「…重なる街?」
「うん」

妖精の王様を探す旅の最中、綾と公は今、電車の中でそれぞれ二人が「この世界」に来て出会う前に
自身の身の回りで起きた事や、現象についての話をしていた―
「僕らがこの「無人世界」について言い表す時に、そんな言葉を聞いてたんだけど、あ…和辻さんは全く知らない?」

「…いいわよ、もう。綾で」
「本当に?」
「考えたら私が誰に呼び捨てされてても、気にかける意味が無い世界だもの、ここは」
公は思わず吹いた。
「確かに言えてるかも」

「それに、あなたにいきなり彼氏面する勇気や度胸は無さそうだし」
公は笑顔から一転して、言葉に詰まった苦々しい顔になる。
「ぷ!」
「ああ?!」
今度は綾の方が吹いた。それに公が少しキレた格好に。
「分かりやすいわ、あなた!お笑い芸人にでもなれるんじゃないの?」
「お、お前なあ!?そ、それに…お笑いをバカにするなよ!」
「いや、一体あなたは何から何を庇ってるの、それ?…」
綾は公の言い訳に呆れた。

(あれ?でも綾の「今の言葉」って…)
公は瞬間的な怒りで綾のセリフに反発したものの、自身へ向けられた感情に悪意は無く
むしろ、冷静になって考えたらそれは―
「深読み禁止」
「え?」

綾は呟くように、しかし力強く言った。
「今の私たちはそんな事にかまけてる場合ではないでしょ?違う?」
「そう、だね」

(…確かに今はこの無人世界の謎解きの方が最優先だよな)
公は特に必要以上の落胆の顔はせず、今優先させるべき事は、この世界の謎に取り組む事
だと自らの気持ちを切り替えた。

(…今はまだ、あなたに全幅の信頼を寄せる訳にはいかないの、ごめんね)
綾の中での公への評価は、着実にプラスの積み上がりを見せつつも
まだ彼女の側にも、彼を「自分の知る世界の秘密」に巻き込みたくない、とした葛藤があった。