「既に何人か紹介しちゃってるし、今後の”お見合い”の予定もあるし、そもそも人食い妖怪どもをこんな風に鎮められるのって、アイツだけだからね」
彼女の言葉を追憶し、再び磐座の上のクッションで眠れる首を注視する。
彼は前々から妖怪社会における人肉屋なわけだし、既に何柱かと『女神の花婿にえ』の関係を結んでいる。とてもではないが、自分一人の”花婿”にはできない。
——ならばせめて、彼の心を繋ぎ止めるような……——
と、スッとその顔が青ざめた。彼女にとって贄とは同時に旦那様であり、性的なパートナーでもあるからして、ついつい暴走して劣情の欲情の色情の赴くままに嬲ってしまった事を思い出す。
彼が嫌がるそぶりを見せたにも拘わらず、彼の身体、特に性的な部分を何度も執拗にしつこくペロペロと舐めてしまった。
——まずい! もしこれで嫌われちゃったら——
と、突然彼の眼がパチッと開き、恵の心臓がドキンと跳ね上がる。
「あ、あの旦那様、先程は大変失礼をしてしまい……」
語りかける彼女に対し、彼は突然眼をパチッと瞑る。
「あ、あの、旦那様?」
語りかけても生首はピクリとも動かない。何度呼びかけても身じろぎ——とは言っても今は顔の上半分の表情筋くらいしかないわけだが——しない彼に対し語りかけるのを止め、しばらく待ってから彼女は小屋に戻った。
やがて、体力が全快したのを感じて彼は目覚め、胸・腹・両腕をズルリと再生する。一旦はそこで打ち止めだ。
さっきの彼女の言葉の続きは恐らく謝罪。しかし、彼は最低でも胸と腹がないとまともに喋れない。そんな状態で恵の懺悔だの謝罪だのお詫びだのを聞かされても、どうしようもない。
最悪、下手に取り乱されてわんわんと泣き出されても困る。だから敢えて会話が可能になるまで狸寝入りを決め込んだのだ。
「あの、旦那様?」
いつの間にかそこに居た二倍サイズの恵がおずおずと声を掛ける。どうやら時々様子を見に来ていたらしい。
「あ、恵ちゃん。ごめん、さっきは体力の限界で眠っちゃって」
「そ、その、さっきは大変失礼いたしました」
ペコリと頭を下げる。
「ペロペロの事なら、別に気にしてないよ」
即答する。
「”そういうの”も込みで”贄”なんだし。その、何と言うか、最後は気持ち良かったというか、なんと言うか……」
彼は、はにかみつつ頬をポッと赤らめる。
「え、では……」
「”次”からもどうぞ」
ニコッと微笑む。
「よ、よろしいんですか?」
破顔一笑。その美しい貌に驚きの入り交じった喜びの表情をパアッと浮かべる。それを見ただけで、なにかこう心がグッと満たされる気がする。
「ええ。あと、できれば今度はもっと早めに落ち合って、”それ”は日中に済ませて欲しいかな?
 最初の”供儀”を日没後すぐにすれば、夜明けまでにはあともう一回の供儀ができるから」
「ほ、本当ですか!?」
彼女はニコニコとした喜色満面のえびす顔になる。それはとても眩しくて、同時に心がざわめくような、逆に落ち着くような甘やかな不思議な気持ちを覚える。
「ええ、なんとか夜明けまでに回復しきれますよ」