とある宮廷の奥、そのある庭に咲き誇る様々な花。その全てがあるべき彩(いろど)りを称え
一人の少女を囲っている。
「メアリ…」
「あら?アラン様」

 少女の前には、見た目の印象だけで言えば、野性的な風貌と顔立ちの少年が一人。

 アラン・スティアート―

 彼はジオルドの双子の弟で、この国の第四王子。
 「この花は、君が?」
「…え?あ、はい!私が手入れをしました」
 君が、の言葉に続く隠れた問いかけの意図を、つかみかねて僅かに間ができたが、
メアリはすぐに花を手入れした者が自分かを聞かれているのだ、と理解し力強く頷いた。

 「ここまで見事に咲いてる花を見たのは、生まれて初めてかもしれないな」
 「そ、そうですか?」
 「君がこの花を育てたのなら、その手は―」


「『緑の手』かも知れない、な。か…」

 ふと、メアリは夜中の自室のベッドの中で目を覚ました。
 取り立てて寒いわけでもなく、急に目を覚ました理由はとくに思い当たらなかったが、
覚めてしまったものは仕方ないか、とベッドから身を起こして立ち上がる。

 (…何で今さらあんな小さい頃の事、思い出したのかしらね私)
 手短にあった椅子に軽く腰をかけ、しばし今見た夢に思いを馳せる。
 「それに(あの言葉)は確か…」
 『緑の手』―

 夢の中の少年アランは、確かにその言葉を言っていた。
 そしてその懐かしいアランの少年姿にメアリの頬が緩む。
 (今では考えられないわ、あのアランがそんな事を言うなんて)
 そうだ。
 あの言葉をくれたのは。
 「カタリナ様!そう、カタリナ様じゃない!なんでアランが…」
 言った事になってる、なんて夢を見てしまったのか?