「アランに八つ当たりしよう」というメアリの脳内会議の決が下った。
(とは言え今日はもう真夜中だし、今からすぐにとは無理か…)
コンコン。
「―え?」
ノック音。
こんな真夜中に一体誰が―?
「メアリ。俺だ、アランだ」
「?!」
「…やはり、寝てしまったか。ま、いいか。悪巧みの相談みたいな事だから、
なるだけ遅い時間がいい、とは言っても限界があったか」
(!そ、そうだわ!思い出しましたわ!ジオルド様のあまりに露骨なカタリナ嬢への
うらやま…けしからん振る舞いへの制さ…牽制する為の対策を、夜中にアランと打ち合わせる約束をしてたんだわ!)
メアリは、部屋の扉の前から踵を返して去ろうとするアランを自ら扉を開け、
まるで吸い込むかの如く部屋へ引きずり込んだ。
「お、お前なぁ…」
いきなり上着の首根っこ辺りをむんず、と掴まれて、まるで荷物袋でもポイッ
と放るように部屋に転がされたアランの当然の愚痴がこぼれる。
「今日はこのくらいで許してあげますわ!」
「はあ?!俺が何したっていうんだよ?」
「黙らっしゃい!この思い出泥棒!」
「意味わかんねえよ!?」
(うん。御免ねアラン…夢見た事での、それで中身が改竄されてた事への八つ当たり、
なんて言っても理解してもらえないでしょうしね)
ただ。
もう一つの当たり前の大問題が今ここにあった。というか、思い出した夢で意識させられてしまった。
「さて、じゃとりあえずいいや。一旦その事は納得はいかんが置いて、だ」
「え?な、何?…」
「いや何、て。お前いつも俺に兄貴のジオルドとカタリナ嬢の仲を上手く邪魔する…ん?
なんだメアリ?顔、赤いぞ」
―真夜中に、男女が一つ屋根の下。
(…これも策士、策に溺れる、って事になるのかしら)