend your time as God intended."
 I found my hope in his every word at that time.
 I adore him just like real father.
 And, I want to accomplish my mission.
 I hope to save lives as products of rape and incest, like me.」
(……私の両親はきょうだいであり、私は近親相姦の所産です。
 不幸なことに、日本では同意の下で近親相姦を犯した成人は罰せられません。
 私はこれまで、ひどく運命に苦しみ、何度となく私が生まれたことは過ちだったのではないかと考えました。
 しかし、ある時、一人の神父様が私にお話をしてくださいました。
「息子よ、そのように考えてはいけない。
 すべての人命は神様からの贈り物だ。
 近親相姦は疑いなくひどいことだ、しかし神様は生命を授けられるようお導きになったのだ。
 もちろん、あなたも神の贈り物だ。
 だから、あなたは神のお導きになるように過ごすべきだ」
 その時、私は彼の一言一言に希望を見出しました。
 私は本当の父のように慕っています。
 そして、私は私の使命を達成したい。
 私は、私と同じような、強姦や近親相姦の所産たる命を救いたいと思っているのです)
0315前篇 Lever ◆3AtYOpAcmY 2014/03/03(月) 17:53:48.78ID:ItcVevyN
 隣で聴いていた中年の男に、話し終えた清次が話しかける。
「How was my speech?」(俺の演説はどうだった?)
 問いかけられた、ロマンスグレーの髪を湛えている長身痩躯の男は鷹揚に返した。
「Polish a little, and you can deliver perfectly.」(あともう少し練り上げれば完璧に演説できるぞ)
 彼は、カロル・ガウンという。
 有力な政治コンサルタントであり、清次が結婚する手はずとなっているセシルの叔父エドワード・J・マクミランを、IQ91とかアル中とか囁かれる中で大統領にまで仕立て上げた選挙対策の第一人者である。
 当然そんな全米屈指の「当選請負人」は、報酬をたんまり支払わなければならないのは勿論だが、誰もが参謀にしたがるだけに、契約することそのものが極めて困難であった。
 そんな絶好の助っ人を得ることができたのは、一重に清次とマクミラン家の関係の賜物と言っていいだろう。
「Is it tolerable now?」(今はまずまずということか?)
「Enough to be a state senator or a congressman right now.
 But it's not your goal, right?」
(州議会や連邦下院の議員なら今すぐにでも務まるさ。
 でもそれはあんたのゴールじゃないだろ?)
「Sure. Thank you for your continued help.」(もちろんだ。ありがとう、これからもよろしく)
 手を差し出す。
「Sure.」(どういたしまして)
 老練な黒子は、そう述べて手を握り返した。

「By the way, don't you meet Cecile?」(ところで、セシルとは会わないのか?)
 手を離したカロルが思い出したかのごとくに切り出してきた。
 彼女の名が出され、囁くような小さな声で、清次は自分でも意識しないままに呟いた。
「……40点」
 その数字には、言うまでもなく彼なりの意味があった。
 まるでどこかの脚本家の如くに、彼は自分と関係した女たちについて、こと細かい批評を加えた採点表を作っていた。
 例えばセシルについては「感度は中の上といったところか。名門の娘というのは良いスパイスだが、それだけにベッドの上でも奉仕精神がない」云々、といった具合に。
 40点というのは、クロスレビューなら満点となる点数だが、勿論彼一人での採点であり、100点満点中の点である。
「What?」(何?)
「Nothing.」(何でもない)
 ふと呟いたのが日本語で良かった、と思いつつ(カロルは清次の知る限り日本語を解してなかった)、軽く返していた。
「Well, what will you do?」(さて、どうするんだ?)
「No, I won't meet her. I'll go to France after this.」(いや、彼女には会わないよ。これからフランスに行く)
「I guess she want to meet you.」(会いたがってると思うぞ)
「She knows I can pay her accounts from a distance.」(離れていても俺がツケを払ってくれるって彼女はわかってるよ)
 そして、こう付け加えた。
「It'll be my business to settle bills in and out of the home.」(家の中でも外でも請求書を処理し続けるのが俺の務めになるわけだ)
 政治の道に進むことを企図している彼にとって、「bill」が「請求書」と「法案」のダブルミーニングであることは言うまでもない。
「All right.」(わかったよ)
 それを聞き、彼は部屋を後にする。
 が、首だけを振り返り、もう一言、清次に尋ねた。
「Do you have anything to tell her?」(何か彼女に伝えたいことはあるか?)
「None.」(何も)
「I've got it.」(そうか)
 そして、彼は今度こそ部屋を後にした。
0318名無しさん@ピンキー2014/03/09(日) 01:22:19.73ID:gZdPM/1O
何かatwikiがやばいらしい
他の場所に保存とかできないのか
0319名無しさん@ピンキー2014/03/09(日) 04:18:53.06ID:GArATaVF
>>318
下手に触るとスクリプト踏む可能性があるから運営が対策取るまで何もしないほうがいいと思うよ
0320 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/03/14(金) 19:26:43.91ID:ZTLtgOcO
>316
GJでした。

投下します。
0321パンドーラー10 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/03/14(金) 19:28:28.95ID:ZTLtgOcO
桜が咲き乱れる季節。
マキは高校の制服を身に着けていた。
受験戦争を乗り切ったのだ。
第一志望校は十分合格圏内だったため、特別心配することもなかったが…。

「(あとはトシヤが無事にここに受かるかどうか、よね)」
「向田さん」
「あら、紅保君」

紅保ユウイチも同じ高校に受かっていた。
なので、ユリコとの約束通りユウイチの周囲に女の影がないか監視を続けなければならなかった。



トシヤもまた中学三年に進級し、高校の進学問題が見え始めてきていた。

「(姉さんはきっと、寂しいから同じ高校に入ってほしいのだろうけど…)」
「トシヤ君、この後お姉さんの入学祝いを買いに行かない?私も兄さんの―――」
「(果たしてそれは姉さんの為になるのかな…)」
「トシヤ君?」
「あっ、ユリコちゃん。ゴメン聞いてなかった」
「―――お姉さんのこと考えてたんでしょ?」

心を読まれて、トシヤは驚いた。

「わかりやすいね♪」
「………」
「お姉さんもトシヤ君が心配なのよ」
「うーん、僕としては過ぎると思ってるんだよね…」
「なんで?」
「まぁ、色々あって…」

それは元日のことに遡る。
柚谷ミコトの家で寝てしまったトシヤは日が昇ってからようやく帰宅した。
マキは随分心配した様子でトシヤを抱きしめて安堵していた。
そのことをトシヤ自身、姉に迷惑を掛けた申し訳なさと、家族愛を感じて嬉しくなった。
またもう一つ、以前のように自分に情欲を抱いているのだろうかと不安にも思っていた。

しかし、トシヤもまた、マキには柚谷ミコトの事を内緒にしていた。
それはミコトからのお願いでもあったのだが、トシヤ自身も隠れた恋愛に妙な背徳感とスリルを味わってもいた。

「ぎくしゃくしているなら入学祝いでも買ってあげれば落ち着くかもよ」
「…そうだね、うん、それがいい。どこで買おうか?」
0322パンドーラー10 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/03/14(金) 19:29:35.79ID:ZTLtgOcO
入学式を終えたマキは早々に帰宅していた。
最近はトシヤの留守中に部屋に忍び込んでは女の気配を探っていた。
元旦の朝に帰宅したトシヤからは女の臭いがしたのだ、放ってはおけない。

「(トシヤに近づく女…。ユリコもあてにならないわね…)」

ユリコとの話し合いで監視は校内に限定していた。
放課後や休日にしつこくつきまとうのは不自然になるし、逆に監視対象であるマキにとってのユウイチや、ユリコにとってのトシヤに変に意識されても困るからだ。

「(いや、でもユリコにとっても私が監視を止めるのはマイナスなはず。
自分の仕事はしっかりこなすだろう…。ということはやはり、学校の外の人間…)」

やはりここは直接尾行するしかないだろうか…?
そう考え始めてもいた。

「ふう、やっぱり部屋にはなさそうね…。となると怪しいのは携帯…」

どうやって覗き見るか?
―――正直、気は引けた。
愛するトシヤのためとはいえ、携帯を盗み見するなど…。



「これでいいの?」
「うん、マキ姉さんに似合うと思う」

雑貨屋にて、トシヤは小さな装飾が施されたネックレスを選んだ。
面が空洞になった立方体の飾りが鎖に通されているだけのものだ。

「なんか大人っぽいね…」
「高校生になったし、いい感じになりそう」

値段は―――

「どうしよう…」
「少し貸そうか?」
「いや…でもなぁ…うーん―――ゴメン、貸して」
「かならず返してね♪」
「…ありがとう」

支払を済ませ、店から出る二人。

「じゃあ、私も兄さんへのプレゼント(腕時計)買えたし、早速渡したいから帰るわ」
「うん、本当にありがとうね」
「まぁ、少しづつ返してくれればいいから」
「…努力します」
「じゃあね♪」
「うん、さよなら」

それぞれの家路につく二人。
だが―――
0323パンドーラー10 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/03/14(金) 19:30:46.09ID:ZTLtgOcO
「トシヤ君」
「あ!ミコト先輩」
「どう、この制服」

柚谷ミコトと出会ったトシヤ。
彼女もまた高校進学していた。
真新しい制服をトシヤに見せつける。

「凄く似合ってますよ」
「クスっ、ありがとう。トシヤ君も三年生だね」
「そうですね、なんか寂しい気もします」
「卒業式で泣く生徒も多いからね、その一年はあっという間さ」
「ミコト先輩もやっぱり寂しかったですか?」
「いや、私の場合はそんなことはないよ、トシヤ君がいるから…」
「え?!」
「クスっ、驚いた?」
「―――純情な男の心を弄ばないで下さいよ」
「クスクスっ、ゴメンね。所でその袋は?」

ミコトはトシヤが持っていた薄いビニール袋を指した。

「あぁ、これは姉への進学祝いです」
「なるほど…、お姉さんにはあげるのに、私には何も無しか…」
「!!―――いや、そんなつもりじゃ」
「いいんだよ…まだ知り合って日が浅いしね…」
「あ、あの!今度でよければ埋め合わせをさせてほしいんですが…」
「本当かい?―――嬉しいよ、ありがとう。じゃあ、丸一日デートに付き合ってもらおうか」
「え?!」

今までは数時間程度遊んでいただけだった二人。
トシヤは―――

「はい!!是非!!」

二つ返事で答えた。

「クスっ。じゃあまたメールするよ」
0324パンドーラー10 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/03/14(金) 19:32:10.92ID:ZTLtgOcO
トシヤの部屋を散らかしてしまったマキは片付けに追われていた。

「これで、最後…」

積まれていた漫画雑誌を全て元通りの位置に戻す。
ベッド下に隠されていた定番の“モノ”は嫉妬で狂いそうになり、破り捨てようとしたが、
ガサ入れがバレてしまうと嫌われるので泣く泣く見逃した。

ガチャ!!

「ただいまー」

帰ってきた!

直ぐにトシヤの部屋から出て何気なく自分の部屋へ、そして―――

「ただいま、マキ姉さん」
「お帰り、トシヤ」

トシヤはそのままマキの部屋へやってきた。
帰宅すると行われる定番のことだった。

「マキ姉さん、これ入学祝い」
「え?!」

トシヤは先ほど買ったネックレスをマキへ手渡した。
予想していなかったマキは面食らった顔だ。

「これは…」

袋からネックレスを取り出すマキ。

「―――素敵、ありがとう、トシヤ…」
「…いつも世話になってりからね」
「…グス、あ、りがと」

不意に泣き出したマキ。
今度はトシヤが驚いた。

「マキ姉さん?!」
「大事に、するから…」

マキは自分が恥ずかしくなった。
トシヤはこんなにも思ってくれているのに、自分は疑ってばかりだ。
0325パンドーラー10 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/03/14(金) 19:34:11.11ID:ZTLtgOcO
「トシヤ、つけて?」
「え?…うん…」

そう言って後ろを向くマキ。

姉とはいえ、やはり女性。
トシヤはドギマギしていた。

「(ここか…?)」
「うん、ありがとう。わぁ…」

首に飾られたネックレスはマキにとって、もっとも大事な物になった。

そのマキがあまりに魅力的なため、気を紛らわすために部屋を見渡すトシヤ。

「(あの制服…)」

そこにはマキの高校の制服が―――

「(ミコト先輩と同じ高校だ…)」



「トシヤ君、私は悲しいよ、私より姉を優先するなんて…」

柚谷ミコトはリビングにへたり込んでいた。
周囲の品の良かったインテリアはどれもグシャグシャに壊されていた。
テーブルは中央にはめ込まれていたガラスが粉々に、ソファは包丁で切り裂かれて
綿が飛び出ていた。
全てミコトがやったことだった。

「クスっ、クスクスクス…」

その中心で泣きながら笑う彼女はさながら悪鬼羅刹のようであった―――
0326 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/03/14(金) 19:35:10.67ID:ZTLtgOcO
投下終了です。
0331名無しさん@ピンキー2014/04/15(火) 20:25:25.94ID:PDH17gyn
キモ姉党
0332名無しさん@ピンキー2014/04/15(火) 21:27:48.07ID:+tXvYfoE
過疎ってるなぁ
ってことでage!
0335 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/04/21(月) 01:24:40.68ID:1S+WdrkA
投下します。
0336パンドーラー11 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/04/21(月) 01:25:52.79ID:1S+WdrkA
某所の喫茶店。
昼下がりに来店したマキとユリコは、勉強会を開いていた。
中学生のユリコが高校生のマキに教わっているのだ。

―――というのは名目で、実際はお互いの監視対象の報告だった。
テーブルには参考書やノートが広がり、一見そんな話をしているようには見えなかった。

「あなたのお兄さんは問題ないわね。逆に周りの娘達は気になっているみたいだけど、
お兄さんは私のことを含めて眼中にないみたい」
「当然です。色々“努力”してますから」

どんな努力だ…とマキは心中で毒づいた。
実際にユリコの兄、ユウイチは次第にシスコンと化しているようだった。
会話するといつも妹についての自慢が含まれるからだ…。

「それでこちらはトシヤ君なんですが…」
「どうも最近怪しいのよ」
「以前に言っていた女の臭い…ですか」
「本当に学校内で何もないの?」
「はい、何も。恐らく学校の外での事なんでしょう」

“外”のことはお互いに監視しないことになっている。

「勘違い…ではなさそうですね」
「証拠もないけどね、でも―――わかるのよ。トシヤに近づく雌がいる…!」

ユリコはそう呟くマキを見て、微笑ましく思った。
やはり彼女は自分と同じ種類の人間なのだ、と。

「―――お姉さんは、パンドラの箱をご存知ですか?」
「開けてはいけない宝箱、だったかしら?」
「はい、元々は神話からで、神が地上に様々な厄災をもたらすために箱につめて
一人の女に持たせたそうです。ある日、女は好奇心に負けて箱を開けてしまい…」
「へぇ、そうなの。でもその話が一体…」
「私は、来年の自分の誕生日をXデーにしています、その日に行動するつもりです」
「―――お兄さんに思いを伝えるのね」
「兄さんの返答は関係ありません。YESだろうと、NOだろうと、
必ずこの思いを成就させます」
「凄いわね…」
「で、お姉さんのXデーはいつなんですか?」
「っ!」
「思うだけでは、一歩も進みませんよ」
「…」
「―――私達の、この思いもパンドラの箱と同じ…とは思いませんか?」
「そうね…」
「怖がっていたって、結果はわかりません。行動しないよりしたほうがいいです」
「ありがとう、まさかあなたに説教されるとはね」
「それはどういう意味ですか?」

そんな二人の会話に聞き耳をたてる者が一人―――
0337パンドーラー11 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/04/21(月) 01:26:54.45ID:1S+WdrkA
数日後、世間はGWに入り、快晴もあいまって各地で人が多く出歩いていた。
そしてこの日、トシヤはミコトとのデートだった。
待ち合わせ時間より早めにきていしまい、挙動不審に携帯を弄っている。

「トシヤ君、ゴメン待たせちゃった?」
「あ、いや大丈夫です」
「とりあえず、お昼にしようか」
「は、はい」

二人は街中でのデートを予定していた。
ミコトのおススメのイタ飯屋に赴く。

「雰囲気がいいですね」
「味だって保証するよ」

いわゆるカントリー風の店内であり、陽気な音楽もまた癒しの効果を与えていた。

「さて、どれにする?」
「そうですねぇ…」

メニューを見た直後から、トシヤは混乱していた。

値段が異様に高いのだ。

マキにあげたネックレスでさえ、予算オーバーだった。
その上、この支出は中学生のトシヤには致命的である。

「(そういえばミコト先輩って親が資産家なんだっけ…)」
「トシヤ君?」
「―――は、い…」
「大丈夫かい?」
「値段以外は…」
「…すまない、無理言って付き合わせて。君の懐を考えてなかった」
「はは…いいですよ。僕はお冷だけで、ミコト先輩は遠慮しないで下さい…」
「お詫びとして、ここは私が奢ろう」
「いや!それは!!」
「私としてはデートに付き合ってくれたことだけで満足だ。だから奢らせてくれ」
「…はい」

ミコトの進学祝いとしてのデートなのに、これでは面目が潰れてしまった―――
トシヤはそう考え落ち込んでいた。
そんな彼を見てミコトは微かに笑みを浮かべた。

「さぁ、何でも頼んでくれ。どれも本当に美味しいから」
0338パンドーラー11 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/04/21(月) 01:28:03.67ID:1S+WdrkA
昼食を終えて街を歩き、服屋、雑貨屋、ゲームセンター、本屋、
カラオケ、と巡り気が付けば西日が色濃くなる時間になっていた。
夕焼けに照らされたビル群が一日の終わりを告げているかのようだ。

「ふう、今日はありがとう、楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ。お昼の代金はいずれ返しますよ」
「クス、そうだね…、じゃあ代わりに今日の晩御飯をご馳走してくれないかな♪」
「はい―――え?」



