あの双剣。
曰(いわ)くのある名剣なのだろうが、あいつの持つ双剣には何の邪気も感じられなかった。

宝具は優れた武器であるから、美しいのは当然だ。

〇〇〇〇の剣だって、もし見えるのならさぞ豪奢な物に違いない。

が、あれはそういった物じゃない。
他者を倒す事を目的とする戦意。
後世に名を残そうとする我欲。
誰かが作り上げた武器を越えようとする競争心。

何か、絶対的な偉業を成そうとする信仰。

そういった名剣、魔剣にはなくてはならない創造理念が、アレにはない。

……しいていうのなら、ただ作りたいから作った。
対なる剣、鍛冶師としての自身の意義を問うかのように、無心で作り上げた無骨な剣。

それがアレなのだと思う。

虚栄のない鏡の剣。

白と黒、陰と陽を体現した不器用な鍛冶の剣。


――見とれたのは、そう。
  その在り方が美しく見えただけ。