>>76
「やなぎ住宅街からあの羽月ビルへ…か」
「近道とかある?」

「いや近道ってよりも、他にもう道が無いだけって話だ」

「な、なるほど…」
見渡せば。
断崖絶壁な足場の乱立。

(昔のTVゲームかなんかで見てたっけ、僅かな足場しかない中をピョンピョン跳ねていくヤツ…)
「まさかアレを自分がやるハメになる日が来るとはね…ふ、ふふふふ、うふふふ…へへ」
「おいおい、今更だろこんな光景。壊れてないで行くぞ!」
「た?!」
男に後ろから頭を小突かれて、里奈は正気に戻る。
(コイツ、女の頭を!…でも、助かったわね……癪だけど)

そして元・暴徒だった男は今、自分がこの島に来た理由を思い出していた―

(いい加減俺も、真面目に真っ当な定職について家族たちの目の前で安心した顔の一つもさせてやろう、
てのが始まりだったっけか…)

「なあ、アンタ」
「私?」
「ああ。なんでアンタはこの島に来たんだ?」

そしてつい出来心で、彼は里奈がこの島にやって来た理由と、その真実の顛末を聞いた。

「ま、マジかそれ?!…」
「う〜ん、自分でもハシゴ車のハシゴ駆け上って映画「ダ〇・ハード」な目にあったり
空高くそびえてた塔や架け橋が完全に崩壊してく中での命がけの全力疾走だとか
いまだ信じられないけど、ね」

里奈は男に笑いかける。

(お、俺はッ!……一体この島で!何を…何をしたかったんだよッ?!……)
「わ?!」

「よく……生きてたな」
知らず。
男は里奈を抱き締めていた。

(この女…いや、彼女だけは絶対に助けなきゃいけない!自分の命にかえてでも!)

「絶対に生きてこの島を出ような」
「…色々腑に落ちないけど。ま、それには賛成!こんな島の中で死んでたまるもんですか!」

(不思議ね…私は彼に殺されかけたのに、今の彼から何の邪念も感じないなんて)