カチッ!
ボオォォォ…

コンロから火が勢いよく燃え上がり、乗せられたフライパンを温める。
手際よく油を引き、野菜が投入される。
さらに塩コショウも入れ、ヘラで炒められていた。

「ご馳走ってこういうことだったんですね」

調理しているのはトシヤだった。
ミコトのマンションの台所でその腕を奮っていた。

「ええ、トシヤ君の手料理なんてなかなか食べられないだろうからね」
「大げさですよ、僕だってしっかりした料理なんか作れませんよ。せいぜい野菜炒めぐらいとかそんなもんですね…」

マキが引っ越してくる前はトシヤが調理をしており、自分の食う分を自分で
賄っていた。

「はい、どうぞ」

大皿に盛りつけられた野菜炒めがテーブルに置かれた。
他には、炊き立ての御飯、インスタントの味噌汁、箸休めの漬物といった没個性的な
献立である。

「じゃあいただきます」

ミコトはまず御飯から食べ始めた。
湯気だった米が箸に掬われ、そのまま口の中へ…。
次に野菜炒め。
仕上げにソースで味付けられており、御飯と共に口の中で咀嚼される。
味噌汁や漬物も等間隔で食べて―――
0339パンドーラー11 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/04/21(月) 01:29:35.05ID:1S+WdrkA
「―――美味しいわ、本当に美味しい…」
「そう言ってくれると作った甲斐があります」

ミコトは本当に美味しいと感じていた。
生まれて以来、こういった食事はしたことがなかった…。
外食か、コンビニでの惣菜が主だった。
テーブルを囲んでの食事もほとんど無かった。
両親は多忙で、あまりミコトを気に掛けなかったのだ。

そのうちに彼らはミコトに生活費だけ渡すと、彼女に近寄らなくなった。
二人共、夫婦生活が破たんしており、それぞれに愛人を作っては好き放題やっているのだ。
―――それは現在進行形で続いていた。

「そういえばミコト先輩、部屋を模様替えしたんで?」
「え?!あぁ、そうね。なんか飽きてきていたからね」

実際は先日、嫉妬まかせに部屋の物に八つ当たりしたからだ。
トシヤが来る日までにはすっかり片付けていたが。

「ごちそうさま」
「おそまつさまでした。―――あの、そろそろ時間も遅いようなんで皿洗いしたら
帰らせて…」
「待って、今日は…泊まっていって…」
「いや、でも…」

元旦のマキの様子を思い出し、トシヤは帰宅を決意していた。
これ以上、無用な心配は掛けたくなかった。

だが…

「お願い…、私、トシヤ君のことが好きなのよ」
「?!!」

突然ミコトから告白されたトシヤ。
もしや、という考えはあったが、自惚れだろうとも思っていた。

「あの…姉が心配していると思うんで…」
「―――トシヤ君はお姉さんにいつまで甘えているのかな?」
「えっ?」
「きっと、お姉さんも自立してほしいに決まっているよ。そうしないと
今度はお姉さん自身が人生を謳歌できない」
「!!!」
0340パンドーラー11 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/04/21(月) 01:30:49.72ID:1S+WdrkA
甘え…?
自分は甘えていたのか?
マキ姉さんは、自分を気に掛けていてくれた…、だがいつまでそうなのか?
普通の姉弟らしく過ごていこうと思っていた。
だが、最近の姉さんを見ていると―――。
もし、自分に恋人が出来たら、姉さんも安心するのだろうか。
姉さんは晴れて高校生になれたんだ、姉さんには姉さんの人生を…。

「じゃあ、メールだけしておきます」
「…うん」

トシヤが背を向けて携帯を取り出しているとき、ミコトは笑いを堪えきれなかった。
彼女はある確信を持っていた。
向田マキと向田トシヤはただならぬ関係にある、と。
そして、姉であるマキが一線を踏み切れないでいることを先日の喫茶店で知った。

トシヤのことは中学入学当初から目を付けていた。

俗にいう一目惚れであった。

そして、トシヤについて調べていく内にその好意が強まっていった。
ミコトはいわゆるストーカーであった。
無味乾燥とした自らの人生が初めて色づいたのだ。

“彼”は渡さない―――

メールを打つトシヤの背中に近づき…

「ふう、終わりました、よ?」

抱きしめた。

「トシヤ君…」

色っぽい声で耳元で囁く。

「―――!」

トシヤも限界だった。

さっきミコトは夕食に媚薬を混ぜたのだ。
それは、自分の分を含めて。



明かりを落とした一室。
マナーモードにしたトシヤの携帯が虚しく光り輝いていた。
着信、メール受信は頻繁に行われていたが、それを取るべき持ち主は
そこにいなかった―――
0341 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/04/21(月) 01:32:21.93ID:1S+WdrkA
投下終了です。

完結させられるかわかりませんが、読んでくれる人がいるかぎり
頑張ります。
0345名無しさん@ピンキー2014/05/08(木) 12:10:39.96ID:6C11qf2F
確かに全盛期は勢い凄かったんだけどな
各メディア見てもヤンデレキモウト系のブームが去った感じ
0346名無しさん@ピンキー2014/05/23(金) 10:57:09.04ID:XcCNVzLe
保守
0347名無しさん@ピンキー2014/05/25(日) 01:21:43.58ID:PXGlVT8l
ウィクロスというアニメの姉が良いキモ姉だった
暇な人がいたらぜひ見てほしい
0348広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:07:03.22ID:mf4/AQms
お久しぶりです、皆さん。
大分間が空きましたが、前回の続きを投下します。

>>341
おお、ミコトが行動に出ましたね。
一線を越えたようにも受け取れますが……。
ともあれ、次回を楽しみに待っています。
0349中篇 Pic ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:08:46.49ID:mf4/AQms
 ある夜のこと、パーティーに参加していた清次は、ふと何の気なしに辺りを見回した。
 すると、相客の中には見知った顔があった。
「忠希さんもいらっしゃったんですね」
 声をかけると、相手も気づいて言葉を返してきた。
「やあ、清次くん。久しぶりだね」
 その男は、年の割に艶やかな黒髪を保っている。
「変わったことはあるかい?」
「ええ、大過ありません」
 と、逡巡を秘めつつ答えた。
「そちらこそ、どうなんですか」
 と尋ねられ、待ってましたとばかりに話し始める。
「ああ、この間、孫が生まれてなあ」
 そう言いながら、胸元から2枚の写真を取り出す。
「ほら、こっちが由貴乃の子で……、この子が和奈くんの……、……」
 聞きながら、ふとひとつの考えが清次の中に浮かぶ。
「……な、可愛いだろう」
 だから、それをそのままに口にした。
「忠希さん。今、幸せですか?」
 言われた彼は、きょとんとした表情を浮かべながらも、ラ・パリスの真理とばかりに、即座に答えた。
「ああ、幸せだよ」
 問うた彼もまた解せずに、問いを重ねた。
「どうしてですか?」
「どうしてって、幸せでない道理がないだろう?」
 穏やかに返した忠希に、彼はさらに疑問を投げかけようとした。
(いや、やめとこう)
 しかし、その考えを口の端に上らせずにおいた。
(今の俺に、それを口にする資格はないからな……)
 彼の脳裡には、昔日の自分が浮かび上がってきた……。

 * * * * *

 とある朝の八雲家の食堂。
 雇われている料理人の食事を食べるのが清次だけなのは変わりないが、今日は少し違うことがある。
0350中篇 Pic ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:09:29.15ID:mf4/AQms
 普段、この食堂では朝酒を許されていない。
「朝から酒臭いのは御免蒙る」という家族の、特に聖理奈や美月の主張によるものだ。
 それはごく当たり前の言い分なのだろうが、「朝シャン」の好きな彼にとってはひどく理不尽な仕打ちのように思えたのである。
 しかし、今日は違った。
 前の晩、メイドが居室に居た彼の元を訪れた。
「清次様、明日は朝に酒類を供しても構わないと、聖理奈様と美月様が仰せです」
 知らせを聞いた彼は、どうした風の吹き回しかと思いつつも、朝酒を飲めることを素直に嬉しく感じた。

 この僥倖に気を良くして、彼はクリュッグを開栓した。
 ソムリエがコルクを抜くと、ポン、という軽妙な音が鳴った。
 その様子を機嫌良さそうに見つめる彼を、美月がテーブルの向こうで見ていた。
 いつもは、三陽と一緒に食事を取り、終われば直ぐにその場を去る。
 それが、今日は何をするでもなく、一人で座っているのである。
 不審に思っていてもおかしくないところだが、今日の彼は一切のことを気にしなかった。
 それほど、この酒に心を奪われていた。
 琥珀の液体が注がれ、炭酸の弾けるのが聞こえた。
(この音……! 心が洗われるようだよ)
 実際に彼の心が少しでも浄化されたことがあるかは疑問だが。
 ともあれ、それに合わせて、トリュフ入りスクランブルエッグを出させた。
 自ら指定したそのシャンパンを口にし、スクランブルエッグを一匙掬う。
 使われている卵は、フランスから輸入してきた「クレヴクール」という品種のもの。
 英語だと「broken heart」、日本語だと「耐え難い悲しみ」とか「断腸の思い」とかいうような意味の名前だが、フランスはノルマンディにある小さな町の名前から取られたものである。
 その味を、匙は口の中へと運んだ。
(やはりこのマリアージュは文化的に黄金の組み合わせだな)
 教科書通りの食べ合わせを好む彼にとって、食べる時も「文化」というものは常に頭の片隅に存在するものだった。
 だからこそのシャンパンとスクランブルエッグなのである。
 グラスを乾した彼が、二杯目を注ぐよう下知すると、そのソムリエはクーペグラスに注ごうとした。
 慌ててそれを止めようとする。
「おい、クーペは使うな。気が抜けやすいんだから」
 それに対して、ごく冷静にその理由の説明がなされた。
「もうすぐ、もう一人のお方がお着きになります。その方のご指図です」
「もう一人?」
 向かいに座っていた美月がそれに口を差し挟んできた。
「今日、来客がお見えになるの。
 朝食に間に合うそうだから、もうお越しになるんじゃないかしら」
 エクスペリアが鳴り出し、彼女は自分のそれを取り出す。
「私よ、……ええ、ええ、……そう、もう来たのね……」
 手短に会話を済ませ、通話を切る。
「門番から連絡が入ったわ。すでに門を入ったそうよ。
 もう間もなくこちらに着くって」
「間もなくって、どのくらいだ」
 その時、部屋の外から使用人が彼らに報告してきた。
「お客様がお見えです」
「ほら、噂をすれば影でしょう?」
 軽い美月の声と逆に、清次はやや威圧的にも聞こえる調子でその使用人に下知した。
「お入りいただけ」
 その彼の声色のごとく厳めしい扉がゆっくりと開く。
0351中篇 Pic ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:10:42.47ID:mf4/AQms
 そこには、酔いが醒めるほどに、美しい造形を持ち合わせている女がいた。
「この方は?」
 純粋な怪訝から、清次は美月に訊ねた。
「晩餐の際に紹介するわ」
「今はまだ、ということか」
「お楽しみに」
 そういうと、彼女はフィンガースナップで音を鳴らし、清次の隣に椅子を用意させた。
「俺の隣か」
 さらに胡乱気な目で傍らを見る。
「ご迷惑でしたか」
 そこに座りつつ、彼女は淑やかに声を掛けた。
「いや、まあ、構いませんがね」
 そう言っている間にソムリエは二客のグラスにクリュッグを注ぎ終えていた。
「クーペグラスはシャンパンタワーを作るときには役に立つんですがねえ」
「あら、もう一つ有用な場面がありますわ」
 そう言って面前にグラスを差し出す。
 彼女に合わせて、彼もまた差し出した。
「ほう、それは何ですか」
 そう聞かれて、グラス同士を触れ合わせ、軽く音を立てる。
「君の瞳に乾杯」
 一拍置いて、素の声に戻る。
「ハンフリー・ボガートになれること、です」
 さすがに、清次もそれには失笑した。
「男女逆でしょう、あなた」
「それでは、あなたが仰ってくださるのですか」
「いえいえあなたはイングリッド・バーグマンのように美しいかもしれませんが、私はそうはいきませんよ」
「そんなことありませんわ、とってもダンディなお方です」
「そうだとしても、リックとイルザほどに近しい間柄でもない」
 全く彼の食指が動かなかったことを認め、彼女は目配せをする。
 上手くかわしたと安堵した彼は、そんなことよりも、と話を転換した。
「あなたもいかがですか」
 と、スクランブルエッグの皿を彼女に出させる。
「ありがとうございます」
「シャンパンもそうですが、この卵もフランスから取り寄せて、届いたばかりのものなんですよ」
「まあ、私もフランスからの便で帰ってきたばかりなんです」
「ほう、向こうに住んでいらっしゃったんですか?」
「いえ、スイスです。
 ジュネーブには成田への直行便がありませんので、トランジットでシャルル・ド・ゴール空港に寄ったんです」
「ああ、そういうことでしたか」
 それを聞きつつ、
(この鶏卵と一緒に空輸されてきたわけか)
 とやや不躾なことを頭に浮かべながらも、朝食は滞りなく終わった。
0352中篇 Pic ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:12:13.48ID:mf4/AQms
 食事が終わると、彼は自室に戻った。
 今朝方届いたばかりの書類に目を通し、決済を施していく。
 1時間半か2時間がたった頃、ある程度を片付けた彼は一旦部屋から外へ出た。
 蛇のように口の中で舌を打ち鳴らし、執事を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「今日はハルだ」
 これだけで、意図することは完全に伝わった。
「畏まりました、連れて参ります」
 頭を下げ、主の前から引き下がる。

