とはいえ比較対象として、現在この場に不在の整備班長ウェンディ・アーデル曹長の想像を遙かに上回る奔放さを思い出してしまうと、自機の機付長としてどちらが良い、と言えるものでもなくなってくるのだが。
 だが同時に、こうして間近で見るマリエルの横顔はまさしく人形のように整っていて、こんなに可愛い女の子は見たことがない、とすら思ってしまう。
 ――ハヤカワ准尉やシエルみたいな凛とした女性も素敵だけど、エイムズ軍曹みたいな美少女も、最高だなあ。
 エイムズ軍曹を隠し撮りした高解像度の大判写真を額縁に入れて飾りたい。というか無骨な整備兵用ノーマルスーツなんかじゃなくて、フリルのたくさん付いた可愛いドレスを着せてみたい。
 いや。そこまでやるならもう、その状態でさらに手足を縛ってベッドの白いシーツの上に転がし、涙目でキッとこちらを睨み返してくるところを――
「――クライネ伍長?」
「はいっ!?」
 妙な緊張を伴う沈黙の中、危うくおかしな方向へ跳びかけたアイネの思考を、マリエルの言葉が矯正した。
「最新の戦闘データ、見せてもらった。ずいぶん突っ込んだ戦い方が好きみたいね」
「は、はい」
「カーペンター伍長の機体をそのまま使って、ルスランのザクUF3にエゥーゴのジム改もどきとビームサーベルでやり合った。
 それで今度は乱戦の中、あの大ジオン仏道のゲルググ相手にも斬り込んでみせた。無茶をするのね――大した度胸だこと」
「……はい」
 マリエルの意図が読めず、アイネの返答は萎む。関節部を酷使する格闘戦という機体への負荷を省みない無茶な戦い方をした、として叱責されるのだろうか。不意にマリエルが金髪を揺らし、アイネの瞳をじっと見つめた。
「――それがあなたのやり方だというなら、こちらも全力で整備するまでのこと。クライネ伍長。だから今後、整備への変な遠慮で自分に枷を填めて、言い訳するのは許さない。全力で、やりなさい」
「は、はいっ!」
 結局アイネは徹頭徹尾はいとしか答えられないまま、マリエルはそこで会話を打ち切った。アイネはリニアシートへ飛び込み、次々と機能点検を掛けていく。全項目異常なし。マリエルはそれを無感情に見届けると、コクピットから跳び去った。
「な、なんだろ。よく分かんない……よく分かんないけど……可愛くて、怖いひとだなぁ……」
『アイネ、もう良いの? 良いんなら、さっさと行くよー』
「だ、大丈夫です。今行きます、ミケリヤ少尉!」
 慌ててコクピットハッチを閉めながら全天周モニターを完全に起動させると、すでにサブリナのジムUキャノンはBR−S85ビームライフルを手に昇降機へ向かうところだった。マリエル、シエルもエアロック外へ退避している。
「ま、いいか……。考えていたって仕方ない。私は私の、出来ることをやっていくんだ」
 艦外ではあの戦闘後からそのまま、ロブ・サントス伍長やシュン・カーペンター伍長らが警戒を継続している。早く休みたいであろう戦友たちと早く交代してやろうと、アイネも昇降機へと自機の歩を進めさせた。
 しかし、とアイネは再び別のことを思う。トラキアから最大の危機はすでに去ったとはいえ――
「ハヤカワ准尉とアーデル曹長、どこにいるんだろ。……トラキアMS隊トップの二人が揃って見当たらないなんて、いったい何をしてるんだろう……?」