「お姉ちゃん。お待たせ。今からお部屋に案内するね」
葵達が再び部屋に入ってきた。
「その前にお知らせするね。お姉ちゃんの体調は頗る順調で問題なし。ナノマシンからのデーターも滞りなく受け取れてる。
だからまたテスターとして頑張ってね」
笑顔で葵がそう告げた。
「そうだ。また靴を履かせてあげる。理沙、お願い」
用意されたのは、あのヒールが高い編み上げの黒いブーツだった。それを車椅子に拘束されたままの私に履かせていく。
「こんなのを履かせて歩けるの?」
そう聞く理沙に葵は言った。
「大丈夫。何年も前にこれを履いて私に会いに来てくれたから」
(そうだ・・・。あの雨が降っている時に・・・)
その時の葵の後ろ姿が、一瞬浮かんだ。編み上げが編まれると、結び目が接着剤で固められ、余った紐が切断された。
「それじゃあ、こんどこそ出発」
葵がそう言いながら、車椅子を押して私を部屋から出した。後の二人は、私の左右に並んで歩き始めた。
廊下を通り、エレベーターに乗るとエレベーターが下降し始めたのがわかった。
(また、地下のフロアーのあの部屋に入れられるのかな・・・)
やがて、あの金属の四角い扉が目の前に現れた。
「お姉ちゃんのために改造したから」
葵がそう言うと、ゆっくりと扉が開き始めた。