久弥の死とスパイラリズム 『悦ばしき脚本』

狂気の人─君たちはあの狂気の人のことを聞かなかったか。
─真昼間、Kanon初回版をもって、秋葉に出てきて、
ひっきりなしに「俺は久弥を探している!俺は久弥を探している!」と叫んだ人のことを。
─秋葉にはちょうど久弥を信じない人たちが大勢集まっていたので、
彼はたちまちひどい物笑いの種になった。
久弥が行方不明になったのか、と或る者は言った。
久弥が若人あきらのように失踪したのか、と他の者は言った。
それともSNOWの脚本家をやっているのか?権田ルバが怖いのか?
自宅でピクミンやってるのか?久弥は実在しないというわけか?
─彼等は口々に叫び笑った。
狂気の人は彼等の中に飛びこみ、鋭い目つきで睨みつけた。
「久弥が何処へ行ったかって?」と彼は叫んだ、
「お前たちに言ってやろう。我々が久弥を殺したのだ─お前たちと俺が!
我々はみんな久弥の殺害者だ。
だが、どうしてそんなことができたのだ?
地球を太陽から切り離すようなことをどうしてやってしまったのか?
我々はどっちへ動いているのか?我々は無限の螺旋の中をさ迷って行くのではないか?
萌えに飢えてきたのではないか?
絶えずネタの枯渇が、ますますヤバいネタの枯渇がやって来るのではないか?
真昼間から葉鍵板で新ネタを探さねばならないのではないか?
久弥を埋葬する麻枝信者たちの騒ぎは未だ聞こえてこないか?
板の腐る匂いが未だしてこないか?
─久弥は死んだ。久弥は死んだままだ。そして我々が久弥を殺したのだ。