――
早朝に聖が起きると、片付けは進が全て済ませてしまった後だった。朝食の時間にはまだ余裕があったので、聖は軽くシャワーを浴びて自室に戻ることにした。
朝帰りの後輩たちに見られやしないかと、廊下を歩く1分程度の間は緊張しっぱなしだったが、どうにか人目に付かず自室に到着。
身支度を改めて整えると、手持無沙汰になってしまったので散歩にでも出ようとロビーへと向かった。


「ヒジリ・ロクドー?」

「ん?」


後ろから声をかけられたのは、ちょうど外へ出ようとした時だった。振り返ると、外国人の男数人がこちらにやって来る。


「なっ、えっ、ないす・とぅ・みーちゅう?」


聖は野球に関することならある程度外国語も理解できるが、日常ではからっきしだった。とはいえとりあえず、一番通じる可能性の高いであろう英語の挨拶で応じる。


「オー!」

「ヒジリチャン!」

「カワイイ!」


口々に片言の日本語やら感嘆符やらを言い放った男たちは、すぐさま聖を取り囲むようにして勝手にしゃべり始めてしまう。
男達の使う言葉は少なくとも英語ではないとしか聖には判断出来なかった。が、状況はすぐに判断出来た。これはナンパだ。
よくよく見ると、今回の大会のメキシコかドミニカの名簿一覧で見たような顔をしている。聖のことを知っているのはそのためだろう。