【妄想】ショタ小説を書こう!【創作】
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禁断の少年愛小説スレです。
読者の感想は歓迎ですが、誹謗・中傷は止めてください。
書く人がいてこそのスレです。
作者が書く気を失うようなことは書き込まないようお願いします。
作者の方は、できれば書き始めた作品は最後まで書いてください。
読む人のことも考えましょう。
前スレがdat落ちしたので再健しました。。。orz 初めてでしかも感じやすいガキなのに、随分遅漏なのね。 >>346
聞けなかったの?
くっさいメス豚は来なくていいの ぐったりと横たわる陸は放心状態でまだ余韻に浸っているようだった。
下腹部やチンチンはまだヒクヒクしていて、オレはもったいない気がしたけど
毛布と布団を掛けてやった。しばらく寄り添ってから正気に戻った陸の第一声。
「先輩・・・飲んじゃたの?」
ちょっと笑ったよ。なんかリアルな質問に・・・
「うん。飲んじゃった。」
「え?大丈夫なの?病気にならない?お腹痛くならない?」
そして本気で心配そうに聞く陸の頭を撫でて言ったんだ。
「もう寝ていいよ。」
その後、すぐに陸のスースーとした寝息が聞こえた。
まだ一度も出していないオレは、もちろん悶々してすぐに寝れる訳もなく
陸を起こさないよう、そーっとベットから抜け出しトイレで一発抜いた・・・
ーこうして初めての未熟なセックスとなおかつ相手が
同じ男という長かった夜が更けていったんだ。− 「じゃぁ、陸。また新学期に学校でな。」
翌日からオレは実家に帰る事になっていて、陸を家まで送ってやった。
「10日ぐらい会えないけど・・・」
「・・・うん・・・」
涙目になって頷く陸をたった10日なのに可愛い奴だなー≠ネんて思っていた。
別れ際に言った陸の『さよなら』の言葉や、こぼした『涙』も全部、大袈裟だと
思っていた。うん。オレはそう思っていたんだ・・・。でもね・・・陸・・・
どうして、黙っていなくなったんだよ。陸・・・
年が明けてすぐに陸はお父さんの仕事の都合で引っ越した。と聞いたのは新学期が
始まってすぐの事だった。最初は信じられなかったよ。信じたくなくて・・・
でも時間が経つに連れ、陸に会えない現実を目の当たりにすると
どんどん失意に満ちていったよ。あの夜、陸はわかっていたんだね。
だから思い出を作りたかったの?オレはね、陸がいなくなってまたダメや奴に
なってしまったよ。でも、なんでかな?悲しいはずなのに涙は出ないんだ。
陸がいなくなってもう三ヶ月経つのにオレは今だに泣けずにいたんだ・・・
陸から手紙が届いたのは、それから暫くしての事だった。
「はい、高野くん。大下くんから手紙。あなたの住所が分からなくて
学校の私宛てに送ってきたみたいね。」
保健の先生はそう言って1つの封筒を渡してくれた。オレはその場で封筒を
開けると中にはこう書かれていたんだ。
『先輩に会いたい。春休み会いに行ってもいいですか?』
たった二行の短い手紙だった・・・オレはその時、陸がいなくなって初めて
泣くことが出来たんだ。
「・・先生、オレね、男だけど・・・陸のこと好きだったんだ・・」
「・・そう・・辛かったね・・」
保健の先生はそう言った後、黙って抱きしめてくれた。
「大下くんに返事、書かないとね!」
オレが中学を卒業する3日前の出来事だった。
〜エピローグ〜
2008年9月のある日・・・
(・・・もう秋だな・・・)
タクシーを止めるスーツ姿の男が一人。
「お客さん、どちらまで?」
「平瀬出版ビルまでお願いします。あっあとラジオいいですか?」
「はい。番組は?」
「FM近畿で。」
時は同じくとある中学校の保健室
少し歳のいった白衣の女性がラジオのスイッチをいれる。
みなさん。こんにちわ。『FM近畿ミュージックリクエスト』お相手はわたくし
上田美穂でお送りいたします。では早速、本日最初のオハガキは、大阪府在住の
ペンネーム白衣の天使さん。中学校の保健の先生ですね!
『私はこの季節になると10年も前に卒業したある二人のこと思い出します。
そんな二人も今はもう社会人。今でも影ながら応援してます』
二人とも元気に働いているといいですね!それでは本日一曲目のナンバーは
白衣の天使さんリクエストで
スキマスイッチで『ボクノート』・・・・
おわり
終わりますた!最後のほうはかなり駆け足になりましたが・・・
最後まで読んでくれた方、応援してくれた方、わっふるわっふるとレスくれた方
本当にありがとうございました。
あかとんぼ お疲れ様でした〜
こういうジャンルの小説だと大人×ショタが多いけど、
少年同士の甘甘でラブラブなお話良かったです♪
次回作も期待してます!
腐マンコどもが沸いてるわね
板をわきまえて頂戴。
くっさーい。
あと、あかとんぼ。
長いのにつまらな過ぎよ。
やっぱり腐女子ね。きったなーい。 短髪ガチムチ好きオッスオッス以外は全部腐マンコ扱いだよ 少四の時の学校の帰り道、僕は学校を出てすぐ近所の和輝君と一緒になった。
年は2つ上だけど小さい時から一緒に遊んだ仲なので年の差はあまり感じなかった。和輝君は
なんだかウキウキしていて、早足で歩いて少しでも早く家に帰りたいような様子だった。
僕は「なんでそんなに急いでるの?」と聞いたら、和輝君は「誰にも言わないか?」と聞いてきたので僕は
「うん」と答えると、ランドセルから紙袋を取り出して中身を見せてくれた。
それは女の裸の写真とかHな漫画が載っている雑誌で、和輝君は「友達から貰ったんだ。早く家帰って見たいからさ」
と言ってまた早足で歩き始めた。
僕はつい勢いで「僕も見たい!」と言ってしまった。すると和輝君は少し考えてから「誰にも言わないか?」と言ったので
「絶対言わない、言わないから見せて!」と言うと「じゃあ帰ったらすぐ家に来いよ」と言ってくれた。
僕と和輝君は駆け足で家に向かった。 僕は家に帰るとすぐに着替えて和輝君の家に行った。
和輝君の家は両親が共働きで帰りは遅かった。僕は和輝君の部屋に案内されると
一緒に横になってベッドの上にうつ伏せになりエロい雑誌を拡げた。
僕はこの手の写真も漫画も見るのは初めてなので凄くドキドキしていた。
女の人の裸の写真はアソコの毛がモジャモジャでなんだか気持ち悪かったけど、
和輝君はなんだか凄く興奮していた。
Hな漫画は女の人が男の人にイタズラされる内容で、僕にはピンとこなかった
けど和輝君は「チンコ起ってきた」と言ってモゾモゾしはじめた。
和輝君は「駄目だ、我慢出来ない」と言ってズボンをおろしてチンコを出した。和輝君の
チンコはでっかくなってて、それを和輝君は自分の手で握って擦り始めた。僕はなんだか
わからないので「なにしてるの?」と聞いたら「こうすると気持ちよくなるんだよ、お前もやれよ」
と言われたけど、なんだか怖くて「僕はいいよ」と言った。
すると和輝君は「じゃあ俺のやってくれよ」と言って来た。僕は「やだ、怖い」と言ったら和輝君は
「なんだよ、じゃあお前の親にばらすぞ!」と言って来たので「えっ言わないで、じゃあやるから」と言った。
和輝君は仰向けになった。チンコがお腹にくっつきそうなくらい起ってて、なんだかビクビクと脈打っていた。
僕は「どうすればいいの?」と聞いたら「握って擦ればいいから」と和輝君は言った。僕は言われた通りチンコを
握ると、和輝君は「ウッ…もっと強く…」と言った。僕は少しギュッと強く握ると和輝君は
「あッ…そう、それぐらい。そのまま動かして」と言った。僕は言われるまま擦り始めた。 和輝君は口を半開きにして、うっとりとした顔で僕を見ていた。
僕はなんだか照れ臭くてすぐに目をそらした。
「気持ちいいの?」と聞いたら「うん、もうイッちゃうかも」と言った。
僕は「え?どこに行くの?」と言うと和輝君は「あぁ…うん、イ、イクッ…」
と言うと、ビクンッと体を突っ張らせると同時にチンコから白いおしっこが
ドクドクと流れ出て来た。
僕はびっくりして、握っていた手を離すと和輝君の顔を見た。
和輝君は息を荒くして放心していた。僕は「大丈夫?痛かった?」と聞いたら和輝君は
「…気持ちよかった。自分でやるのと…全然違う」と言った。
「この白いのなに?」と聞くと「精子だよ、イクと出るんだ」と言われたけど、よく
わからなかったので「イクってなに?」と聞き返した。すると和輝君は
「じゃあお礼に俺がイカせてやるからお前も脱げよ」と言ってきた。
僕はドキドキしながらパンツを脱いでベッドに横たわり仰向けになった。
僕のチンコもいつの間にかギンギンに起っていた。
ここはガチホモが多い板だから書きにくい。
ショタは腐女子扱いされやすいし。
野次飛ばす奴がいる様な所は誰も書かない。だからageる必要もない。
>>396
どの作品が好きだった?
オレも作品自体はいいとおもうよ!書いてる人への野次が醜いだけ。 夕の日差しにほんの少し暖められた風が、部屋の中を通りすぎていく。半分閉じられたカーテンの揺らめきにこぼれる光に、少年は目を細める。
羽布団の中で、うつぶせに寝たままの少年の尻へ大きな手の平が優しく触れた。顔だけを動かして振り返り、隣に寄り添う男を見た。
「やっと起きたか。もう昼だぞ?」
微笑むように囁く男の声にくすぐられて、少年は身をよじる。背中へ細い手を回し、男の腕に触れる。
まるで辿るように這わせていき、そのまま自分の体を寄せて、相手の胸に頬を触れさせた。
ほとんど薄れてしまった香水と、汗、それから少し、煙草の匂い。
見上げた少年と男の目が合う。男の口元へ自分の唇を近づけて、少年は目を閉じた。
「……んっ」
たっぷり数十秒の口づけのあと、男が少年の髪を優しくかきあげ、撫で回す。
「今日は……買い物にでも行くか? 前から欲しがってた
('A`)飽きた >>367
まあ、他所に行くなら半角文字列板が妥当だろうな。
念のために検索してみたが、半角文字列板にショタ小説スレは無かった。 そら半角文字列には無いでしょう。
エロパロ板にはあるけど。お好みかどうかまでは知らん。
ショタとお兄さんでエロパロ3
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1220795350/
371はお耽美だね
エロシーンがないけどその雰囲気は好きかも 誤爆スマソ
>>375
もっとこういうショタスレ無いの? エロパロ板しか知らんな
2次のキャラ別SSならあるんだろーが…
ショタスレは立てにくい。立てれる板は荒れやすい。
>>375のスレも
散々議論されて特別に例外として認められた、隔離スレらしいからね。
以後エロパロ板では同性のショタスレは認められてない。
しかしココは誰も投下しねーなw落ちないのが不思議なくらいw さらにわっふるわっふると煽るくせに
書き終わっても、感想や労いの言葉もなしw
ageると湧いてくるガチホモの粘着荒しレス攻撃wホント最低だなここは!
それでも書いてくれる勇者は現れないだろうか!?いわ
>>375とかの方が作品投下という意味じゃ賑わってるな
今更なんだけど、わっふるわっふるってなんなの?
使う場面はなんとなくわかるけど元ネタとかあるの? >>386
わっふるわっふる=早く続き書け
起源は半角板でバカにだけ画像を配布するって奴がいて
誰かが We are fool を Our fool と
間違えて書き込んだ奴がいたらしい
それが伝説となってわっふるわっふるが生まれたらしい………
嘘か本当かしらんけどw 俺は今日、初めて酒を飲んだ。どんな種類かも覚えていない。
たしか、とても真っ赤な酒だった。赤い赤い…血のような赤。
酔いはじめは気持ちがよかったけど、今では頭が痛い。ガンガンする。
それから。……誰に飲まされたっけ?
ていうか、ここはどこだろう…。白で統一した部屋。
真っ白なカーテン。真っ白な家具。真っ白なベッドに真っ白なシーツ。
そして、真っ白な服を着た。俺。
いったいなにがどうなっているのだろう。
真っ赤な夕日が真っ白なカーテンのスキマから入り込んでいる。
その夕日は、一直線に一つのグラスを差していた。
多分、俺が口をつけたグラス。少しだけ酒の匂いが残っている。
そしてその匂いを嗅ぐと頭が痛くなってくる。
俺は、何をされたのだろう…。俺は、何をされるのだろう。
そう思っているとガチャッと真っ白な扉が開いた。
空けた途端、部屋は夕日の真っ赤に包まれた。
そして、黒くて暗い。男が立っていた。
誰?と聞こうとしても声が出せなかった。
本当に俺は、昨日何をしたのだろう…。 エロくないショタ小説の投下はダメですか?
