(なんとか意識をカタリナ様からは別な方向へ誘導しなければ!)
 とばかりに、咄嗟にメアリが頭に思い付いた策は簡単。自分をエサにして釣る、であった。 「メ、メアリ?いや別にお前といるのはイヤだ、とか言うわけじゃ…」
 「今はこんな夜中に二人っきり。少しは私を見てくれないと、女としてはカタリナ様へ嫉妬を感じてしまいますわ」
 (よし!我ながら名演だわ!)
 「嫉妬、て…」
 「これでも私たち、婚約者同士ですわ」
 (ああ、だから夜中に打ち合わせる話にも抵抗なかったのかも)
 気がつけば。
 二人の男女が、顔を見つめあって、その間合いを狭めている。
 「そう言われれば、今さらだがそうだったな」
 「あら、ひどい人」
 (うん、私も忘れかけてた…て、あれ?アラン?)

 「ここまでお膳立てしてあるんだ、このくらいは覚悟はしてたんだろ?」
 「い、今…」
 「ん?」
 キスされた。右のほっぺに。
 指でちょんと、触れた程度に軽くの。
 「だ、誰がそこまでしていいと!?」
 「うおっ?!」
 どん!と突き放されるアラン。

(…あ、ああああっ危なかったあああぁぁぁああっ!!)

 「もう少しで、危うく唇×唇になるところでしたわ?!」
 「いやいやいや!あの流れで、キスすらされないとか、むしろあり得ないだろ?!」
 「いいえ!あり得ます!」
 (アランだって男だっていう、大前提をすっかり見失っていましたわ、私…)