里奈は裕福な家庭に育ち、名門女子大の卒業を控える4年の春を迎えていた。学業に専念するために横浜の実家を離れ、都内のマンションで1人暮らしをしていた。
卒業後は在学中に習得したネイリストの技術を磨くために渡仏予定だった。
そのため大学だけでなく、語学スクール、ネイルスクールと多忙で睡眠時間を削るような日々が続いた。充実した毎日ではあったが里奈の体は限界に近づいていた。
ある夜、帰宅途中の里奈は息苦しさを覚えた。胸がキヒューッ、、キヒューッと鳴るような呼吸音。それは幼少期の喘息発作を思い起こさせた。(まさか......ね..。)
成長と共に発作が収まり、最後の発作から7年が経過していた。
少しの不安を感じながらも不安を追い払うようにマンションへの道を急ぐ。
「ハァハァッ、、、、ゼッ、フッ」
(苦しい....なんで...?)里奈は少しよろめく。
深夜の小学校脇の小道は人通りもない。
「ゼェ、、、ゼッ、、ゼホォッ!」
ガシッ!!
里奈は小学校のネットフェンスを右手で掴んで立ち止まり、左手で胸を押さえた。
「ゼォォッ、、ゴホッゴホォッ!」
里奈は咳に身を折るようにしゃがみ込む。
「ゴホッゴホッ、、、ゼェェェ、ぅ
ゴホッゴホゴホッぅ、、っゼホッ」

「ゼェェェ、、、ゼォォッ、、ぅぅ
ゼェッ、、、ゼェッ、、ぐ、、ぅ」
ストールを口元に宛がい咳を堪え、ネットフェンスに縋るようにして立ち上がる。
(あと少し....)
小学校脇のこの道を200mも歩けばマンションのエントランスだ。

200mの道のりをどうにか歩き切りマンションの部屋の前に辿いた。
(...鍵.....)
里奈はバッグから鍵を取り出そうとするが指先が震えて鍵を落としてしまう。
「あっ!、、、ゼッゼォォッ、ゴホッゴホォッ、、ぅゲッ、、、!」
(...気持ちわる....我慢...でき..ない)
里奈は両手を口元に宛がい膝をつく。

その時、里奈は気づいていなかったがバッグの中の携帯は《慎也》からの着信を知らせていた。