ショタ同士のご主人さまとメイドものなんですけど……。 >>393
いいんじゃない
ショタ小説スレでエロ小説スレじゃないし >>394
お言葉に甘えて……。
『今夜、君の立つキッチンで』
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いつ眠りについたのかも分からない時に見る夢は――決まってこの思い出の光景を僕に見せる。
いつもはっきりとは思い出せないけど、それはおそらく自分の子供の頃の光景なんだろう。
思い出の中の光景(それ)は、いつも午後の陽光に包まれている――淡く暖かい光の中、たくさんの観葉植物達に
物憂げなまなざしを向けている子供の光景が見える。
そんな子供の隣にはもう一人、男の子がいる。それがリッコだ。
そして観葉植物を見つめているのが――僕だ。
それは僕達二人が、初めて出会った瞬間を切り取ったものだった。
やがてその中の僕は、目の前のリッコに気付き声を掛ける。
何と言葉を掛けたのかは分からない。だけどそれに気付いて不思議そうな視線を返しているリッコの様子を見るに、
どうやら何気ない挨拶を投げ掛けたのだろう。
そして僕とリッコはいろいろなことを話していく――。
やはり何を話しているのかは分からない。ただ、僕から問い掛けられてくる言葉に、妙にあたふたしている幼い
リッコの姿はとても可愛く思えた。
やがてそんな子供のリッコは僕に向かって“ある言葉”を投げかけてくるのだ。
それこそが――僕が最も知りたい“言葉”それだった。
自分の過去ながら、ここで自分達が何を話していたのか僕は何ひとつ思い出せない。しかし思い出せないながらも、
それがひどく“大切なこと”であることだけは憶えているのだ。
だからこそ、知りたい。
リッコは何を僕に話しているのだろう?
そしてそれを受けて、僕は何とリッコに応えたのだろう?
そうして見守り続ける中、幼い僕は夢の中のリッコの両手を取る。そして互い見つめ合い、微笑み合うのだ。
――その光景を見ながら、この夢の傍観者たる僕は慌てふためく。
あぁ――夢が終わる、と。それこそは、この夢が終わる直前の場面であるから。だから慌てふためく――今日も何も
分からないまま、何も思い出せないまま終わってしまうから。
どうして思い出せないのだろう? 僕はこんなにも、知りたいというのに。
その瞬間――僅かに、記憶の一部分だけが再生された。
『やくそだよ、キトラ』
『うん。やくそくだよ、リッコ』―――
はっきりとその部分だけを聞き取ることが出来た――しかし何を約束しているのかは、結局分からなかった。
やがては白く霞みゆく夢に、僕はこの眠りからの覚醒を自覚する。
今日もまた、このことを思い出すことは叶わなかった。そして現実の僕も目が覚めてしばらくすれば、この夢を
見ていたこと自体、忘れてしまうのだ。
だから僕は目覚め行く意識の中で、いつも神様に祈るのだ。
どうか、この次もまたこの夢を見せてください。そして次こそは思い出させてください――と。
それが、今の僕に出来るただひとつのことだから。
それこそは―――
かの、“マクスウェルの呪い”に取り憑かれた自分を助け出してくれる、唯一ひとつの方法であるのかもしれない
のだから。
【 1−1 】
視界の開けた広い台所には、入ってすぐに真っ黒なコンロが目に入る。
入り口の正面に設けられたそこで、記憶の中の彼女はいつも何かを作っていた。
寒い時には心から温まるシチューを作ってくれたし、眠れない夜に飲むライムの蜂蜜割りだって、ここで彼女が
作ってくれていた。
この家のメイドであったエドナの――そんな彼女の後ろ姿を誰もいない台所に思い出し、キトラ・マクスウェルは
大きく鼻をすすった。
そんなキッチンに朝食の食器を置くと、逃げ出すよう台所を出る。これ以上ここにいたら、また泣いてしまう――
泣いてしまったら、今度こそ一人では生きていけないような気がした。 【 1−2 】
若芽色づく五月の始め――ほんの1週間前に、彼女・エドナは眠るよう天に召された。彼女の葬儀は村長をはじめと
する地元の村人達数人によってしめやかなに行われ、見上げるほどに大きく見渡すほどに広いこの屋敷にはキトラ一人
だけが残された。
少年の姓ともなっている“マクスウェル家”とはキトラの祖父ドレル・マクスウェルが、ライターの開発・製造販売
で労働者階級から成り上がった新興貴族の家系であった。
その発明品である『ライター』は、『近代を象徴する歴史的発明品』として称えられ、瞬く間に全世界へ浸透――
マクスウェルの名を不動のものとさせた。
しかしかの家の不幸は、これより始まる。
折りしもベラトリア・ルドベキア・ワスレモコウ、そしてフリージアの四国による大戦が続いていた激動の最中――
かの発明品(ライター)の出現は、当時の銃器開発においても飛躍的な進歩をもたらすこととなった。
その独自の構造から容易に火を熾すことの出来る“着火輪”の発明は銃火器の性能を一回りも二回りも向上させ、
結果その兵器の投入によって四国の戦況は激化――それぞれに多大な死傷者(成果)をもたらせることとなった。
これによりマクスウェル家は更なる富を得ると同時、大量虐殺兵器の開発に携わったという謂れ無き誹謗中傷も
また受けてしまうこととなる。
世紀の大発明を成した“稀代の英雄”は、たちどころに大量虐殺の“死の商人”として――いつしかこの片田舎へと
追いやられることとなった。
それでも産業革命の追い風も含んだ時代(とき)の中、マクスウェル社のライターは売れに売れた。
自社製品の売上はもとより、他の会社が製造するそれの著作権料(マージン)、そしてもちろんのことながら銃器製造に
関するそれらも含め、マクスウェルの財は夏の雲のよう大きくなっていった。
そうした富と名声(誹謗中傷・悪名も含む)の隆盛の中――祖父・ドレルが他界した。
その死が時を迎え神に召されたものであったのならば、それが後に起こる“かの騒動”を引き起こす契機となることも
なかったであろう。すべての不幸の始まりとなるそんなドレルの死は、衝撃的な“事件”の延長線上にて起きてしまった。
その日ドレルが視察に訪れていた工場は、不慮の事故により爆破崩壊をしたのだった――そしてそれに巻き込まれて
彼は命を落とした。
大量のガス燃料を備蓄していた工場の災害はドレルのみに関わらずそこでの従業員、さらには近隣の住民すらをも
巻き込む大惨事となった。
この事件はその後、保証を求める事故の被害者達とマクスウェル社側との話し合いから幾つもの裁判を起こさせ、
当時の世間を大いに騒がせた。
そうしてようやく互いの間に和解が成立し、一連の事件にも一応の決着がついた頃――巷には“ある噂”がささやかれ
るようになっていた。 【 1−3 】
それこそが――“マクスウェル家の呪い”それであった。
あの事故は――そしてドレルの死は、かの虐殺兵器によって死んでいった者達の呪いとして、まことしやかにささやかれ
るようになったのだ。
そしてそれを期に、マクスウェル家には様々な不幸が降りかかるようになる。
祖父の死を始まりにその二年後。キトラの妹が病から息を引き取った。喘息から起こる呼吸停止によるショック死――
それが彼女の死因であった。まだ4歳であった。
そしてそのさらに三年後――今度は父母が供だって他界した。晩餐会の帰り、道を踏み外した馬車が橋から転落する
という交通事故がその原因であった。
相次ぐ家族の死は、益々もって“マクスウェル家の呪い”それを後ろ押す形となり、屋敷に勤めていた使用人達も
一人――また一人とそこを後にした。そうして見上げるほどに大きく、見渡すほどに広いこの屋敷にはついに、キトラと
エドナの二人だけとなってしまった。
次々と使用人達が辞めていくその中、家政婦のエドナだけが残ってくれた。
祖父の代からマクスウェル家に勤めていたという彼女は、キトラが生まれた時からすでに老媼(ろうおう)の家政婦で、
彼の中では唯一“何も変わることのない”存在であった。
祖父を亡くし、妹を看取り、そして父母を失ったキトラにとって彼女は祖母であり姉であり、そして母とも言える
存在であった。
あの激動の最中、屈折することなくキトラが成長できたのは、そして全ての悲しみを乗り越えられたのは――全ては
エドナのおかげといっても過言ではない。
家族を失ったことは不幸ではあったが、それでもキトラにはエドナがいたから今日(こんにち)まで健やかに成長して
こられたのだ。
そして失いすぎたが故にキトラは盲目に信じた――そんな二人きりの日々がこれからも続くことを。そんな彼女が
この屋敷と供に未来永劫、“変わることのなく”傍にいてくれることをキトラは信じて疑わなかった。
それでも彼女は、キトラの想いをよそに逝ってしまった――見上げるほどに大きく、見渡すほどに広いこの屋敷には
ついに、少年が一人だけとなってしまった。 【 1−4 】
葬儀の中での記憶は全くといっていいほど無い。ただ泣いていたように思う。
泣いて泣いて泣きくれて――そんな逃避の酩酊からおぼろげに覚醒した時、キトラは己が一人ぼっちになったことを
受け入れた。もう泣くまいと誓った。これからは一人で生きていかなければならないのだと覚悟した。
奇しくもそれは、マクスウェル家三代目当主キトラ・マクスウェルとしての誕生でもあった。
ゆえに、台所で不意に感情が溢れそうになるのを察知してキトラは足早にそこを後にした。
泣いてもしあの頃の自分に戻ってしまったのなら、もはや一人で生きていくことなど出来ないであろう。ただ衰弱
して、死を待つだけだ。
一時期はそれも考えた。しかしそのつど思い出されるエドナとの思い出にキトラは踏みとどまった。ここで悲観に
くれて死を迎えるということは、自分を育ててくれたエドナへの侮辱となる。使用人達が我先に屋敷を出て行く中、
一人残ってまでキトラの世話をしてくれたエドナの行為全てが無駄になる。
そんなエドナの行為を無駄にすることなど――彼女との思い出を否定することなどキトラには出来なかった。
それだけは、決してしてはいけないのだ。
「――ふう」
玄関のホールまで走り、強く目頭をこするとキトラは大きくため息をついた。
そうして呼吸を整え、
「いつまで泣いてちゃ……かっこ悪いよね」
微笑み、気丈に己を奮い起こしながらようやく当主としての自分を取り戻す。
「さ、お仕事しなくちゃ。溜まってる書類に目を通さないと」
そして精一杯に強がってから、二階の書斎へと上がる階段を踏み出したその時であった――
「メイドが、来たど――――ッッ!!」
突如として玄関のドアが押し開かれたかと思うと、そんな叫び声がホールに響き渡った。
「メイドが、来たど――――ッッ!!」
突如として玄関のドアが押し開かれたかと思うと、そんな叫び声がホールに響き渡った。
「えッ?」
すでに階段の一段目に足をかけていたキトラは、その声に両肩を跳ね上がらせ振り返る。
そこには――両腕を広げ、両開きのドアを開けたままの人影がひとつ。
「……誰?」
瞳をしかめたまま、それを凝視するキトラ。ドアから差し込む朝日が逆光となって、その人影の主を確認することが
出来ない。
やがてそんなキトラの声に応えるよう、
「おい、メイドが来たぞっ。これからは、オイラがキトラのメンドー見てやるからな!」
自信たっぷりな、少年の返事(こえ)がひとつ。
「――リッコ?」
やがて目が慣れ、そこにいる少年の姿を確認するとキトラもその少年の名を呼ぶ。
「おう。おまたせ、ご主人様♪」
そうしてあっけに取られるキトラを前に――少年・リッコは満面の笑顔を見せるのだった。
【 2−1 】
丘を越え、坂を滑り、道を駆け――少年・リッコはマクスウェル邸を目指し急いでいた。
リッコは今、ある決意を胸に秘めていた。
それこそは、マクスウェル家に赴き、そこの小さき当主・キトラと供に在ろうという決意。
かのキトラはリッコにとって幼なじみであり、そしてかけがいのない親友であった。
今より10年前――かのキトラ達・マクスウェル家は、ここシランの片田舎へと越してきた。
目立った産業も工業もないそんな辺鄙な場所では、かの家族の登場は当時、大きな話題となった。
もっとも話題になったのはやはり、当時まことしやかに囁かれていた、“大量虐殺に加担したマクスウェル家”の噂
それであった。
現在も然ることながらあの頃の世情はまだ、お世辞にも落ち着いているとはいえなかった。連日戦争による死傷者の
報道がなされ、人々は常に死の影と隣り合わせの生活を余儀なくされていた。それはこの片田舎であっても例外ではなかった。