 程なく現れたのは、まだ若いメイドであった。
「ただいま参りました、清次様」
 彼女に対し、言葉を交わす前に抱きついて、接吻を仕掛ける。
 キスを交わしながら、服をはだけさせ、もどかしげにブラジャーを下ろし、それを放り投げ、露わになった乳房を弄ぶ。
 一通り上半身を愛撫すると、今度は下半身に取り掛かり始めた。
 穿いていた、フリルで縁取られ、繻子で出来ている、上と揃いの薄いピンク色のショーツを引き裂く。
 彼女も慣れたもので、黙ってこれを受け入れている。
 隠すものがなくなった陰部を弄って、自分を受け入れるための用意をさせる。
 壁に手をつかせ、背後から挿入する。
 後ろ櫓である。
「ふん……、ふん……、ふん……」
「あぁ……、あぁ……、あぁっ……」
 言葉をほとんど交わさず、二人の抑えがちな喘ぎ声だけが室内に聞こえている。
 そうしていると、彼のブラックベリーが鳴り出した。
「エマニエル夫人」、会社からである。
「ちょっとこのまま出るぞ」
「はい、あ、あっ、どう、ぞ……」
 繋がったまま、彼は電話に出た。
「清次だ」
『酉田です』
「どうした」
『2、3のご報告があります。
 まずはTS細胞の臨床について』
「おお、それよそれよ」
 と、待っていたかのように相槌を打つ。
「林口はどうなってる」
『何とか独法に潜り込ませて捨て扶持をあてがうことができました』
「そうか、食い詰めてあることないこと喋られたら困った事態になってただろうが、大丈夫そうか?」
『ええ、上手く落ち着いています』
「そういや一時はKBS(関東放送)の『サタデーヤーパン』のレギュラーになるとか言う話があったが、どうしてそんな馬鹿な話が浮上したんだ?」
『D(ディレクター)やP(プロデューサー)が馬鹿だからでしょう。言うまでもないことですよ』
「馬鹿でもチョンでも、な」
『辛辣ですね』
 電話越しの苦笑にすげなく返す。
「事実だからな。
 たく、一度伊藤(KBS会長)をとっちめてやる」
『林口はマスコミのいいオモチャになっちゃいましたからねえ』
「幹細胞の研究では何であんな変な奴が出てくるんだ? 韓国の白教授といい」
『カネになるからですよ』
「それはわかってるが」
『あと、競争の著しい分野ですからね。功を焦ったのもあるでしょう』
「そんなとこか」
『それはそうと』
 と、声のトーンが変わる。
『自研(じけん)の阿左美博士が発表した論文が報道されてますが』
0353中篇 Pic ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:13:49.31ID:mf4/AQms
 自然科学研究所(自研)の阿左美春歌博士が再生誘発性実効的多能(TROP)細胞を発見した、というニュースが、このところ世間を賑わわせていた。
「ああ、凄いニュースだよな」
『実はあれも捏造です』
「はー、春歌(しゅんか)ちゃんは女林口だったか」
 阿左美という巷間持て囃されている女科学者をあまり気に入っていなかった清次は、蔑称含みで「はるか」という彼女の名前を「しゅんか」と読んでいた(「春歌」(しゅんか)とは卑猥な歌のことである)。
『もっと悪質ですよ。国から研究費をガメたんですから』
「そりゃジケンに行き着くな」
 事件(じけん)と自研(じけん)を引っ掛けた冗句を発する。
「それで? 林口の時みたいに薬の有効性の論文を書いてるとか?」
『いえ、今回は八雲製薬は本当にノータッチです』
「欺き博士が吐いてる嘘はその細胞の件だけか」
 博士の苗字の「阿左美」(アザミ)という苗字を「欺き」(アザムキ)と捩る。
『今のところ、そのようですね』
「じゃあ、どこが?」
『ZS細胞(接合子性幹細胞)の絡みでイギリスが糸を引いてるようです』
「受精卵を破壊するのか、とか散々批判されてたからな。
 英国系のメーカーは相当ZSにぶっこんでたみたいだし、何とかして川中教授のTS細胞を潰したいわけだ」
『TROP細胞ならぬトラップ細胞だったというわけです』
「だが、その鉄砲玉にメンヘラ女を使うとは、ブリ公どもも相当焼きが回ってるみたいだな」
『そんなにおかしいんですか、彼女は?』
「ったりめーだ、自分の作った新型細胞にSW細胞なんて命名しようとするんだぞ」
『SW?』
 意味を解しかねている。
「スノーホワイトの略、だそうだ」
『ふっ、ふふ』
 その意味を教えられ、失笑が聞こえてきた。
「白雪姫に見立てているのは細胞のことか、それとも自分自身のことか……。
 まあ何にせよ病気だよ」
『そうですか』
 酉田は、安堵を声色に出す。
『ですが、ご安心ください。
 私の知る限り彼女が吊るし上げられてもウチには飛び火しません』
「私の知る限り?」
 引っ掛かった部分の言葉をリピートする。
 それに対して返ってきた答えは、予想外の角度からのもの――だが、普段の彼の行いを考えればそれが想起されるのは至当かもしれない――だった。
『清次様の褥のことまでは私も完全には把握しかねますので』
 その答えに、清次は笑い出してしまった。
「リケジョだか歴女だか知らんが、あんな勘違い女に手を出さなきゃいけないほど不自由してないぞ」
『またそういう発言を』
 呆れているようでもあり、軽くからかっているような口調でもある。
「これでもポリティカリー・コレクトなんだぞ。
 盲(メクラ)は目の不自由な人、聾(ツンボ)は耳の不自由な人と言い換えるだろ。
 なら、もてない男は女に不自由な人、だ」
『とうとう障害扱いですか』
「理系の男は女に耐性がなかったりするから、竹井(自研での阿左美の上司)みたくミソつける。
 それは立派な障害さ」
『美食家でも時にはジャンクフードを食べたくなるでしょう』
「俺にイカモノ食いの趣味なんかあるか?」
『並木メイともヤってたじゃないですか』
0354中篇 Pic ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:16:12.75ID:mf4/AQms
 名前を出され、ベッドを共にした参院議員の面(ツラ)を思い出し、彼は苦笑した。
「メイちゃんは学生時代はミス京大になったぐらいの美人だったんだぞ、一緒にしてやるなよ。
 まあ、過去形になってしまうのが悲しいところだが」
『それに、言動もネトウヨ的になってきて、ちょっとおかしくなってますし』
「ああ、そりゃ支持母体の関係よ」
『支持母体? あの女は(元)大蔵官僚でしょう。酒・塩・煙草・金融……、そのあたりが集票マシンじゃないんですか』
「それだけじゃない。
 ……三寶祈誓会って知ってるか?」
『知りませんね。何なんです、それ?』
「日蓮宗の信徒団体で、靖国参拝なんかにも肯定的な宗教右派だ。
 信徒数は200万てとこだったかな?」
『本当ですか? 随分盛ってる気がしますが……』
「新興宗教なんてみんなそんなもんだ」
 と一笑し、言葉を継いだ。
「それでもそいつらのお陰で当選してるのは間違いない。
 資金も潤沢だし、信者かき集めて選挙ボランティアなんかも出してくれるし」
『はぁ〜。古女房みたいに甲斐甲斐しいんですねえ』
「言い得て妙だな」
 と僅かに笑う。
「あそこは70年代から全国区の選挙ん時はずっと大蔵官僚を抱え込んでたからな」
『支持者向けのリップサービスってとこですか』
「その通り。議員稼業ってのも中々辛いもんだぜ、俺も今下準備に勤しんでるがよ」
『アメリカだけじゃなく、日本のことも忘れないでくださいよ』
「わかってるって、日本の政治家にもちゃんと献金を出す」
『いつも通りですか』
「額面は、とりあえず表も裏も変更なし」
『では、後で表の方に使う小切手を受け取りに参ります』
 電話越しでは話している相手には見えないのだが、意を得たとばかりに清次は頷く。
「おう、それまでに書いておく。
 それと、当面の間は裏で撒く金は法務じゃなくてMRから抜け」
『イケッタの訴訟が長引いたのは想定していませんでしたか』
「ああ、法務で金を作るのがキツくなってきた」
『そうですか。それでは失礼します』
「また後でな」
0355中篇 Pic ◆3AtYOpAcmY 2014/06/09(月) 17:16:48.07ID:mf4/AQms
 電話を切り、傍らにあったモンブランと社用の小切手帳を手にする。
 そして、事も無げに交合している使用人に告げた。
「背中借りるぞ」
「え、あ、はいっ」
 彼女の背中を台代わりにして、サラサラと小切手に金額を書き込んでゆく。
 書きづらそうだが、構う様子はない。
 その小切手が、政治家たちへとわたるのである。
 ほどなくして書き終えた彼は、万年筆と小切手の束を置いて、彼女の腰、正確には脇腹の肉の部分、俗に言うラブハンドルを両手で掴んだ。
 腰を打ちつけ、改めて抽送する体勢が整ったということである。
 力を込めて腰をぶつけ合う。
「あ、あ、あ、あ、あっ、」
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
 喘ぎもいつしか荒々しく獣じみたものになってきている。
 そして、その時が来た。
「うっ!」
「あああっ!」
 小便をするかのように身体を震わせ、精液を彼女の中に吐き出す。
 そうなると、一気に身体から力が抜けた。
 普段そうしているように、その日も、煙草を手繰り寄せる。
 ゴロワーズ・カポラルだ。
 その中の1本を取り出し、それに火をつけ、一吹かしする。
「ご苦労様。仕事に戻っていいぞ」
 蘞辛い味わいが口腔に広がる。牧草地のような匂いが部屋中に立ち込める。
 葉巻とは違った意味で強烈なその紫煙は、彼女に退出を促しているかのようである。
 とはいえ、そのままの姿では戻れないから、ハルも一応の身繕いをした。
「失礼しました」
 そういうと彼女はその場を後にした。

「さて、と……」
 デスクに目をやると、彼が決裁した書類が載っていた。
 戻ってチェアに座ると、机上のそれをトントンと整え、再確認を始めていた。
0359 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/22(日) 20:34:24.18ID:1U8ko4x5
>357
GJでした。
風刺も効いててニヤニヤしながら読んでましたw

投下します。
0360パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/22(日) 20:37:09.90ID:1U8ko4x5
―――午前6時。
5月の朝はまだ冷たさを残していた。

トシヤはこの時間になり、ようやく帰宅した。
朝帰りするのは2度目だ。
ただ今回は…。

「ただいま…」

家の中は静まりかえっていた。

トシヤはマキを探した。

「(マキ姉さんに言わなければ―――)」

彼女はすぐに見つかった。
リビングで膝を抱えてうずくまっていた。
風呂にも入っていないのだろうか、着の身着のままである。
傍には携帯が放り出されていた。

さっき確認したから分かる。
おびただしい数の着信があった。勿論マキから…。

「姉さん…」

何と声を掛ければいいか…。
その雰囲気だけでマキが異常な状態だとトシヤは感じた。
そして、もう一つの思い当たりも…。

彼女は、マキは、自分を諦めていなかったのだ。
トシヤはそれを悲しく思った。
同時に、心のどこかで嬉しさも感じていた。

嬉しさ?

バカな考えだ、トシヤは頭から追いやるようにした。
0361パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/22(日) 20:38:11.41ID:1U8ko4x5
「ただいま、マキ姉さん」
「―――」
「メールでまた帰りが遅くなるって送信したよね」
「―――」
「実は…彼女が出来たんだ」

ビクッ!

かすかにマキは身体をふるわせた。

「その人の家に泊まってきたんだ」
「…」
「あの日に、普通の姉弟になるって約束してくれたけど、今のままじゃ無理みたいだね」
「…」
「僕には恋人が出来た。だからマキ姉さんも誰か恋人を作るべきだよ。
そうして年月が経てば、お互い間違っていたって気付くときも来るだろうからさ」
「…」
「まずはその一歩を始めたいんだ。マキ姉さんも同じ風にしてくれると嬉しい…」
「…」
「…また話し合おう」

そう言って、トシヤは自身の部屋に戻っていった。

マキは…。



昼頃になり、トシヤの携帯に着信があった。
ミコトからだ。

「もしもし、トシヤ君?」
「はい、ミコト先輩」
「先輩っていうのは、よして…」
「えと、ミコトさん…」
「うん」
「…用件はなんですか?」
「昼食でもどうかと思って」
「わかりました。すぐに行きます」

正直、ありがたかった。
マキと同じ屋根の下にいるのが、気まずかったからだ。
原因は自分なのだが、マキも問題がなかったとはいえないだろう。
そうトシヤは自己を正当化する言い訳をたてた。
0362パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/22(日) 20:39:24.90ID:1U8ko4x5
ミコトのマンションに来るのも何だか慣れてきてしまった。
そう思いながらトシヤは入り口に向かった。
オートロックになっているため、インターホンからミコトを呼び出す。

「こんにちは、ミコトさん」
「ようこそ、トシヤ君。どうぞ」

程なくして、入り口が開いた。



デリバリーピザで腹を満たした後、今後についてミコトが提案してきた。

「お姉さんの自立を促すためにも、トシヤ君は家から離れるべきだよ」
「はぁ…でも一人暮らしするお金なんてありませんが…」
「何を言っているんだい?ここに住めばいいじゃないか」
「え?!」
「私一人で持て余していたことだし、お金だって心配はいらないよ」
「いや、流石にそれは…」
「遠慮することはないよ。ちょっと早いけどお互いのための同棲と思えばいい」
「?!!」
「これからは私も自炊の仕方を勉強しなければいけないな、ああ、生活用品も買ってこなければ…。ベッドは―――思い切ってダブルを―――」

彼女が、目の前の女が、何を言っているのかトシヤには分からなかった。

「ちょっと待って下さい!僕らはまだ付き合いたてじゃないですか!」
「だからこれから愛を深めていこうじゃないか」
「考えが飛躍していますよ、それに姉さんともちゃんと話し合っておきたいですし」
「以前、君たちを見かけたが…お姉さんの君を見る目は異常だったよ」
「え?」
「まるで、夫婦とでもいわんばかりに…ね。話し合いが出来る相手ではないよ」
「でも…それでも僕の姉なんです。とりあえず今日は失礼します。ご馳走様でした」

そう言って玄関に歩を進めたが…。
0363パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/22(日) 20:40:10.28ID:1U8ko4x5
「?!」

トシヤは急に視界がグラついた。

「トシヤ君?疲れたのかい?」
「―――」
「しばらくここで休んでいくといいよ」

トシヤは恐怖を感じた。
心配する口調のミコトが―――笑っていたから―――

そして、そのまま意識を手放した。



遡ること、1時間前。
ミコトのマンションの入り口にユリコが立っていた。
トシヤを偶然見かけたので、後を尾行してきたのだ。
そのまま、マンションに入っていくトシヤを見ていた。

「―――もしかして、ここに?」
0364 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/22(日) 20:40:58.42ID:1U8ko4x5
今回は少し短いですが投下終了です。
0366 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/28(土) 17:44:54.07ID:0awtxo4B
1レス短編投下します。
0367ソフトアンドウェット ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/28(土) 17:45:47.65ID:0awtxo4B
梅雨の時期になると多くの人がうんざりするけど…、私は違った。
だって―――

「ただいま」
「お帰り、お兄ちゃん」

いつもお兄ちゃんは汗だくになりながら帰ってくる。
仕事がとても忙しいのだ。

「すごい湿気だな、窓開けるぞ」
「いつもごめんね…」
「ん、気にするな」

普通の人はエアコンを使い快適な室温、湿気にするのだろうけど、
私はエアコンが苦手で体調を崩してしまう…

「季節の変わり目は大変だからな」
「…うん」

というのは嘘だ。
エアコンなんてものを使ってこの空気を―――
私とお兄ちゃんの入り混じった空気を乱されるのは不快だった。

湿気の高いこの時期は特に私とお兄ちゃんが一つになっている感覚に浸れる…。
私はそれだけでオーガズムに達するのだ。
お兄ちゃんが帰宅してから、すでに5回はイッてる…。
涎が口元から垂れてないか心配だった…。

「あ、そうだ。今度彼女を招待することになったからさ。
お前にも紹介しておきたくてね」

そっちもゴメンね、お兄ちゃん。彼女さんはもうイナイノ。

でも私がずっといるから、―――イイヨネ?
0368 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/06/28(土) 17:46:42.14ID:0awtxo4B
投下終了です。
皆さん、熱中症にご注意を。
0373 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:35:34.55ID:jlNBasHS
投下します。
0374 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:37:27.96ID:jlNBasHS
どれくらい経ったのだろうか…
トシヤには時間の感覚が無くなっていた。

気付いたら、両手には手錠を掛けられ、ベッドの端に縛り付けられていた。
両足もそれぞれの端に紐で縛られている。

それに…さっきから“自身”が痛いほどに怒張してきていた。
媚薬も盛られたらしい…。
その光景をミコトは隣でじっと見ていた。
その眼には狂気の光を宿して…。

「クスクスっ。苦しい?トシヤ君?苦しいよね?でも…まだおあずけ」
「―――!」

ついでに口にはギャグボールが括り付けられており、声も出せない。

「私はね、トシヤ君が好きなんだ。ずっと恋焦がれていたんだよ、わかるよね?」

トシヤは戦慄していた。
彼のいる部屋一面にトシヤの写真が張り付けられているからだ。
しかも、身に覚えのない写真が大半なので盗撮されていたらしいということ。
中には、中学入学したての物もあり、どうやって撮影したのか…ミコトのその執念深さが写真だけでわかった。

「最初はね、見てるだけで良かった…。静かに私が見守り続けることでトシヤ君を
ずっと害虫共から遠ざけてきたんだ。でも一匹の虫が君に近づいた…」

ぽつぽつと語りながら、ミコトはトシヤに近づいた。

「紅保ユリコではないよ。彼女が兄一筋というのはわかっていたし…。
君の姉、向田マキ…。色々事情があってこっちに引っ越ししてきたみたいだね。
傍にいながら媚びるような視線に何度苛立ったかわからない…」

トシヤのパンツを器用にずりおろし、ボクサーブリーフが露わになった。
怒張の先端は、先走り汁で濡れている。
ミコトが全体を軽く撫で上げると、びくんと大きく跳ね上がった。
彼女にはそれが嬉しくて堪らなかったようだ。
0375 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:38:28.06ID:jlNBasHS
「クスクスクスっ、とても気持ちいいみたいだね…。素敵だよ…」

射精しそうで、出来ない―――。
快楽と悶絶の地獄の中、トシヤは正気を失いかけていた。

「私の言うとおりにしたら、すぐに楽にしてあげる。
いや、もっと気持ち良くしてあげるよ」

耳元で囁き、同時に彼女の舌が耳を舐め回した。
怒張が暴れ回るように動き回った。

「おやおや、ここは正直だね。無理は良くないよ。
なに、簡単なことをしてもらえればいいんだ」

理性が削られていく…。
欲望が頭の中を染め上げ、他のことがどうでもよくなっていく―――

「君の姉、向田マキと絶縁してもらえればいいだけさ」

またその話か…。
拘束されてから何度も聞かされていることだった。
しかし、ミコトは初めて話すようにトシヤに聞かせた。

「そうしたら、二人で永遠に暮らそう。誰にも邪魔されないところで…」

トシヤは僅かに首を横に振った。

「そう…、まだわからないようだね…。もう少し“治療”がいるかな…」

微妙な刺激を与えられていた怒張が急に解放された。

ミコトは液体の入った容器を持ってきた。
“それ”はドロドロと粘性のある物のようだった。
トシヤには“それ”に見覚えがあった。
実際に使ったことはないが…、AVなどでよく使われるローションというやつだろう。
0376 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:39:23.73ID:jlNBasHS
ブリーフをも下ろした後、ミコトはローションを指に垂らして馴染ませた。
そしてそれを―――

ズブッ!

「―――――!!!」

トシヤの肛門に指を突き立てた。

怒張がさらに暴れ回る―――
が、イクことは許されず、絶えず寸前の快楽が繰り返されていた。

「男の子は前立腺が気持ちいいんだよね?どうだい?」

指が不規則に動き回り、肛門を犯していく…。

常に脱糞しているような妙な感覚に襲われながらも、快楽が思考を奪っていく。

「そろそろ馴染んだかな?」

ミコトはそう言うと、指を抜いた。
トシヤに刹那の安息がもたらされている間に、ミコトはある物を手にしていた。

典型的なバイブレーターだ。

「!!?―――!!―――!!!」

これから何が起こるのか、トシヤはすぐに想像出来た。
声にならない叫びをトシヤは上げたが、ミコトが止まる筈もない。

グリグリグリっ!

「よく考えてみることだね。私の言うとおりにするか、自分が壊れるか―――」

カチ!ヴヴヴヴヴ―――

そう言って、部屋から出ていくミコト。
0377 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:40:10.19ID:jlNBasHS
気付けば、トシヤは涙を流していた。
どうしてこんなことになったのか…。
自分が迂闊にもミコトと付き合おうと考えたからだろうか?
ミコトの影の部分を見抜けなかったからか…?
マキ姉さんのことを見放していたからだろうか…?

後悔しても現状は変わらない。
ミコトの言うとおりにすれば少なくとも現状からは解放される。
だが、それから逃れられるだろうか?
いや、ミコトが見逃すはずがない。
もっと凄惨な結末になるのではないか…?

