板倉が動かないかずさを抱きしめつつ、泣きそうな声で千晶を責めるが、千晶は口調を変えずに答えた。
「そだね〜。『これも役作りのため。わたしにとっては芸がすべて』かな。
あんたが聞きたがっていた『瀬ノ内晶さんの役作りの秘訣は何ですか?』の答えがこれ。記事にしていいよ」
「…っ!」
板倉はくちびるを噛んだ。記事にしてこの怪物を懲らしてやりたいのはやまやま。
しかし、それが冬馬かずさを再び傷つけるのは明白。記事にできようはずがない。千晶もそれがわかって言っている。
魂まで打ち砕かれたかのようなかずさが、床に手をついたままで口を開く。
「…最後の…質問だ…」
千晶は人を喰った態度を続ける。
「〜ん〜。最後だなんて名残惜しいねぇ。でも、まぁ、何でも聞いてちょ」
かずさが絞り出すような声で質問を紡ぐ。
「話にならないわたしは…ともかく…なぜ…榛名は和希と…話の中で結ばれない…」
「へ?」
亡骸のような様子だったかずさの首が持ち上がり、死霊のような呪いの声を上げる。
「なぜ榛名は和希と結ばれなかったのかと聞いているんだっ! 結ばれる結末はなかったかと聞いているんだっ!」
完全に予想外の質問だった。千晶は平静を装うことすらできず、今日初めてかずさの前でうろたえる姿を見せる。
「答えろっ!」
「………」
役者、和泉千晶は何のアドリブも返すことができず。立ちつくした。