そんなところへ、あのマクスウェルの登場である。
もちろん彼――ドレルの開発したライターが、当初から武器製造の為になされたものではないことを人々も知っていた。
しかしそれでも人々には不安定な情勢の恐怖や政府への不満――そういったフラストレーションの捌け口が必要であり、
またひとり財を成していくマクスウェル家へのひがみもあった。
ゆえに人の口に戸は立てられず、ここへ来てもまた、マクスウェル家は後ろ指を指されることとなった。
現にリッコも、『あの家には近づくんじゃない』――と両親に言い聞かされたことがある。
今もそうであるがその当時――リッコの家はマクスウェル家への食料品の配達を任されていた村唯一の総菜屋であった。
そんな顧客の陰口を両親が囁くようなことはなかったが、それでも必要以上にかの家と接触すること、そして家庭の中で
その話題をすることは極力避けていた節があった。
もっともそれも仕方のない話ではあったのだ。村でただ一軒の総菜屋として生業を立てている以上、変にマクスウェル家を
擁護して孤立してしまえば、それこそ自分達一家の危機にもなりかねない。
ゆえに両親は、かの家との必要以上の接触をリッコに規制した。
しかしながら、そんな両親の口止めも無駄に終わる。
あるとき定例の配達に父とそこを訪れたその日――リッコとキトラは出会ってしまった。
裏口から食料品を運ぶリッコと、手入れされた庭の中央でその様子を見守っていたキトラと二人の目は会った。
しかしながらそれも一瞬のこと、キトラはすぐに視線を振り切って庭の奥へ潜ってしまった。あとにはリッコだけが残された。
本来なら、その出会いもそこで終わりである。
しかしリッコは――キトラの後を追って庭の中へと入っていった。 【 2−2 】
そもそも、使用人風情のリッコが無断で貴族の家の庭に入っていくこと事態、大変に無礼ではあるのだ。しかしリッコはまだ、
そんな分別もつかない子供であった。そしてまた、新しい友達の予感に踊る心を抑えられない、純粋な子供であったのだ。
庭を抜け、その敷地の端にポツンと立った温室の中にリッコはキトラを見つけた。
そうして何臆することなくリッコはその中へと入り――そんな自分の登場に驚くキトラと初めて対面を果たした。
リッコ自体その時のことはあまり覚えていないのだが、当時を語るキトラは、『友達になろう』と手を伸ばしてくれたリッコの
姿がとても可愛かったと話してくれた。
ともあれ、こうしてリッコとキトラは友達になった。
それからというものリッコは毎日のようキトラの元を訪れては、野に山にと共に遊びまわった。
面倒見が良くて優しいキトラは、いつもリッコの面倒を見てくれた。
一緒に森へ出かけて迷子になった時も、一人泣くリッコをキトラは背負って帰路を探してくれたし――一緒に坂すべりをして
転んだ時でも、やはりキトラは泣きわめくリッコを背負って帰った。
互い同い年ではあったが、リッコにとってのキトラは誰よりも頼れる兄のような存在であった。そしてそんなキトラを――
リッコは大好きだった。
そうして二人は少年時代を供にすごした。
その中にはもちろん悲しいことだってあった。キトラの祖父が事故にあい、妹が病に倒れ、そして父母もまた不幸な事故のもと
相次いでこの世を去った。
そのつど悲しみに打ちひしがれるキトラをリッコは見た。そして慰めた。普段無口なキトラもリッコにだけは良く話したし、
そして悲しい時には涙を見せ、その胸の内を打ち明けてくれた。
だからリッコは思っていた。
彼は自分との会話を楽しんでくれるし、彼は自分にだけその泣く姿を見せてくれる――自分にとってのキトラが特別な存在で
あるのと同じく、彼にとってもまた、 “自分は特別な存在”であるのだ――と。
そう信じて疑わなかった。
しかしそんな考えこそ、自分ひとりの身勝手な思い込みなのだとリッコは思い知らされることになる。
キトラがここに来てから幾度目かの春のその日――マクスウェル家に仕えていたメイドのエドナが他界した。
彼女のことはリッコも良く覚えている。
いかに同年代の友達とはいえ、やはり“階級の差”から二人が遊ぶ姿を快く思わない使用人達がその当時、屋敷にはまだいた。
その最たる者であった執事や侍女などは、リッコの姿を見るたびに追い返し、両親へ苦情をも訴えたものだ。
しかしそんな使用人達の中で、唯一リッコとキトラの仲を認めてくれたのが家政婦の彼女であった。
キトラにしてもエドナは特別な存在だった。 【 2−3 】
一族の事業に追われ、年に数度しか会うことのなかった両親以上に、彼女の存在は大きく、そして暖かいものであった。
そんな彼女が亡くなった時の――あの時のキトラの姿は、今でも思い出すたびにリッコの胸を締め付ける。
彼女の亡骸にすがり、泣き、取り乱し――しまいにはその悲しみのあまりに衰弱して、後の葬儀すらまともに出席できない
ありさまであった。
その時だって、リッコも黙ってそれを見ていたわけではない。
自分なりに彼を気遣いながら、その時もリッコはキトラへと声を掛けた。慰めた。それでキトラは落ち着くものだと思っていた。
いつものように。
しかし――そんなリッコの声・想いなど、微塵としてその時のキトラに届くことはなかった。
それどころか、そんなキトラにはリッコの存在さえ見えてはいなかったのだ。自分などそこにいないかのよう取り乱し、泣き暮れた
――その時になってリッコは気付いた。
キトラにとって自分は、けっして“特別な存在”ではなかったのだ、と。どこにでもいる“ただの友人”であった自分だけが、
おこがましくも彼の“特別な存在”と思い違いをしていただけだったのだ。
それに気付いてしまったことが辛くて、そしていつまでも泣き止まぬキトラが心配で、リッコもまた日を重ねて泣き暮れた。
そうして一生分の涙を泣きつくしたかと思うほど泣いて眠り落ち――その長い眠りから目覚めた時、リッコの泣きはらした瞳には
ある決意の光が宿っていた。
自分(リッコ)は、キトラが好きだ。
それは友人や親兄弟に持つような親近感ではなく、他人を想い慈しめる気持ち――ただひとつ“愛”と言う真実それであった。
彼の為に傷つき、そして泣き暮れてもなお彼のことを想い続けた日々が皮肉にもリッコにそれを教えた。
それこそは、リッコの新生であった。
過去にエドナがそうであったよう、その気持ちに気付くことによってリッコもまた、愛する人の為に尽くせる自分へと生まれ
変わったのだった。
そうしてリッコは決意した――彼の傍にいてあげることを。
もう彼を悲しみにさらさせぬ決意をリッコはした。
かくして次の朝、肩掛けカバンひとつの全財産を担いでリッコは家を出た。
両親には、二度とこの家には戻らないと前日の晩に告げていた。 キトラと供に在ろうという決意は自分だけのものだ。そんな自分勝手な理由から両親に迷惑は掛けられない。――だからこそリッコは、
二人に『親子の縁を切る』ことを継げた。
そんな決心と明日の出発をつげる我が子に、一方の両親は何も言わなかった。そして今朝の出発にだって見送りにすら現れなかった。
しかしリッコは、それを両親の愛だと理解した。
もし『行くな』と言葉を掛けられたなら、リッコは今朝のよう決意も新たにここを出ることは叶わなかっただろう。
両親の口から発せられるその言葉には、マクスウェル家に関わることで生じる“村での孤立”、そしてかの忌まわしき“呪い”に
触れようとしている我が子への不安――それらが込められている。
父母からそれを聞けば、リッコは二人の身を案じ、罪悪感を抱いた旅路を余儀なくされたことだろう。そしてこれから立ち向かう
マクスウェル家の呪いに畏怖し、今後の自分の行く末に不安を抱いたことだろう。
それを案じたからこそ、両親は“何も言わなかった”。
我が子の身を心配しない親などいない。二人だってさぞ、旅立つリッコへと励ましや、あるいはそれを引止める言葉を掛けたかった
であろう。しかしそれらを口にしてしまえば、リッコの自分達に対する思いやりを踏みにじるばかりか、息子の一人立ちすら妨害して
しまうこととなる。だからこそ、あえて二人は旅立つ我が子に“何も言わなかった”のだ。
それこそが、いま自分達ができる我が子への精一杯の思いやり――愛であったから。
だからリッコは今日の旅立ちに何の後ろめたさも不安もなかった。その愛を一身に受け、心には一片の曇りなく村を出ることが出来た。
そうして丘を越え、坂を滑り、道を駆け―――少年・リッコはマクスウェル邸を目指して急いだ。
「もう少しだ」
緩やかな傾斜の道を登っていくと、地平線の向こうからその屋敷の頭がせり上がって来る。そして完全にその道を登りきると――
数十メートル先には、かの館の全貌が見えていた。
大きくひとつ息を吸うと、リッコは地を蹴り走り出す。そしてその距離を一気に駆け詰めると、改めて門扉越しに屋敷を見上げた。
格子状に造られた重奏な門扉のそれは、さながら牢獄の鉄格子をリッコに連想させた。そしてそんな印象は、その中に一人でいる孤独な
キトラのイメージをさらに強くさせた。
「――今いくよ、オイラが」
鼻を鳴らすようして呼吸を整えると、リッコはその格子の間をくぐりぬけ、敷地の中へと入っていく。
―――呪いなんて……全部オイラが追っ払ってやるんだ。
荒れ果てた庭を進みながら決意を新たにする。
―――今以上に笑わせて、幸せにして――“呪い”なんて、全部笑い話にしてやるんだ!
そんな“使命”を胸に辿り着く館の扉――そしてこれから始まる使命(たたかい)への烽火(のろし)とばかりに、
「メイドが、来たど――――ッッ!!」
リッコは声高らかに、その扉を開いたのであった。 これ自分で書いてるの?
勝手に転載するのはまずいんじゃないの。 >>405
いちおう『本人』なので問題はないです(^^;)。どうか読んでいただければ……。
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【 3−1 】
「――メイド? リッコが?」
突然の申し出に、さすがのキトラも怪訝な表情を見せた。
そんな彼の反応とは対照的に、
「おう♪ なんでも言ってよね」
一方のリッコはというと、これ以上にない笑顔を見せる。
「で、でも――『メイドをやる』って言ったって、何をするのかリッコは分かってるの?」
「大丈夫だって。キトラの面倒をみるんだろ? なんでもしてあげるよ。これからはずっとここにいるから」
「いや、そうじゃなくて――それ以前に、『ずっとここにいる』って訳にはいかないでしょ? お父さんとお母さんも心配するよ」
リッコのペースに飲まれながらも、どうにか彼を説得しようとキトラも言葉を繋いでいく。
しかし、
「父ちゃんも母ちゃんも知ってるよ、このことは。ちゃんと言って出てきたから。二人とも何も言わなかった」
「―――ッ?」
そんな説得に対し、さもあっけらかんと応えてくるリッコの言葉にキトラは息を飲んだ。
いかに子供とはいえ、自分(マクスウェル)の家が何と噂されているか、キトラは知っている。そしてその噂ゆえに、この家がシランの
集合体の中で孤立していることもまた知っていた。
だからこそ、
「だったらすぐに戻るんだ!」
なおさらキトラは声を強くした。
もしこれ以上自分と――この家と関わろうものならば、
「リッコ達家族も、ここで暮らしていけなくなるぞ……」
やがてはリッコ達もまた、ここでの暮らしを奪われることとなる――そうなることをキトラは恐れた。
キトラにとってのリッコは、かけがえのない友人だった。そんな大切な人が自分のせいで苦しむ姿をみたくはなかった。――もうこれ
以上、この呪いの犠牲者を増やしたくはなかった。
しかし、 【 3−2 】
「父ちゃんと母ちゃんなら大丈夫だよ。オイラ、家出してきたんだし」
「――え?」
返ってきたリッコの返事に、またもキトラは言葉を失う。
「そ……それはどういう意味なんだい?」
そしてそれを問うキトラに対し、
「父ちゃん達にはメーワクかけられないからさ、だから『もう戻らない』って言って出てきたんだ。もう――オイラはあそこの家の子
じゃないから」
リッコはどこかテレたよう返事(こた)えていた。
「なッ――――」
その返事に、胸の奥で得体の知れない何かが湿った音を立てるのをキトラは感じたような気がした。
そして次の瞬間には、
「バカなことを言うんじゃない!」
よりキトラは声を大きくした。
「僕もそうだけど、君はまだ子供じゃないか!」
「………」
「そんな子供二人だけで、暮らしていけると思ってるの?」
