そう言うと、曜子は手の指を見せる。
「あの子はね、手の薬指、小指も僅かに長いの。
 薬指が人差し指より長い日本人は多いけど、小指が関節半分長いのは…気づかないようなヘボはピアノ教師じゃないわね。
 一般人には微細だけどピアニストにとっては垂涎の天稟よ」

「かずさと編集長は知らないんですね」
「少なくとも、溝口くんの子供たちが家を出るまで二人に知らせるつもりはない。ヴァレンガリアにもそう言ってある…」
「わかりました」

「それで、あなたどういうつもりなの?」
「? どういうつもりといいますと?」
「かずさのこんな秘密まで抱えこんで。知らないふりをすることもできたはずよ」
「…それは…できませんね」