トシヤに出来ることは、無限とも続く苦痛と快楽を耐えることだけだった。



ミコトはリビングでくつろいでいた。
目の前のパソコンからは、隣室のトシヤの姿が映し出されている。
必死に快楽と苦痛とに抗う彼の姿にミコトはオーガズムを感じた。

既に下着はびしょ濡れだ。
さっき、ベッドの上のトシヤに襲い掛からないように我慢するのは相当大変だった。

「クスクスっ、トシヤ君…、本当に魅力的だね…」

そう言いながら、オナニーを始めるミコト。

「んんっ…はぁ…トシヤ君…」

秘所は熱を帯びて、指をさらに締め付けた。

ああっ…もう今すぐに襲いたい…、焦らす必要があるのだろうか…。
すぐに、彼を、身体の奥底で感じたい…。
何度も何度も…そして、彼の種を私に…植えつけてほしい…。
でも、余興があるからこそ、最高潮は格別なものになるのだろう…。
もう少しだけ…、あともう少しだけ…。
0378 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:41:17.36ID:jlNBasHS
行為を終えた後、余韻に浸りながらミコトはこれからの事を考えていた。

長く監禁を強いると、失踪騒ぎになる。
警察も動き出すだろう。
だからGW中にトシヤ君を陥落させることが絶対だ。
今なら、痴話喧嘩程度で済むだろう…。
それから、あの女…マキが二度とトシヤ君に色目を使わないようにする対策がいる。
それは簡単だ。
私が妊娠さえすればいい…。
トシヤ君との既成事実であの女は絶望に塗れる…。クスクスッ
だが、同時に大騒ぎにもなる。
この場所で学生生活を続けるのは難しいだろうから、引っ越しも考えなければならない。
私には財力もある。
これだけは私を産んだあいつらに感謝しなければな。
なるべく人里から離れた場所の方がいいかな…。
学力は通信制教育で補うしかないだろうか…。

ピンポーン

突然、間の抜けたチャイムが鳴った。
こんな時に、無粋な…。
ミコトは苛立ったが、心当たりもあった。
頼んでおいた食材の宅配が来たのかもしれない…。

ミコトは身だしなみを整えると、玄関に回った。
玄関には覗き窓があり、カメラ付きインターホンもあるが、オートロック完備の
マンションに住んでいるため、今まで使う用事はなかった。
それが、ミコトの命取りになった―――

ガチャ

「はい」
「失礼します。私、○○警察の者です」

整ったスーツ姿のいかにも、な刑事が警察手帳を手にしてそこに立っていた。
ミコトは動揺した。
もう失踪届が出されたのだろうか…。
0379 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:42:52.82ID:jlNBasHS
「突然で申し訳ありません。本日は二、三件聞きたい事がありまして伺いました」
「何でしょうか…」

声が裏返りそうになる。

「この少年について聞きたいのですが…、最近何処かで見かけませんでしたか?」

刑事はトシヤの写真を差し出した。
やはり…失踪届が…。

「はい、二日前に遊びに来ました。後輩のトシヤ君ですよね?夕方には帰られましたけど」

いけしゃあしゃあと素知らぬふりをするミコト。
しかし、身体の芯は不安で震えかけていた。

「はい、実はご家族の方から二日前から帰ってないという相談を受けまして…」
「そうなんですか…」
「何か、心当たりは?」
「―――すいません、特には…」

刑事はじっとミコトを見つめた。
血の通ってない冷たい視線が突き刺さる感じがした。

「そうですか…。わかりました、今日はこれでお暇させていただきます。
また、訪ねる機会があるかもしれませんがその時は…」
「はい、協力させていただきます」
「ありがとうございます。では―――」

「た、助けてくれー!!!ここだ!!ここにいる!!」

部屋の奥からトシヤの叫び声が聞こえた。
まさに玄関を閉めるかという、瞬間だった。

ミコトは急いで閉めようとしたが…刑事の方が上手だった。
乱暴に玄関を開け、ミコトを突き飛ばし、部屋の奥に進む。



こうして、トシヤの監禁生活は幕を閉じた。
が、ミコトは身柄を拘束されてもなお、トシヤのことは諦めていなかった―――
0380パンドーラー13 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/08/12(火) 18:45:54.05ID:jlNBasHS
投下終了です。
タイトルを入れ忘れてたorz

大分迷走しましたが、やっとキモ姉の本領発揮をさせようと思います。
0384名無しさん@ピンキー2014/08/20(水) 00:28:51.82ID:ArEvxKs8
2008年あたりの作品はどれもいいな
ノスタルジアも転生恋生もいい
ただどれも再開の望みが薄いのがね
0385名無しさん@ピンキー2014/08/20(水) 10:38:59.72ID:8Xl/E9c5
面白いSS書いてた人はみんな荒らしに巻き込まれないように上手く離れたな
0388名無しさん@ピンキー2014/08/29(金) 14:17:58.21ID:YmKShQ9X
数年前の活気はすごかったな
粘着荒らし+板自体の急速な過疎化でご覧の有り様だけど
0389名無しさん@ピンキー2014/09/03(水) 01:26:59.43ID:Zvi/pX6E
2007年からずっと見てるけど2009年まで最盛期だったわ。
0398名無しさん@ピンキー2014/09/08(月) 02:02:58.58ID:pDLLYB0g
ラスト迎える場面で終わってるSSが多々あるけど、そんなSSに限って良作ばかりだな
0399広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:08:17.46ID:hZvwEcfZ
皆さんお久しぶりです。
また前回から間が空きましたが、続きを投下します。
なお、保管庫の過去作を少々修正しました。

>>380
GJです。
ミコトはまたついてなかったですね。油断もあったのでしょうが。
警察に保護されたトシヤは、運が良かったのか悪かったのか……。
0400下篇 Coucher ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:09:21.41ID:hZvwEcfZ
 その日、清次はひたすらビジネスに打ち込んでいた。
 自らの勉強を間に挟みつつ、時には休憩も取りながら、世界中で展開されている事業の決定を下していくと、もう日がとっぷりと暮れていた。
 今掛けている、海外への社用の電話が、その日の最後の仕事である。
「Ja, lehnt Gewerkschaft Forderung nach Lohnerhöhung ab.」(ああ、労働組合の賃上げ要求は拒否しろ)
 電話先に告げ、切る。
 折りよく、彼のメイドが部屋の戸を叩いた。
「清次様、失礼します」
「入れ」
 それに従って入室した彼女は、簡便に伝える。
「夕餉の支度ができました。食堂にお越しくださいませ」
「わかった、すぐ行く」
 そのようにして、彼は自らのメイドを追いかけるような形で――性的な意味で女の尻を追うことは彼の日々の営みだが――食堂に向かった。



 キリキリと専用のフォークを回しながら、清次は尋ねた。
「それで? そのお方はどなたなんだ?」
 そう聞き、トングで殻を押さえながら取り出した身を食す。
 今日のオードブルはエスカルゴのブルゴーニュ風である。
 ニンニクや種々のハーブ(ハーブといってももちろんパセリやセルフィーユなどの普通のものであり、昨今流行の脱法品ではない)が良く効いて、こんがりとカソレットに盛り付けられた温前菜(アントレ・ショード)。
「まだわからない? 私たちのお姉様よ」
 それを聞いた時に、彼がグラスの中のモンラッシェを一気に乾したのは、脂ぎった自らの口を洗い流すためだけではなかっただろう。
 そして、真後ろに控えているソムリエにワイングラスを突き出し、指示を下した。
「注(つ)げ」
 それを受けて、彼はグラスに先ほど彼の主人が飲んでいたものと同じブルゴーニュワインを注いだ。
 特に変えろといわれない限り、同じもので通す。清次のいつもの飲み方だった。
 指示通りに白ワインで満たされたグラスを渡され、一口飲んでから、それを置く。
 そして、平然とした様を保ちつつ、先を促した。
「ほう、それは……。詳しく、聞かせてくれ」
「詳しくというと、具体的にどういった……」
 と言いかけた美月を制し、両親に話を振った。
「お父様、お母様。今の話は本当ですか」
「そうだ」
「本当よ。私たちの長女、淳良(あきら)が、こうして日本に帰ってきてくれたの」
 同様に首肯する自らの父母に対し、彼はスズキのポッシェを突きながら不平を述べる。
「今まで俺たちに姉がいるなんて知りませんでした。何で黙っていたんです」
「まだ幼いころに、スイスに留学することを望んで、その時に淳良が言ったの。
 この子の――つまりあなたのことよ――家族と胸を張って名乗れるようになって、初めて会うようにしたい、ってね。
 だから、私たちはそれを尊重して今まであなたには隠していたというわけよ」
「そうですか」
 未だに胡乱な目をたたえつつも、その姉の方に向き直り、問うた。
「それで、自信がついたということかい?」
「ええ。ロゼアンとして、淑女としての教育もきっちり受けたわ」
「ああ、それは姉さんの食器の使い方を見ていて良くわかったよ」
 姉さん、と言った時、彼はほんの少しこそばゆい感覚を覚えた。
「でも、大学に入るまで、半年の間どうするつもりだ」
「私が行くのは東大だから、ブランクを作らなくて済むの」
「ああ、あそこは秋入学だったっけ。
 でもせっかく国際バカロレアを取得したんなら、東大なんか入らずにアイビーやオックスブリッジに行けばよかったのに、もったいない」
 と宣いつつ、カナール・ロティ・アロランジュ(鴨のロースト オレンジソース)にナイフを入れる。
「言ったでしょ、家族とともに過ごせるなら、学位なんかどこのものでも変わりはしないわ」
 名利を求め続けてきた清次にとって、その行動原理は理解し得ないものであった。
0401下篇 Coucher ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:11:00.59ID:hZvwEcfZ
 その夜の清次の晩酌はポーランド産のウォッカ「プラウダ」であった。

 オレンジソースやその後に出たデザートの甘さを洗うため、あえてウォッカのような酒にしたのだ。

 スチューベンのグラスを持ち、ちびりと飲む。
 ウォッカらしからぬ、滑らかで口当たりの良い味わいが、何とも言えず心地良かった。
(さすがはマドンナも愛した味)
 ただ、この場合、心の持ちようとしては、つまみのベルーガ・キャビアが主体に感じられる。
 彼でなくてもそうだろうが、キャビアとのマリアージュでは、シャンパンか、さもなくばウォッカというのが定番である。
(さて、うちのマドンナは……)

 食後のコーヒーまで、彼女にスイス時代の話を促し、それを聞くことに徹した。
 途中、
「清次は私がいない間どうしていたの? どのような成功を手中に収めたか聞かせて頂戴」
 と聞かれたが、
「まあ、それはまた後で……」
 と答えた。
 生臭い自慢話をするのを、彼ら二人とともにいた家族の誰も日頃から好んでいなかったからである。

 その代わりに、後で二人になった時に清次の近況を聞かせることを約した。
 そろそろ来る頃合いではないかと思案していると、扉が叩かれた。
「姉さんか?」
「ええ、そうよ」
「入っていいよ」
 戸が開かれ、淳良が入室する。
 その彼女に対して、彼が座っているジュリオ・マレッリのソファの、斜め向かいの席が指し示された。
「そこに座るといい」
 言われたとおりに座った。
 それに対し、彼は思い起こすかのように聞いた。
「俺の近況、だっけ?」
「ええ、そうよ」
「政治の話は、親父もお袋も美月も三陽も、みんな嫌いだからな、聞いてくれるのは姉さんだけだ」
「アメリカで選挙に出るとか」
「そうだ」
 と肯んじた。
「八雲製薬の工場があるネブラスカ州で出馬するつもりでいる。まずは州議会か連邦下院、次に上院」
「そんなに上手くいくの?」
 と楽しげに聞く。
「下院のポーリー・テイラーと上院のオーエン・マクマイケルは歳から言って俺が出馬する頃合いには引退してるだろう。
 その後釜に座るつもりでいる」
「しなかったら、どうするの?」
「させるまでだ」
「アメリカ政界に殴り込みをかけるわけね」
「ああ、日本人がカミカゼ・アタックをかけるわけだ」
「不謹慎ね」
 その冗句にくすりと笑って、
「アラブ人だったらさしずめ9・11テロかしら」
 と応じる。
「不謹慎なジョークへの対応もスイス仕込みかい?
 名門寄宿学校ではありとあらゆることを吸収できただろう、これ以上教わることはないというくらいに」
「ええ、今の私は何でも手に入れることが出来るわ。望みさえすれば」
 淳良は肯く。
 それに対し、
「いい自信だ」
 と彼も肯く。
「本物の砂金に触れたその指は、これから何でも紡いでいける。
 それはあなたの持つ最大の財産だ、大事にするといい」
 そこまで言って、ふと彼女に何も出していなかったことに気づいた彼は純金製のキャビアスプーンを差し出した。
0402下篇 Coucher ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:12:10.90ID:hZvwEcfZ
「姉さんもキャビアを食わないか?」
「結構よ」
「じゃあ、何か飲まないか。カクテルなら一通り作れるし、……」
「要らないわ。折角の手柄話だもの、素面で聞かせて頂戴」
 言葉を遮り、彼女は話の先を促した。
 それに彼も素直に応じる。
「わかった」
「それで、選挙対策に誰かプロは雇ってるの?」
「カロル・ガウンの助力を得ている」
「彼を雇ったの……」
 と息を呑んだ。
「こっちで言うなら和泉元首相の秘書の飯田武のような人でしょ、よくそんな大物を参謀につけられたわね」
「飯田が『日本のカロル・ガウン』と呼ばれているんだがな。
 どうして雇えたか、知りたいかい?」
「ええ、とても」
「俺ももうすぐマクミラン家の身内になるから、特に便宜を図ってもらえたんだ」
「どういうことかしら?」
 と、冷静そのものの声でその意味を問い質す。
「エドワード・V・J・マクミラン元大統領の一番上の息子が上院議員やっててな」
「それは知ってるわ」
「そいつのガキにセシルという薬物中毒のバカ娘がいて、彼女と婚約する手筈になっているんだ」
「……」
「どうだい、凄いだろ。お前さんの弟がアメリカ有数の名家の一員になるんだぞ」
 何がしかの反応があると思ったが、淳良は薄く笑みを浮かべたままである。
「驚くなり喜ぶなりしてくれよ、そんなに気が抜けていたら乾杯も味気ないだろう」
 それを聞いた彼女は、立ち上がり、言葉を発した。
「馬鹿にしているの?」
 それを受けて清次も立ち上がって、向き合う。
 峻厳な口調に突如として切り替わったことに対して僅かばかり戸惑うも、すぐに聞き返した。
「どうして馬鹿にしてることになるんだ」
 向かい合った時の二人の身長の差は、ちょうどジョージ・サンダースとアン・バクスターのそれと同じぐらいである。
 だが、淳良が見上げる形になっているにも関わらず、清次を思わずたじろがせる威圧感を出していた。
「私ははるばるこの極東の地まであなたの夢のために祝杯を挙げに来たのでもなければ、トウモロコシの皮をむきに来たのでもないわ」
「何が言いたい」
 こうなるとさすがに彼も苛つきだしてきた。
「言わなければ分からないなら、言ってあげる。
 セシルはあなたに請求書を回しているけど、あなたから回ってきた(結婚)誓約書に署名することはないわ」
「どうしてだ」
「私が許さないからよ。あなたが誰と付き合おうが構わないわ。でも、番(つがい)になるのは許さない」
 清次は、一瞬淳良が何を言っているかわからなかった。
「ははははは、何を言っているんだ。何の権利があって、ははは」
 しかし、淳良は畳み掛けるように言葉を継いだ。
「あなたは今この時から、私のものよ」
 と。
 そして、言うが早いか、彼女は清次の唇を奪った。
 これまた清次は、一瞬自分が何をされたのかわからなかった。
 しかし、今自分が何をされているかに気づくと、どうしようもない嫌悪感に襲われた。
 あの父親と母親、弟と妹と、同じ、近親相姦……
 彼には――大抵の人間にとってはそうだろうが、彼のそれを忌み嫌う感情はその家庭背景もあって人一倍強かった――耐えられることではなかった。
 カッとなって平手を食らわせ、ドアを開けた。
「出て行け」
 だが淳良は悠然とドアを閉めた。
「背が高ければ貫禄が出ると思ったら大間違いよ」
「出ていかないなら出ていかせるまでだ」
 ジャケットの内ポケットに入れていたブラックベリーに手をかけようとした。
「赤城のところに掛けるのかしら?」
 それを聞き、彼はそれを取り出さないまま手をポケットから抜いた。
0403下篇 Coucher ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:13:23.07ID:hZvwEcfZ
「一流のビジネスマンらしい勘ね。それはあなたの持つ最大の財産よ、大事になさい」
 金脈よりも、人脈よりも、と皮肉を投げる。
「で?」
「政治家に裏金をばら撒いていたでしょう」
「それがどうした」
「そしてその原資もまた、あなたが会社の中で作っていた裏金ね」
「それがどうした」
 つっけんどんな態度で同じ言葉を重ねる。
「だから、亜由美を殺した翼を捕まえろと、九尾に迫ることも出来た、と」
 その言葉を聴いた時、彼に初めて焦りと驚きの色が浮かんだ。
「星野あたりから聞いたか」
「いいえ、もっとあなたの身近な人」
「ということは、まさか、……」
「そのまさかよ」
 その途端、顔を険しく変えた彼は、自分のデスクに駆け寄り、引き出しを開ける。
「赤城猶武も今宵限りだ……!」
 国定忠治張りに啖呵を切る。
 しかし、そこには彼の目的物がなかった。
「うそだ! ないっ!」
「お探しのものはこれかしら?」
 振り向くと、先程まで会話を交わしていた人間の手には、彼が隠し持っていた拳銃があった。
「禁制品なんだから鍵のかかる引き出しに保管しておきなさいな」
「返せ!」
 清次が掴みかかろうとしていた、ピストルを持つ手が上げられる。
「グロック19なんて、政治家が持ってたら死亡フラグよ」
 かつてアリゾナでおきた銃撃事件を引き合いに、彼をからかう。
「その事件では撃たれた議員は死ななかった、今の俺にとってこの状況は銃乱射どころか同時多発テロ並みの衝撃だが。
 それに俺はまだ政治家じゃない」
「ええ、永遠に」
「何だと」
 食ってかかられても、淳良は構わずに続ける。
「ねえ、あなたはアメリカの保守政治家にもっとも必要な、生命を尊重する考えがないんじゃないかしら?」
「銃を持ってNAA(全米武器協会)と仲良くやっていくのも保守の勤めだからな」
「それだけじゃないでしょ」
 と一呼吸置いた。
0404下篇 Coucher ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:14:39.70ID:hZvwEcfZ
「あなた、元彼女の神原茜を妊娠させて、中絶に同意しないと見るや交通事故で流産したと装って堕胎したでしょう」
「彼女は何も知らない。何もだ!」
 と自信満々だったさっきまでとは打って変わって取り乱している。
「彼女が担ぎこまれた聖マグダラ病院の瀬島光医師が独立する際に開業資金を融通したでしょう」
「うそだ! あいつは金のためなら何でもする奴だ!」
 ベッドに駆け寄り、突っ伏す。
 対する彼女はここぞとばかりに追撃していく。
「その通りね、金で味方になる奴は金で敵になるわ。
 だから金で医療倫理を売り、金で共犯者を売った。
 金をケチるからそんなことになるのよっ!」
 そう言って、身体を掴んで強引に顔を自分の方に向けさせる。
「あなたのプロライフ活動での働きぶり、雄弁ぶり、見事だったわ。
 それで、人工妊娠中絶に対する公的補助の禁止がどうしたって?」
「……」
「共和党、民主党を問わず、ロー対ウェイド判決を覆そうと戦っている全ての政治家とその支持者に対する侮辱だわ」
「好きで言ってるわけじゃない! 保守州で勝つためには必要なことなんだ!」
「わかってるわ、そんなこと。
 あなたが胎児の生命を守ることに何の関心もないことは。
 そのおかげで、あなたのことを愛してもいない女があなたの子供を産むような虫唾が走るような事態にはならずに済んだから、むしろ嬉しいくらいよ」
 彼女にとって、清次が愛人を持つことはともかく、その間に子供を作ることだけは、どうしても許せないことだった。
 そんな本心を察するべくもなく、彼は捨て台詞を吐くかのように応じた。
「そりゃよかったな」
「それに……」
 そこで彼女は一呼吸置いた。
「胎児でも乳幼児でもない、立派な親友の命さえ、求めに応じて殺してしまったんだもの」
「うそだ! そんなことしてない!」
 と、さらに蒼白になりつつ、あくまで白を切る。
「操が飲んだ青酸カリの残留物と、八雲製薬の子会社の化学メーカーがあなたに譲ったそれの分析結果が一致したわ」
「そんなことまで押さえているのか……」
「このままいけば清次は容疑者になっちゃうわねぇ」
 と鷹揚に語り掛け、畳み掛ける。
「もうやめてくれ……」
 彼の声もすっかり弱々しくなった。
「さ、あなたが婚約するというのは私の聞き間違いよね?」
「そうだ……」
「あなたは天使でもなければ、ましてや悪魔なんかではない。
 ただの俗物よ。
 俗物が翼を持って、高く飛びすぎるとどうなるか、イカロスを例に挙げるまでもないでしょう?」
「そうだ……」
「あなたは私のものよね?」
「そうだ……」
「いいわ。じゃあ、お休みなさい。ゆっくり眠って、体力を蓄えておきなさい」
 といい、部屋を去ろうと歩き出す。
「今日は私も長旅で疲れているし、一人で寝る最後の夜にしてあげる」
 そう残して、戸が閉められた。