「………」
「それに君は『家を出てきた』って言うけど、村の人達はそうは見ないよッ」
リッコの行動を問い質していくキトラの言葉の数々――それを黙したまま受けるリッコ。
そして、
「リッコがここにいれば……僕に関わっていることが分かれば、いずれはきみのお父さん達も――」
その言葉が核心をつこうとしたその時―――
「言わないで!」
打って変わったリッコの声が抑えた。
「リッコ?」
「………」
それに驚くキトラの視線の先には――顔をうな垂れ、表情を伏せたリッコの姿があった。 【 3−3 】
「キトラの言いたいことは、みんな分かってる」
そしてそのままで一言。
「キトラがオイラのこと心配して言ってくれてるのは嬉しいし、自分がバカなことをしているのだって分かってる。――でもね」
「……?」
「でもね――オイラ、やっぱりキトラのことが好きなんだ。もう、あんなに悲しむキトラは見たくないし、これからも悲しい思いなんか
させたくない。そう思ったから、オイラはここに来たんだ」
リッコの言葉、そしてその想いに――怒らせていたキトラの両肩からも力が抜ける。
「一時の想いに駆られてこんなことしてるんじゃない――これからもずっとキトラの傍にいられるよう、オイラはここに来たんだ」
「ん……」
「もう、帰る家も迎えてくれる村も無い。オイラは、“マクスウェル”のリッコだから――」
「………」
「だから――『出て行け』だなんて言わないで。もうここ以外に、オイラの居場所はないんだから」
「……リッコ」
いつもの活発なリッコからは予想もつかないくらいくらい沈んだその声、そして今にも泣き出しそうに強く眉下を結んだ表情に、キトラは
胸の奥が強く締め付けられるような思いがした。
今キトラを絡め取るこの気持ちは、目の前のリッコに対する申し訳なさだけではない。純粋に、『ずっと自分の傍にいてくれる』と言って
くれたリッコの気持ちが嬉しかったのだ。
だからこそ、胸の苦しみは治まることなくいっそうに強くなっていった。
申し訳なく思えば思うほどに、自分のことを思ってくれていたという彼の気持ちが嬉しくなり――それが嬉しく思うほどに、リッコへの
悔咎の念はなおさら胸を締め付けた。 【 3−4 】
「キトラぁ」
そうして顔を上げ、今にも露の弾けそうな潤んだ瞳で見上げてくるリッコに――
「リッコ……」
限界まで締め上げられキトラの胸は呼吸すら忘れさせる。
そして締め付けられていた胸の中の何かが、完全に絞り千切れて弾けると同時――キトラは深くため息をついて、自嘲気な笑みをひとつ
口元に浮かべた。
「――わかったよ。『出て行け』だなんて言わない。君がそうしたいのなら、ここに残るといいよ」
そうして諦めたよう頷くキトラへと、
「ッ―――、キトラぁ!」
リッコは飛びつくようにして抱きついていた。
「ありがとッ。ありがとね、キトラ。オイラ、良いメイドになるからさ♪」
「で、でも――村の人達に不穏な空気が出始めたら、家に帰るんだよ? 本当に村八分にされちゃったら、大変だからね」
「分かってる。分かってるよ、ご主人様。大好き♪」
「……本当に分かってるの?」
そうして“幼なじみ”から、新たに“主従”の関係を結んだ二人――そんな心優しき初めての主人にその背を撫でられながら、
―――泣き落とせば、落ちると思った♪
ちゃっかり者(リッコ)はひそかにガッツポーズを取ってみせるのだった。
【 4−1 】
少し考えた結果、リッコにはエドナが使っていた部屋に入ってもらうことにした。
「うわー、ここがオイラの部屋?」
一階の、キッチンにほどなく近いそこがエドナの――新しき住人・リッコの部屋であった。
6畳ほどの部屋には、ドアの正面に窓がひとつ。そしてその両脇の壁面それぞれにベットと衣装ダンスがひとつずつ置かれただけの、
質素な造りとなっている。――このレイアウトはエドナの生前からまったく変わっていない。
巨万の財を成すマクスウェル家の中においても、彼女は質素倹約を好(よし)とした。それは使用人としての美徳よりはむしろ、素朴で
飾らない彼女の性格が反映されてのことだろう。
エドナの死後も、キトラは幾度となくこの部屋を訪れていた。当初は彼女の遺品を整理すべく目的で訪れたが、今も見た通り彼女の荷物は
少ないもので、むしろここで過ごす時間の大半はエドナの生前を追憶するばかりのものであった。
強く生きよう、彼女の影を引きずらないよう生きようと決心したキトラではあったが、やはりここに来て、そして彼女の匂いに包まれて
いると、そんな誓いも涙の先にかすんでしまうような気がした。
だからこそ、ここにリッコを置こうと思った。
それはエドナの代わりとしてではなく、むしろ彼女の “優しき亡霊”との決別をする決意の表れであった。
「うは♪ 服があるー」
突然のリッコの声にキトラは我に返る。
そうしてどこを見るでもなく投げかけていた視線を戻すそこには、かの衣装ダンスからエドナのメイド衣装を取り出しているリッコの姿があった。
「すげー、メイドの服だぁ。ねぇ、着てみてもいい?」
「えぇ?」
これまた突然の申し出にキトラは間抜けな返事を返す。
「き、着るって――それ、女の子の服だよ?」
「女の子の服は着ちゃいけないの?」
「そんなことはないけど……でも、おかしいよ」
「だけど、メイドの服でしょ? だったらいいんだよ。だってオイラはここのメイドだもん。ね、ご主人様♪」
見上げながら微笑んでくるリッコの笑顔に押し切られ、キトラは言葉を飲む。
そうしてなんと応えたらいいものか考えあねぐ主人を、
「ほらほら。オイラ着替えるんだから、外に出ててよ♪」
リッコは楽しそうにその背を押して、部屋から出す。 【 4−2 】
「じゃ、そこで待っててね。すぐ着替えるから」
そう言って締められる寝室のドアを前にしながら、
「リッコ、張りきってるなぁ」
思わずキトラもため息。
と―――
「いや、そういう問題じゃないってば!」
問題はそこではないことに気付いて、思わず自分自身にツッコミを入れるキトラ。
そもそもリッコが女装をしてまでキトラに仕えることはない。否、むしろそれは、人としても、使用人としても“間違っている”ことなのだ。
「張り切っているリッコには悪いけど、ちゃんと言わなきゃなぁ」
そうして、どう説得しようか悩むキトラへと、
『いいよー。ドア開けてー♪』
部屋の向こうから、リッコの声が響いた。
そうしてキトラもノブを握り、
「あのね、リッコ―――」
ドアを開け、そこにいるであろうリッコへと言葉をかけたその時であった。
目の前に立つリッコの姿に――
「あ……」
思わずキトラは言葉を失った。
そこには、“メイドのリッコ”がいた。
黒のワンピースにフリルのついた白いエプロンとカフス。そして肩元まで伸びていた髪をこれまた白のカチューシャでまとめたメイドの
リッコが――それを見つめる主人(キトラ)へと微笑んでいた。
「…………」
その姿に見入ったままキトラはしばし放心する。
小柄だったエドナの衣装は、まるで示し合わせたかのようリッコにフィットしていた。しかし見入っていたのはそれだけではない。
かの変身を見たキトラは――純粋にリッコが美しく見えた。
見慣れぬ装いに驚いたのではない。窓から射す正午の淡い斜陽が、黒のワンピース姿のリッコをまるで光の中から切り取ったかのよう
眩(まばゆ)く映えさせていた。その様に――まるで、絵画でも見ているかのようキトラは見惚れたのだった。
「どう? 似合う?」
そうして、どこか冗談めかしたよう照れ笑いを浮かべるリッコの声にキトラは我に返る。 【 4−3 】
「う、うん―――」
そうして二・三度咳払いをして、思わぬ胸の高鳴りを抑えるキトラ。今日は我を忘れてばかりいる。
「ま、まぁ……似合うと思うよ」
「ホントっ? じゃあ、このカッコのままでいい?」
尋ねてくるリッコに今さら『NO』とは言えなくなってしまった。
女装少年などけっして常識の範疇ではないだろうに――こともあろうかキトラは、いつまでもリッコにはそのままの姿でいて欲しいと思った。
「い、いいよ。――でも、村の人とか、お客様とかが来る時には着替えるんだよ?」
「うん、わかった。うははー、やったー♪」
キトラの返事を受け、嬉しそうにその場でくるりと回ってみせるリッコ。
その瞬間、
「ッッ―――!?」
そこにキトラは、“さらに見てはいけないもの”を見つけて表情を引きつらせた。
キトラが見たもの、それは――
「ち、ちょっとリッコ! 君、なにを穿(は)いてるの!?」
「えー?」
それはワンピースの下に穿かれたペティコートの白いフリルであった。
ペティコート――それはスカートに広がりを持たせる為のアイテムであり、さらには耐寒対策と、そして人前で転んでしまった際にも素足が
見えてしまわぬよう考慮されて作られた“女性下着”の一部である。――無論のことながら、男の子が足を通すようなものではない。
「あ、コレ? あったから着てみたんだ。キレイでしょ? フリフリして♪」
「ッ!? わーッ、見せなくていい!!」
イタズラっぽく笑みながら、スカートをめくってそれを見せてくるリッコを急いでキトラは制する。……その一瞬のなかにおいて、そんな
ペティコートの下の下着もまた、女性物であったことをキトラは確認した。
ともあれ、
「おーし、コレで準備万端! オイラ、がんばるからねッ♪」
意欲も新たにキトラへと向き直るリッコ。
そんなメイドを前にしながら、
―――どうなるんだろ……これから?
細く長くため息をついて、主は先を案じるのだった。
ちゃんと読んでます
反応薄いのはここの特徴なので
気にせず頑張ってください
>>415
ありがとうございます! 頑張って続き行きます。
【 5−1 】
「ホコリっぽい!」――と鼻息も荒くリッコが最初にやりたいと申し出たのは、屋敷の掃除であった。
その申し出にキトラも素直に頷く。
思えばエドナが亡くなってからというもの、家事らしい家事など何ひとつしてはいなかった。否、『していない』というよりは、
『出来なかった』という方が正しい。
いかにしっかり者とはいえ、そこは貴族――使用人達がするような家事のノウハウなど、キトラは微塵として持ち合わせてはいなかった。
ゆえに、リッコの申し出は大変うれしいものだった。
とりあえずはキッチンの裏――庭の隅にある納屋から掃除道具一式を取り出してリッコに与えた。
「じゃ、お願いしたいけど――大丈夫?」
しきりに羽ボウキの生え際に見入っているリッコへとキトラは尋ねる。
「ん? あぁ、大丈夫だって。楽勝ラクショー!」
その問いかけに、そこから顔を上げて元気に応えるリッコ。
「この屋敷ぜーんぶピカピカにしてやるから、キトラはそこらで寝ててよ」
「う、うん。じゃあ、二階の書斎で仕事してるね。なんかあったら呼んでね」
「おう。まっかせといて♪」
満面の笑顔を返すリッコに一抹の不安を覚えながらも階段を上がっていくキトラ。
「………」
「大丈夫だって。そんな不安な顔しないでよ」
その途中、やっぱり不安になって振りかえるキトラに、これまたやっぱりリッコは笑顔をひとつ。
「ほ、本当にムチャしなくていいからねっ」
それだけ言って、ようやくキトラは二階の書斎に落ち着いた。
「本当に大丈夫かなぁ? なんか、取り返しのつかないことを僕はお願いしてしまったんじゃあ……」
しかしながら任せてしまった以上、いつまで悩んでいても詮方ない。
キトラもまた、自分には大きすぎる事務机の背もたれに座り、自分の仕事を始めていく。
キトラの仕事は、いつも書簡のチェックから始まる。 【 5−2 】
現在キトラが当主を務めるマクスウェル家は、父と母が亡くなった3年前にそのほとんどの事業から手を引いていた。当たり前の話、
その当時10歳の子供に大小合わせて100を越える企業の経営など出来るはずもなく、一部商品の著作権所有を除き、工場を始めと
する物件や株式は全て売却してしまっていた。
これによりキトラはすでに、一生を遊んでも使い切れないほどの財産を所有した。……こんなものなどいくらあったところで、大切な
人は一人として戻ってはこない――そう嫌悪感を持ちながらも、キトラはそれを現在の命の糧としていた。
ともあれしかし、そんな身分のキトラとはいえども仕事はある。
先にも述べた著作権の使用を許可する際には、その所持者であるキトラとの契約が必要となる。その為に必要な書類に目を通し、そして
それにサイン・捺印をすることが今のキトラの仕事であった。複雑な書類の作成は、あらかじめ雇いの弁護士や行政書士が作成してくれる
ので手間は無い。
