駅前にあるバイト先から徒歩で20分あまりの場所にその借家はありました。
電気とガス、水道はバイトに行く前にあけてもらっていたので、後は必要な物を
そろえるだけでした。するとM子が
「あの・・・家賃は折半でいいですか?・・あと、敷金とかも必要だったでしょ?
 それも分割でお返ししますから・・・」
と言ったので、僕はこう答えました。
「敷金は出世払いでいいよ(笑)。あと、家賃は折半してくれると正直助かるけど
 ・・・親父の方は?少しでもお金いるんじゃないの?」
「父さんは・・・実はこの間もう一度こっそり前のアパート見に行ったんです。
 そしたら父さんいなくて。で、たまたま隣の部屋の片にあったのでお願いして
 大家さんを呼んでもらいました。すると大家さんの話では、父は『知り合いに仕事を
 紹介してもらえる当てがあるから、和歌山へ行く。その為の交通費を貸して欲しい』
 といったので、大家さんも戻ってこないお金と覚悟の上で3万円渡したそうです。
 連絡先もわからず、せめて言葉通りにつてを頼って仕事についてくれればと・・・
 だから、バイト代は全額私の為に使えます。」
「そうか。じゃ、そうしてもらおうかな。・・・親父さん、元気だといいね」
「はい・・・あ、それと大家さんが新しい住所わかったら部屋の荷物送るからって。
M子の一家の事情を誰よりもしっている大家さんは、自腹で引越し屋を頼んでくれたというのです。
その余りの人情深さに涙が出そうでした。