 彼女が去ってから、清次は――かつて親友・操に分けた――青酸カリを取り出し、机の上においた。
 と一緒に、それを飲み下すためのミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出す。
 瓶を開け、飲もうと口に近づける。
 それから先は一瞬だ。
 手が震える。
 体が凍る。
 しばらく微動だにせず、そして、ついにふたを閉め直してしまった。
0405下篇 Coucher ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:19:02.29ID:hZvwEcfZ
 翌日、早めの夕食を終えて風呂を浴びた清次は、バスローブだけの姿になって、もうすぐやられに来る自分の姉を待っていた。
 あまり早く射精しないようにと、オナニー代わりに彼のメイドの一人である千夏と一戦交えた後、一人になってレミー・マルタン・ルイ13世を舐めるように飲み、くつろごうとしている。
「『ファーストキスはレモンの味』なんてつまらんクリシェがあったっけな」
 清次は独白を続けつつ、コイーバを吹かしていた。
「なーにがレモンだ、お前のファーストキスはレジン(ヤニ)の味だ」
 そう強がりながらも、彼はいまや閻魔大王の前に引きずり出されようとしている罪人のような心境であった。
 
 ノックが聞こえてきた。
「開いてる」
 扉が音を立て、淳良が中に入ってきた。
 しかし、彼は入ってきたその姉の出で立ちに胡乱な目を向けた。
 それもそのはず、彼女はトレンチコートを身に着けていたからである。
「なんだい、その格好は?」
「こういうこと」
 そういうと、彼女はおもむろに前を開いた。
 裸ではないが、オープンバストとオープンクロッチの、下着とも呼べないような布切れを身に纏っているだけだった。
 半ばあきれたような表情で、聞くまでもないその布の意味を問うた。
「どういうつもりだ」
「あなたは恋人たちと時々こういう格好でやると聞いてるわ」
「バーバリーマンならぬバーバリーウーマンだな」
「それを命じているのは他ならぬ清次、あなた自身とも聞いてる」
 それが証拠に、とばかりに、しなやかな手が彼の股間に伸びる。
「ほら」
「俺だって男だ、そうなるさ」
 既にそこには血液が著しく集中し始めいた。
 自分の無念を、心の中で呟く。
(勃つかどうか心配だったが、節操無しな息子だな)
「昨日も来たからわかるだろう、あそこがベッドだ」
 と、手を向けて示す。
「わかってる」
「処女とヤるのは初めてだから、上手くやれるかわからんぞ」
 と嘘か真かわからないような自己申告を行う。
 それに対し、さすがに緊張した面持ちで、
「痛くても堪えるから、大丈夫」
 と告げ、コートを手近な椅子に掛けると、ベッドへと向かいだした。
 しかし、そこで彼は淳良が持ってくると約束していたものを持っていないのに気づいた。
「待て。近藤さんは?」
「ピルを服用してるから」
「別にそっちは心配してないさ。10万ぐらい用意するのはわけないしな」
 10万。
 ある種の、不幸な命が宿った時に行われる手術に必要な代金であり、今まで幾度となく彼が女の同意を得て、あるいは得ずに行ってきたものだ。
「最低」
 淳良は吐き捨てた。本当に自分に惚れているのか清次は疑わしく思った。
「どうとでも。俺は泌尿器科になんて行きたくない、それだけの話だ」
「一緒にしないで」
 蔑むような口調が一層きつくなった。
「不特定多数を相手にしているわけでもないのに、どうして罹る病気があるっていうの?
 それと」
 一呼吸おいて、彼女は続けた。
「堕ろすつもりはないからね。いずれ、産ませてもらうから」
0406下篇 Coucher ◆3AtYOpAcmY 2014/09/11(木) 15:22:45.69ID:hZvwEcfZ
 膣内に吐き出し、そのまま仰向けに倒れこんだ。「もう沢山だ」とでも言いたげな態度だ。
 その清次の股座に、淳良が顔をうずめる。
「綺麗にしてあげる」
「いいよ」
 迷惑そうな顔で返すが、彼女も引かない。
「私がしたいの」
「そう、ご勝手に」
「ええ」
 ついさっきまで処女だった彼女の舌技の巧拙は言うまでもないが、体液に塗れた陰茎は何とか綺麗になっていった。
「どう」
「この前行ったキャバ嬢の方が上手い」
「ネブラスカより、舐らす方がいいでしょ」
 先程から仏頂面だった彼も、思わず苦笑してしまった。
「そうかもな」
 清次は、淳良の頭をそっと撫でた。
 この時自分がそのような行動をとった理由を、彼は終生理解することはできなかった。
0411 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/10/18(土) 22:40:53.65ID:qvA8NWS5
>408
完結乙です。


投下します。
0412パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/10/18(土) 22:42:51.43ID:qvA8NWS5
「では、その時に叫んだわけだね?」
「はい、無我夢中でもがいている内に口の拘束具が外れたんで…」

とある病室で、警官から事情聴取を受けているトシヤ。
監禁生活から抜け出した後に、数日の検査入院が必要になったのだ。

「ありがとう、協力に感謝するよ。じゃあ今日のところは失礼するよ」

そう言って、退室する警官。
それを凝視している人物がもう一人…。

「ね、姉さん…。ちょっと離れて」
「嫌よ」

マキはトシヤにべったりとくっついていた。

「あぁ、無事で良かった、トシヤ…トシヤ…」

そう呟くマキ。

保護されて検査入院した日、マキは狂乱しながら病室に無理やり入って来た。
そしてトシヤを気が済むまで抱きしめた。
さらに近づく人間、特に女性には敵意…よりも殺意を剥き出しにしていた。
おかげで、女性看護師達は何も出来ず、まだ数人しかいない男性看護師が付くことになった。

それからずっと、トシヤの傍を離れていない。
0413パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/10/18(土) 22:44:18.89ID:qvA8NWS5
「よっと」

ベッドから降りるトシヤ。

「どうしたの?」
「ちょっとトイレ」
「私も行くわ」

トシヤにはこれも頭の痛い問題だった。

「いいけど、入り口で待っててよね」
「何言っているの?危ないじゃない」
「(何が危ないんだろうか…)」

マキはズカズカと男子トイレに入っていき、トシヤの傍にいようとした。
流石に“大”の方は個室の外で待ってもらったが、最初は手伝いまでしようとしたので
必死になって追い出した。

「(これじゃあ、監禁から軟禁だよ…)」

個室でトシヤは考えていた。
マキの行動の変化について…。

前はオドオドしている印象もあったのに、今はまるで逆だ。
本当に自分を男として見ているのだろうか…。
これまでの経緯を冷静に辿れば…。

ドンドン!

「早くしてよ!」

個室の外からの声。

「わ、わかったって」




退院日。
病院食以外の物を食べさせようとしたマキの提案でファミレスに向かった二人。
そこで、トシヤは意外な人物と鉢合わせることになる。

「お久しぶり、トシヤ君。とりあえず生還おめでとう」
「ユリコちゃん?!」
「…」
「そんなに睨まないで下さい。私には兄さんがいますから」
「えっ?」
「そういえばトシヤ君には話してなかったかもしれませんね。
でもまずは何か食べましょう」
0414パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/10/18(土) 22:46:19.02ID:qvA8NWS5
「たまたま、マンションに入っていくトシヤ君を見つけたのは私だったんですよ」

注文したハンバーグを冷めないうちに食べるユリコ。
喋りながらも、手は止まることは無い。

「で、その後に失踪したと大騒ぎして…」

また一切れを口に頬張りながら、マキを見つめるユリコ。

「ええ、そうね。あなたはトシヤの命の恩人だもの、感謝しなくちゃね」
「ありがとう、ユリコちゃん」
「どういたしまして」

最後の一切れを食べ終え、紅茶を口に含むユリコ。

「それで、お二人はこれからどうするんです?」
「?」
「トシヤ君。あなたは知らなかったでしょうけど、お姉さんがどれだけ心配していたか、
少しは考えたらどうなの?」
「そ、そうだね…」
「ふう、ご馳走様でした。私のお代はここに置いておきます。―――お姉さん、幸運を」

そう言って立ち去っていくユリコ。

「本当に、あの子には頼りっぱなしね…」

そう呟くマキはある決意を固めていた。
0415パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/10/18(土) 22:48:29.94ID:qvA8NWS5
数日振りに帰宅した我が家はどこか懐かしい気がしていた。
もしかしたら、二度とここには戻れなかったかもしれないからだ。

「トシヤ、話があるから部屋に来て」
「うん…」

神妙な面持ちのマキにトシヤの心境は懺悔の念で溢れていた。

パタン―――
ゆっくりドアが閉まり、広くもない密室で二人きりになる。

「ごめんなさい…」
「ど、どうしたの、姉さん。謝るのは―――」
「いいえ、私が…私がいけないのよ。私が―――おかしいから…」

後ろを向いたまま俯いて話すマキ。

「実の弟に恋愛感情を持つなんて…トシヤ、あなたにも迷惑かけたわね」
「そんな事は…」
「何度も自分に言い聞かせたわ。普通になろうって。でも無理だった…。
意識しないようにしようとするほど、あなたが頭に浮かんでくるの。
でもあなたはきっと、私から離れて他の人と恋に落ちて…」
「…」
「認めたくはなかったけれど、でもあなたの意思を捻じ曲げることもしたくなかった。
だってあなたのことが大好きだから…。だから、もし許されるなら…もう少しだけ…
私の傍にいて…」

その背中は震えていた。
声も嗚咽交じりで消えかかっていた。

トシヤはなんとかしてやりたいと思った。
それは罪悪感から来るものだったのかもしれない…。

「うん、マキ姉さん…。僕もマキ姉さんのことが大好きだよ…」

そう呟き、背中からマキを抱きしめるトシヤ。
それはその場しのぎの発言だとトシヤは自己嫌悪していた。

しかし、発言の中身は嘘偽りないものでもあった。
もっともこのときのトシヤにはそこまで考える余裕はなかった。

「ヒック―――うぅぅ…」

向き直りトシヤに抱きつくマキ。
抑えていたものが一気に溢れ出ていた。
0416パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/10/18(土) 22:49:46.16ID:qvA8NWS5
警察署の留置場。
見回りの警官がある独房を覗いた。

「?!!」

壁一面には文字が書きめぐらされていた。
どうやら人の名前のようだが…。

そして、空いた壁のスペースに今なお名前を書き続けている女が一人。
なにかぶつぶつ呟いている。
その文字の色は全て赤であった。血文字のようだ。

「な、何やってる?!」

中に入り、女を取り押さえる警官。

「トシヤ君トシヤ君トシヤ君トシヤ君トシヤ君―――」

ミコトは狂気に憑りつかれながら、自らの愛しい男の名を書き続けた―――
0417 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/10/18(土) 22:50:36.18ID:qvA8NWS5
投下終了です。
0419名無しさん@ピンキー2014/11/04(火) 01:43:20.39ID:FHpowX5p
三年ぶりにここに来たが最高だわ
0420広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2014/11/24(月) 18:10:15.60ID:555tl0TQ
皆さん、今晩は。
「あなたがいないなら何もいらない」〜「あなたがいるなら何もいらない」〜「あなたがいるだけでは何にもならない」とこの場をお借りして話を綴ってきました。
その後日譚を投下したいと思います。

>>417
GJです。
女性陣が本格的に狂気を剥き出しにしてきて、読み進める側としてもゾクゾクします。
0421エピローグ 10 years after ◆3AtYOpAcmY 2014/11/24(月) 18:11:12.69ID:555tl0TQ
 そこには、白御影石の墓碑が故人を偲ばせるかのように毅然と存在していた。



 清次は姉――いや、今や彼の番(つがい)でもある――を説き伏せ、彼女とその間に生まれた子供を残して一人で墓参に訪れていた。
 彼の亡き友人、半川操の命日だからである。
 静かな墓地を黙々と歩きながら、物思いに耽る。
(わがままな奴だ、墓参りひとつ勝手にさせてくれないんだから)
 淳良のことに考えが及んでいた。
(今日はあいつとは寝てやるもんか。晶菜の所に行ってスッキリしよう)
 ついでに、いかに今夜過ごすかの計画を決める。
(俺が篭絡されて、美月には「年貢の納め時」「ツケを払わされた」と揶揄されたっけ)
 石畳の参道を進んでいく。
(家族以外もみんな似たり寄ったりで……。
 心から同情してくれる奴がいたとしたら、そう、)
 目的とする墓の前にたどり着いた。
(ソウくらいだろう)
 その墓碑銘に目を移す。
「半川家之墓」
 操と翼を含め、半川家の人間が入った墓である。
 そこに、彼はやるせなさを感じる。
 操は、遺書の中で、亜由美と一緒の墓に入りたいこと、翼とは一緒の墓には入りたくないことを記していた。
 しかし、結果として彼のその要望は聞き入れられなかった。
 悲嘆が思わず口をついて出る。
「気の毒に……」
 独語し、合掌する。
 買ってきた花を供えた。
 紫苑や霞草、ジャーマンアイリスを中心とした花束だ。
「まあ、自殺でも墓を建てさせてくれるだけ、耶蘇教よりはマシか」
 と、自分もカトリックであることを忘れているかのように再び独語し、水を柄杓でかける。
 墓石が水を浴び、潤っていく。
 それを済ませると、線香に火をつけ、線香立てに供える。
 再び合掌し、それに続いて拝礼する。
 顔を上げた清次は、おもむろに語りだした。
「そっちではどうしてるかい?
 天国か地獄かはともかく、あっちでは篠崎と二人でいられたらいいな。
 情けないことだが、俺は姉貴に組み敷かれてしまってるよ。
 驚いているか? 俺も驚いている。何でも高校までスイスにいたんだそうな。
 俺に姉貴がいたと知らなんだ。翼さんや由貴乃ちゃん、あと美月なんかは知っていたようだがね。
 で、お前が死ぬちょっと前に話していた政界入りだけど、姉貴に止められちまった。
 やっぱり人の目が集まる立場にいるとあの女としても都合が悪いんだろうな。
 今は副社長として会社を切り盛りしているよ。
 一応、政府なんちゃら会議の議員やらなんちゃらスポーツ協会の会長やら、わけのわからん名誉職やら何やらももらってるし、これが分相応ってことなのかね。
 ソウは、生きていたら、どんな風になっていただろうねえ。
 やっぱり親父さんの後を継いでいたのかね。
 それともまた何か別の道があったんだろうか。
 まあ、言っても詮無いことかもしれんが……。
 じゃあ、また来るな。元気にしててくれよ」
 泉下の客に、元気で、とはおかしい、と自分で思いつつ、帰ろうとしていた時、誰かが、懐かしい声、懐かしい呼び名で、清次を呼んだ。
「キヨ! 来てたんだね」
 そこには、彼の旧友、酒井希一郎がいた。
「キィも……、!」
 だが、彼は独りで来ていたわけではなかった。
0422エピローグ 10 years after ◆3AtYOpAcmY 2014/11/24(月) 18:12:08.73ID:555tl0TQ
 その傍らには、酒井和奈と酒井由貴乃。
 そして2人はそれぞれ赤子を抱えていた。
 桶を足下に置き、清次はつかつかと希一郎に歩み寄る。
「どうして連れてきたんだ」
「どうして、って?」
 険しい表情の清次に対して、希一郎はきょとんとしている。
「ソウがどうして死んだか知ってるだろ。
 そのソウの所に兄妹の間にできた子供を連れてくるなんて……!」
 それを聞いて彼はようやく言わんとするところを理解した。
「ソウがどんな人間で、何を望んでいたか、親友だからわかってるよ」
 そう言って、希一郎の表情は柔らかいものになる。
「愛する人と一緒に平穏な時を過ごす。
 僕たちが今その生活を叶えていることを、ソウは喜んでくれるはずだ」
「しかし、ソウは翼さんを憎んで死んでいった、それは事実だ」
「その通りだね」
 と首肯した。
「なら……!」
 食い下がる清次に、語りかける。
「キヨは、ソウの遺書を覚えている?」
「ああ、『政に生きる者は政に死す、財に生きる者は財に死す。そして、愛に生きる者は愛に死すものだ』だろ」
「その続きだよ。『愛に生きることに万策尽きた不明は慙愧に耐えない。だが、これを以て下した選択を諒解せられたい』」
「それが?」
「策があれば、それを行っていただろうな、って」
 と、一拍置く。
「だから、翼さんがソウと篠崎と、三人で暮らしていくことを決めていたら、誰も死ななくて済んだのに、と未だに悔やまれてならないんだ。
 由貴乃のように」
 名が出てきて、清次はその妹のほうをちらりと見る。
 目が合い、彼女は、手練れのビジネスウーマンらしからぬ、柔和な表情で会釈する。
 その貌は、家庭の幸福に満ちていた。
 そして、希一郎と対照を描いた操を想い、清次の目頭が熱くなる。
「そうかもしれないな」
 間が空いてから、彼はそれに同意した。
「あの時は、同じ呪縛に囚われた者として同情していただけだった。
 しかし、今にして思えば、彼が生きていたとしても、悲嘆というブイヨンで煮込まれたポタージュ・サンジェルマンになっていただけだろう。
 弁解で言うわけじゃないが、彼は死んで楽になれた、そう思う」
 さらに長い間を置いて、希一郎が訊ねた。
「やっぱり、あの青酸カリはキヨが渡したんだね」
「そうだよ」
 躊躇うことなく、彼は即答した。
「なぜ今になって聞いたんだ?」
「今日で、ちょうど10年になるからだよ」
 10年。
 その年数は、清次にとって特別な意味を持つ。
 刑事訴訟法の規定では、自殺幇助の時効は10年である。
 彼が操を手助けしたことが、今日この日の午前0時を以て、罪に問われなくなったのである。
「ソウがあの時俺から毒物を受け取って、それを仰いだのは間違っていると思うか?」
「ううん」
 と首を振る。
「僕がソウでも、やっぱりキヨにお願いしていたと思う」
「じゃあ、俺は? 俺が渡したこと、そしてそれによって捕まらなかったことは、間違っていると思うか?」
「さあ」
 と首を振り、
「でも、人が人を責めるということの中に、解は含まれていないと思う。
 故人に、親友に、いつか本当に再会した時に、その答え合わせが出来るといいな」
 と継ぐ。
「そうだな」
 同意し、彼らから離れる。
 帰ろうとしていた清次に、言い忘れていたことを付け加えるかのように声をかけられた。
「淳良さんが出産したら、僕らもまたお祝いに行くよ」
 ありがとう、とも、その必要はない、ともとれる感じで手を振り、それに答える。
0423エピローグ 10 years after ◆3AtYOpAcmY 2014/11/24(月) 18:13:15.13ID:555tl0TQ
 清次は今、信仰心のない彼らしくもなく、心から祈った。


