636続き(あらすじ)

「メェーーーーンッ」
校内の道場で剣道部が大声を出しながら竹刀を振って稽古に汗を流している。
その中に先日まで居なかった少女が一人混じっていた。
彼女の名は瞳。この高校の中でも学年の人気トップ3に入る美人だ。
クッキリとした二重瞼、高い鼻、笑った時に見える八重歯が優しい印象を与え、幼い頃から男性陣の心に憩いの場を提供してきた癒し系女子である。
数か月前に公立高校に一般入試で入学した彼女は小学校の頃から続けている吹奏楽部に入り、仲良しの友達と日々練習を行っていた。
練習とは言っても同校の吹奏楽部はサークルの様に楽しむ事が前提の部活で先輩達も優しい。
練習は比較的軽く、和気藹々(わきあいあい)とした温かい感じのスタイルが売りなので追い込まれて退部する人はまず居ない。
お蔭様でゆるめな春を謳歌して高校生活の第一歩は無難に成功していたはずなのに・・
現在彼女は汗臭い道場の中で脇目も振らずに必死に竹刀を振っている。
全員濃紺の胴衣・袴の上に分厚く伝統的な造りの防具を各所に取り付けて完全防備だ。
そして下は簡略的な素足というギャップを持った異端的姿で強くぶつけ合う。
美人である瞳が運動に集中する姿は、さぞ爽やかな絵になるだろう。
しかし既に顔に取りつけた面防具で表情が隠されてしまい一体全体誰が誰なのかは道場内の部員達にしかわからない。
「キエィエエエエエイッ」
徐々に気合も入って来たのか、掛け声も奇声へと変わり、道場内に増々熱がこもった。
勿論この奇声集団の中には瞳も居る。
元々瞳は、ほんわか形で剣道はおろか、運動部とは縁遠かったので何故取り憑かれたように稽古を行っているのかは常識で考えれば不明の一言である。
「くくくっ…その調子だぞ瞳。もっと稽古に熱を入れて体を蒸らすんだ」
瞳がおかしくなってしまった理由・・・
それを把握していると言わんばかりにニヤケた青年が道場下に取りつけられた窓から、いやらしい目付きで剣士達を眺めている。その上、この男は地味めの容姿で存在感こそは薄いが、建物内の匂いを嗅いで下半身を勃起させている危険極まりない変態だった。

続く