個室のドアが一つ閉まっていた。ということは中に誰かがいたということ。
おまけに、ひっく、ひっくという細い泣き声が聞こえていた。彼女の嗚咽に紛れて、その時まで気づかなかったらしい。
個室で誰かが泣いている。女子トイレで二人の女子が泣いているのはそれだけで興奮するけど、とりあえず、俺がここにいるのはやばい。
そう思って、俺と彼女は、慌てて、外に出て、近くの教室に逃げ込んだ。
そのまま帰らなかったのは、誰がいるのか興味があったのと、彼女の泣いた跡が残っているから。
ドアの隙間から、ずっと女子トイレを見張っていたけど、誰も出てこない。
十分くらいして、彼女の泣いた跡も引いてきたから、もう一度、女子トイレの中を見た。


なんと……さっきは閉まっていたはずのドアが開いていた。もちろん、中は、誰もいなかった。
すると、誰かが階段を上がってくる音が聞こえたので、再び、俺たちは教室に隠れた。
顧問とは別の年配の教師二人だった。
「さっき、泣き声が聞こえましたよね」
「ええ。きっとあの子でしょうね。もう……十年になりますか。あの子の霊はいまだに、このトイレにとどまっているのですかねえ」
「自殺していなかったら、今年で24歳。美しい女性になっていたでしょうに」
二人の教師が、合掌して、立ち去った後で、俺と彼女は、真っ青になって、顔を見合わせていた。