 どうか、俺やキィの子供たちが、親に似ないで健やかに育ちますように。


 そう念じ、そして、彼は歩を進める。



 一陣の風が吹き抜ける。



 何とはなしに天を仰ぎ見ると、蒼々たる空が、どこまでも広がっていた。
0426 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/18(木) 13:03:56.73ID:DFzebxe3
>425
長い間お疲れ様でした。
シリーズの作品を楽しく読ませていただきました。
機会があればまた拝読させてください。

投下します。
0427パンドーラー15 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/18(木) 13:05:09.20ID:DFzebxe3
退院した日の夜―――
風呂も上がり、くつろいでいた時のことであった。

「ねぇ、トシヤ…一緒に寝てもいい?」
「え?!」
「ごめんなさい、でも今日は一緒にいてほしいの…」
「…うん、いいよ」

トシヤは先にベッドに入ると身体をずらし、そのスペースにマキが入り込んだ。
勿論、一人用のベッドなので、二人寝るには窮屈だ。
隙間なく並んだ二人は互いに顔を合わせている。
昼間に泣いたためか、マキは若干目を腫らしていた。
トシヤはそれに心が痛んだ。
それでも、風呂上りの女性特有の甘い匂いに動揺していた。

「マ、マキ姉s―――」
「昔を思い出すわね、島に居た頃の事…」

ふと、マキが語りだした。

「あ、あぁ、そうだね」
「毎日、くたくたになるまで遊んで…夜はぐっすり眠って…」
「うん…」
「幸せだった…、本当に幸せだった…」

すると、マキはトシヤの胸に顔を当てた。
突然のことにトシヤは少し驚いた。

「トシヤ…」

そう呟くマキ。
暫く何も考えられず、直感的にトシヤは手をマキの背中に当てて優しく撫で始めた。

「ん…」

身震いするマキ。

「ゴメン、嫌だった?」
「いいの、もっとしてほしい…」

そう請われて、トシヤは撫で続けた。
0428パンドーラー15 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/18(木) 13:06:23.27ID:DFzebxe3
「はぁ…トシヤ…」

マキの熱い吐息が胸に掛かる。
トシヤ自身も鼓動が早くなっていった。



「トシヤぁ…」

手をトシヤの背中に回すマキ。
優しく、しかし確実にトシヤを離すまいとする意志が感じられた。

「私、今も幸せよ。あなたのぬくもりをこうして感じ取れて…」
「マキ姉さん…」

自然に、マキの頬に手を添えていたトシヤ。
マキはトシヤの顔をじっと見つめる。
その瞳はとても綺麗で澄んでいた。
そんなマキの姿にトシヤは自身の中の恋心が大きくなっていくのを自覚した。

「トシヤの手、暖かいわね」
「―――マキ姉さんもやわらかい頬だよ、いい触り心地」
「もっと触ってもいいのよ…」

トシヤはマキの頬を優しく撫でた。
実際に餅のような張りのある、それでいて弛みのなく整った肌である。

「トシヤ…」

頬に夢中になっている内に、マキの顔がトシヤの目の前に来ていた。
トシヤの視線の先には、マキの唇がある。
“島”での一件以来触れていない所。
その感触が今でも思い出される。

トシヤの頭の中では欲望と理性が競い合っていた。
すぐそこにマキ姉さんの唇がある。キスをしたい。存分にあの唇の柔らかさを味わいたい。
一方で、実の姉だ、彼女をさらに依存させ堕落させるだけだと理性が警鐘を鳴らしていた。

―――が、その内に…
0429パンドーラー15 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/18(木) 13:07:08.67ID:DFzebxe3
「―――」
「ん?!!」

マキの方からトシヤにキスしていた。
触れるだけの、しかしその思いを強く感じ取れるものの…。

「―――はぁ」
「っ?!」

ほんの僅かな時間、しかしトシヤには長い長い時間が過ぎて、マキは唇を離した。

「マキ姉さん…」
「ごめんなさい…我慢できなかった…」
「―――男が言いそうなことだよ。それは」
「そうね、ふふ」

そうして、どちらともなく目が合うと―――

「んっ」
「ん」

自然とキスをするようになっていた。
さっきまでの理性を忘れてしまったかのように。

何度もキスをし、そうして気付くと二人共眠りに落ちていった。

だが、トシヤは知らない。
マキが何度もオーガズムに浸っていたことを―――



この日からマキの姉弟を超えたスキンシップが始まった―――
0430 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/18(木) 13:08:08.86ID:DFzebxe3
今回は短いですがこれで投下終了です。

出来れば年内にもう一回くらい投下します。
0432 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/31(水) 10:07:55.93ID:AzNU26iF
投下します。
季節的には真逆な話です…
0433パンドーラー16 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/31(水) 10:09:04.92ID:AzNU26iF
トシヤは雨音で目が覚めた。
時間は六時過ぎだが、雨雲で外は薄暗いようだ。
七月になり季節は梅雨入りし、部屋はなんとなく蒸し暑かった。
しかし、それは梅雨のせいではなく―――

「すー、すー…」

ベッドでマキと一緒に寝ていたからだ。

最初に二人で寝た日から、寝るときはずっとマキと一緒だった。
トシヤは倫理的に悩み、ある時に断ろうとすると、マキは悲嘆な表情をし懇願を繰り返した。
マキの瞳から涙まで流れ出そうになり、ついにトシヤは根負けした。

そうして二人で添い寝し、どちらともなく自然にキスをしながら眠りに入るのが
日常となりつつあった。
トシヤは自分からは一線は超えまいと我慢の連続だったが、痛いほど腫れた男根に
マキが気付かないわけがなかった。
トシヤから求めてもらうこと、それがマキの当面の目標だった。
恐らくそれは時間の問題であろうとマキは愉悦に浸りながら、絶頂を迎え眠りにつくのだ。

トシヤが悶々としているのはキスだけではなかった。
マキの服装だ。
去年までの年相応(?)の地味な物ではなく、肌を過度に露出させた扇情的な物を着始めた。
例を挙げれば、今のマキの恰好だ。
ワンピース型のナイトウェアだが、肩紐は細く、丈はかなり短い。
しかもブラをつけておらず、床に座ればショーツが覗けるようなものだ。
姉といえども女性なので、トシヤはマキに興奮し、そして感情を抑圧した。

風呂場やトイレは数少ない性欲の発散の場となった。
勿論、妄想の対象はマキだった。
最近では普通のAV等ではオーガズムを感じられなくなってしまい、トシヤは
酷く背徳感に興奮しながら悩んだ。
0434パンドーラー16 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/31(水) 10:10:08.63ID:AzNU26iF
「近所の夏祭りに行かない?」
あくる日の夕飯にマキが唐突に提案してきた。

「神社でやってるやつ?あれは土曜日だから…明日か」
「私まだこっちに越してきて一年経ってないから、ここのお祭りは初めてなんだよね」

期待に目を輝かせながら、マキは御飯を頬張った。

「そっか…。うん、行こうか。あんまり大きいお祭りじゃないけど」
「ありがとう、浴衣姿を楽しみにしておいて♪」

マキ姉さんの浴衣姿―――
艶やかな姿を想像し、トシヤは自身がそそり立つのを我慢出来なかった。



土曜日の昼下がり。
炎天下の中、買い物がてらにトシヤは街中をぶらついていた。
ふと、後ろから声を掛けられた。

「トシヤ君、こんにちは」
「やぁ、ユリコちゃんと、紅保先輩。お久しぶりです」

ユリコと兄のユウイチも一緒だった。

「あ、あぁ…」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないんだ…」

ユウイチは酷く落ち込んでいるような表情だった。
目からは生気が感じられない…。

「何処か、買い物?」
「暑いからね、アイスとかでも…。ユリコちゃんは?」
「新しい水着が欲しくてね。さぁ、兄さん♪」
「わ、わかってる…。トシヤ、お前は―――いや、いいんだ…」
「は?」

紅保ユウイチはユリコに腕を引っ張れるように去っていった。

「(まるで恋人みたいだったな、ユリコちゃん…)」

二人の関係をそれ以上詮索する気にはなれなかった。
なにしろ―――

「暑い…。早く買って帰ろう…」
0435パンドーラー16 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/31(水) 10:10:53.46ID:AzNU26iF
午後七時を回っても暑さは消えなかった。
熱帯夜の中、トシヤはマキと並んで神社に向かう。

「浴衣って意外と暑いわね…」

扇子を仰ぎながら、マキは暑さにうだっていた。

「でも、き、綺麗だよ…」

藍色に赤い金魚があしらわれた、シンプルだがまさに浴衣の魅力を感じさせるものだった。
髪を結い、うなじが露わになったマキも色気を一段と感じさせ、トシヤはつい口走っていた。
言った後、顔が赤くなるのを感じた。

「ト、トシヤ…!」

マキも戸惑っていた。
可愛いは言われたことはあるが、綺麗は初めてだった。
まして自分の想い人に言われれば、マキは嬉しさと恥ずかしさで胸がいっぱいになった。

ガっ!

「キャッ!!?」
「マキ姉さん!?」

慣れない下駄だったので、マキは地面の段差に躓いた。
それをトシヤが間一髪で支えることが出来た。

「だ、大丈夫…?」
「ええ、ありがとう…」

マキを支えているために、抱きしめているような体勢になった。

「あ、ゴメン…」

マキが元の姿勢になると同時にトシヤは身体を離した。
が、マキはトシヤの裾を握ったまま―――

「ねえ、手を繋いで…。また転ばないように…」
「ッ!―――わかったよ…」

恐る恐るといった感じに、トシヤはマキの差し出された手を握った。
マキの手は柔らかく、すこし汗ばんでいたが、不快ではなかった―――
0436パンドーラー16 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/31(水) 10:12:09.56ID:AzNU26iF
神社についてからも二人は手を繋いだままだった。
いくつかの店でゲームをやり、焼きそば等の料理を堪能した。
マキがリンゴ飴を食べ終えるころには一段落したが、二人は心ここにあらず、といった様子だ。
ゲームをしている時も、焼きそばを食べている時も、お互いのことが気になって仕方がなかった。

「マキ姉さん…」

トシヤがマキを連れて歩きだした。

神社の奥、人の気配がない場所まで来ると―――

「―――ゴメン」

急にマキにキスをした。

「ト、トシヤ…」

マキもそれに応えた。

今までのような触れるだけのキスではなく…深くお互いを求める激しいものになった。

「―――ん―――」
「んん!ん―――」

ぐちゅぐちゅと、口からは唾液が漏れて互いの唇や顎まで濡らしたが、気にしなかった。
トシヤはマキの柔らかい身体を強く抱きしめ、マキも同じようにトシヤを抱きしめた。

「はぁ―――はぁ…」
「あ、―――はぁ―――」

トシヤは息が苦しくなり、ようやく口を離す。
マキは惜しむような声を出した。

「マキ姉さん―――」
「トシヤ―――」

二人はそのまま…

「―――あの射的―――当たらない―――」
「あれ―――取れない―――」

他の声が聞こえてきて、ふと二人は我に返った。
しかし、お互いに暴発寸前だ。

「帰ろう…」
「うん…」
0437パンドーラー16 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/31(水) 10:13:05.10ID:AzNU26iF
家に帰り着き、トシヤの部屋に直行すると、汗まみれなのも気にせず二人はキスを再開した。

「マキ姉さん…好きだ…!」
「トシヤぁ…わ、私もぉ…」

服を脱ぐのも、もどかしくなり半脱ぎの状態でお互いを求めあった。
マキの熱い中を感じ取り、トシヤは一心不乱に求め続けた。
二人の汗が交じり合い、部屋の温度と湿度を上昇させても、止まらなかった。

「マキ、姉さんっ…」
「あ、あぁぁ、トシヤ―――」

そうしてお互いに絶頂を迎える。

「はぁはぁはぁはぁ…」
「はぁ…はぁ…」

背中に手を回し抱き合ったまま、余韻に浸る。

「ありがとう…トシヤ…」
「マキ姉さん…」
「今が一番幸せ…」

マキの本当に嬉しそうな表情にトシヤは惹かれていた。

「ゴメン、僕まだ…」
「いいよ、でもその前にお風呂ね…」

二人が一夜の内にどれだけ行為に及んだかわからない。

しかしその時、避妊は考えていなかった―――
0438 ◆ZNCm/4s0Dc 2014/12/31(水) 10:13:54.20ID:AzNU26iF
投下終了です。
では、よいお年をノシ
0440名無しさん@ピンキー2015/01/22(木) 02:15:15.32ID:Ep8ATkKH
もう2月…今年1月はなしか…
0441 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/28(水) 22:14:18.72ID:VFFCiW2y
1レス短編投下します。
0442三年峠の怪 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/28(水) 22:17:10.25ID:VFFCiW2y
三年峠をご存じだろうか?

三年峠で転ぶと三年以内に死んでしまう、という怖ろしい峠だ。

それは何処にあるのだろうか?

―――――――――

「今日の数学の小テスト、難しかったね」
「あんな問題わからないよ…」

夕焼けが美しく燃える中、茶髪の少女と黒髪の少女の―――
二人の女子高生が峠を歩いていた。
楽しく雑談していたが、ふと茶髪の少女が意を決したように話した。

「実は私ね、お兄さんとお付き合いすることになったの」
「お兄さんって…私のお兄ちゃん…?」
「うん…、今日返事をもらって―――」

私のお兄ちゃんと付き合う?
私の、私だけの、私しか傍にいることを許されないお兄ちゃんと…。

茶髪の少女が喋る中、黒髪の少女は俯き、そして―――

「よかったじゃん!おめでとう!あんなお兄ちゃんだけど仲良くしてあげて!!」

と、茶髪の少女の背中を景気づけに叩いた。

「キャ?!」
「あ…」

しかし、勢いが付き過ぎたのか、茶髪の少女は転んだ。

「いったーい!!」
「あはは、ゴメンゴメン、ちょっと嫉妬しちゃった」
「もーう…」

起き上がって埃を払う茶髪の少女をからかいながらも、黒髪の少女の眼は笑っていなかった。

数日後、茶髪の少女は信号無視の車に轢かれて…。

―――――――――

三年峠を知る者は少ない。

故に犠牲者は人知れず後を絶たない―――
0443 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/28(水) 22:19:46.35ID:VFFCiW2y
投下終了です。

三年峠の話を思い出したので書きました。
設定を一部変えてます。

土曜日にまた投下します。
0446 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/31(土) 22:40:32.53ID:6AW4dGvt
投下します。
0447パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/31(土) 22:41:37.57ID:6AW4dGvt
季節は移り残暑が厳しい九月―――
夏が名残惜しそうに過ぎ去ろうとし、世間は異常気象による災害で騒いでいた。
しかし、二人にはその世間は遠い場所のように感じられた。

「気持ち良かった?」
「う、うん…」
「あの女、よりも?」
「姉さん…、そのことはあまり思い出したくないな…」
「そうね…、ごめんなさい…」

トシヤはマキ以外にミコトと関係を持ったことがあった。
ほんの2、3回ほどだが…。

「それに初めては私だしね…」
「うん…」

そのままベッドでお互いに寝転がり、事後の疲労感につつまれながら眠るのが
マキの楽しみだった。

夏祭り以後、マキと情事を重ねる上で、避妊具―――コンドームの着用を
求めたのはトシヤだった。
もし、二人の間に子供が産まれるようなことがあれば、あまりいい結末は
迎えないだろうと考えていた。

マキの方はその提案を快く受け入れた。
トシヤを手に入れたのも同然なのだ。
今はその幸福感だけで一杯だった。
0448パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/31(土) 22:42:21.23ID:6AW4dGvt
秋に差し掛かり、トシヤは部活を引退、受験勉強に力を入れる時期になる。
マキはトシヤにみっちり勉強を教えることにした。
情欲に溺れて、自分と同じ高校に入れない…そんな事態は避けなければならない。
無論、夜のご褒美も添えてのアメとムチの方法だ。
マキにしてみれば、トシヤの傍にいる理由が増えたので願ったり叶ったりではあったが。

