ショッピングに向かうレインとヘレンを見送り、ボクはカフェでサイファさんを捜した。
サイファさんはカフェにはいなかった。ボクたちがトイレで血の接吻をしているときに移動したのだろう。さすがに2時間弱もここでは時間をつぶせないか。
駅の方にいるかもしれないと思い、向かおうとしたボクに一人の女性が声をかけてきた。
「あのっシオン様」
「あっ……あなたは……」
「どうしてもお礼が言いたくて」
そこにいたのは虚飾の館でボクたちの案内役をしていたミリアさんだった。高き者(クライアント)から解放されたミリアさんは初めて会ったときのような胸や性器を露出した格好ではなく、落ち着いたワンピース姿だった。
髪には館の時と同じように大きなリボンをつけている。リボンはミリアさんが普段から身に着けているものなのだろう。
服を着ているミリアさんは少女らしさもあって可愛らしい。あのとき18歳だと言っていたからもう少女という年ではないのかもしれないけど。
ボクは館でミリアさんと過ごしたひとときを思い出していた。
「あのあと―…大丈夫でした?ミリアさん」
「はい」
歩道の真ん中に空いているベンチがあったのでボクとミリアさんはそこに並んで座った。
ミリアさんの顔は少し赤らんでいる。ミリアさんもあのときのことを思い出したのだろうか。
「ほんとにありがとうございました、シオン様。シオン様のお陰でこの村も本来の姿に戻ることができます」
道を歩く人々を見ながらミリアさんは言った。
「十年近くクライアントに支配された村だから多少の時間はかかるでしょうけど」
強い女(ひと)だ。ボクはそう思った。
「これからは赤き十字軍(クリムゾンクロス)がこの村を守ってくれるはずだから――」
ボクがそう言うとミリアさんは黙って頷いた。