その一方、連日届く書簡にはそんな仕事上のものではないものも多く混ざっている。
まだ13歳の少年とはいえ、先にも述べた通り莫大な財産を持つキトラの存在は、いまだ各業界や社交界においても絶大な影響力を持っていた。
そんなキトラと親交をもとうとする貴族・企業からの催事の誘い、はたまたその懐に潜り込んで一山当てようと企む山師にいたるまで、
キトラの元には連日多くの書簡が届いた。
それら手紙の一つ一つに目を通し返事を書くのもキトラの仕事のひとつである。――もっともそれらは、すべて丁重に断ることになるのだが。
そうして仕事に明け暮れるうち、いつしか部屋の中が薄暗くなっていることにキトラは気付いた。
「もう、そんな時間?」
驚いて机の上の時計を引き寄せると、金細工の短針はすでに夕刻5時を回っていた。
「はぁ〜、今日は色々あったからなぁ」
大きく背伸びをして背もたれに体を沈める。
「…………」
そうして見る見るうちに暗くなっていく部屋の中――そんな中でキトラの頭の内にもまた、僅かな“闇”が生じていた。それこそは、
一人ぼっちになってしまったあの夜からすっと引きずっているものであった。
夜になり、この大きな屋敷の中で一人闇に包まれると、キトラの中にある寂しさや恐怖といった負の感情はなおさらその影を深く大きくした。
この瞬間に何度、エドナを思い出して泣いたことか。何度、彼女の後を追おうかと思ったことか――逢魔刻(おうまがとき)にはそんな
闇がキトラの中で大きくなる。
しかし今日キトラの心を覆った闇は、いつものそれらではなかった。
その中にあったものは――
「………リッコ」
かの少年メイド・リッコの存在であった。 【 5−3 】
件の呪いのせいか、使用人達は次々とここを去り、家族は一人残らず天に召された――それは最後の家族であったエドナも然りだった。
故にキトラは不安になるのだ。
次にこの呪いの犠牲になるのは、リッコではないかと。
キトラの脳裏に夏の陽を手にかざしたかのよう、リッコの面影がまばゆく浮かんでは消える。
『メイドにきた』と言ったリッコ――
メイド衣装に袖を通したリッコ――
太陽のような笑顔を向けてくれたリッコ―――
『ずっと自分の傍にいてくれる』と言ってくれたリッコ――
それらリッコのイメージが忙(せわ)しなく脳裏に浮かんでは消え、そしてそれらが闇に飲まれると――
「ッ―――!」
まるで悪夢から覚めたかのよう、キトラは瞑っていた瞳を見開き息を飲んだ。
「ふぅ、ふぅ……」
額をぬぐう手の甲に脂汗がぬらりと張り付いた。鼓動も乱れている。
「……もう、失えない。失っちゃ、いけないんだ」
自分にそう言い聞かせ邪念を振り払うと、キトラは立ち上がり書斎を後にした。
そうして陰々鬱々とした気分で書斎を出たキトラであったが――ドアを開けすぐに、そんな思いは吹き飛んでしまった。
そこには、
「あ、明るい」
暗がりの書斎とは別世界のごとく、光に満ちた廊下の光景が広がっていた。
それは単に廊下の照明が灯されていたというだけ――しかしそれこそがまさに、キトラを心の闇を払う“光”となった。
まだ電気など、家庭には普及されていない時代である。今まで一人で過ごしてきたキトラにとって、夜にランプを手入れして照明を灯す
という作業自体、大変に難儀なものであった。
しかしそれが今夜は、見るも眩く屋敷は暖かい光に包まれている。
そんな、自分が手を煩わせることなく明かりが灯されるということ自体、久しぶりのことであった。そしてそんな暖かい光に包まれる感覚に、
キトラは大きな安堵感をおぼえていた。
「そっか、リッコがいたんだ」
同時にその存在を思い出して、キトラは足早に階段へと向かう。
そして二階から見下ろすそこにあったものは―― 【 5−4 】
そして二階から見下ろすそこにあったものは――
「あぁ……」
やはり久しく見ることの叶わなかった、光に満ちた夜のホールの姿であった。
淡い光の満ちるその空間をかみ締めるようキトラはゆっくりと階段を下りていく。
闇など微塵として見えることのないホール――薄皮のよう覆っていたホコリが拭き除かれた家具はその淡い光を受けていっそうに柔らかな表情を見せる。
そんな夜の当たり前の光景を前にキトラは感動していた。
「ここが――僕の家なんだ」
時間が戻ったような気がした。エドナがいた頃はいつだってこうだったのだ。
夜の闇に恐れることなく、当たり前のよう屋敷には光が満ちていた。そして仕事に疲れてここを下りてくる自分の足音に気付いてエドナが
階段の下から顔を出すのだ。
その瞬間――キトラの記憶と現実の像(ヴィジョン)とが解け合う。
思っていた通り、自分の足音に気付いて階段の下からメイドが顔を出した。
「ッ――――」
その登場にキトラは息を飲む。
そしてそれに『エドナ』――と叫びそうになったキトラの声を制するように響いたのは、
「あ。仕事終わったの? ごくろーさん♪」
エプロンで両手を拭いたリッコの声であった。
「あ……リッコ」
その声とそして笑顔に、キトラの内なる過去の残像は打ち消される。
「どうしたの?」
そして見上げてくるリッコに現在(いま)を確認し、―キトラは改めて自覚した。
―――もう僕は、一人じゃないんだね。
嬉しかった。
「ん? どうしたの? さっきからボーっとしちゃって」
「あ、あぁ――なんでもないッ。なんでもないよ」
「ふーん。変なの」
「ははは。そうだね」
そうして交わすリッコとの会話に、キトラは今日はじめての笑顔を見せた。 【 5−5 】
「今まで掃除しててくれてたの?」
「うん。キレイになったでしょ」
「うんうん。すごいよ、見違えったよ」
リッコの隣に並んで改めてホールを見渡すキトラ。その時――
「ん?」
ある物がキトラの目に入った。
それは階段の手摺(てすり) ――真鍮製のくぐもった装飾が味わい深かった代物であったがしかし……
「んん〜〜〜?」
そこには、元の渋い光沢など微塵も消えたキンピカの装飾がひとつ。
「あぁ。キレイになったでしょ、そこ。大変だったんだよ、薄汚れてるのがなかなか落ちなくってさ」
「あ、あ……こ、これ磨いちゃったの?」
「うんっ。クレンザーと金ダワシで完璧にやっといたよ♪」
胸をはって応えるリッコにキトラは言葉を失う。たしかに手摺(これ)はくぐもっていたのかもしれないが、それは元よりそのように造られての物であった。
「どうしたの?」
絶句――そしてさらにキトラは気付く。
それはふと視線を移した先の女神像のレリーフ。そこに描かれているブロンズ像の女神もまた――
「き、キンキンピッカピカ……」
「お、アレにも気付いたね。キレイになったでしょ♪ せっかくの女神様もすごく汚れてたよ」
「……その女神様も、磨いちゃったの?」
「うんっ。クレンザーと金ダワシで!」
褒められていると勘違いしているのであろう。そのひとつひとつに気付いていくキトラの沈んだ言葉とは比例して、リッコの声はどんどんエキサイトしていく。
そうして改めて見渡すホールの中は――そうしてしまって良い物悪い物を問わずして、残らず“キンピカ”に磨かれてしまっていた。
「…………」
その様子にキトラは首をガクリとうな垂らせる。 【 5−6 】
「どしたの、キトラ?」
その様子にリッコはキトラの顔を覗き込む。
そうしてリッコの見守る中、小刻みにキトラの両肩が震えた。
やがてそれはみるみる大きくなっていき、やがて明らかに分かるほど大きく上下した動きになったかと思うと次の瞬間――
「……、―――あはは、あはははははははッッ!!」
その顔を上げると同時に、キトラは笑い出していた。
「あはは、あははははは!」
「え? えぇ? どうしたの急に? そんなに嬉しかった?」
そんな突然の様子に驚くリッコをよそにキトラは笑い続ける。
この屋敷に巣食う闇は全て取り除かれていた。
汚れらしい汚れ、闇らしい闇は、リッコの手で残らずクレンザーと金ダワシで磨かれてしまったのだ。
それがおかしくて――今までそんな闇に恐怖していたことがたまらなくおかしくなってキトラは笑い続けた。
「おかしいよ、キトラ! ホントに大丈夫?」
ついにはその様子が心配になって声を掛けるリッコ。
そんなリッコを、
「う、うわッ? な、なんなの本当に!?」
振り向きざまに抱きしめて、踊るようクルクルと回りながら――さらにキトラは笑い続けるのだった。
【 6−1 】
【 6 】
食卓には、タラの魚料理と蒸したポテト、そして焼きたての小さなパンが盛られたバスケットが並べられていた。
「ごめんね、こんな料理しか出来なくて。材料が何にも無くってさ」
そうして席につくキトラの前へとリッコはスープを一皿置いた。
しかしキトラは、
「いや――嬉しいよ、すごく」
目の前で美味しそうな湯気を立てるそれらから視線を外せぬまま大きく頭(かぶり)を振った。
エドナが亡くなってから今日に至るまで、キトラはろくな食事をとってはいなかった。
食欲が無かったということも然ることながら、食事の支度などという行為は家事同様――否、キトラにとっては
それ以上に困難な作業であった。
故に今日まで食べてきたものといったら――台所に残っていたパンとオートミールの缶詰、そしてジャガイモを
皮のまま煮込んで塩で味付けしたスープ――といった、おおよそ料理とはいいがたい代物達であった。
「スープはいくらでもお代わりしてね。魚も足りなかったらオイラのあげるから」
そうしてキトラと自分と二人分の食事を用意して席につくリッコ。そんなリッコの相席に、
「リッコもここで食べるの?」
思わずキトラは尋ねていた。
「え? 当たり前じゃん。一人でゴハン食べたって美味しくないでしょ?」
その問いに当たり前のよう答えるリッコ。
無知ゆえにリッコは知らないのだ。
本来ならば、使用人とその主とが食事の席を供にするなど許されぬことである。かのエドナでさえ、キトラとは
食事を供にはしなかった。
故にキトラは、リッコが『一緒に食事をする』と言うことが理解出来なかったのだ。
「ん? どうしたの? 食欲無い?」
見つめてくるキトラの視線に首をかしげるリッコ。
「――えっ? あ、いや何でもないよ」
それに我に返り、激しく頭(こうべ)を振るキトラ。
「な、なんでもないよ。じゃあ、いただきまーす」
「変なの」
そうしてお祈りもそこそこにスプーンを取ると、キトラは一口目のスープを口元へ運んだ。 【 6−2 】
そしてそれを口に含み、
「ん―――」
キトラの動きが止まる。
「ま、マズイ?」
その様子にリッコも緊張した面持ちでキトラに尋ねる。
やがて口の中で転がしていたそれを飲み下し、見守るリッコに返ってきた答えは、
「おいしい――美味しいよ、リッコ!」
驚きと喜びに満ちたキトラの笑顔であった。
「ホントっ!? 良かったぁ〜。キトラって“貴族様”じゃん? もしかしたら口に合わないかなぁ、って心配したんだ」
「そんなことないよ。本当に美味しいよ、コレ」
安堵で胸をなでおろすリッコをよそに、キトラは我を忘れて食事を続ける。
ミルクをベースにジャガイモを裏ごして作られたスープは、舌に絡むそのとろみが薄味のスープを何倍にも濃厚な
味わいに仕立て上げている。
そして二品目の魚の塩蒸し――絶妙の調理時間で蒸し揚げられたその身は極上の鶏肉のよう柔らかで、噛み締める
たびに溢れる肉汁が、甘さ・辛さ・塩辛さとキトラの舌の上で幾通りも味の変化を楽しませる。
そして何よりも絶品だったのは、パンだった。
水分を飛ばして少し堅めに焼かれたパンは、噛むほどに口中に残っていた先の料理達の味を吸い、あたかもそれが
一品の料理であるかのよう重層な味わいを持たせた。さらにはそんなパンを間に食することで口の中の味覚が復活し、再度
口に含むスープ・魚の身は再びその味の感動を、キトラに繰り返させるのであった。
そんな食事をキトラは夢中になって食べた。
キトラとて、貴族として生まれ教育を受けた身である。これまでにも幾度となく外食や、また招かれた先でその家自慢の
コックが振舞う料理を口にしたことがある。
しかし今のリッコのスープには、それら美味ではずであった料理の記憶はどれもかすんでしまうほどに素晴らしかった。
――掛け値なしに、リッコの料理の腕は一流であると断言できた。
「ふう、すごいねリッコは。こんなにおいしいの初めてだったよ」
そうして食事を終え、まだ口の中に残る味の余韻に浸ったままキトラは改めてリッコの腕を褒めた。
「ありがとね♪ うち総菜屋じゃん? だからオイラ、料理くらいしか自慢できるものがないんだよね」