「だから、この公式はここが―――」
「うーん…」
「ここにXを代入―――」
「うん?」
「となると、解が―――」
「ん…」
「トシヤ、ちゃんと聞いてる?」
「…」
「トシヤ!」
「へ?!な、なに?!!」
「…」

と、マキの思惑通りにはいかなかった。

トシヤはそこまで勉強熱心ではなかった。
もともと試験でも平均点を取れるぐらいの勉強しかしてこなかったのだ。
しかし、マキの進学校に入るにはかなり厳しいレベルだった。

「ね、姉さん、少し休ませて…」
「駄目よ、時間は無駄に出来ないわ」
「こんなに詰め込まなくても…」
「何?あんた、私と同じ高校に入りたくないの?」
「いや、レベルが合ってないと進学出来てもやっていけない―――」
「だからこうして教えているのでしょ?私はトシヤと一緒にいたいのよ」
「でも家ならいつも一緒だし、高校は別に…」
「私と一緒じゃ嫌なの?もしかして鬱陶しくなった?」
「へ、ちょっと―――」
「私が鬱陶しい…、もしかして他の女が好きになった…、その子と同じ
高校に入るから私は邪魔…」
「姉さん!何言っているんだよ!」
「トシヤ…本当の事言って、私のこと嫌いになった…?」
「そんなことないから!落ち着いて!」
「だって…私が鬱陶しいのでしょ…、だから…」

マキは顔面蒼白で冷や汗を掻いていた。
思わずトシヤはマキを抱きしめた。

「マキ姉さん、落ち着いて。嫌いになんてならないから」
「トシヤぁ…」
0449パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/31(土) 22:43:22.21ID:6AW4dGvt
ここ数か月は、マキの不安そうな顔を見なくなり、トシヤは安心していた。
それが、こんな形で復活するとは考えていなかった。
マキの思いに応えてやりたい気持ちはあったが、出来ること、出来ないこと、
自分自身に無理強いするのはよろしくないと考えていたのだ。

―――それに、いつまでこんな関係を続けるのか?―――

それはトシヤが目を逸らしてきた問題である。

マキ姉さんのことは好きだ。
だが、姉弟で結婚は出来ない。
学生から社会人、そして年を取るまでずっとこのまま?
世間体のこともある。
僕らの関係が明るみに出れば、社会は間違いなく攻撃してくるだろう…。
そうなる前にやはり折り合いを付けるべきなのかもしれない。

また、他方ではマキと関係を持った以上、責任は取るべきだとも考えていた。

「(人を好きになるって、大変なんだな…)」




トシヤは一晩考えた末に、自分自身のレベルを上げてマキの高校に合わせるしかない
という至極単純な答えを出した。
そこで、成績優秀なユリコに相談したのだが―――

「ゴメンね、今日は兄さんと寄る所があって…」
「そっか、仕方ないね…うんいいよ、なんか邪魔しちゃって悪いね」
「こっちこそゴメンね」

このように夏以降、ユリコが素っ気無くなったように感じていた。
兄のユウイチを何よりも最優先に考えているようだ。

「(やっぱり、自力でやるしかないか…)」




放課後―――
ほとんど来たことない図書室で勉強することにしたトシヤ。
室内は無人であり、トシヤには好都合だった。
マキに叱咤されながら勉強してきた為、独りでのんびりしたかったのだ。

が、流石に実力が追い付いていないので、問題集を開いても理解出来ないことのほうが多い。
終いには、頭痛までしてきた。

「(あぁ〜、もう嫌だぁ〜)」

文字通り頭を抱えて悶絶することになった。
0450パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/31(土) 22:44:15.36ID:6AW4dGvt
「ゲホゲホ!―――ガハッ!!」

マキはその日、体調が優れなかった。
風邪のように身体が怠く、無気力な感じだ。

昼時になっても持参した弁当を食べる気もおきなかった。
とうとう、そのまま早退して家で養生することにしたが…。

さらに嘔吐感までこみ上げてきて、トイレに駆け込むことになったのだ。

「はぁはぁ…、なんなのこれ…」

気持ち悪さの正体がわからず、苛立ちもしてきた。

小康状態になり自室のベッドに戻ると横になり、再び休んだ。

時間の感覚が無くなり、少しうとうとしたときに、ふと思いついた。
この気持ち悪さはもしかして…。

動きたがらない身体を引き摺り、家を出る。
向かった先は薬局。
買ったのは―――
0451パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/31(土) 22:45:17.98ID:6AW4dGvt
「はぁ…ただいま…」
図書室で満身創痍になり、帰宅したトシヤ。
時刻は六時過ぎだが、台所の明かりが消えていることに不審に思った。
いつもなら、マキが夕食の支度をしているはずだが…。

「マキ姉さん?」

リビングに行ってみたが、誰もいない。

「(部屋かな?)」

コンコン―――

マキの部屋をノックするトシヤ。

「マキ姉さん、いるの?」
「トシヤ…入ってきて…」

ガチャ―――

「どうしたの?具合でも悪いの?」

マキはベッドの上で上体を起こしていた。
寝巻を着ていることから横になっていたらしい。

「トシヤ…あなたに言わなきゃいけないことがあるの」
「うん?」





「私、妊娠したわ」
0452 ◆ZNCm/4s0Dc 2015/01/31(土) 22:45:51.27ID:6AW4dGvt
投下終了です。
0454名無しさん@ピンキー2015/02/22(日) 02:00:59.37ID:PuS2pKaS
キモウトって超ニッチなジャンルなのに
某アニメのせいでそのアニメが検索で引っかかるようになったな
0456広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2015/03/23(月) 11:35:16.78ID:wvLgP28d
>>452
避難所で完結させたとのことで、長い間お疲れ様でした。
寂しい気もいたしますが、いずれ御作を拝読させていただければと思います。

なお、>>400-406のタイトルを訂正します。
「下篇 Coucher」ではなく「後篇 Coucher」です。
0457名無しさん@ピンキー2015/04/16(木) 00:20:47.07ID:ygRUoNtK
三つの鎖ってかなり展開の良いところで止まってんだな…
三者とも救われてほしいけど難しいよなあ
04614592015/05/16(土) 05:19:57.04ID:ZYkCiXaj
あの人が投稿したのこれだけなんだよね
もっと読みたかった

ほぼ毎日まとめwikiのアクセスに貢献してるのだがこのテのSS載ってるのってまとめwiki、なろう、ノクターン、ピクシブ以外にある?
0462名無しさん@ピンキー2015/06/15(月) 04:13:00.77ID:HYv7kUKj
キモウトと検索すると劣等生とかいうゴミ作品のキャラが出てきて不愉快
0463名無しさん@ピンキー2015/06/16(火) 10:56:51.71ID:mDb76EXN
あるスレで薦められたのでまとめwikiに載ってた綾シリーズを読んでみた
殺人鬼になってしまった綾ちゃんだがそれでも俺はこの子が好きだな
しかし物語序盤で兄に想いを伝えて無理矢理にでも肉体関係を持っておけばこんな悲劇的な最期を迎える事もなかっただろうに
0464名無しさん@ピンキー2015/06/16(火) 18:51:41.96ID:U926LUXS
暗くて救われない話が多いけどその後に智子のおべんとうとか読むと心が暖まる
あれは良いものだ
0465名無しさん@ピンキー2015/06/23(火) 02:01:02.51ID:yN5p8bW6
「きっと、壊れてる」ってのを読んだが後味悪いなこれ
実の妹を散々弄んで捨てた浩介と、なにかとクズい発言ばかりしてる美佐に嫌悪感しか覚えなかった

壊れちゃった楓ちゃんと自殺しちゃった茜ちゃんどうすんだよこれ
0466名無しさん@ピンキー2015/06/24(水) 06:54:24.60ID:WxnMygDf
狂もうとってのがなかなか良かった
兄の目が潰された点と島耕作が死んだ点はどうかと思ったが、
それ以外はハッピーエンドだな、これは
0470名無しさん@ピンキー2015/07/16(木) 07:12:04.44ID:3/B0/Klu
保守
0472名無しさん@ピンキー2015/07/21(火) 04:15:29.45ID:uXgpu6Vz
えっあれ未完なのか
零奈と薫の対談がエピローグだと思ってた
0473名無しさん@ピンキー2015/07/21(火) 04:24:51.05ID:BTr1Xjor
零奈が精子を舐めながら「麻薬と一緒ね」って呟くシーンは興奮した
0474名無しさん@ピンキー2015/09/13(日) 11:17:51.72ID:DNteLoyo
最近はキモウト作品が少なくて寂しい
キモウトwikiは滅多に更新されないし…
0475名無しさん@ピンキー2015/09/13(日) 11:35:52.21ID:SPKzVp9d
板自体過疎気味だしな
初めてこのスレ見つけた時はドンピシャだっただけに悔やまれる
0476名無しさん@ピンキー2015/09/15(火) 01:34:55.68ID:TiwEmXgF
自分じゃ書けないし
ただひたすら亀みたいに待つしかない
0477名無しさん@ピンキー2015/09/15(火) 02:25:32.91ID:UNmO6hBu
俺が書いても良い
プロットならある
だが肝心の文章力がない
0478名無しさん@ピンキー2015/09/16(水) 01:08:34.45ID:lMQEuEbT
板全体が過疎ってるしここでは書きづらいような・・
その分たまに投下してくれる人は神のように思えるけども
0479名無しさん@ピンキー2015/09/16(水) 02:10:21.86ID:rYdvd2h0
見つけた当初は賑やかだったがだんだんと過疎っていく姿は悲しいな
0480名無しさん@ピンキー2015/09/16(水) 04:36:31.11ID:3/t22ula
書き手はみんなどこに行っちゃったのかねぇ?
なろうにキモウト作品は殆んど無いからなろうではないとは思うんだけど
0482名無しさん@ピンキー2015/09/19(土) 02:57:32.88ID:OiHTDo7o
綾シリーズ
ノスタルジア
歪み兄弟
黜陟幽明六面体

ノスタルジア書いたおゆき氏の作品は長編も短編もいいですねぇ

未完はやっぱり悲しいね。コンタクトとって続きはどうなるんですかーって作者に訊きたいよね
0483名無しさん@ピンキー2015/09/19(土) 12:16:02.15ID:BmonXwBP
その人ブログやってるから、そこでメセ送れば作者に届くと思うよ
全然更新ないけどね
0486名無しさん@ピンキー2015/09/22(火) 07:58:50.82ID:ET+fimU6
相思相愛の兄妹がひたすらイチャイチャしてる感じの作品が読みたい…
0487名無しさん@ピンキー2015/09/27(日) 08:11:50.96ID:Ggu4Q3O8
ヤンデレ妹と傍観者の兄っていう作品に出てくる「妹」は結構良かったな
影が薄いけど
0488名無しさん@ピンキー2015/09/29(火) 22:41:06.76ID:KWM/oLy+
今更だけど前後のレス見てなかったからよく分からないし憶えてないけど、妬き妹書いた人が批難というか嫌なカンジの書き込みあったのはなんなんだ
0490名無しさん@ピンキー2015/10/24(土) 19:34:41.31ID:EkgT4sde
久しぶりにこのスレに来たら相当過疎ってて驚いた
10年(?)くらい前だとこの板の中でもかなり勢いあるスレだったんだけど
この板自体も過疎ってるし他の媒体でもヤンデレの旬はとうに過ぎ去ってるから仕方ないといえば仕方ないけどね
0493名無しさん@ピンキー2015/10/24(土) 22:33:37.39ID:EkgT4sde
すまん
六〜七年前だったわ
このスレじゃないけど自分が投稿してたスレもなくなってるしちょっと寂しいな
0494名無しさん@ピンキー2015/11/01(日) 18:27:36.35ID:pdiPy+U7
俺も何か書いてみよう書いてみようとは思うんだが、他の作品を読んで「俺にこんなレベルの作品が書けるのか」と打ちひしがれて、
結局公開するのが恥ずかしくなって、そんな感じ

キモウトやヤンデレ作品もっと流行れ
0495名無しさん@ピンキー2015/11/02(月) 01:45:08.17ID:OQsEoZLi
賑やかしになにか書いてみようと思っても
明らかに筆力不足だとね…
でもいつかは投下してくれよ
0496広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2015/12/01(火) 14:44:54.84ID:06Y9B2dx
ウィキについては不慣れながら、過去作の保管庫への収録を行わせていただきました。

清次が某演出家風の謝罪文を読み上げるなど、若干の加筆修正を施しております。
0498名無しさん@ピンキー2015/12/03(木) 19:15:55.96ID:BjHp8P+l
>>496
乙乙
wikiは何ヶ月も更新が無かったからなー
新作が活発に投稿されるようになったり、未完結の長編の続きが書かれるようになったら良いんだが
0499名無しさん@ピンキー2016/01/01(金) 00:30:00.02ID:nF3yB4IL
あけおめ保守
『永遠のしろ』の無形さんとかどうしてるのかねえ
0500広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2016/01/07(木) 14:38:15.34ID:XwPDU806
こんにちは。
今日は小ネタを投下したいと思います。
0501無くて七草 ◆3AtYOpAcmY 2016/01/07(木) 14:40:46.32ID:XwPDU806
「出来ましたよ、兄さん」

 軽快な声とともに、用意ができたことを告げる我が妹。
 俺は、パブロフの犬のようにリビングへと向かう。




 こういう特別な日の朝食は、いつにも増して楽しみである。
 こうして料理と向かい合って座っていてもその急く気持ちは収まらない。
 だが、挨拶もなしに手を付けるほど俺たち兄妹は不躾に育てられたわけでもなかった。

「戴きます」
「戴きます」

 そう言って、食事を始める。
 ただ、俺は、麺や雑炊、茶漬け、そして粥の類を書き込むようにして食べる悪癖――癖、というと少し大袈裟すぎるかもしれないが――がある。
 あっという間に平らげてしまうと、妹はやっと半分強を食したところらしかった。

「ご馳走様」
「もう食べ終わってしまったんですか」

 少し呆気にとられたかのように俺を見つめてきた。

「おう」

 と満足して応じると、妹は対照的に不服気な顔で返す。

「もう少しゆっくり食べないといけませんよ」
「気を付けるよ」

 息を吐きながら、それに一応の首肯をした。





 食後、妹が淹れた玉露を飲みながら、他愛ない話に興じていた。

「父さんと母さんも一緒に過ごせればよかったんだけどなあ」

 御用始めに間に合うように任地に戻った父、そして今回の赴任では俺らがある程度の家事をこなせるようになったことを理由に、父についていった母を思い浮かべる。

「しょうがないですよ、お仕事なんですから」
「ああ、そうだ、……なっ…………!?………………?」

 湯呑を持ち上げ、もう一口飲もうかとした時だった。
0502無くて七草 ◆3AtYOpAcmY 2016/01/07(木) 14:41:36.23ID:XwPDU806
 突然、動悸が激しくなり、湯呑を落とし、そのまま椅子から崩れ落ちてしまう。

「きゅ、きゅう、……」

 救急車を呼んでくれ。
 そう頼もうとして妹の顔を見ると、これまで見たこともないような悪党そのものの笑みを浮かべ、こちらを見つめていた。

「効いてきたみたいですね」
「なっ……」
「春の七種、西洋風に言えば七種類のハーブを入れて食べるわけですが、今日私が入れたのはそれだけじゃないんです」

 そう言って、透明な小袋を見せてきた。

「これは、まさか……」
「そうです、巷で流行の品です。
 それを摂取すると、理性を失って、エッチな気分になって、とっても気持ち良くなれるんですよ」

 お前、何てことを。
 文句を言おうとした口は、接吻で塞がれた。

「だから、言ったじゃないですか」

「『もう少しゆっくり食べないといけませんよ』って」

「そうすれば、気付けたかもしれないのに……」

 その妖艶な悪人面が歓喜を浮かべるのを目にして、後悔した。


 ああ、迂闊だった。


 しかし、もう遅い。



 俺が覚えているのは、そこまでだった。
0503広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2016/01/07(木) 14:45:34.44ID:XwPDU806
以上です。
去年のこの日、季節のネタで一篇作ってみたいと申し上げていましたが、今年やらせてもらおうと思いまして、書いた次第です。
0506名無しさん@ピンキー2016/01/08(金) 08:20:28.66ID:WKixw7ih
あかん…この妹は実の兄の赤ちゃんを産む気だ…

だがそれが良い
0507名無しさん@ピンキー2016/02/15(月) 12:18:28.52ID:lq843gRa
バレンタインもののSSが投稿されてると思ったらそんなことはなかった
0508広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2016/03/14(月) 21:40:27.56ID:0o235QRr
先々月の拙作を細かい部分の修正と併せて保管庫に収録しました。

それと、掲示板にアクセスできないのでこの場を借りて報告します。
「あなたがいないなら何もいらない」(1647.html)のページを、当方の不手際により誤って@wikiモードではなくテキストモードで作成してしまったため、上中下篇の各ページにリンクできなくなってしまいました。
編集モードの変更はページ名の変更がない限りできないことになっていますので、お手数ですがリンクできるよう@wikiモードに編集モードを変更していただきますよう保管庫の管理人様にお願い申し上げます。

>>507
バレンタインやホワイトデーは今までこのスレでも珠玉の作品が数多く生み出されてきましたね。
なかなか投下するのには勇気が要りますよ。
05095072016/03/19(土) 20:57:12.07ID:C4z0o4N5
>>508
読むの専門だから配慮が足りんかった
軽い気持ちで言って申し訳ない
0510広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2016/04/14(木) 18:41:03.89ID:jf9MMOFl
皆さん、お久しぶりです。
先日、機会あって宮崎吐夢のかの名曲「僕の姉ちゃんがAVに」を久々に再聴しました。
それに着想を得て作品を一本書き下ろしましたので、投下いたします。

参照:
http://www.nico video.jp/watch/sm28579080
https://www.you tube.com/watch?v=ev_0csYGrpU
0511僕の姉ちゃんがAVに? ◆3AtYOpAcmY 2016/04/14(木) 18:42:19.71ID:jf9MMOFl
 きっかけは、彼女の失踪だった。



