(クソ!!こんなとこで終わるのかよ!!)

迫る理不尽な殺意を前に立ち尽くすケイン。
そしてヌイのかざした刃が振り下ろされようとした、その時───

チィイ━━ン!!

いずこからか飛んできた何かが、甲高い金属音を立ててヌイのナイフの刃を弾いた。
弧を描いて地面に突き刺さったそれは、なんとヌイが握っているものと同じ奇妙なナイフだった。

「苦無(クナイ)!?ケイン、アナタ何をしたんですか!?」
『俺が知るかぁ!!』

思いもよらぬ事態にうろたえるヌイに戸惑うケイン。しかし、彼らの混乱はそこまでだった。


「──何をしてるの、あなたたち…」

『!!』
「そ、そんな、まさか…!」

それはヌイにもケインにも忘れられない声。
やがて暗闇の中から、声の主が姿を現し始める。



闇より濃い黒髪をなびかせ。

その肌は闇の中で白く鮮やかに映えて。

凛と立つ肢体は艶めかしくも獣のようなしなやかさを感じさせ。

裸身に纏うのは一枚の薄布。長い薄布は乳房や秘所を覆うように裸身に巻きつき締め付ける。

冷たさを感じさせる美貌に表情は表れなかったが、その眼差しには明らかに怒りが宿っていた。


「ミオ…様……」
ヌイの顔が蒼白に染まり、見開いた瞳が怯えて揺れる。
ナイフを構えることもなく、力無く立ち尽くすヌイ。

(来てたのかよミオ様……)
ケインがバツの悪そうな複雑な面もちでミオを見つめる。
昨夜は死を覚悟し、今夜は命を救われたケインだったが、その心中に安堵の思いなどなかった。


一人の盗賊と二人の女忍者、三人の危うい夜が始まった。

(続く)