>>69
(え…?)
それは当然な里奈の反応と思い。そして今まで絶対的上位とした存在だった相手と
その立場の位置、高さが確かに入れ替わった瞬間でもあった―
「そ、それは…やっぱり咲さんの事を信じてるからね」
「あんな事を言った社長の娘と、まんまと逃げおおせた奴等をか?!」
暴徒の男の言うことは、確かに彩水の事を知らずに、外側からただ今の状況を見た者
からすれば当然な感想と言えた。
「彼女は羽月社長本人でもないし!咲さんはただ彩水さんの身を案じて同行しただけよ!」

里奈は若干怒り、怒鳴り気味に男に言い返す。ただ(念押し)は忘れなかった。

―接吻。
「な?!…」
「…こうやって、女の身体なんていつ如何なる時も(弱い立場)にあるんだから」
「お、おう…」

男の中での心の混迷は、ここに極まったと言ってよかった。
(一度は怒りに我を忘れ、相手の生死も問わずに物理的にも引き裂こうとしていたのに…何故
「この女は俺にここまでできる」んだよ?!)

《―生き延びたいからよ》

(?!)

男は「誰かの声」を確かに聞いた。いや思い出していた。
それは、いつか「教師になる」という自分の夢を追いかけて実際に叶えた「姉」の声を。