「料理なら間違いなくエドナよりも上手だよ。ううん。これなら、よその貴族の家に行っても通用するよ」
食後のお茶を運ぶリッコに、キトラも興奮冷めやらぬ様子で語る。
【 6−3 】
そんな主の賛辞に、
「どこにも行かないよ。だってオイラは、キトラのメイドだから」
どこか困ったような笑顔を見せてリッコは応えた。
「リッコ――」
その言葉を受け、キトラもまたリッコを見つめ直した。
「美味しいって言ってくれてありがとね♪ オイラ、キッチン片付けてくるよ」
そしてたっぷりお茶の入ったティーポットをキトラの傍らに置くと、リッコは食堂を出て行った。
「…………」
リッコが去り、キトラは再び静寂の中に残される。
光の満たされた屋敷と暖かい食事――そんな忘れていた日常の再生に、一時は心に巣食っていたあの闇も払われたかに思われた。
しかし――
「…………」
この静寂の中に身を置くキトラの心には、気付かぬうちに再び――あの闇がまたその鎌首をもたげていた。光あるところに
影が生まれるのと同じよう、リッコという光を受けたキトラの心の影に潜むあの“闇”の残滓はまた、密かにその心の侵食を始めていた。
―――僕は、リッコが好きだ。
そのことを改めて思う。
まだリッコがここへ来てから一日と経ってはいないが、それでも彼の存在はすでに、自分の中で大きな位置を占めている。
だからこそ、キトラは怖くなった。
―――マクスウェルの呪い……
キトラから次々と大事なものを奪っていったそれ――エドナがこの世を去った時、自分はこの呪いと心中しようと決めた。もう
これ以上誰かを巻き込むことなく、自分の人生を以ってこの呪いを終わりにしようと考えた。
しかし――キトラはリッコを迎え入れてしまった。
言葉では『ダメだ』と否定しても、それでも自分を慕ってくれるリッコが愛しくて、そして一人で過ごす時間が辛くて――結局
キトラはリッコを迎え入れてしまった。
しかしそれこそが、新たなる苦悩の始まりでもあったのだ。
リッコのことを想えば想うほど、それを失うかもしれないという恐怖もまたキトラの心(なか)で大きくなっていった。
「また……繰り返すのかッ!?」
ついにはその妄想に耐え切れなくなると、キトラは額を抑え席を立った。
そうして同じ食堂の中にある食器棚の前まで歩くと、その中に展示されるよう置かれていたブランデーのビンを一本、手に取った。
【 6−4 】
もたつく足で再び席に戻ると、それを今まで紅茶を飲んでいたカップに満たし―― 一気に煽った。
「くぅッ――げほっ、ごほごほっ!!」
喉を通る灼熱感と鼻を貫く刺激臭にキトラは激しくむせた。
エドナが亡くなってからというもの、キトラはこうして飲酒することがしばしばあった。
もちろんのことながら酒が飲めるような年頃ではなかったし、またそれが美味とも思えなかった。
しかしキトラは無理をしてでも飲んだ――すべては逃避の手段であった。
アルコールを飲むことで訪れる酩酊は、一時ではあるがキトラに一人の寂しさや、闇の恐怖を忘れさせてくれた。だからこの日も
キトラは酒を口にした。そうやって、心に巣食う闇を忘れようとした。
しかしながら――
「はぁ、はぁ、はぁ……」
その日の闇は、いくら飲んでも拭われることはなかった。
それどころか飲むほどに感覚は鋭くなり、心を浸食している“不安”それはさらに大きく感じられるようになっていった。
そうしてビンに半分以上のこっていたブランデーを飲み干すと、キトラは倒れるようにしてテーブルへと突っ伏した。
目の前の世界はゆがみ、まるで振り回されているかのよう視界が揺れ動く――急激に摂取されたアルコールは、正常な思考はもとより、
そこに自分が立っているのか座っているのかも判断できぬほどにキトラを酩酊させていた。
そんな混沌とした状態の中にあっても、
「こわい……いやだ、リッコ……リッコ!」
リッコを失うやも知れぬ“不安”――その闇はキトラを捉えて離さなかった。
「う………リッコぉ……」
そこから伸ばした手の平は空きビンを倒し、テーブルクロスを握り締める。
「ッ……助けてぇ………助けて……!」
そんな不安にさらされ続ける苦痛と恐怖――そこからの救いを求めるその声、その想いがキトラに残ったこの日最後の記憶であった。
【 7−1 】
一通り洗い終わった食器を磨きながら、元の位置へと戻していく――そんな作業を心なしのんびりと続けながら、リッコは今日一日を
振り返っていた。
我ながら無茶をしたものだ、と思い直して苦笑いをひとつ。
何があろうともキトラと生涯を供にする――確固たるその信念が揺らがぬよう今日の自分は、必要以上に己を奮い立たせながら行動していた。
今身を包んでいるこのメイド衣装だってそうだ。
キトラに仕えるからといって何も女装までする必要はなかったのだ。それでもリッコは半ば強引にそれを通した。
キトラから発せられる言葉や仕草のひとつひとつにはまだ、エドナの影を深く引きずっている様子が見て取れた。故人を偲ぶ気持ちは
大切ではあるが、それに捕らわれ過ぎて今の“生”をおごそかにしてしまっては、キトラでさえも“死んでしまっている”のと変わらない。
そんなキトラからエドナの亡霊を取り払うため、そして彼を蘇らせるためにも、リッコはこの衣装に袖を通したのだった。
そんなことを考えていた矢先――
「ん? キトラぁ?」
背後の、台所の入り口に現れたであろう何者かの気配にリッコは振り返ることなくキトラの名前を呼んだ。
「………」
それに応えることなく近づいてくる気配。
「お茶のお代わり? じゃあ、ちょっと待って。今、お湯を沸かすからさ」
以前作業を続けながら言葉をかけるリッコ。
「よしっ、おしまい。じゃあ、お湯を――」
そして作業に一段落をつけ、背後のキトラへと振り返ろうとしたその瞬間――
「………リッコ」
「えッ――!?」
リッコはその背後から、キトラに抱きしめられていた。
さらには背に顔をうずめているのであろう、その体を密着させる感触に、
「わ、わッ? な、なに!? どうしたの、キトラぁ!?」
「…………」
悪い気分ではないものの、突然のそれにひどくうろたえるリッコ。
「もー。悪ふざけしないでよー、キトラー?」
しかし、
「――キトラ?」
そこからぷっつりと動きが止まってしまったキトラの様子に、やがてはリッコも気付く。 「………う……うぅ………ッ」
小刻みに震える体と、そして顔を押し付けている背中がじんわりと熱く湿ってくる様子に、
「な、なに? キトラ、泣いてるのッ!?」
ようやくリッコはキトラの異常に気付いた。
すでに抱きついてきた時ほどの力は込められていないその腕の中、リッコは体を回してキトラへと向き直る。
そこには、
「う――ぐす……リッコぉ……」
嗚咽に鼻先をひくつかせながら、目頭を真っ赤に泣き濡らしたキトラの姿があった。
―――あぁ……
そんなキトラの姿に、リッコの胸の中で湿った鼓動が大きくひとつ鳴った。
またこの顔を見てしまった――そんな思いが同時に浮き上がっていた。それは、あの日リッコの心を惑わせた姿、そして二度とそうは
させないと誓ったはずのその姿――泣き暮れるキトラの顔がそこにはあった。
そんな大好きな人の姿に、リッコの瞳にも涙が込み上げる。しかし、
「ど、どうしたの。キトラ?」
大きくひとつ鼻をすすってそれをこらえると、リッコは優しく語りかけながらキトラの額を撫でた。
「う、ぐす……っ」
「ん? どうしたの?」
「――リッコ」
ようやく呼吸を整え、キトラは搾り出すようその名をつむぐ。
そしてそのあとに次いで出されたものは――
「リッコ、今すぐ出て行って。ここから、早く……!」
別れの言葉であった。
「えッ? キト――……」
「もう、いやなんだ!」
叫び――リッコの胸に顔を埋めると、再びキトラの体は小刻みに震え出した。
「お父さんもお母さんも、パナも、エドナも……みんなッ、みんなこの家の呪いで死んでいった! 僕の好きになった人達は、みんな居なくなった……!」
「キトラ」
「僕は、リッコが好きだ! 大好きだ! だから、もう耐えられないんだよ!! ……………助けて! もう、嫌だ。一人になるのも、
リッコが居なくなるのも――もう、いやだぁ!!」
「…………」
再び号泣(こえ)を上げるキトラを抱きしめて、リッコは天を仰いだ。 そして、
「なくならないよ」
今度は、リッコの言葉がキトラをさとした。
「………?」
「なくならない」
見上げてくるキトラのおでこに、リッコも自分の額を合わせる。
「オイラのこと、好きだって言ってくれてありがとね。オイラも大好きだよ、キトラのこと。だからこそ――オイラは、ここを出て行かない。
キトラから離れない」
「リッコ……」
「オイラも言ったよね、キトラにはもう『悲しい思いなんかさせたくない』――って。その気持ちは、“呪い”なんて有るのか無いのか分からない
ものに負けちゃうような、弱い気持ちじゃない」
「…………」
「二人で生きていこうよ。――オイラ一生懸命キトラを守るからさ、オイラが呪いにやられそうになった時は、キトラがオイラを守ってよ」
「僕が、守るの?」
「そうだよ。そうやって、生きていこう? 楽しい時には二人で倍に楽しく、悲しい時や苦しい時には二人でそれを半分こしながら生きていこうよ。そして――」
「…………」
「いつか“呪い”なんて、笑い話にしちゃお。最高のジョークにさ」
「……―――リッコぉ」
再びその目頭に浮き上がってくる涙の露を拭うよう――リッコはキトラの眉間そこへと優しいキスをした。
そして唇が離れ、戸惑うように見上げてくるキトラに、
「だから笑って。ね、ご主人様」
リッコもまた、涙の浮かぶ笑顔を見せた。
「リッコ………リッコ、リッコぉ」
それを受けてキトラもまた笑顔を返す。
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら笑った。
抱き合って支えあって、二人はいつまでも笑っていた。
そうして流す涙の中には、そうして笑うキトラの心(なか)には――もはや“闇の残滓”など、微塵も残されてはいなかった。
春風のように優しい風が、在りし日の温かい家族の思い出とともにその心を吹き抜けていた。 【 8−1 】
「オイラはずっとキトラと一緒に居る。だからキトラも――オイラを“自分の物”にする証を見せてよ」
腕の中のキトラをまっすぐに立たせると、改めてリッコはキトラを見上げた。
「どうすれば、いいの?」
それを尋ねてくるキトラに、
「んんッ……――?」
リッコはつま先立ちして、触れる程度の口付けを交わした。
互いの唇が離れてから、戸惑うよう見返してくるキトラに対し、
「今度はキトラからして。――まずは、それから」
リッコも上目遣いにおねだりの視線を返す。
「……リッコ」
「あ、んん――ッ」
そうして言われる通り、その腰を抱き寄せると――今しがたリッコがしたよう、キトラもその唇を奪った。
短く口付けしてそれが離れると、また間髪いれずしてキトラはリッコの唇をふさぐ。
今度は今までのような浅いものではなく、合わせた上唇をくわえ込むより深いテーゼ――そんな抱擁を交わし、二人は再び見詰め合った。
「――なんか、不思議だよ」
「なにが?」
すっかり落ち着きを取り戻したキトラの言葉にリッコは耳を傾ける。
「リッコとキスしたら、怖いのが全然なくなっちゃった」
「オイラもだよ、キトラ。――これからは、くじけそうになった時にはこうしてキスしようよ。たぶん二人で生きるってことはこういう
ことなんだと思う」
語りながら、リッコは背にしていたテーブルにキトラを腰掛けさせる。そしてその前へ跪(ひざまず)くと、
「じゃあ、次ね」
「わ、わわっ。り、リッコ?」
スラックスの留め金を外し、それを下ろす。突然のリッコの行動に下着姿になってしまったキトラも慌てて問い質す。
「な、なにするのッ?」
「準備するの。キトラはこういうの何にも知らないの?」
「う、うん……本当に、何をするの? なんか怖いよ」
これから二人の間で交わされるであろうことをキトラは予想すら出来ない。 【 8−2 】
リッコもそうであるが、本来“性”への知識・理解というものは父母の在り方を観察することや、はたまた異性の友人――キトラのような
貴族などは使用人へ興味を持つことによって学び培われていくものである。しかしながら、そんな周囲との関係を早くにしてなくしてしまった
キトラには、当然のごとくそれに関する知識を学ぶことは叶わず――ゆえに今、キトラはリッコに全てを委ねるばかりだった。
「大丈夫だよ、オイラに任せて」
そんなキトラの少し怯えた表情がたまらなく愛しくて、リッコの胸(なか)の鼓動はどんどん強く大きくなっていく。
