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「……帰ったようね」

優雅に紅茶を飲むセイズマリーの後ろに、人影が見える。
栗色の髪に柔らかな色合いの茶瞳、誘うようなあの首筋……
その姿はセイズマリー公そのものだった。
椅子に座っているセイズマリー公は応える事なく本に目を通していた。
やがて、彼女の側にその人物は立ち、華奢な肩をトンと叩く。
その途端、相手は椅子ごと霧と化して、幻となって消え失せた。
残された書物をスッと拾い上げて本物のセイズマリー公が独りごちる。

「冒涜卿、私もほどほどに謀り上手なのです」

また彼女は何事もなく書物に目を通した。