「ルスラン・フリート旗艦――マゼラン級戦艦『ルスラン』」
 リードにそう艦名を呼ばれたジオン残党軍のマゼラン級戦艦が単艦、第450戦隊に向かって接近してくる。
 連邦軍の3隻を相手にわずか1隻で向かってきたその敵艦から、10機前後のMS隊が発進した。スラスターが曳く光条を見るに、サラミス改級巡洋艦のようなMS用カタパルトではなく、一年戦争末期さながらに艦底部甲板からの自力推進らしい。
 だが、その後の加速は鋭い――わけても先頭に突出する3機小隊が、ひときわ。
 MS隊を発進させた敵艦から、艦砲射撃の火線が走った。マゼラン級戦艦が放つビームは太く、速く、そして鋭く、サラミス改級の3隻をたやすく圧した。艦隊を嘗めるように走った正確な光条に脅され、450戦隊が思わず行き足を乱す。
 ドラッツェ隊を玩具のように追い回していたMS隊の先鋒が、苛立つように進路を転じた。敵艦へ、そしてそのMS隊へと目標を変える。
 スラスターが火を噴き、ガルバルディが虚空に跳ねる。
 その意気揚々と先陣を切っていく連邦軍MS小隊の、派手なパーソナルマーク付きのガルバルディβへと、敵艦から来た角付きのMS−14A『ゲルググ』――あるいはその同型に見える機体が静かに銃口をもたげた。
 互いに同系統のビームライフルが狙いを付けあう。
 一瞬の沈黙ののちに有効射程を割るや、両者は同時に火蓋を切った。
 ガルバルディβ小隊とゲルググ小隊、火力拮抗する両者の間で光の雨がうねって荒れる。瞬きする間に距離が大きく詰まっていく。
 上下左右への激しい回避機動を交えながらも、ガルバルディβの隊長機は巧みに機体を制動し、休むことなく精確な応射を放ち続ける。獣のように躍るゲルググの機動を捉えきれないまま、一発を盾の対ビームコートで弾き、一発が右肩を掠めて機体を揺らす。
 そして両小隊が交錯する瞬間、ゲルググの振るったビーム・ナギナタが、ガルバルディβを機体の中心から上下に分割していた。その両方が光の泡と化して消し飛ぶ。
 同時に、光弾。
 急旋回したそのゲルググがビームナギナタの下から覗かせていたビームライフルの銃口が、ナギナタで斬り裂いた爆光越しにもう一機、小隊僚機のガルバルディβを過たず撃ち抜いていた。2機目のガルバルディβが痙攣したように一瞬震え、そして消し飛ぶ。
「おい、あいつらはペズンの凄腕だぞ」
 小隊長を含む二機を瞬時に撃墜されながらも、尖兵小隊で最後に残ったガルバルディβはさらに加速して距離を開き、ゲルググ小隊からの狙撃を逃れる。逃れようとした。
「P−04付の450はウチより大勢、教導団上がりを6人も引き抜いていましたからね。それが――」
 リードが呆然と呟き、応じた傍らのカミラが言い終えるより早く、戦況は動いていく。
 雲霞のごとく敵機の群れが押し寄せた。
 航路図が、そして編成図が大きく動いていた。第450戦隊を取り巻くようにその周囲から突如として、おびただしい数の敵MS隊が出現していたのだ。
 コロニーの残骸や小惑星に潜んでいたもの、あるいはそれらを偽装したバルーンに隠れながら接近していたもの。そして遠方からコムサイ改級揚陸艇などで駆けつけてきていた増援部隊。
 それらすべてを合計した規模は、第450戦隊を遙かに上回る。航路図へ新たに浮かんだ光点、そして編成図を書き換えて現れた敵MS隊の陣容は、ゆうに80機近い。
 もはや5倍近い戦力差となったその大部隊が一斉に、一個の生物のような連携を見せつけながら450戦隊へと襲いかかった。
 先鋒最期のガルバルディβはビームライフルとミサイルを猛然と応射し、なお軽快な高機動を発揮して足掻く。だが四方八方から降り注ぐマシンガンとビームの弾幕に取り囲まれ、そのすべてからは逃れきれずに右手、そして左脚をもぎ取られる。
 姿勢制御が狂ったところへ突撃してきたMS−06F3『ザクUファドラン』が、ヒートホークを胴体部へ深々と突き立てた。痙攣するようにくの字に折れると、小隊最後のガルバルディβは火球に変じて爆散した。
 劈頭で最強の小隊が全滅したその背景では、烏合と化した残兵が数の暴力に潰されていくだけだった。
 RMS−106『ハイザック』の小隊が無数の射線に追われ、もはや応射すら出来ずに逃げまどう。背後から降り注ぐ火線に貫かれて1機がたちまち爆散。
 後退の一途から急反転して、猛加速で追撃してきたドラッツェF3が閃かせたビームサーベルに両断されて、さらにもう1機が火球と爆ぜる。