「この子、どうするデスかー?」
「私の家に運んで、最後の仕上げをしちゃいます。御協力ありがとうございました。もう
少し尊厳を破壊しないといけないと思ったのですが、想像以上にチョロくて、逆にびっく
りしました」
スタンガンで気絶させて、最初に彼を運んで来たリヤカーに乗せて布を被せる。小型の最
新式で、農業用具が大量に乗るようには、とても見えないオサレ感が売りです。
「まさかとは思うが、こ奴を懐柔して、逆スパイにするつもりか?」
いい所を突くハヤトさん。正直、私の見立てでは、この人の方が密偵に向いている。
私は首を横に振って。
「この程度の子、私の手足にするにはレベルが足りな過ぎます。私が直接出向いた方がま
だマシです」
「あっは、アンジュさんマジ怖ぇー。田舎に引っ込んだフリしてフィクサーやってんの?」
「フィクサー? フィクション作家の事デスかー?」
……そのネタやった時点で意味わかってませんかと思ったけど、スルーする。全員にスル
ーされてマジで凹むのはやめていただきたい。

「では、今回の謝礼です。また何かあったら、よろしくお願いします。明日にはお味噌も
届きますから」

ずっしりした封筒をお渡しする。一応、最高でも20人くらいかなー、と思っていたので
封筒(中身入り)もダダ余りだ。
「俺は何もしていないが」
確かに乳首つついていただけですが。
「そんな事はありませんよ。貴方のその無表情に見降ろされながらの絶頂は、年頃の少年
としては、中々の屈辱だと思います。何かに目覚めてもおかしくはありません」
そう言って、封筒を握らせる。
今度はカリノさん。
「わーい! 楽しかった上にいっぱいお金まで入っちゃったよう! また呼んでね!」
「カリノさん、中々堂に入った女王様っぷりでしたよ。私、顔がなめられやすいですから、
カリノさんのような、きりっとした美人顔が羨ましいです」
……本当に、押せば何とかなりそうな印象を植え付けるこの顔はどうかと思っている。
カリノさんは照れながら。
「やだー、アンジュさんの女ったらしー。男だったら絶対屈服させたくなるじゃーん」
と、お褒めの言葉をいただきました。
最後は、カミュさん。でも、お話があるので、給湯室まで連れて行く。
「なんデスかアンジュサーン? もしかして、チューでもシテいただけマシて?」
いつも通りの飄々としたお顔で、いつも通りの戯言を吐く。
なので、私もいつも通りの笑顔で。
「あまり、詐称した経歴を言いふらすのも、良くはありませんよ? えーと、弁護士消防
士警官整備士コックと……」
「ほんノ冗談じゃないデスかぁー。後は気象予報士とアイドルマネージャーと」
「ふふ、お顔がまだ動揺していらっしゃいますよ? 裏切り者の衛生兵さん」
そう言った瞬間。
あの眼に、また会えた。割とゾクゾクしますね、この眼。
「……不愉快にさせて、申し訳ありません。でも、あまり私の事を嗅ぎ回られても、鬱陶
しいのです」
「……困ル、でなくて、鬱陶しいト来まシタか」
「だって貴方、興味本位でしているだけでしょう。本当に私、ただのリタイア負け犬なの
で、目的なんか、なーんにも無いんです」
溜息をついて、言う。
「今度、ウロチョロしていましたら、今度はカミュさんを今日みたいにしちゃいますよ?」
「恐ロシーお嬢サマデースネ。でも、オレの事知ってるナラ、この程度じゃ……」
「塩麹風呂に漬かりながら焼いて無い鮭を頬張らせつつアヒルに突かれていただきます」