(まずあいつの手にしてる刃物、なんとかしないとな)
夏彦は努めて冷静に、異常な様子を見せる里奈の方を伺いながら
凶器の剥奪か或いは奪い返しを考えて、その間合いを計りつつ狭める。
「一人だけ助かろうと……私を……無理矢理…」
「しゃっ!」
夏彦は相手の動きが鈍ったのを見逃さず、里奈の手元をうまく蹴りあげてその刃物を手放させた。
「っ!?」
カランカラン。
そして今自分に襲いかかってきた事を考え、今の里奈を一時的に無力化させるには
まだ足りないと判断した夏彦は、里奈に向かって体当たりをし、そのまま地面に押し倒した。
「悪いな里奈…言いたい事は色々あると思うが――なッ?!」
それはあり得ない怪力。
一般的な女子大生の膂力だとは思えないほどの力強さで、上からのしかかるように
被さっていた夏彦の体を強引に、まるで家の布団でも片付けるように
軽々とひっくり返し。
マウントポジション―
らしい状態にしてみせたのだ。
「う、嘘だろ?!…がッ?!」
「……死んで」
里奈は無表情のまま。
夏彦の首にその両手をかけ。
(……い、息ができない!…)
万力もかくやな勢いでその首を絞める力を強めていった。
(…ああそうか…これで「償い」が果たせる……んだな…)
里奈の心のどこかに、やっぱり自分に襲われたあの時の恐怖は残っていたんだ―
夏彦は心の中でそう納得する。
自らの死をうっすら意識しながら。
「…今度はちゃんと、いい男に……出会え……よ」
首は完璧に絞められて、普通なら声すら出ないハズだったのに。
その言葉だけ何故か、はっきりと口から音になって出ていた。
「出会えてた……んだ、私……」
里奈は。
夏彦の首を絞める事をやめていた。