そしてキトラの下着に手をかけそれを下ろすと、
「えへへ、こんちわ♪」
現れたキトラの陰茎にリッコはそっと手を添えた。
揃えた人差し指と中指そして親指の三本でつまみ、上下に刺激を与える。そのリッコの指の動きに、ピクリと尿道にも痙攣が走る。
「あ、あぁ……な、なに? なにしてるのっ?」
そんなリッコの未知の動きにキトラの混乱も極みに達する。
「大きくしてるんだよ。キトラって自分で触ったこととかないの?」
「な、ないよぉ。トイレとか洗う時くらいしか触んないもん……んああ!」
時おり茎に走るひくつく感覚に、キトラも頭をのけぞらせて反応する。
どんどん血流が高まり、鎌首をもたげていた陰茎は堅く大きく怒張して立ち上がる。そして完全に勃起すると、充血した亀頭を包皮の中から
リッコの前へ露出させた。
「うわぁ……すっごい。キトラ、もう大人なんだね」
溢れるカウパー液にきらめいて、珠のような艶を見せるその先端にリッコは食い入るように見入る。
「へ……? 大きくなったの?」
一方、当の本人であるキトラもまた己のその体の変化に見入る。
「そうだよ、大きくなったよ。これでもう出来るよ」
「『出来る』? チンチンなんかで、何をするの?」
「えへへ。今に分かるよ♪」
本当に何も知らず、ただ尋ねてくるばかりのキトラにリッコはイタズラっぽい笑みを返す。
「じゃ、始めるね」
そうして三本指から、手の平全体で握り締めよう茎を持ちかえながら――いよいよ上下にしごく運動を強くしていく。
「えッ!? んあッ!」
その動きにキトラも声をあげた。
同時に茎にも一瞬痙攣が走る。意識とは別に、反射的に体が反応する。 【 8−3 】
感覚の変化はそれだけに留まらない。リッコの指の節々が包皮越しに亀頭の広がりを刺激するたび、脳(あたま)には電流が一筋流れるような、
そして体には肛門の奥が締まる感覚が繰り返す。
「ま、まって……止めて、リッコ。お尻がビクビクするッ」
突然のその感覚に戸惑い、キトラは行為の中止を訴える。
しかし、
「だめ」
以前その手の動きを続けたまま、リッコはキトラを見上げた。
「初めてだから戸惑うかもしれないけど、これって“気持ちいい”ことなんだよ?」
「んッ……こ、これが?」
「そう♪ お尻の穴に力入れて、チンコを堅くしてみて。もっと気持ちよくなるから」
「…………」
「ホントだよ。怖くないから――ね?」
言われる通り、恐るおそるキトラはお腹に力を込める。その瞬間――
「ッッ――!! んあああぁぁ!!」
茎の背に走る快感にキトラは喘(こえ)をあげた。
力を込め、その硬度を増すことによって得られる感覚――コリコリと茎の背を刺激する指の感触・温度は、ただ受身にリッコの奉仕を受けていた
時とは比べものにならない快感をキトラに伝えた。
「んあ、んあッ、んんんッ!!」
ついにはその感覚に耐えられなくなり、キトラは腰砕けて掛けていたテーブルの上に体を投げ出した。
「んふふ。どう? すごいでしょ♪」
「はぁ、はぁ……」
テーブルの上で仰向けになったまますっかり体の力の抜けてしまっているキトラを見下ろし、リッコも鹿爪らしく口元へ笑みを浮かべる。
「でもね、これからもっとすごくなるよ」
「……もっと、すごく?」
「うんッ♪ キトラも、もっと気持ちよくなりたいでしょ?」
「………」
見下ろしながらに尋ねてくるリッコの視線が恥ずかしくなって、キトラはそれから逃げるよう顔を横に向けた。
しかしそれは、リッコの言葉に対する否定ではない。その証拠に、『もっと気持ちよく』の言葉に反応してしまったキトラのその陰茎は、まるで
返事でも返すかのようその一瞬、大きくひとつ痙攣をした。 【 8−4 】
「あは♪ エッチだね、キトラは」
「そッ、そんなこと……」
「そう? だってチンコはちゃんと“返事”してくれたよ? ビクンってうなづいたでしょ?」
「ッッ〜〜〜〜〜〜」
思わぬリッコの言葉の責めにこれ以上に無いくらい赤くなったキトラの表情にはきつく閉じた瞳に涙が浮かぶ。
そこにあるものは羞恥心と期待感――あられもない自分の姿に対する恥ずかしさと同時、また今日憶えたばかりの“快楽”への、さらなる求心の念もあった。
そんなキトラの想いを察し、
「いいよ。――キトラが満足するまで、気持ちよくしてあげる」
リッコもテーブルの上に体を乗り上げさせ、キトラに迫る。
「オイラでいっぱい気持ちよくなってね」
そして改めてキトラの陰茎を手に頬をすり寄せたかと思うと次の瞬間――
「あー……んッ」
「あ、あぁぁ……!?」
その小さな唇を開いたかと思うと、リッコは何の迷いもなく、キトラの陰茎は咥えてみせた。
手の平とは違った温度とそして吸い付いてくる頬の粘膜の感触にその瞬間、キトラは己の体に何が起こっているのか判断できなくなった。
そうしてようやく震える体で首だけを起こし、
「た……食べちゃったのぉ、チンチン?」
かろうじてリッコの行為を確認した。
そんなキトラの問いに依然それを咥えたまま、上目使いに視線を返すリッコ――そんな仕草がなおさらキトラの胸の高鳴りを熱く大きくさせる。
やがて唇を吸い付けたまま、卑猥な水音を立てるようにして亀頭の先端を口中から抜き出すと、
「うん、食べちゃうよ♪ キトラももっとモグモグされたいでしょ?」
快感が途切れぬよう唾液で湿らせた茎をしごきながら、リッコは艶めかしい笑みを返す。
「う、うん。もっとしてほしい……もっとして、リッコ」
そして、そんなリッコの言葉に大きくうなづくキトラ。
「えへへ。はぁい、ご主人様♪」
そんな主人の命令にどこか嬉しげにうなづくリッコ。
そうしてリッコの唇は再び――
「んッ――、あぁ……!」
キトラの亀頭の先端に吸い付き、再度口中へとその全体を沈めた。 唾液いっぱいに満たした口中で、口をゆすぐかのよう頬を動かしながら亀頭全体を舌で転がす。そしてその動きに快感の波が復活し、僅かにキトラの
陰茎全体が震えてくるのを察知すると――リッコは小さなあごを上下させ、唇と口中全体でしごく動きを始めた。
「んんッ? あ、な、なにコレ……ッ!」
茎を通じて来るその新しい感触にキトラの腰も震える。
台風のよう矢継ぎ早に体を突き抜けていく快感には新たな波が生まれていた。臍の奥にある何かがきつく締まるかのような感覚と供に激しい尿意が
感じられたのだ。
「あ……だ、だめっ。やめて、リッコ」
突然のそれにキトラは行為の中止を訴える。
「んむ? ほーひはお?」
それに対し、依然キトラのものを咥えたまま尋ねてくるリッコ。
「あ、あのね……おしっこしたくなっちゃった。ごめんね、放して。もう漏れそう」
なぜこんな時にと思いながらも、キトラは己の体に起きている変調を説明する。
しかし――
「んふふ〜♪」
それを聞くリッコの顔が笑った。そして次の瞬間、
「え? う、うわあぁぁ……!?」
リッコは再びかの行為を開始した。
突然始まったそれに、再びその“尿意”をうながされ声をあげるキトラ。
「あ、あぁッ、だめ……やめて! ホントに出ちゃうよぉ……!」
「ん、んむ――ん、ん……」
上体を起こし伸ばされたキトラの右手がリッコの髪に触れる。しかしそれでもリッコがその行為を止めることはなかった。――否、それどころか
先ほど以上に集中して頬と舌の動きを激しくする。
「あ、だめ……ッ」
やがて――その時は来た。
抑えていた尿意は意思を越え、その限界にキトラは下唇をかみ締める。
そして、
「ば、ばかぁ……知らないから! おくちの中に、おしっこしちゃうからね!」
最後の理性とともに、体の中で押さえつけていた何かが途切れると同時――
「ん―――ああぁぁぁぁぁぁッッ!!」
「んむむッ……――――」
キトラはリッコの口中へ射精した。 初めて己の体から精が放出されるその感覚を最初、キトラは快感には感じられなかった。臍の奥に溜まっていた何かが、尿道を通して長く抜き取られる
ような錯覚を覚えた。――しかしそれも最初のこと、蟻の門渡りが激しく痙攣して第二・第三波と精液を送り出す頃にはすっかり、キトラは射精の快感に
忘我の境へと達していた。
「あ、あぁッ……、はぁぁ……――――」
視点の定まらない瞳の向こうには、自分の陰茎を根元までくわえ込んだリッコの姿が見て取れた。
瞳を伏せ、どこか恍惚とした表情で緩やかに送られてくるキトラの精を受け止めているリッコ――射精前と比べて動きは少なくなったものの、それでも
頬をすぼめたりふくらませたりして繰り返される動きは、尿道に残った最後の一滴までを吸い出してくれているようであった。
「あ、リッコぉ……」
そして、リッコの喉が自分の精液を飲み込んで小さく上下する姿に――キトラの意識はまたも遠くなる。快楽に意識が朦朧としているのではなく、今の
忘我はあるひとつの明確な“欲望”に根ざしたものであった。
それこそは、
「リッコ……可愛いよ、リッコぉ……」
目の前にいるリッコを想う、その“想い”――それこそは愛しいリッコに対しキトラが初めて抱いた、“欲情”それであった。
「ん、んく――ッぷは。えへへ、いっぱい出たね」
やがてはキトラの陰茎から口を離し、口中に残っていたものを全て飲みほして微笑むリッコ。
「どう、キトラ? 気持ちよかった?」
そして得意げに微笑んでくるリッコへと、
「――リッコ」
その頬へとキトラは手の平を添える。頬に触れる指先で、愛しげにリッコの髪に触れてくるキトラには、先ほどまでの“快楽に戸惑っていたキトラ”は
微塵も感じられなかった。
「き、キトラ?」
そんな主の変化に戸惑うリッコ。しかしそれを問う間もなく、
「ん、んうッ?」
キトラはリッコの唇を奪っていた。
すぼめた唇で上唇を強く吸い、口中に侵入させた舌先は味わうかのようリッコの舌を舐(ねぶ)り取る――まるで今までリッコがしていたかのよう、キトラの
舌先はリッコの唇を弄んだ。
そうして煌く唾液の糸を残して離れる二人の唇――
『…………』
見つめ合う二人――もはや怯えた表情など微塵も消えたキトラと、思わぬその視線を受けて、どこか恐縮してしまうリッコ。
やがてそんなリッコの頬に手を添えると、再びキトラはその唇をふさいだ。
リッコの肌触りを、体温を、そしてその想いを――それら全てを確かめるかのよう、二人の口付けは深く優しく交わされるのだった。 冒頭でエロなし宣言してますよね?
無駄に長いと思いながらも性的描写がないと思って読んでいました。
すぐに読むのをやめましたが、すごく気分が悪くなりました。
どういうことですか?ルール違反じゃないですか?
途中、注意書きもナシ…
最低の書き手さんですね もしも、キスができるなら。したい。
目の前の奴とモウレツにキスがしたい。
だけど今は学校で理科の時間でアルコールランプを使った実験をしている。
そんな中すると、確実に変な人だ。だからしない。
だからできない。ああ、キスがしたい。
おれはものすごく。キスがしたい。
大好きだよ、男なんて関係なくおれは、お前を愛してる。
…もし、誰かに心読まれたらやばいな。
……わっ!こっち見た!つか、見られた!
「どしたの?」
はっ…初めて…初めて話かけられた…。
うわあ…どうしよう、何言えば…ああ、どうしよう…時間が過ぎてく…。
「もうっ。お前はほんっとーに無口だね」
くすっと微笑みかけてくれた。もう、死んでもいい!
「ほら、またそんなムスッとした顔してえ…」
ちっ…違うんだ…はっ恥ずかしくてどうゆう顔をしていいか分からないんだあ…
「でも、そうゆうオトナっぽいとこ…いいよね?ね?」
きゅん。誉められた…初めて誉められた…死にそう……。
「ああ、お前ホントオトナだよー」
「うんうん、いっくんってほんとオトナっぽーい。しぶいー」
いやいやいやいや。違うんです。子供なんです。全然全然子供なんだよお。
いつも、幼稚なことばっか考えてるんだよ…。
「わっ!!焦げてる!!いっくん!!」
わあ!!どぅっどぅっどうしよう!…どぅーしよう!!
「…たっくこうゆうことは鈍いんだから…」
怒られたけど、笑いかけてくれた。火あぶりの刑になっても…いい!
「わっ!お前!!ばかっ!!手!手ぇーっ!!!」
ん?……あ…あ、あっちいいいいいい!!!!!!!! >>434
スイマセン。「エロ無し」なのではなく、「エロが少ない・描写が薄い」と言う意味で『エロくない』と言ったつもりだったのです。
【 9−1 】
大好きなその温もりに触れ、懐かしいその匂いに包まれたその瞬間――リッコの心(なか)に、ひとつの“記憶”が目覚めた。
それは、
―――あれ……なんだろ、コレ?
