「入れ替わりの関連で起きたことじゃなくて、ただの女装だよ。僕は性別を偽って学校に通ってる」
文緒さんは、衝撃的なことをあっさりと言った。
「ど、どうしてそんなことを?」
リビングのソファで向かい合い、わたしは『わたし』の姿の文緒さんに訊ねた。
「女の子になりたかったから。女の子として生きたかったから」
語られる理由は実にシンプル。そのために女子高へ入学するというのは常軌を逸しているけれど、
この人はうまくやってきたと言わざるを得ない。
文緒さんに注目していたわたしでも、今日入れ替わるまで気づかなかったのだから。

「この学校に来た理由はもう一つ。この七不思議の噂を聞いたから。信じていたわけではないけれど、
もし誰か女の子と入れ替われたら最高だなと思ってた」
そしたら本当に入れ替われた。感慨深そうに、文緒さんは言う。
「僕は元に戻りたくない」
今の自分の身体を、『わたし』の身体を抱きしめて、文緒さんはわたしに告げた。
文緒さんが『奏恵』のままでいたいということは、わたしが『文緒』として生きるということ。
この人の秘密を知ってしまう前だったら、夢のような話だったけど。
「わたしは……元に戻りたいです」
男になんて、なりたいわけがない。
「だよね」
気持ちはわかるとばかりに、肯かれる。
「でも僕としても、このチャンスを逃したくない」
言いながら、文緒さんは立ち上がる。そして制服の上着を脱ぎ捨てると、わたしに近寄って来た。
「何を……」
いきなりのことに動けずにいるわたしの隣に座ると、文緒さんはわたしを抱き寄せ。
キスをした。
もがくけれど文緒さんは離れない。口が塞がれ、鼻で息をする。『わたし』の匂い。不思議に甘い。
文緒さんは片手でわたしの首を抱き寄せながら、もう片手でわたしの服を脱がせ始めた。