仕事が終わり、ホテルのバーラウンジで瑠璃子は彼氏と落ち合う。
フランスに行くと言う事でブルゴーニュ産の白ワインを楽しみながら、互いの仕事の話に花が咲く。
彼氏は才能ある年上の小説家で、瑠璃子が担当した際にいち早くその才能を見抜き大成させた。
文学賞を受賞した後に、瑠璃子と交際が始まった。契約している作家と編集の恋愛は出版社的にはNGであったが、瑠璃子の強いアプローチと手腕は彼を強く魅了した。
バーを出てホテルに入ると、コニャックをチビチビと口にした後、一糸まとわぬ姿となり絡み合った。豊満な瑠璃子の身体に溺れる様に彼氏は汗を流し、瑠璃子は体全体で受け止めた。

仕事も、恋愛も、財力も、生活も全てが満ち足りていた。大人のアトラクティブで自由で、俗世的な日々を瑠璃子は堪能していた。



翌朝、彼氏と熱い口づけを交した後にホテルを出る。一旦家に帰って朝食を済ませてから出社しようとタクシーを捕まえた。
止まったタクシーはここらでは見かけない車種だった。個人タクシーなのかもしれない。
「お客様、どちらまで行きましょうか?」
ドライバーは女性だった、おそらく瑠璃子と同じくらいの年齢だろう。髪は短く、表情は帽子により読み取れなかった。
「〇〇駅の方までお願い、近くになったらこちらから細かい指示をしますので」
「かしこまりました」
瑠璃子は、私と同じくらいの年齢でタクシーの運転手なんて、大変な人生ねぇ、とボンヤリ考えていた。