 長く付き合っていて、なおかつ深く愛し合い続けていた、俺の恋人。

 その彼女が、帰宅途中に突然姿を消した。
 警察も、彼女の家族も、そしてもちろん俺も、必死に四方八方を探し回ったが、行方は杳として掴めなかった。

「姉さん……」
「大丈夫? ほら……」

 姉さんに抱きしめられ、漸く俺は張り詰めた心を解きほぐすことができた。
 発狂しそうな悲嘆と絶望から、帰ってくることができた。

 同時に、どこかで生きている、そういう希望をもって、再会できるその日をじっと待つ、そういう覚悟を持つことができた。
0512僕の姉ちゃんがAVに? ◆3AtYOpAcmY 2016/04/14(木) 18:43:08.03ID:jf9MMOFl
 しかし現実は残酷なものだ。

 男の生理現象というものは、眩い想い出を胸に抱いていても、抑えつけることができないものだった。

「あら、おでかけ?」
「ああ、ちょっと」

 姉さんからの問いかけに、言葉を濁して、玄関を後にする。
 アダルトビデオを借りるためにレンタルビデオ店に向かうところだったのだから、男は大抵が同様の反応をするだろう。


 そして店に向かい、コーナーを区切っているカーテンをくぐると、お目当ての品を見繕う。
 しばらく吟味したのち、良さそうなものを見つけ、レジに持って行った。


 家に戻り、早速デッキにDVDをセットする。
 そして再生したのだが、1番目の女優はハズレだった。

「駄目だ、飛ばそう」

 早送りをして、次の子が出てくるのを待つ。

「乳首が黒すぎるなあ……、これも飛ばそう」

 再度早送りをして、3人目に期待をかける。

 だが、そこに出てきたのは、信じられない人物だった。

『Hとか好きですか』

『どちらかと、言わずとも好きです』

 俺は、息を呑んだ。

「ね、……姉さん!!??」

 そこに映っていたのは、俺の姉さん、そのひとだったのだから。

『おっぱい大きいですね』

『普通ですよぉ』

『普通に、何カップですか』

『普通にFです』

 インタビューが終わり、絡みに入りつつあるが、もうそんなことは関係ない。
 俺は、気が動転し、矢も盾もたまらず姉さんを呼び出した。

「姉さん! 姉さん! ちょっと来てよ!」

 本来なら、ここで呼ぶべきじゃなかったのかもしれない。

 姉弟とはいえ別人格なのだから、事実を突きつけて非難するということは、すべきではなかったのかもしれない。

 だが、その時の俺には、そこまで気が回らなかった。

 恋人が失踪している中、姉さんがAVに出ていたとなると、まるで姉さんもいなくなってしまうかのような、怒りと焦燥感で一杯になってしまったのである。
0513僕の姉ちゃんがAVに? ◆3AtYOpAcmY 2016/04/14(木) 18:43:40.82ID:jf9MMOFl
「何かしら?」

 姉さんはエプロンの紐をほどきながら入ってきた。
 いまだ流されているままのAVを目にして、呆気にとられたような表情をしているが、俺は構わずその画面を指差した。

「何でこういうことするのさ!」

 しかし予想していた中で一番腹立たしい答えが返ってきた。

「これ、私じゃないわよ」

 映像を覗き込みながら、一瞬薄く笑みを浮かべたように見えた。
 それが苛立たしくて、俺はなおも問い詰めた。

「とぼけないでよ! 姉さん以外の何だっていうのさ!」
「だってほら、ホクロの位置が違うでしょ。私、右足の内股にこんなほくろないわよ」
「そんなの付けボクロでも付ければいくらでも誤魔化せるだろ!」
「メイクもこんなにケバくないわよ」

 と、ここで一瞬、姉さんは俺に対してではない敵意を覗かせた。
 それに対する反発心が、俺の追求意欲をさらに掻き立てた。

「メイクって……、メイクなんかいくらでも変えられるじゃないか!」
「相模、みく……、名前も違うじゃない」
「本名で出る馬鹿がどこにいるんだ!」
「証拠がないでしょ」

 段々言い訳が苦しくなってきた。少なくとも、その時の俺はそう感じた。

「これがまさに動かぬ証拠だよ!」

 すると、姉さんは埒が明かないといった調子で切り出してきた。

「じゃあ、証拠を見せればいいのよね」
「証拠って、何だよ……」

 いきなり話が変わって、俺は少し狼狽える。

「決まってるでしょ」

 そういうと、彼女はいきなり服を脱ぎだした。

「ちょ、ちょ、ちょっと! 姉さん、何してんのさ!」
「決まってるでしょ。証拠を見せてあげるのよ」

 まもなく、着ていた衣服の全てを脱ぎ終わった姉さんは、一糸纏わぬ裸を見せつけてくる。

「ほら、ここ。内股にホクロはないでしょ。逆に、ここにはこの女優はここにホクロなんてない」

 左胸の下を指し示す。確かにそこには黒子があった。

「それに何より……」

 そう言って、姉さんは俺のベッドに腰かけ、陰部を俺に見せつけてきた。
0514僕の姉ちゃんがAVに? ◆3AtYOpAcmY 2016/04/14(木) 18:44:16.55ID:jf9MMOFl
「ほら、ここ。見える?
 これが処女膜よ。AVに出てるんだったら処女じゃないわよね」

 確かに、そこには襞のようなものが見受けられた。

「あ、でも見ただけじゃわからないかもしれないわよね。
 いいわよ。最後まで、確かめても」

 のどがカラカラになるのを堪えて、俺は言葉を返した。

「いいのかよ……」
「いいわよ。私、あなただったら」
「姉さん!!」

 冷静であれば、そんなことはするべきでないのは自明だった。
 だが、俺にはそんなものはもう欠片も残っていなかった。



 ベッドシーツに、緋色の染みが付着している。

 結局、本人の言う通り、姉さんは処女、だったのだ。

「姉さん、ごめん……」
「ううん、いいの。私、あなたが安心できれば、それで十分」

 姉さんのふくよかな乳房に顔をうずめていると、ふと思いが浮かんできた。

(そういえばあの女優の内股のほくろ、どこかで見たような)

(同じところにほくろがある女性を、俺は知っているんじゃないのか……?)

 そこまで思い至った時、俺はハッとした。

(まさか、あの女優は……!?)

 裸で寝ているからというだけではないだろう。
 俺は寒気を覚えた。

「寒いの?」

 俺の考えていることを知ってか知らずか、姉さんは俺を抱きしめてくる。

「温めてあげる」

 真っ白になった俺は、何も反応することはできなかった。



「あなたのそばには私がいれば十分。
 あんな女と違って、私はずっとあなたから離れたりしないから……」
0515広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2016/04/14(木) 18:47:52.59ID:jf9MMOFl
おしまいです。

>>509
いえいえ、お気になさらないでください。

ちなみに、関係ありませんが、今日はホワイトデーからちょうどひと月ですが、4月14日のことはオレンジデーと呼んだり(日本)、ブラックデーと呼んだり(韓国)するそうです。
0516広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2016/04/15(金) 18:42:13.89ID:0F1vJWvS
こんにちは。
昨日は最初にNGワードが出まして、泡を食ってしまいました。
そのせいというわけでもないのですが、>>513でミスをしてしまいましたので、訂正します。

(正)「ほら、ここ。内股にホクロはないでしょ。逆に、ここにはこの女優はホクロなんてない」
(誤)「ほら、ここ。内股にホクロはないでしょ。逆に、ここにはこの女優はここにホクロなんてない」

それでは、失礼しました。
0518広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2016/06/14(火) 18:43:50.97ID:kam2o8lq
お久しぶりです。
先々月の当方の作を保管庫に収録いたしましたので、その旨お伝えします。
それでは、失礼しました。
0520名無しさん@ピンキー2016/08/26(金) 23:08:33.16ID:Mvt6NzZW
すんごい久しぶりに来たけどたまに投下あるのね
0521名無しさん@ピンキー2016/08/26(金) 23:19:49.53ID:Mvt6NzZW
完結させてないけどごめんね。嵐から逃げた口だから今から続きは無理だけど、また盛り上がってほしいもんだね。
0522名無しさん@ピンキー2016/09/08(木) 19:14:20.74ID:bSRGgH2E
キモ姉&キモウトの小説を書こう!とヤンデレの小説を書こう!は管理人さん同じ方なのですか?
自分から見てサイトが似ていると思ったのですが
0523名無しさん@ピンキー2016/09/14(水) 22:16:29.00ID:N038Vjgc
【社会】弟切断「2週間前くらいにやった」 死体損壊などの疑いで25歳姉逮捕 千葉 ★7
http://daily.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1473815828/

リアルキモ姉が久々にニュースになったな。
0525名無しさん@ピンキー2016/12/08(木) 04:37:15.98ID:mCjksIm8
おゆき氏のサイト無くなってる……
キモウトSS以外もよかったから書き起こしとけばよかったな
0527名無しさん@ピンキー2016/12/10(土) 04:48:21.59ID:ZtCtjzr1
個人サイトだと保管庫にない1話分多めにあった気がする
サイトの存在を去年の9月(>>482)にこのスレで知ってメール送ったけど音沙汰なかったからなぁ
0528名無しさん@ピンキー2016/12/13(火) 23:01:48.28ID:S9SSjOfS
たまに来ては投下ないかなぁと見ては落ち込む
0531広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2017/02/14(火) 18:37:06.45ID:+VibPMwG
久しぶりです。
「あなたがいるなら何もいらない」の「上篇 Cena」について少し手を入れましたので、その旨ご報告します。
0533名無しさん@ピンキー2017/05/07(日) 10:30:28.83ID:yyfix4ID
第2部が始まったところで続きが来なくなっちゃったねえ。
0534名無しさん@ピンキー2017/07/06(木) 18:21:40.86ID:uBtXGQoW
過疎っていますね。かといって投下するようなネタもなく。保守がてらレス。

>>531
微修正乙です。拝読いたしました。謝罪文挿入という修正だと思いましたが、それは2015年修正(>>496)だったのですね。レスを見落としていました。
今回の修正箇所がわかりません。ご教授頂けると幸いです。
0535名無しさん@ピンキー2017/07/20(木) 00:48:02.44ID:KTuCNz+w
あんまり言いたくないけど2ch自体が時代遅れなんだろうな
作品は見てもらってなんぼだし人のいないところにはそりゃ投下しないだろうと
0537名無しさん@ピンキー2017/07/25(火) 21:51:24.49ID:fInvmVRz
なろうとかノクターンとかにはそんな変な奴がいないとか、いてもブロックできるとか、そんな感じなのか?
見てないから知らんが。
0538 ◆UgTvGvLQRk 2017/07/27(木) 17:07:44.55ID:jQaPSbrJ
お久しぶりです。
過去にこちらで『ひきこもり大戦記』という作品を書いていた者です。
『小説家になろう』にて連載を再開することにしたので報告させていただきます。
第三者による無断転載ではないのでご了承ください。
0539 ◆UgTvGvLQRk 2017/07/27(木) 17:13:25.73ID:0oLceluA
また、もしwikiの管理人様が見ていましたら、wikiに掲載されている作品の削除をお願いいたします。
それでは失礼いたします。
0540広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2017/08/15(火) 19:00:52.90ID:k3Es5war
>>534
質問ありがとうございます。
書き直したのも謝罪文とその周辺の部分です。
「300万」となっていた部分を「紙幣300枚」と訂正しました。
ついでに、以下の通りに改めました。

(修正前)
「もうできてるのかよ」
 では、と彼は読み上げ始めた。
「この度、私、世界の八雲は、情実で決めたともとれるCM起用をしてしまった事を、深くお詫び致します。
 まず謝罪の前に、なぜ私があのような行動をとってしまったのか、その経緯を説明させて頂きます。 一般に、風俗ではツェーマンゲーセン(1万5千)からデーマン(2万)ぐらいで本番をできると言われています。

(修正後)
「もう出来上がってるのかよ」
 謝罪文が完成している、ということに、酔っぱらっているということを掛けたダブルミーニングな返答に対し、では、と軽く受け流して、彼はその文章を読み上げ始めた。
「この度、私、世界の八雲は、情実で決めたともとれるCM起用をしてしまった事を、深くお詫び致します。
 まず謝罪の前に、なぜ私があのような行動をとってしまったのか、その経緯を説明させて頂きます。
一般に、雄琴(温泉)や飛田(新地)の風俗ではツェーマンゲーセン(1万5千)からデーマン(2万)ぐらいでNK流(西川口流。つまり本番のこと)をできると言われています(注・格安店価格)。
0541名無しさん@ピンキー2017/09/12(火) 04:41:16.46ID:Q2hLhWvU
>>527
ノスタルジアの続きなろう辺りで書いてくれないかな
たしか妹が身代わり?で警察に連行されそうになってる所で終わってたから続き気になる
0542名無しさん@ピンキー2018/01/10(水) 23:52:16.52ID:JsNUXKci
ノスタルジアの作者の『おゆき』氏の
サイトのアドレスを教えて。
0543名無しさん@ピンキー2018/01/14(日) 04:00:32.33ID:VUyUaLqD
>>542
おゆきさんのFC2の保管庫は閉鎖されている。
今と成っては何処に行ったのか、辞めたのかも分からない。
0544広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2018/03/14(水) 21:30:17.89ID:pyM+n6Y4
久しぶりです。
「あなたがいないなら何もいらない」「あなたがいるなら何もいらない」について、細部を修正させていただきましたので、報告いたします。
0545広小路淳 ◆3AtYOpAcmY 2018/07/14(土) 17:08:23.38ID:2HPkDyj7
皆様、お久しぶりです。
「あなたがいるなら何もいらない 下篇 Depravacion」「幕間 Call」「あなたがいるだけでは何にもならない 後篇 Coucher」について修正を加えさせていただきましたので、ご報告致します。
0546名無しさん@ピンキー2018/07/14(土) 17:12:27.13ID:nYViW0nF
虚しいなあ
0548名無しさん@ピンキー2020/03/08(日) 07:24:03.44ID:tfS7OEwC
過疎っちまったか
0549名無しさん@ピンキー2020/05/04(月) 03:30:46.81ID:FxGk1IJz
ノスタルジアの続きが気になる…
たしか妹が冤罪で警察に連行される所で終わってたから
0550名無しさん@ピンキー2020/07/20(月) 10:23:25.19ID:BnAq9hiY
懐かしいなぁ
昔よく読んでたなぁ、だいぶ過疎ってるけどまだ残ってて嬉しい
0551名無しさん@ピンキー2020/07/21(火) 22:13:20.71ID:cHKhqZZI
今はなろうとかハーメルンで探す方が手っ取り早いからね
もうここが繁栄することはないんだろうね
0553名無しさん@ピンキー2020/07/23(木) 02:30:20.96ID:6a/fzv69
書き手が何人か集まってくれたら活気出るんだろうけどな
お気に入りを紹介し合う場にできたらイイんだけど
0554名無しさん@ピンキー2020/08/26(水) 17:17:24.95ID:tlTlwFNT
「もしもRPGの世界にSNSがあったら」のコミカライズ版2巻に登場したキャス(吸血鬼)も
一応、キモウトの候補に挙げるだけ挙げておくかw…「愛が重い」ヤンデレ風味な感もあるが
0555名無しさん@ピンキー2021/08/26(木) 22:52:45.82ID:weokBvrd
前の書き込みから一年か
昔はSS投稿してたけどもうほとんど機能しなくなっちゃったな
0556名無しさん@ピンキー2021/08/26(木) 22:59:24.41ID:3kbiz4xF
>>555
258: 名無しさん@ピンキー [sage] 2021/08/26(木) 19:44:52 ID:3kbiz4xF
(´・ω・`)>228へ回答!!
71:名無しさん@ピンキー [sage] 2021/08/04(水) 19:31:28 ID:qOL+Uhcn
412: 名無しさん@ピンキー [sage] 2021/07/27(火) 13:36:17 ID:bzUfLNPX
(´・ω・`)よみがえる記憶!消えない思い!再びッ!!
60: 名無しさん@ピンキー [sage] 2021/07/12(月) 21:43:26 ID:d/vCSLE1
(ю:】ニセコイでエロパロ part153
http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1624357197/601

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1624357197/602
こいつら住人のかつての所業をバッチリ収録しておかんとな!
http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1624357197/53
(ю:】ニセコイでエロパロ part154

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1626081624/60
http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1626081624/61

「VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな」とかいう荒らし
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1597041745/244
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1597041745/267
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1597041745/46

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1626771930/412
http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1628069925/71

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1628069925/264

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1629547063/258

これだけ邪魔するやつらがいる板だからな…

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1629547063/259
みたいに利用するくらいしか手はないよ
0557名無しさん@ピンキー2021/08/26(木) 23:04:18.87ID:3kbiz4xF
邪魔する動き健在

最近のな

110: 名無しさん@ピンキー [sage] 2021/08/04(水) 23:19:45 ID:5ZWxYy9D

>107
あれから一年。本当にSSを書きたかったのだろうか?
書きたいって思った時に書かないと、いっきに執筆気力しぼむから、書きたいって思ったらすぐテキストファイルと向き合うと吉。

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1536705896/110
111: 名無しさん@ピンキー [sage] 2021/08/05(木) 10:28:35 ID:/vrLM4bt

恥かかなくてよかったじゃん?
ラッキーだよ

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1536705896/111

114: 名無しさん@ピンキー [sage] 2021/08/05(木) 11:57:35 ID:9dwV0jKg

(´・ω・`)猫はチンした

http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1536705896/114
0558名無しさん@ピンキー2021/09/16(木) 00:39:40.32ID:om5OoAie
転生恋生、ずっと続きを待ってる
これの終わりを見ないと死ねないよ

wikiを管理していただいてる方、本当にありがとうございます
0559名無しさん@ピンキー2024/04/10(水) 02:00:55.99ID:ZFpjARRP
昨年頃からヤンデレSSを読み始めるようになり紆余曲折あってここまでやってこれました...
最後のレスが3年前...まだここに人はいるのでしょうか...?
0560名無しさん@ピンキー2024/04/10(水) 03:05:38.21ID:ZFpjARRP
保管庫に上がってるもので途中までしか乗せられてない物は未完と思って良いのでしょうか
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