それは遠い過去の、子供の頃の記憶――生まれて初めてキトラと出会った時の記憶――。
10年前のあの日―――温室の中で物憂げな横顔に春の日差しを受けて立つキトラは、今まで見たどんな朝陽や夕陽よりも綺麗だった。
―――そうだ、オイラあの時……
忘却の彼方にあった記憶のカケラ達は、徐々にリッコの中でその形を取り戻していく。その記憶の中で、キトラはリッコに気付き、
こちらへと振り向く。
『きみは、だれ?』
キトラはそう言った。
『オイラは、リッコ。おまえは?』
リッコはそう答えた。
『ぼくはキトラ』
『キトラ? “おんな”なのにそんな“おとこ”みたいな名前なの?』
『ぼくは、おとこのこだよ。“おとこのこ”のキトラ』
『そんなにキレイなのに? もっと顔をみてもいい?』
『いいよ』
『――やっぱり、おんなみたいだ』
『どうしたの?』
『……キトラがおんななら良かったのに』
『どうして?』
『だっておんななら、オイラがおよめさんにもらえるから』
『あはは、へんなの。ぼくをおよめさんにするの?』
『だって――だってキトラ、キレイなんだもん』 【 9−2 】
『リッコもかわいいよ』
『……ねぇ、キトラ。じゃあ、オイラがキトラのおよめさんになるのはダメ?』
『えー? リッコがぼくのおよめさんになるの?』
『そうだよッ。オイラがキトラのおよめさんになるんだ! だってキトラ、オイラのこともカワイイっていってくれたじゃん』
『そういえば、そうだね』
『……ダメ?』
『うーん。じゃあ、最初はぼくの“ともだち”になって。ぼく、ずっとひとりでさみしかったんだ』
『うんッ、なる! ともだちになるよッ、ともだちになろう!』
『ありがと♪ じゃあ、今日からともだちだね』
『うん、ともだちだよ。でも……いつかキトラのおよめさんにしてね』
『うん、いいよ。おとなになったらけっこんしようね。ずっとふたりでいようね』
『やくそだよ、キトラ』
『うん。やくそくだよ、リッコ』―――
記憶の中のリッコはそう言ってキトラへと小さな手を伸ばした。そしてキトラは、少しはにかみながらその手を取ったのだ。
二人でいることが当たり前すぎていたが故に無くしてしまっていたその記憶――今のリッコの原風景は、生まれて初めて出会った
この時の風景に基因していたのだ。
「どうしたの、リッコ?」
そして、やはりあの日と変わらぬ優しさで語りかけてくれるキトラ――その腕の中、リッコの瞳からは知らずのうちに涙が溢れていた。
「あ、あのねオイラ――」
そうして、おそらくはキトラもまた忘れているであろう、その記憶のことをリッコは告げようとする。あの日の約束の答えを訊ねようと
する。――しかし、
「あ、いや、その……」
喉元まで出かけていたそれを――リッコは飲み込んだ。
「どうしたの?」
「う、うん……」
なおもそのことを尋ねてくるキトラにリッコも言葉を濁す。
あの時には“分からない”ことであった。しかし今となっては“分かっている”こと――分かりすぎていること。それこそは、自分と
キトラが『結ばれぬ』という事実それであった。 【 9−3 】
もしあの日の出来事をキトラに話したならば、そしてその答えを訊ねたならば――それはキトラを苦しめることになる。
それだけは、してはいけない。
今の自分が望むものは、ただひとつ“キトラの幸せ”それだけなのだ。だからそこに“あの日の答え”など必要はない―――そこに
“自分の幸せ”など、必要はないのだ。
「何か言いたいことがあるんじゃなかったの?」
そうして再度訊ねてくるキトラに、
「う、うん――そうだよ」
リッコも精一杯の笑顔を作りながらうなづく。
「あのね、キトラ――オイラにもして欲しいな、って言おうとしたの」
「僕に『して欲しいこと』?」
「うん、そう♪ さっきオイラがしたみたいに……キトラにもしてもらいたいんだ」
言いながらリッコはスカートの裾を持ち上げ、その下のペティコートとショーツを露わにさせた。
そんなリッコの姿に、落ち着いたはずのキトラの耳に再び血液がのぼる。
「い、いいの? さわっても?」
そうしておずおずと訊ねてくるキトラに、
「いいよ。キトラの好きにして♪」
うなづきながら応えて、今度はリッコがテーブルの上に腰掛け――キトラを前に、再びスカートの裾を捲り上げた。
目の前に広げられたそれにキトラも生唾を飲み下す。
小柄ながら肉付きの良いお尻と白く伸びた両足――そしてその元にある女性用の面積の少ない下着(ショーツ)からは、勃起したリッコの
皮被りな陰茎がその頭をのぞかせていた。
「さ、触るよ?」
「うん。……やさしくしてね」
訊ねてくるキトラにうなづくと、彼に見えないよう目頭の涙を拭った。
これでいい――リッコはそう思うことにした。
自分はキトラの“メイド”としてここに住むことが出来て、そしてキトラを慰め、触れてもらうことも出来るのだから――これでいい、
とリッコは思った。
やがてはそんな淡い想いを打ち消すかのよう、体には今までに感じたこともないような刺激が走った。
キトラの手が――触れた。
透けるよう白く繊細なキトラの指先が茎の先端に触れたその瞬間、リッコの体は大きく跳ね上がった。 【 9−4 】
「んッッ――、あぁ!」
一拍子遅れて声が漏れる。
その一瞬何が起こったのか分からなかった。特別なことなどキトラ何もしてはいない。ただ “キトラに触れられただけ”で、リッコは
まるで未知の快感を体験したかのごとき衝撃を受けていた。
「だ、大丈夫?」
そんなリッコの様子に、キトラも心配そうに訊ねる。
「あ……う、うん。平気だよ。ちょっとビックリしちゃった」
すぐに我に返ると、リッコも恥ずかしげに笑みを返す。
「ホントに平気? 続けてもいいの?」
「うん、へーきへーき。だからもっとして」
「そ、それならいいけど――もし、痛くしちゃったらゴメンね。僕、こういうの全然分からなくて……」
「気にしなくていいよ、キトラ。オイラを好きにして。――キトラのくれる痛みなら、オイラいくらでも耐えられるから」
「……リッコ」
けなげに微笑んでくるリッコの表情に、キトラにはまたもあの、胸の奥の何かが締め付けられる感覚が戻っていた。
「僕も――リッコを気持ちよくさせるね」
「キトラ……んん―――」
呟くよう言って、もう一度ふたりは口付けを交わす。そうして互いの唇が離れると――キトラはその口元を、リッコのショーツの前へと運ぶ。
「あ……」
小さくその茎の先端にキスをすると、キトラはショーツを取る。
そうして改めて露わになったリッコの茎全身を見下ろすと、
「あぁ……可愛いよ、リッコ」
その先端へ再び、キトラは口付けをした。
それからその茎全体をまんべんなく舐り濡らしていくと、リッコがしたようにキトラもまた、その茎を咥えてみせた。
「うあ……あったかぁい」
その舌の感触、頬の中の温度にリッコもその背を震わせる。
そしてぎこちなく頬を上下させ、さらに茎を刺激してくるキトラの動きに、リッコの意識はゆるやかに理性の箍(たが)から乖離し始める。
今のリッコの心を捉えているものは“性行為”から生ずる興奮それだけではない。キトラが自分に奉仕をしてくれているという現実もまた、
リッコの胸を昂(たか)ぶらせた。
「はぁ、はぁ……キトラぁ……」
すぐ目の前で一生懸命に自分の性器を頬張るキトラの姿に、耳の中で響くこめかみの血管の音は、さらに大きく脈打つ鼓動を早くさせる。 【 9−5 】
―――もっといろんなことさせたい……もっと、オイラのことを知ってもらい……。
そしてその情欲が極みに達し、完全にリッコの理性が飛んだ次の瞬間――
「ねぇ、キトラ。お尻も舐めて……」
「え?」
リッコはそんな行為(おねだり)をキトラへと要求していた。
「お尻を、舐めて欲しいの?」
「うん、ほしい。オイラのお尻の穴を舐めて欲しいの……」
そうしてそのおねだりに、いったん茎から口を離す。見下ろす先には――尿道から溢れて伝ったカウパー液に濡れすぼまった肛門が、
震える仔犬の鼻ようその入り口をひくつかせていた。
上気してうっすらとピンクに染まりあがったそれがひくつく姿に、キトラの胸の中にある情欲(きもち)もまた、大きく昂ぶる。
今までの“してもらいたい”という受身の気持ちではなく、目の前にいるリッコを“どうにかしてやりたい”という、生まれて初めて他者に
持つ嗜虐的(サディスティック)な気持ちが今、キトラの胸中には渦巻いていた。
「やっぱりダメ? ……汚いよね」
そうしてそれに見入っていたキトラへと掛けられるリッコの声に、
「――そ、そんなことない!」
我に返り、キトラは声を大きくして応える。
「リッコに汚いところなんてないよッ。――ただ」
「ただ?」
「もしかしたら、僕は君にいじわるをしちゃうかもしれない。……傷つけちゃうかもしれない」
「………」
「それでも――リッコはいいの?」
返事(こた)えながら訊ねながら、キトラは自分のことを卑怯だと思った。
自分とリッコの関係は“主人と使用人”――その“使用人”であるリッコが、“主人”であるキトラを否定する言動など返せようはずもないのだ。
―――僕は、最低だ……。
そう思ったからこそ、キトラは己を“卑怯”だと思った。
しかしそれでも――
―――それでも僕は、君が欲しいんだ……リッコ!
そんな想いを込めて見つめるなか――やがて静かにリッコは頷いた。 【 9−6 】
「いいよ、好きにして。傷つけられても、いい」
「リッコ……僕は、君の主人として“命令”しているんじゃないよ? ……嫌なら、断ったっていいんだ」
「キトラは、オイラのこと好き?」
「え?」
突然、問い訊ねられキトラも混乱する。
「オイラはキトラのこと好きだよ」
そんな主人にはお構いなしに話を続けるリッコ。
「さっきも言ったよね。――『キトラのくれる痛みなら、オイラいくらでも耐えられる』って」
「う、うん」
「それはね、キトラのことが好きだからなんだよ? だからキトラが与えてくれるものなら、“痛み”だって嬉しい。だって――」
完全に両足をテーブルの上に乗り上げさせると、リッコは両膝をM字に曲げて体を開いた。
「大好きなキトラが――オイラに与えてくれるものだから」
「……リッコぉ」
そうして涙に潤んだ瞳で微笑んでくるリッコの表情に、言葉に、想いに――キトラは自分の心(なか)の何かが“切れる”音を聞いた。
そして心のそれに繋がれていた体はその解放に伴い、ついには――
「リッコ――好きだっ、大好きだ!!」
「あ、あぁ……キトラッ!」
キトラに情欲(ほんのう)のままリッコを抱きしめ、そして押し倒していた。
【 10−1 】
肛門全体に強く唇を吸い付け、それを引き抜くと――目の前にはその淵をぷっくりと盛り上がらせるようにして直腸の内壁が露わになった。
「リッコ……リッコぉ……ッ」
間髪いれずキトラはそれに舌を這わせる。
盛り上がったその隆起のひとつひとつを丁寧に舐(ねぶ)り、さらにはその中へと舌先を埋没させていく。
「んッ、あぁぁ……ッ、キト、ラ……!」
今まで体感することの無かった未知の感覚に――想い人であったキトラによってもたらされるその感覚に、リッコの頭の中も白くなる。
キトラを受け入れることの喜びに震える体は、堅くなった舌全体が容易に行き来できるほどに肛門を緩く柔らかくしていた。
「んむ、んむ……――ぷは」
存分にその入り口を濡らすと、キトラはいったん舌を抜く。
「ん……んあ? やだぁ。やめちゃ、やだぁ」
そうして突然の行為の中断におねだりをしてくるリッコにキトラも微笑む。
「大丈夫。まだ終わらないよ」
呟くよう応えながら、キトラは自分の人差し指をくわえた。リッコにしたよう立てた人差し指をしゃぶり、唾液にたっぷりと浸からせる。
そしてその指先を震える肛門の淵に押し当てると――
「ゆび、いれるよ」
「え? ――んああぁッ!!」
次の瞬間、キトラはその根元まであてがっていた人差し指を埋没させた。
「んぅ、んあぅぅ……んん……ッ!!」
直腸に感じられる異物感――肛門筋が閉じきらぬその感覚にリッコは押し殺したような喘(こえ)をあげる。
しかしそれも一時のこと――やがては挿入された指の形に筋肉がなじむと、ちぎれんばかりに締め付けていた肛門は出し入れが出来るまで緩んだ。
その様子にキトラはゆっくりと指を引き抜いていく。
「あ、ああぁぁ……ッ」
徐々に直腸から引き抜かれていくその感覚は排泄にも似た開放感と快感をリッコに覚えさせる。
そして第一関節の節が、吸い付く肛門の淵を通り過ぎていく感触に、完全に指が引き抜かれることを予想した次の瞬間――
「また、いくよ」
「へ……ッッ―――ああぁ!?」
つま先近くまで引き抜かれていた指は、再びその根元まで一気に挿入された。 【 10−2 】
それが始まりだった。
それからキトラの人差し指は一定の速度を保ちながら、リッコの肛門にその全身を出し入れする運動を開始する。
「あぁ、んんぅ、ッッ……んああぁ!!」
繰り返されるその動きに、もはやリッコの肛門には正常な感覚はなくなっていた。閉じられぬ大きな穴がぽっかりと開いてしまったような
そんな肛門の感覚と、出し入れに刺激されるたび直腸の内壁に伝わるボコボコとした指の節の感触――それらは、平素の生活においては絶対に
得られようも無い感覚だった。
しかしそんな感覚に次第に、
「ん、んぅ……あ、あぁ……あん」
胸の鼓動とがシンクロしていくのもまたリッコは覚えていた。
キトラの指が引き抜かれるたびに排泄の快感が腹部を走り、再度戻されたそれが強く挿入されるたびに前立腺が刺激され、陰茎には強く
血流が充血するのを感じた。
そしてキトラの指の動きと鼓動とが完全に同調する頃にはそれは――“新しい快感”として定着して、リッコの体(なか)に電流が走るかの
ごとき快感を与えていた。
「き、キトラぁ……ん、ゆび……キトラの指、きもちいいよぉ……ッ」
「気持ちいいの、リッコ?」
「うん、うんッ……キトラの指が入るたびに、頭が真っ白になる」
依然続けられる行為に、あえぎあえぎ返事(こた)えてくるリッコの様子にキトラにも笑みが浮かぶ。
「本当に気持ちいいんだね、リッコ……チンチンも、ぴくぴくしてる」
そうして見つめるそこに――射精しているかのよう大量のカウパー液を溢れさせるリッコの陰茎を前にキトラも下唇を舐める。
そして、
「じゃあ、もっと気持ちよくしてあげるね」
「へ……?」
小さく開かれたキトラの唇が、一口でリッコの陰茎を咥えた瞬間――
「あッ……――んんぁあああああ!!」
声と共にリッコの体が跳ね上がった。
依然として直腸を刺激し続ける指の動きにくわえ、口中で包皮越しに亀頭を舐め転がすその動き――それらふたつが混然一体となったその一瞬、
リッコの意識は彼岸へと吹き飛ばされた。
「だ、だめぇ! チンコ、だめぇ! おかしくなっちゃうッッ……やめてぇ!!」
一挙に体を走り抜けるそれら快感に、リッコはキトラの頭をワシ掴んだ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています