夏の思い出 [無断転載禁止]©bbspink.com
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俺は嫁と10違い。
ひと昔以上前の夏、川で溺れているのを助けたのが出会い。
当時、俺は高校生で嫁は小2だった。
桃太郎の桃のように流れてきた少女を掬い上げただけ。
俺がマウストゥマウスで人工呼吸をしたと信じているが実はしていない。
熱めの岩の上に寝かせたら自然に覚醒した。 中1の夏に通夜の席に出た。父の兄弟のだとしか聞かされず、兄なのか弟なのか、
つまり俺にとって伯父なのか叔父なのかすら母親にもわからない様子で困惑した。
もちろん会ったことは一度もない。
葬祭ホールに着くと列席者の噂話で「彼」の死が自殺であるとすぐにわかった。
父が合流して生年月日の照らし合わせが行われ二年ほど「彼」が先に生まれてい
ると知れた。
「俺、長男じゃなかったんだ・・・」と父。 マスコミにも報道された案件なので詳しく書くわけにはいかないが「伯父」の顔を見
ようとする者はおらず、俺はフェイント、他の子供たちは普通に近付きかけた時も誰
彼ない大人によってほぼ瞬時に制止されていた。
遺影は飾られているものの父とは少しも似ていなかった。それを指摘していると、知
らぬ列席者からかなりキツめに睨まれたりもした。
・・・何となく判ってくる。
そう言えば父の母親、つまり俺にとっては祖母なのだが、が前年の初頭に亡くなっ
たのだが、伯父がその葬儀に出ていないのがそもそもおかしい。
祖母は神戸の震災関連死と認定されたので、おおよその時期は理解いただけよう。 ホールは寒いほどにエアコンが効いていて、中にいる限り真夏だとは思えなかった。
そろそろ帰らねばなどと言い出した初老の夫婦がいて、祖父の従兄弟なのか、呑ん
でいるのに車で帰ると言い張って周囲を困らせていた。
代わりにうちの父が運転すると名乗りを上げたが、そうなると今度は父が送り届けた
後に帰ってこれない・・・となって、そこで目をつけられたのが従姉妹の祥子さんだっ
た。
祥子さんとは干支が同じの12歳差、父の一番上の姉の娘で未婚だった。父親は早く
に亡くなったと聞いている。母親とは離れ、勤めている会社の近くに住んでいると聞い
たことがあった。
真っ赤な軽自動車が父の運転するシルバーのセダンのあとについて行く。なぜか俺
が祥子さんのご指名で横に乗ることになった。
女の人の人が運転する車に乗ったことは、ひょっとしたら初めてかもしれない。 女の人が運転する車に乗ったことは、ひょっとしたら初めてかもしれない。 先行する父の車を見失ったら道案内するように頼まれたが、俺だって雑なメモ書き地
図を渡されただけで道順や行先の正確な場所を知っているわけではなかったので、と
にかくちゃんと付いていってくれるようにと祈るばかりだった。
「もう叔父さん放っておいてごはん食べ行こうか?」などと翔子さんはうそぶき、顔を
出しているMD(ミニディスク:かつて一時的に流行ったカートリッジ入りの磁気ディスク)
を押し込んだ。
俺はすぐさまそれをイジェクトした。呑気に音楽を聴いている場合ではない。
先行車はやがて住宅地に入り、やれやれという雰囲気になって今度は俺がMDを押し
込んだ。何の曲が流れたかは覚えていない。ZARDだったような気もするが、それは別
の日のことかも・・・。 父は途中まで車庫に車を突っ込んで、それは運転席のドアがフリーに開く状態で、すぐ
に降りてきた。あとは酔っ払いに任すのか?
泥酔した親類はホールではかなり酔っているように見えたので、これはやばいんじゃね?
と思って俺はすぐに飛び出たが父に制止された。今の感覚で考えてしまいがちだが当時
中学生の俺に運転できるはずもなく・・・。
「自分でやるんだとさ・・・」
父は結末を見ないように、なのか撤収を急いだ。
狭い通りに、軽とはいえ祥子さんの車が停まり続けているのもまずかろうと考えたのか
もしれない。
「へぇ、後ろの席も結構広いんだね」そう言いながら父は後部座席に乗り込んだ。
帰路は主に父の道案内に従った。往路とは少し違っていたが感覚的には復路のほうが
かなり早かったように感じた。 父は、軽自動車は4ナンバーがどうの排気量がどうのなどと一方的に話していた印象が
残っていて、調べてみると1990年に規格の変更があったことがわかった。98年にもう一
回規格変更があったので、ひょっとするとそっちの話かもしれないが車自体は90年の規
格のものだとわかるのは、この年が97年だからだ。19年前だな、最初からそう書き出せ
ばよかった。
とにかく父はしゃべり続けて、今から思えば大学の時に初めて恋人を引き合わせた時も
こんなだったようだった気もするが、思春期の俺に気を遣ったのか、いやそうじゃないな、
すっかり大人の女の人になった姪っ子を前にして少しうろたえていたのかもしれない、と、
ちょっとは父の年齢に近づいてきた昨今だからこその感慨込みで。
もうそろそろ着くという段になってやっと父の話が途絶え、祥子さんがホッとした顔を見せ
たのを俺は見逃さなかった。
「このままご飯行きたいんですけど、シュン君借りていってもいいですか?それと明日私っ
て出たほうがいいですかね?」
そう言いながら祥子さんは俺の膝の上に置いていた鞄の中をゴソゴソと探った。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています